■ スピルバーグの代表作がDVD化
今回取り上げるDVDは、「シンドラーのリスト」。スピルバーグの代表作にして、アカデミー賞7部門を受賞した作品である。日本では'94年に劇場公開されたので、ちょうど10年でDVDがリリースされたことになる。 スピルバーグぐらいの大物になれば、自分の作品に関して、DVDなどのパッケージメディアを含む2次利用に大きな発言権を持っていることは間違いない。クオリティや商業的な面で納得できるまで、リリースしなかったのだろう。 ちなみに、DVDのパッケージには「スピルバーグの代表作で唯一DVD化されていなかった作品がついに初登場!」というシールが貼られていた。しかし、出世作である「激突!」も、DVD化されていない。「激突!」は、代表作ではないのだろうか……。 今回発売されたDVDは、「コレクターズ・エディションBOX」(13,440円)、「スペシャル・エディション」(4,179円)の2種類をラインナップ。コレクターズ・エディションBOXは限定5,000セットとなっている。 コレクターズ・エディションBOXとスペシャル・エディションのディスク自体は同じもの。コレクターズ・エディションBOXには、全80ページのフォトブック、35mmセニタイプ(フィルム入りポートレート)、オリジナルサントラCD、シリアルナンバー限定生産証明書が付属するのが相違点だ。
その迫力におされて、結局コレクターズ・エディションBOXを手に取り、レジで精算していた。
■ シンドラーという実話 この映画はオスカー・シンドラーという人物に関する実話をもとにしている。'39年、第二次大戦が勃発。ドイツ人の実業家オスカー・シンドラーは、ヒトラー率いるナチス・ドイツ軍が侵攻したポーランドのクラクフにやってきた。 女好きで、金儲けの野望を抱くナチス党員のシンドラーは、ユダヤ人が所有していた工場の払い下げを受け、ユダヤ人たちをただ働きさせ、事業を軌道に乗せた。しかし、やがてユダヤ人たちは強制収容所に送られ始めてしまう。 ナチスの親衛隊員が、彼らを虐殺するのを目撃したシンドラーは私設収容所を開設。アウシュヴィッツなどに送られるユダヤ人たちを救うため、労働力としてユダヤ人労働者を要求。1,200人をリストアップする……。 シンドラーは、ユダヤ人をただで使える労働力として儲けた、戦争成金の1人ではある。しかし、 ホロコーストから1,100人以上のユダヤ人の命を救ったこともまた事実。映画の中では、シンドラーの心情の変化を直接的に描いてはいないが、考え方を変え金儲けを忘れ、ユダヤ人たちを救うことに奔走する。 シンドラーが作成したリストは、「善」のリストとして描かれる。実際のところ、シンドラー自身がどんな思いを心に持って、この行動に駆り立てられたのかはわからない。しかし、彼によって、救われたと思う人々が多数いて、その子孫が生まれ育っている。 シンドラーは戦後、色々な事業に手を出すが、どれも成功はしなかった。結婚生活もうまくはいかなかったようだ。映像特典の「生存者たちの声」で彼について、「戦時下では本領を発揮したが、平時の世の中では商売が下手だったようだ」と語られている。シンドラーは、その時代だからこそ、存在しえたのかもしれない。 スピルバーグは、この作品の制作にあたって「これまでの私の作品は、純粋なエンターティメントを主題としたもので、それを誇りに思う一方、この映画はドキュメンタリに近いスタイルで撮ってみたいという想いがあった」と語っている。実際、この作品で縁遠かったアカデミー賞を受賞した。すでに、娯楽映画の巨匠の名を欲しいままにしていたスピルバーグも、嬉しかったのではないだろうか。 当時は、「アカデミー賞をとりにいった」ともささやかれていたような記憶もある。ドイツとポーランドの話なのに、なぜ登場人物が英語で喋っているのか? そのわりには、登場する看板はドイツ語だったり、奥さんの苦労がほとんど描かれていないなど、ハリウッド的ご都合主義が散見されることも確か。 スピルバーグは、「この映画が公開されたとき、大勢の人が劇場で観てくれることを期待すらしていなかった。いずれ、テレビで放映されることにより、高校生や大学生に鑑賞してもらうことが、より重要であった」という。「この事実を伝えるために、わかりやすくした」と肯定的にとらえたい。 なお、1シーンを除き全編にわたってモノクロだが、「第二次世界大戦に関するニュース、ドキュメンタリ映画、本などがすべてモノクロであることから、この映画も必然的にモノクロになった」と、その理由を説明している。
