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第128回:金髪女が日本刀で大乱闘
間違った日本が大爆発「キル・ビル Vol.1」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ とりあえず、買っちまいなぁ!?

キル・ビル Vol.1
価格:3,990円(税込)
発売日:2004年4月16日
品番:GNBF-7040
仕様:片面2層
収録時間:本編約113分
画面:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    英語(DTS)
    日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
販売元:ジェネオン エンタテインメント

 今回取り上げるのは、奇才・クエンティン・タランティーノ監督の6年ぶりの新作「キル・ビル Vol.1」。待望の新作ということで公開前から世界の注目を集めていたが、物語の主な舞台を日本に設定し、千葉真一や栗山千明ら日本人俳優が多く起用されたことで、日本国内ではとりわけ大きな話題となった。

 また、アイデアが膨らみすぎ、1本の映画には収まりきらず、前・後編の2部構成になったことも話題を呼んだ。今回とりあげるのはVol.1で、後編のVol.2は4月24日に全国公開される。

 「4月16日にDVDを買って、次の週末は劇場へ」という行動を後押しするかのように、DVDのパッケージの中には劇場割引券まで入っている。DVDというメディアを映画宣伝用の媒体に使った明確なプロモーションだ。抜け目が無いなぁと思うと同時に、DVDというメディアの一般への普及度合いをあらためて感じる。

 DVDは通常版とプレミアムBOXの2種類を用意。どちらも収録するディスクは本編ディスク1枚だけだが、プレミアムBOXには名刀「ハットリハンゾウ」の1/10スケールモデルと、「オキナワTシャツ」、「オールカラーブックレット」、「マーダー・ブライドバージョンのベアブリック」(キューブリック)の計4アイテムを同梱する。

 価格差の4,000円をどう考えるかは微妙なところ。利き手以外で30秒で描いたような微妙なデザインのTシャツや、返り血がべっとり付いたキューブリックなど、まだ映画を見ていない人は「なんだこのオマケは」といぶかしがるだろう。しかし、この映画の独特のテイストに魅せられた人にはたまらないグッズだ。きっと笑いをこらえてレジへと持って行くだろう。

 タランティーノ作品の特色とも言えるが、見る人を極めて選ぶ作品だ。テレビのCMでは一般向けの大作が満を持して公開されたような扱いをしていたが、決して万人向けの作品ではない。話題作だからといって、気軽に購入するタイプのDVDとは違うのだ。

「名刀ハットリ・ハンゾウ」のスケールモデル

ザ・ブライドが沖縄で着用していたのと同じデザインのTシャツ。サイズは「L」のみ 特製ベアブリック 24ページのブックレット


■ そこらじゅうに手足がゴロゴロ

 ビルと呼ばれる謎の男が率いる「毒ヘビ暗殺団」。かつてその組織に所属していたザ・ブライド(ユマ・サーマン)は、裏社会から足を洗い、幸せな生活をおくるはずだった。しかし、結婚式当日に組織の裏切りにより暗殺団の襲撃を受け、夫とお腹の子を殺され、彼女自身も瀕死の重症を負ってしまう。

 それから4年後、昏睡状態から目覚めたザ・ブライドは復讐の鬼となる。伝説の刀鍛冶・服部半蔵(サニー千葉)から名刀「ハットリ・ハンゾウ」を譲り受けた彼女は、情け容赦のない殺戮を開始。暗殺団のメンバーを次々を葬り去っていく彼女の目的はただ1つ「キル・ビル」だ。

 ストーリーはあって無いようなもの。スクリーンでは日本刀を持ったジャンプスーツ姿の金髪女性が、ひたすら敵をぶった切っていく。物語の裏も表もあったものではない。だが、チープなストーリーをスタイリッシュな映像で表現し、絶妙なBGMで味付けし、すさまじいスピード感で観客に叩きつける。これこそがタランティーノの映画だ。

 まさに「好きな人にはたまらない」状態。パルプフィクションやレザボア・ドッグスなどの映像的センスに酔い、黒服にサングラスの男達が銃を片手にぞろぞろと歩くだけで「カッコイーッ!」と感じた人は、再び至福の時間を味わえるだろう。初めてこの感覚を体験する人は、頭を空っぽにして、色彩やリズムなど、感性だけで観た方が楽しめる。

 だが、タランティーノの映画を1度も見たことがないという人には注意が必要。なぜなら、展開されるバイオレンスシーンがかなり激しいからだ。血しぶきなんてあたりまえ、手が飛び、足が飛び、ついでに生首も飛ぶ。きっとスクリーンに血が写っていない時間のほうが短いだろう。グロテスクな表現が苦手な人は、とりあえず回避した方が無難である。

