■ どうなる? MPEG-4
MPEG-4系コーデックもいろいろなものが現われたが、今のところは「DivX vs WMV」という図式になりつつある。DivXは早くからハードウェアデコーダチップが存在したため、多くのDVDプレーヤーでも再生をサポートし始めている。一方WMVのほうは、今年1月頃からハードウェアデコーダチップのサンプル出荷が始まっており、今年中には各社からポータブルプレーヤーが出てくることだろう。 そんな動きの中、また新しいMPEG-4系コーデックが登場した。ライティングソフトで根強いファンを持つ「Nero」の開発元であるAHEADが開発した「Nero Digital」だ。高速でハイクオリティだけではなく、オーディオを5.1ch AACでエンコードできたり、字幕トラックも持てるなど、DVD規格に対して親和性が高いのが特徴だ。 「じゃあそれって具体的には●●●●●から●●●●●して●●●するってことですよね!」とか剛速球ど真ん中ストレートでカクニンされても、一応商業誌ライターとしてはハニワのような顔して笑うしかないので、そのあたりは言及せず、今回は純粋にコーデックとしてどうなのかを試してみることにする。 ■ リードはDVDならOK?
現在、Nero Digitalを入手するには、株式会社ライブドアが発売するDVDツール統合パッケージ、「Nero Digital Express」を購入することになる。これはオーサリングソフト「NeroVision Express 2」、DVD再生ソフト「Nero ShowTime」、DVDダビングツール「Nero Recode 2」からなるパッケージだ。もちろんこの中にはNero Digitalエンコーダや5.1ch AACエンコーダなども含まれている。 「NeroVision Express 2」はビデオキャプチャから編集、オーサリング、ライティングまで含めたDVD作成の総合ソフトではあるが、新コーデックには関係ない。Nero Digitalでエンコードするには、「Nero Recode 2」を使う。
Nero Recode 2で「DVDやビデオファイルをNero Digitalに変換」を選択すると、DVD内のタイトルや映像ファイルを選択することができる。
テレビ番組を焼いたDVDなどからは、すんなりロードできるものの、MPEG-2ファイルをロードしてみたところ、アプリケーションがハングアップしてしまった。AVIファイルで試してみたところ、MS-DVコーデックのAVIファイルは問題なく読み込めるようだ。だがCanopus-DVコーデックなど、別コーデックが必要となるAVIファイルに関しては、ロードはできるものの、最終的なエンコードでエラーになってしまう。 エンコーダとしてこの製品を捕らえれば、TVキャプチャしたMPEGファイルをエンコードするという用途もないわけではない。フロントエンドとしての作り込みは、もう少し頑張って欲しいところだ。 インポートしたファイルは、タイトルごとのビデオ品質をスライダで決める。このスライダの最大値は、「拡張」ボタンを押すと出てくる「Nero Digitalプロファイル」の選択で決まってくる。プロファイルには5種類あり、用途によって選択するようになっている。おそらくほとんどの場合、ファイルサイズと映像品質のバランスを考えて「ホームシアター」が妥当だろう。 読み込んだ映像ファイルには、簡易的に編集ができる。ただし1ファイルにつき、開始点と終了点で範囲指定ができるといったシンプルなもので、複数箇所の抜き出しのようなことはできない。
■ プロファイルを使えば設定は簡単
次へ進むと、「書き込みオプション」としてファイル作成場所を指定する。HDD内にファイルを作成するだけでなく、DVDメディアなどにも直接書き込むことができる。 また「Nero Digital設定」では、プロファイル内のパラメータが設定できる。エンコードは1passと2passが選択できるほか、「拡張モード」にチェックを入れると、画質モードやGOPサイズなどの細かい設定も可能だ。 なお「拡張」パラメータでは、モーションベクトルなどの設定もできる。ビットレートを除けば、この部分が各プロファイル間でもっとも違う部分となる。例えば「ハンドヘルド」では上位3つの項目しかアクティブにならないが、プロファイルでクオリティを上げていけば、さらに多くのパラメータを有効にできるといった具合だ。
なお「シンプルプロファイル(QuickTime互換)」にチェックを付けると、上から4つまでしか有効にならない。つまりこれより下のパラメータ、すなわち「双方向VOP」、「インターレースVOPへの対応」、「全体の動き補償」が、QuickTimeでサポートしていないパラメータとなり、再生はパッケージ付属の「Nero Showtime」でしかできなくなる。
ただこのあたりも、DVDのVOBファイルから作成したものと、AVIを直接ロードしたものとは振る舞いが異なる。AVIを直接ロードしたものだと、シンプルプロファイルにチェックを付けても、QuickTimeで再生できないファイルができあがってしまう。 確かにAVIはコーデック次第でなんでもアリアリなので、扱いが難しいというところはあるだろう。だが普通の動画編集ソフトでは問題なくできている部分である。このあたりのこなれ具合に、画像処理ソフトハウスとしての経験不足が露呈している印象を受ける。 ■ 速度と画質は十分