■ 本編をディスク2枚に分けて収録 本編が3時間15分(195分)というかなりの大作のため、本編がディスク2枚に分かれて収録されている。振り分けとしては、DISC1に134分、DISC2に61分。もともとインターミッションが設定されている映画ではないので、DISC1からDISC2に切り替わるシーンは、正直なところ少々唐突な感じを受けた。 2時間以上の本編を収録するDISC1には映像特典は入っていないので、すべての容量が本編に使われている。そのため、DISC1のDVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレートは7.74Mbps、DISC2が8.11Mbpsと長編でありながら、高ビットレートを確保している。2枚に分けたのは、好判断だろう。 映像は、1シーンの一部に印象的に赤が使われている以外は、全編モノクロ。画質は、おそらく意図的にフィルムの粒状感を残しているので、一見するとザラついているようにも感じる。しかし、それもまた、作品の世界観にあっているので、まったく問題にはならないだろう。 ただ、最近の表示機器はカラー表示を前提にしているので、このモノクロをうまく表示するのはかなり難しいかもしれない。やはり、黒が沈むディスプレイで鑑賞したい。MPEGエンコードは問題なく、モノクロ映像ではカラー映像より重要になってくる、コントラストや、グラデーションもよくでていおり、不満はなかった。また、一部映像に野暮な修正が入っていなかったのも好印象だ。 音声は英語をドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類、日本語をドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートはDTSが768kbps、ドルビーデジタルが384kbps。映画の内容的に大爆発が起こったりはしないが、軍靴の音、頭を打ち抜くピストルの音などが鋭く重く響く。環境音としてのサラウンド感は高い。特にDTSの方が、ドルビーデジタルに比べ鮮鋭で量感もあり、かなり差があるので是非ともDTSで聞きたいところ。
以上のように、ディスクの容量はほとんど本編に使用されているため、映像特典はシンプル。DISC2に、「生存者たちの声」(約77分)と「The Shoah Foundationの活動」(約12分)の2種類が入っている。 「生存者たちの声」は、実際にシンドラーのリストに載り、生き延びることができた人たちの証言集。冒頭でスピルバーグは、「この映画の制作にあたり、私自身の心も表出した。信念は強まり、生き方も変わった。一個人でも世界を変えられるとわかったから。生き延びた人たちの証言が、どんな映画より強く心に訴えるはずです」と語っている。 実際に、体験した人々の証言は重く、当時の映像を挟みながらつづられる内容は、もうひとつのシンドラーのリストという作品でもあるといっていいだろう。映画を見たあとで、このドキュメンタリを見れば、また思いも深くなる。 収録されている映像特典の価値は高いが、ただ残念なのは、メイキング映像が入っていないこと。モノクロ撮影独特の苦労や、撮影現場の雰囲気などは、封入されている小冊子と、フォトブックで少し紹介されている程度。映画の内容的に、メイキング映像などを収録するのは、そぐわないという判断なのかもしれないが、特にモノクロ撮影時の工夫は、実際の映像で見たかった。
■ コレクターズ・エディションBOXを買うべきか否か スペシャル・エディションの4,179円という価格は、195分という本編の長さを考えると、高いとは思わない。しかし、コレクターズ・エディションBOXの13,440円というのはかなり躊躇する価格だ。本編も映像特典も同じなので、全80ページのフォトブック、35mmセニタイプ(フィルム入りポートレート)、オリジナルサントラCD、シリアルナンバー限定生産証明書といったおまけに、純粋に約9,000円分の価値を見出せるかにかかっている。ただ、この作品のファンであれば、サントラCDをすでに持っているだろう。 もう少し価格の差を縮めるか、コレクターズ・エディションBOXに特典ディスクを追加するなどして、コレクター心をくすぐるだけでない、映画の内容を深める方向でこだわってほしかったというのが正直なところだ。 3時間を越える作品だが、ゴールデンウィーク直前という、絶妙なタイミングでリリースされた。 休日にじっくり見て、同じ立場に立たされたとき、アーモン・ゲートにならないか?、シンドラーになれるのか? 人間の業の深さについて考えるというのもいいだろう。
□ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンのホームページ (2004年4月27日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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