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第130回:自分の分身と戦う役所広司
見たら死ぬ「ドッペルゲンガー」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 見たら死ぬ「ドッペルゲンガー」
ドッペルゲンガー
価格:5,040円
発売日:2004年4月23日
品番:ASBY-2458
仕様:片面2層
収録時間:本編約107分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:日本語(ドルビーサラウンド)
発売元:東芝エンタテインメント
販売元:アミューズソフトエンタテインメント

 今回取り上げるDVDは「ドッペルゲンガー」。公開は2003年9月で、主役は役所広司。監督は黒澤清。出演は、本作が映画初出演の永作博美に加え、ユースケ・サンタマリア、柄本明、ダンカンほか。

 ドッペルゲンガーとは、「自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種。自己像幻視(大辞林)」のことで、「自分のドッペルゲンガーを見ると数日のうちに死ぬ」などと言われている。

 ジャケットは鬼気迫る役所広司の顔を2枚配したもので、サイコスリラーらしい薄気味悪さを伝えるが、ユースケ・サンタマリアの間の抜けた顔がミスマッチな印象。もっとも視聴後に見てみると作品の内容を良くあらわしているようにも思う。

 価格は5,040円と邦画としては標準的だが、ディスクは片面2層1枚で、音声がドルビーサラウンドというのはやや寂しい気もする。



■ 肉体を持ったドッペルゲンガーが大暴走

 役所広司演じる早崎道夫は、医療機器メーカーに勤務し、かつて大ヒット商品を開発したことから、次の研究にも大きな期待を寄せられているエリート研究者。しかし、研究中の人工人体ロボットの開発に悩み、会社の上層部との軋轢も抱えながら、苦しい毎日を送っていた。

 そんな彼の前に、ある日突然ドッペルゲンガー(分身)が現れた。分身は早崎そのものの外見ながら、自らの欲望全開で行動しはじめる。最初は、彼の家に出現する程度だったものが、徐々に行動がエスカレートし、早崎の車を乗り回したり、早崎の利用する喫茶店などに出現したりする。

 本作で描かれるドッペルゲンガーの特徴は、幻覚などの心理的な作用だけで無く、物理的な肉体を持っていること。そのため、他者にも早崎同様に見え、ドッペルゲンガーの行動も他人には早崎の行動と見えてしまう。これをドッペルゲンガーと呼ぶのかは、良くわからないが、分身と本人が他人には同じに見えてしまうという構造がストーリーを面白くしている。

 分身と運命を共にせざるを得なくなった早崎は、同様に弟の分身に悩む永井由佳(永作博美)の相談に乗るが、ここでも早崎の分身が登場し、分身と本人の関係が複雑に絡み合いながら、ストーリーは展開していく。

 分身を拒絶する早崎だが、分身は、「俺はお前のやりたいと思っていることを、代わりにやってあげている」といい、ついには早崎の研究室を破壊、早崎は会社を解雇される。早崎は途方に暮れるが、分身は研究室から人工人体ロボットを盗み、早崎のパートナーとして君島(ユースケ・サンタマリア)を雇う。早崎は研究に没頭し、いつしかその研究の達成のために、分身の悪しき力を最大限に利用するようになっていく。

 役所広司が早崎とその分身の1人2役を演じるとあって、2役の競演シーンには大々的にVFXが利用されている筈なのだが、まったく判別できなかった。また、基本はサイコ・スリラーといえると思うが、心理的に追い詰められていくような描写というよりは、独特のユーモアを交えつつ、1人の人間であった筈の2人、本人と分身の拒絶と接近が描かれている。


■ 画質は良好。画面分割の多用が特徴

 DVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレートは4.92Mbps。本編107分と短い割には、ビットレートが低く思えるが、これは片面2層ディスクに本編に加え、約105分の特典を収録しているからだろう。

 しかし、実際に映像を見てみると解像感はかなり高く、早崎や君島がロボット開発を行なう工場のシーンなどの暗い場面でも、黒潰れやノイズの発生も少ない。総じて画質は良好だ。

