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第131回:メリケン的「侍魂」を感じろ!!
“武士道”は世界共通語? 「ラスト サムライ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 予約特典が“箸”って……
ラスト サムライ
価格:3,129円
発売日:2004年5月16日
品番:DL-28383
仕様:片面2層(本編)+片面1層(特典)
収録時間:本編約154分
画面:シネマスコープサイズ(スクイーズ)
音声:1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   2.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
   3.音声解説(ドルビーデジタル2ch)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」による史上最多タイ、11部門獲得という偉業で幕を閉じた第76回アカデミー賞。それよりも日本では、最優秀助演男優賞にノミネートされた渡辺謙と、同じく外国語映画賞部門の候補となった「たそがれ清兵衛」の去就が話題をさらった。その渡辺謙の出演作が、ご存知トム・クルーズ主演の「ラスト サムライ」だ。

 受賞は逃したものの、テレビのワイドショーでは、渡米した渡辺謙を帰国まで連日追うほどの力の入れよう。邦人のノミネートはインパクトの大きい出来事だったようだ。ある番組では、往年の日本人ハリウッドスター、故・早川雪舟のお宝映像まで放送。個人的にも例年以上に楽しいアカデミーウィークとなった。もっとも、過熱気味だった報道の裏に、渡辺氏の浮気疑惑が存在していたことを忘れてはならないが……。

 ともかく話題になった作品だけに、DVDビデオの出来にも期待がかかる。DVDビデオは片面2層の本編と片面1層の特典ディスクの2枚組み。ワーナー作品らしく、2枚組みで3,129円と廉価なのもうれしい。

 発売日は5月16日。DVDビデオとしては珍しく、日曜日が発売日となっている。パッケージビデオの世界では土・日曜日が発売日の場合、流通が動かないためか、金曜日に早々と店頭に並ぶことが多い。今回も金曜日の14日に販売を開始した店舗が見られた。本音をいえば、GW中に発売して欲しかったところだが、劇場公開がロングランになったこともあり、難しかったのだろう。

 予約せず普通に店頭で購入したところ、予約特典のオリジナル箸を受け取った。洋画系大作の予約特典はこのところ有名無実化し、予約しなくても手渡されることが多い。カウンター裏には、箸の入った箱がまだ大量に積まれていた。それでも「絶対に特典が欲しい」という場合は、これからもきちんと予約した方が確実だろう。とりあえず私の場合、1人暮らしを始めて以来、初めて自分専用の塗り箸をゲットできた。


■ 武士道とは死ぬことと……

 南北戦争で軍功から英雄になったものの、自軍の残虐行為のため、心に傷を負ったネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)。自暴自棄な生活を送る彼を、軍事教官として雇い入れようと申し出た国があった。明治維新後、富国強兵への道を歩みだした日本だ。

 来日したオールグレンは、武士の根絶に反旗を翻す勝元(渡辺謙)の軍勢と戦うことに。敗れて囚われたオールグレンは、勝元の治める山間の村で一冬を過ごす。侍の生活に接しながら、オールグレンの心に芽生えだした勝元との精神的な絆。しかし、勝元と官軍の反目は深まり、全面対決へと発展する。そのとき、オールグレンが下した決断とは――。

 トム・クルーズ、渡辺謙に加え、剣の達人・氏尾役に真田広之、勝元の妹たか役に小雪を配役。監督は「マーシャル・ロー」、「戦火の勇気」など、骨太な作品が特徴のエドワード・ズウィックだ。

 ストーリーはまったくのフィクションだが、時代考証を重ねたためか「本当にこんな外国人がいたかも」と、錯覚させるリアリティを持っている。そのため、日本を扱った洋画に良く見られる「それはないだろう」という「勘違いニッポン」的な描写もほとんど見られない。

 もちろん、幕末から西南戦争までの流れの上で、不可解に感じる点もないではない。しかし、「とりあえずフィクションだし」という理解で臨めば、歴史マニアでも十分楽しめる作品だ。また、製作者がテーマとしているのは歴史ではなく、「武士道」とその終焉。そのあたりは日本人の目から見ても、不自然どころか十分共感できるクオリティとなっている。