 ただ、立ち回りは斬新でアイデアに溢れ、荒唐無稽ではあるが、一貫した美学を持って描かれている。女優の顔も血まみれだが、カメラはそれすら美しいものとしてとらえている。黄色いジャンプスーツと真っ赤な血、舞い散る白い雪など、彩度とコントラストの高い画作りが、現実感を薄れさせ、残酷なシーンを一種のファンタジーとして見せることに成功している。

 また、その戦闘シーンがあまりにも漫画/アニメチックなため、途中からコメディのようにも思えてくる。ユマ・サーマンの「それじゃ斬れないだろ」と突っ込みたくなるほど腰の入っていない殺陣がたまらない。そんな刀さばきでも、かすっただけで首は飛び、手首は飛び、人間が縦に真っ二つになる。流石は名刀ハットリ・ハンゾウ。ライトセーバーも真っ青の切れ味だ。

 アクションも凄い。見飽きた感のあるワイヤーアクションは当然のこと、舞ノ海ばりの八双飛びあり、二刀流あり、長階段での池田屋騒動ありのごった煮状態。監督の「だってカッコイイじゃん」という一言で、あらゆる要素が詰め込まれているといった感じだ。

 そして、アニメチックな表現の究極形態として、劇中にプロダクションI.Gが手掛けるアニメパートが挿入される。暗殺者の1人、オーレン・イシイの生い立ちを描いたパートなのだが、これほどまでに実写とアニメパートの分離を感じない映画も珍しい。

 雰囲気は「BLOOD THE LAST VAMPIRE」にそっくりで、制服姿の少女が日本刀で敵を切り殺すビジュアルイメージも同じ。キャラクターデザインは石井克人氏と田島昭宇氏が務めているのだが、主線が太く、荒々しいタッチで、アメリカンコミックを連想させる独特の映像に仕上がっている。ワイヤーアクションなどでアニメに近づきつつある映画と、リアルな描写で実写に近づきつつあるアニメ。両者が融合した未来の映画の姿を垣間見せてくれる瞬間でもある。

 勢い重視、ノリ重視の作品。それゆえ、細かいところを見てしまうと突っ込み所は満載だ。飛行機内や空港内で日本刀ぶら下げながら闊歩するユマ・サーマンは、4年間昏睡状態だったのに、13時間「足よ動け」とほど念じただけで歩き回れるようになったり、小雪のちらつく野外で大立ち回りを演じながらまったく息が白くない。

 また、間違った日本も氾濫。料亭のホールでボディコンの女性バンドがロックを奏で、少林寺の僧侶らしき男と、銀座のバーのホステスみたいな女性がコンビで客をもてなす。海外の映画館で日本人だけ大笑いして、周囲が青い顔をしていたという体験談を読んだことがあるが、私もDVDを見ながら笑い転げていた。タランティーノ監督流の、あきらかに狙った演出なのだが、外国人の喜ぶ日本像というのはあまり変化していないのかなぁと感じてしまった。

 全般的には好意的に受け止めたのだが、1点だけ不満な点がある。それは、ユマ・サーマンとルーシー・リューの日本語の下手さだ。ルーシーはまだ良い方なのだが、それでも何を言っているのだかさっぱりわからない。台詞を聞き逃しても、さして不都合はないのだが、気持ちが悪いので、思わず英語の字幕を表示させてしまった。登場人物が日本語(らしきもの)を喋っているにもかかわらず、英語の字幕を見ながら意味を知るというのも妙な気分だった。

 ともかく、こうした良い意味でのバカバカしさ、カッコ良さを味わうための映画だ。日本人としては大笑いしながら見るのが正しいスタンスなのかもしれない。映画を感覚で楽しめない人には、あまりお勧めできない。中身が無く、ひたすらグロテスクなシーンを見せられ続ける苦痛の時間になってしまうだろう。このあとの続編がどうなるかなんてまったく気にならないが、このバカカッコ良さをもっと味わえるなら、「後編も見てもいいかな」と感じてしまった。


■ 偏った比重の特典

 DVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレートは6.9Mbps。113分という本編の収録時間を考えると平均的だろう。前述した通りコントラストが鮮やかで、赤や黄色といった暖色系の色がぼってりと厚く出ている。暗闇のシーンも多いが、階調は豊かとは言えない。解像度は甘めで、映像は全体的にザラザラした質感だ。ただ、ブロックノイズや擬似輪郭は少ないので、視聴中に不快になることはないだろう。