 撮影は24pハイビジョンのデジタルビデオ収録。2人の役所広司の合成など、VFXをかなり多く導入していることもあり、ビデオ収録としたという。

 また、画面を縦に2分割し、片方に本人、片方に分身を配した対話シーンなど、ドッペルゲンガーという設定を生かした画面分割手法も興味深い。また、横に3分割したり、縦/横で3分割を行なったりなど、画面分割をかなり積極的に利用している。これも、「手間やコスト的にフィルムではできなかったが、ビデオなので比較的取り組みやすかった」という。

DVD BitRate Viewer 1.4でみた本編の平均ビットレート

 オーディオはドルビーデジタルステレオで、ビットレートは192kbps。大作というレベルではない邦画では致し方ないのかもしれないが、セルDVDの最新作でマルチチャンネル収録で無いというのは寂しい。特に、研究室破壊シーンなどマルチチャンネルを生かせそうなシーンが多いだけに残念なところではある。


■ 特典は充実。幻のシーンは必見

 特典は、メイキング「もうひとつの分身」、VFXメイキング「VFX OF ドッペルゲンガー」、監督/出演者のインタビュー、黒澤監督が篠崎 誠監督が聞き手に迎え、作品を解説する「超常対談」、未公開シーン「幻のシーン81」など、かなりのボリューム。

 メイキングは、作品の概要やVFXの利用について簡単にまとめたもの。分身はVFXに加え、吹き替えの役者が2人起用されている。髪型や後方からの雰囲気は似ているのだが、顔がぜんぜん似ていないのが笑ってしまう。

 VFXメイキングでは、24pのハイビジョンビデオなどを利用した合成について解説されてている。グリーンバックを多用した実際の撮影画面と合成画面の対比から、制作プロセスを解説しており、非常にわかりやすかった。また、mimicというモーションコントロールカメラのシステムを多用しており、アクションを記憶し、何度でも同じアクションが再現できるため、大いに活用されたという。

 「超常対談」では監督が作品を解説。なぜドッペルゲンガーという設定に至ったかという点は、「とにかく役所さんに悪役をやらせたい」というところから構想し、さまざまな設定を考えたという。悪役のイメージは、マーズアタックの火星人で、当初に考えていた悪人像は動物王国の狂った主人など、あまり関係ないような気がするが、映画を見ていると不思議と納得できてしまう。

 また、画面分割の多用については、特にリチャード・フライシャーの「絞殺魔」からの影響が大きいと語っているほか、「裸の銃を持つ男」や「インディージョーンズ」の話を交えつつ、ユーモアを加えていったという点も面白い。

 さらに、「幻のシーン81」と題された削除シーンも収録されている。話の根幹を左右するような非常に重要なシーンなのだが、「話がわかりやすくなりすぎるため」省略したという。ストーリーを製作者の意図どおりに理解するという意味で、DVDならではの嬉しい特典といえる。

 オーディオコメンタリも収録されており、制作部や現場のスタッフが参加している。ロケハンや制作時の苦労や、映倫の指示によるカット変更部分などについて、コメントされている。車の窓にスタッフが映ってしまっているシーンでは、「あそこ」、「ほんとだ」、「写ってる」、「あ、俺だ」、などのやり取りが、妙におかしかった。


■ 設定に魅力を感じたら「買い」

 人工人体ロボットがやけに古めかしくロボットロボットしていたりとか、最新機器を開発する開発現場がガレージのような薄暗い場所だったりなど、微妙に突っ込みたくなるところもある。しかし、本人と分身の関係、他者から見た本人と分身が、絡み合いながら展開するストーリーは魅力十分。

 5,040円という価格は邦画としては標準的。作品の設定に惹かれたこともあり、個人的にはかなり熱中できた。音声の仕様はやや残念なところではあるが、特典も充実しており満足できる内容だ。誰もが気軽にという価格ではないが、気になる人は買って損の無いDVDだろう。

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(2004年5月11日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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