 それだけに、日本とは思えない山並みが気になるところだが、これは、ニュージーランドでロケしたため。エドワード・ズウィック監督は「もちろん日本で撮りたかったが、日本ではこうした自然が失われていた」と、理由を語っている。どおりでロード・オブ・ザ・リングを思い出したわけだ。あと、日本の街中に鳥居はあんまりないと思うが……。

 ストーリーは外国人であるオールグレンの視点で描かれ、徐々に異文化と同化する「カウンターカルチャーもの」の流れを組む。しかし、オールグレンの心の変化と成長だけでなく、サムライが滅びるまでのストーリーを同時進行させた点が面白い。オールグレンは武士道を知り、惹かれ、ついにはサムライとして死ぬ覚悟をするまでに傾倒する。そして、サムライの世界の終焉に人間的に成長したオールグレンが交わり、物語も終わる。

 その筋運びに説得力を持たせるのが、武士道を具現化した勝元の存在だ。ズウィック監督も「作品の支柱」と説明しているように、勝元を演じる渡辺謙の存在感は圧倒的。オスカーにノミネートされただけのことはある。サムライということで、単に強くて堅苦しいだけの人物かと思ったら、意外にも飄々とした好人物の印象。しかし、迷いながらも筋を通そうとする姿に、単なる自暴自棄のオールグレンとは異なる、サムライらしい滅びの美学を感じさせる。

 アクションシーンも意外に多い。剣術を極めたオールグレンの立ち回りも美しいし、能楽の最中に襲撃する、鉤爪や鎖鎌で武装した忍者もコテコテですばらしい。しかし、最も印象的なのはラストの合戦だろう。

 具体的な描写は避けたいが、スピード感と重量感に加え、ハンス・ジマーの叙情的な音楽に思わず引き込まれてしまった。特に、猛スピードで戦陣に突っ込み、役者をガシガシ弾き飛ばす馬がすごい。人間にぶつかる演技を馬に指導するのは難しいそうで、確かに今まであまり見かけなかった演出といえる。ひづめで踏まれることはないようだが、弾き飛ばされる方は恐ろしかっただろう。映像特典では、動物愛護団体の立会いの下で撮影したことを強調していたが、スタントマンの業界団体はどう思ったのだろうか。ちなみに、撮影を通じて大きな事故はなかったそうだ。


■ 日本人オリジナルキャストの吹替もボイスオーバーで収録

 画質は最近の水準といえる高画質なもの。単色面や暗部のノイズもそれほどなく、リンギングもほとんど見られない。精細感も上々で、一部を除き、ワイドショットにおいても不自然な輪郭のボロ付きは目立たない。若干緑が鮮やか過ぎる気もするが、調整も可能だし、好みの範囲だろう。

 ただし、陽光下だと人物の顔が白とび気味になる。そのため、顔がテカったり、肌の色が不自然に薄くなることが多い。この作品の屋外シーンは、日差しが若干翳った薄暗いシーンと、日差しの強いシーンに分けられるが、顔のテカりは後者で顕著になる。実際には白とびしていないので、ディスプレイやプレーヤーのコントラストを落とすことで対処できる。一方、夕方を狙って撮影したという、翳り気味のシーンは非常に美しい。DVD BitRate Viewer 1.4で見た本編の平均ビットレートは6.32Mbpsだった。

DVD BitRate Viewer 1.4でみた本編の平均ビットレート

 音声は、オリジナル(英語)、日本語吹替共にドルビーデジタル5.1ch。ビットレートはどちらも448kbpsだ。遠くの鳥のさえずりから、大砲の着弾音まで、その場にいるようなリアルな音。特に、山村の自然音のサラウンド感がすばらしい。刀がぶつかり合う音も澄んでおり、臨場感や迫力に不満を感じることはなかった。