 音声は英語をドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類、日本語をドルビーデジタル5.1chで収録。主にDTSで視聴したが、派手な映像とは別にサラウンドは控えめ。刀がぶつかり合う金属音なども豊富に入っているが、どちらかというとアクション中に効果的に挿入されるBGMのほうに重きが置かれている印象だ。逆に、効果音を浴びようとボリュームを上げすぎると、突然「ジャージャージャン!!」とBGMが大音量で鳴り響いてしまうので心臓に良くない。

DVD BitRate Viewer 1.4でみた本編の平均ビットレート

 特典はシンプル。「血煙 六番勝負」は、各戦闘シーンにダイレクトにアクセスできる特別メニュー。映画自体がほとんど戦闘シーンとも言える作品だが、「もう一度あの殺し合いがみたい」という時には便利。DVDならではの嬉しい機能と言えるだろう。

 「激闘! アニメ秘話」は、アニメパートのメイキング。事実上、特典のメインともいえるボリュームで、プロダクションI.Gの石川光久代表や、石井克人氏、田島昭宇氏らが製作裏話を語ってくれる。設定資料なども豊富に挿入され、なかなか見ごたえのあるコンテンツだ。それぞれがクリエイターということもあり、彼らの視点でタランティーノ監督の凄さ、映像のカッコよさを解説してくれる。

 また、彼らがこの映画に対し、「マンガを映画にしてしまった」という共通の認識を持っている点が興味深い。そして、タランティーノ監督に対しても「面白ければ実写だろうがアニメだろうがなんでも良いというタイプ。良い意味で子供っぽい人」と、全員が同じ感想を持っていることが面白かった。なお、石川代表によると案の定、タランティーノ監督は「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の大ファンで、開口一番「あんなのをやりたいんだ」と注文して来たという。

 「血風! 青葉屋の日々」は撮影現場に密着したメイキング。本来ならばこのコンテンツがメインになるのだろうが、特別解説があるわけではなく、単に撮影現場を撮影しただけという感じ。本当に何のナレーションもなく、撮影現場を淡々と見せられるだけなので「こういう雰囲気で撮影していたのか」ということはわかるが、それ以上のものではない。

 最近のメイキングは途中でインタビューをはさんだり、メイキングとして1つの作品になっているものが多い。中にはテレビで放送された特番をそのまま収録しているものもあるが、キル・ビルの場合はそれすらない。監督が日本文化のどんな点を気に入っているのかなどを、監督本人の口から聞きたかったので、肩透かし感は強い。いずれリリースされるであろう、続編のDVDの特典に期待したいところだ。

 なお、「激闘! アニメ秘話」の中で、石川代表は「続編は映像だけでなく、脚本でも読ませてくれる。前編と違ってストーリーも深く、おおっと思わせてくれる設定も隠れている」と語っている。前編を見た人にとっては、良い意味で予想を裏切る作品になっていいるのだろうか? 劇場に足を運びたくなってきた。


■ ハマれば最高なのだが……

 ジャケットにも象徴されるが、このビジュアル的なインパクトに惹かれた人は購入しても損はないだろう。ロックを聴きながら、アフロヘアーの職人が握った寿司にケチャップを付けて食べるような、強烈な違和感を心ゆくまで楽しめる。

 ただ、そこにハマれなかった観客にとっては、ただひたすらにグロテスクなシーンを見せられるだけなになってしまう。ここまで評価の真っ二つにわかれる映画も珍しいだろう。なお、「R-15」指定の映画なので当然だが、子供向きの作品ではない。ただ、新しいタイプの映画として、試しに体験してみるだけでも価値はあるだろう。

 既に劇場で楽しんだ人にとっては、この映像的快感を手軽に楽しめるのは嬉しいこと。背景に使われている小道具など、随所に細かいジョークが散りばめられており、コマ送りするだけでも楽しい。

 例えば、クライマックスの青葉屋のシーン。店内でもめ事が起こり、慌てた店の従業員が何故か店内の電気を切るシーンがある。きっと「暗闇の中、障子に映る影が切り合う」というビジュアルを撮影したかったのだろうが、一瞬映る電気スイッチの横に、汚い日本語で「閉店後、片づけをすませ、電気を切ってください。店内でもめ事が起きた時も速やかに電気を切ってください」という張り紙がしてある。わけのわからない理由付けだが、コマ送りしながら大笑いしてしまった。

●このDVDについて
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総投票数316票
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27%

□ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンのホームページ
http://www.universalpictures.jp/
□製品情報
http://www.geneon-ent.co.jp/movie/killbill/
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-BOXは名刀のモデルや、返り血を浴びたテディベアなどを同梱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040220/upj.htm

(2004年4月20日)

[AV Watch編集部/ yamaza-k@impress.co.jp]



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