では実際に画質を見てみよう。素材の正確さからすれば、AVIファイルでエンコードすべきところだが、上記のようにAVIからのエンコードではいろいろ問題がありそうなので、今回はいつものサンプルをDVD化したものを素材として使っている。具体的には、素材のAVIファイルをTMPGEnc Express3.0で2passエンコードした。平均ビットレート6Mbps、最高ビットレート8MbpsのVBRである。 まず、一番使われるであろう「ホームシアター」プロファイルを試してみた。デフォルト状態でのエンコード速度は、1passで1ファイルにつき30秒程度。もともと24秒のクリップなので、リアルタイムよりも若干遅い程度である。使用マシンはPentium 4 1.7GHzと、今となっては遅めのマシンであることを考えれば、十分速いと言えるだろう。 なお掲載のサンプルでは、読者の皆さんがQuickTimeで再生できるよう、手動で「シンプルプロファイル」に設定している。厳密には本当の実力ではないことになるが、ご了承いただきたい。
ソフトウェアの設定次第では、2passにしたほうが良い場合に自動的にダイアログを出すといったこともできる。高ビットレートに設定したときほど、2passを勧めてくるようだ。 印象としては、1.5Mbpsあたりでもかなり上質であると感じた。ほぼリアルタイムのエンコード速度であることを考えれば、十分満足いく画質と言えるだろう。いろんなエンコーダで苦手としていたラベンダーの花の揺れも、ブロックはほとんど感じられず、頑張っている。 その代わり次の空撮シーンでは、海面がだんだんブロックになっていき、最終的には映像が破綻する。これはシンプルプロファイルを使っているせいもある。通常のプリセット状態では、このカットの頭から10秒まで次第にブロックが増えていき、10秒目で元に戻るという現象が見られる。これはGOPが最大の300フレームを経過して次のIフレームになったため、画質が元に戻ったものと思われる。 いずれにしても、前のシーンがビットレート的にかなり食ったとはいえ、動き検出の判定が甘いか、ビットレート配分の見積もりが甘いという気がする。ゆっくりしたPANのようなシーンが弱点となるかもしれない。一方2passでは、上記の海の部分の若干ブロックが緩和されるようで、確かに2passをやっただけの効果はあるようだ。
また1.25Mbpsと1Mbpsでは、自動的に画像サイズが一段階小さくリサイズされている。これは「Nero Digitalビデオ設定」で、リサイズの設定が自動になっていることに起因する。 では次に、「ホームシアター」以外のプロファイルの画質をチェックしてみよう。ビットレートはそのプロファイルで使用できる最高レートを使用している。ただし「HDTV」と「規格最大」では、最高レートが9.8Mbpsとなる。元が6Mbpsのものをそれ以上の高ビットレートに変換しても意味がないので、この2つに関しては5Mbpsとした。 一応プロファイルごとの拡張設定も一緒に載せておくが、実際のサンプルは再生互換のため、すべて「シンプルプロファイル」を使用している。なお使用マシンは上記テストと同じく、Pentium 4 1.7GHzのマシンである。
ハンドヘルドの画質は、画面が小さすぎてあまり評価できないが、ポータブルの画質はビットレートがまあまあ高いことと、352×264ドットと適度な面積であることもあって、それなりに見られる画質になっている。これが再生できるデバイスが出てくれば面白いかもしれない。 現時点ではHDTVの素材を自由に扱える状況にはなっていないので、プロファイルとしてはHDTVの出番はまだないだろう。規格最大では、かなり自由度の高い設定が可能ではあるが、かなりコーデックの中身までわかっていないと使っても意味がない。また使うパラメータが多くなるほど、レンダリング速度も低下していく傾向がある。 ■ 総論
コーデックというのは、画像解析技術の進歩を取り入れていくわけだから、後から出てくるほうが有利に決まっている。だがどこかの段階で進歩を止めなければ、互換性が取れない。互換性が取れなければ、普及もしないというサイクルになっている。 Nero Digitalは、コーデックとしてはかなりできがいいと思う。速度も速いし、画質も悪くない。欲を言えば、途中で設定作業を止めても再開できるよう、プロジェクトファイル保存ができると良かっただろう。エンコーダがいいが、フロントエンドのソフトウェアがいま一歩かという気がする。 コーデックの普及を考えれば、再生環境がかなりクローズドなのが気になるところだ。本来ならば再生ソフトや再生コーデックぐらいフリーで配布しても良さそうなものだが、エンコーダの性格が性格なので、それもちょっとはばかられるということなのだろうか。互換性を考えると、QuickTime再生互換を超えるパラメータが使えないのは痛いところだ。 そう言う意味では、技術的な部分よりもむしろ、誰にどう売っていくのかが問題なのだ。DVDと同じような特性を生かして、映画ソースをVODするなどの用途で採用されれば、かなり面白いコーデックだろう。だが現状の売り方が売り方なので、イメージ的にコンテンツホルダーが納得するのはなかなか難しいのかなという気もする。 完全にPCオンリーの世界だけで、個人ユーザー向けに売っていくというのであれば、それもいいだろう。だがそれではほんの数年で、「あったねそういうの(笑)」という思い出コーデックになってしまう。 モノはできた。あとはそれを日本でビジネスとしてどう舵取りしていくか、ライブドアの営業センスが問われるところだ。
□ライブドアのホームページ (2004年4月14日)
[Reported by 小寺信良]
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