 日本語吹替は、英語音声の上に日本語を被せてアフレコした「ボイスオーバー」仕様。ワーナー・ホーム・ビデオでは「通常の日本語音声では作品の内容を正しく伝えられないため」と理由を説明しているが、確かに、英語での会話と日本語での会話がごちゃまぜになっているのがこの作品の特徴。勝元とオールグレンの会話が、本来は英語で進行していることを示すのは重要なことだし、明治天皇が突然「Thank you」と答えて米国人を驚かせる場面も、単に「ありがとう」と置き換えるだけでは物足りないだろう。

 ただし、被せている日本語ははっきりしているが、元の英語の音はかなり小さく、聞き取ることは不可能に近い。「この場面は英語でしゃべっているんだ」ということが、とりあえずわかれば良いという判断なのだろう。なお、日本人で英語のセリフのあるキャストについては、渡辺謙をはじめ、オリジナルキャストが吹替えている。こちらもまったく違和感はない。


■ アメリカ人も武士道が大好き

 本編ディスクには、ズウィック監督の音声解説を収録。企画から撮影、ポストプロダクションまでを紹介しているが、特に武士道やサムライへの思い入れが強烈だ。武士道については、その志を本当に大切に思っているようで、「日本人以上に詳しいのでは」と思わせる。

 また、渡辺謙についての解説も多い。しかも、「彼がいないと映画は成り立たなかった」、「ここがケン最高の演技だ」など、べた褒めの状態。彼の演技を見慣れた我々では、気づきづらい魅力を教えてくれる。

 特典ディスクには、メイキング映像8本、未公開シーン2本、日本プレミアの様子、オリジナル劇場予告編などを収めている。

 メイキング映像は、総括的な「トム・クルーズ:サムライの旅」(約26分)、「エドワード・ズウィック:ビデオ日記」(約26分)、時代考証を解説した「サムライ時代の再現」(約7分)など。外国人向けに武士道を解説する映像もあるが、ちょっと大げさなものの、それほどおかしな点はなく、勉強になる内容だった。また、トム・クルーズも監督同様、メイキング映像で自己の武士道観を披露している。彼もまた、武士道に対して真摯な憧れを持っていることがわかる。

 未公開シーンは監督の音声解説付き。加えて、未公開シーンのうち、裃姿の真田広之が警官の首を落とす「斬首」には、視覚効果監修のジェフ・オークンによる解説も含まれている。

 静止画コンテンツの「武士道」では、鳥居をバックに「義」、「礼」、「勇」、「名誉」、「仁」、「誠」、「忠」の意義を、いかめしい書体と文体で解説する。「誠」なら、「侍が事を口にしたならば、それはすでに行なわれたも同じ……」といった具合だ。いかにも外国人が喜びそうな内容で、出典はおそらく新渡戸稲造の「武士道」だと思う。「思う」とあいまいなのは、出典が明記されていないのため。これはDVDビデオにおける特典の側面、「資料としての価値」を考えると、もう少し配慮して欲しい。

 なおメイキング映像では、日本人キャストへのインタビューは少ない。その代わり、日本盤オリジナルコンテンツと思われる「日本プレミア」(約7分)で、主要キャストが勢揃いするので安心して欲しい。


■ 押さえるべき話題作。アクションシーンの出来も良し

 最初は「年末年始の時代ドラマみたいなものかな」と高をくくっていたが、さすがハリウッドの脚本、感情移入度は高かった。また、アクションの質も高い。

 ただし、個人的に感情移入してしまうのは日本人の勝元ではなく、なぜか米国人のオールグレン。勝元の立場や精神もしっかり描かれていると思うが、オールグレンと同じく、畏怖と尊敬の対象にしか見えなかったりする。もちろん、オールグレンの追体験こそが製作側の意図なので、当然といえば当然なのだが……。やっぱり自分はサムライではないらしい。

 画質も最近のソフトらしく、大画面に耐えるクオリティ。ドラマ性も高く、アクションも充実している。話題作でもあるので、とりあえず購入しておいて損はないソフトだろう。世界に認められた日本人の演技がどんなものか、DVDビデオで一見しておくのも悪くない。

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□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ
http://www.whv.jp/
□製品情報
http://www.whv.jp/month/last_samurai/
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-2枚組み3,129円、予約特典は銘入り「オリジナル箸」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040401/whv.htm

(2004年5月18日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]



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