■ あのiriverの新製品が“液晶リモコン無し?” ソニーのVAIO Pocketも発売されたことで、にわかに活気付いてきたHDDオーディオプレーヤー市場。東芝に続く国内大手メーカーというだけでなく、「ウォークマン」のソニーが本格的にHDDプレーヤー市場参入ということもあり、経済誌などでも大きく扱われている。実際にVAIO Pocketの売り上げも好調のようだ。
そうした中、iriverが新製品「H300シリーズ」を投入してきた。iriverといえば、昨夏発売した大型液晶リモコン搭載のHDDプレーヤー「iHP-100シリーズ(H100シリーズ)」が人気を呼び、HDDプレーヤー市場に一石を投じたのは記憶に新しい。また、ユーザーの要望をファームウェアアップデートなどですぐに取り込むことでも知られており、熱心なファンも多い。 このH300シリーズは、1月のInternational CESで発表、その後も日本での発表会や各国のトレードショーなどでも出展されていたが、18日に20GBモデルの「H320」がようやく日本発売された。40GBモデルの「H340」は25日より発売される。外形寸法/重量は、H320が62×22×103mm(幅×奥行き×高さ)/約183g、H340が62×25×103mm/約203gと、若干H340が厚く、重くなっている。
直販価格はH320が47,800円、H340が59,800円。なお、H340にのみ充電機能を備えたUSBクレードルが付属する。 最大の特徴は2インチ/220×176ドットのカラーTFT液晶(26万色)を採用したこと。また、USBホスト機能も搭載し、PCを利用せずにデジタルカメラやUSB HDDからのデータの取り込みや削除などが行なえるようになった。また、デザインも一新され、H100シリーズの中央に“ヘソ”を配した独特のデザインから、すっきりとした操作ボタンとGUIに変更された。万人受けするという意味ではこちらのほうが好ましいように思える。 ただし気になる点もある。それはリモコンがシンプルな液晶無しタイプになったことだ。本体とほぼ同等の操作が行なえる大型の液晶リモコンは、H100シリーズのアイデンティティともいえる重要な差別化ポイントだった。最大のセールスポイントを省略してしまったH300シリーズの魅力とは? H100を上回る操作性を得ることはできたのだろうか? 今回はH320を借りて検証してみた。 なお、今回試用した製品は、韓国版のため日本販売製品とは一部仕様が異なっている場合がある。
■ 本体の質感は高いがやや重くなった本体 2インチ/220×176ドットのカラーTFT液晶(26万色)を採用。操作ボタンは決定キーとして利用する[NAVIボタン]を中心に上下にボリューム、左右にスキップ/バックを配し、その左上に電源ON/再生ボタン、左下に電源OFF/停止ボタン、右上に録音/モード切替ボタン、右下にA-B/EQボタンを装備する。基本操作は全てこのボタンで行なうこととなる。
上部には、ライン入力、ライン出力とヘッドフォン出力/リモコン端子を装備。左脇に内蔵マイクとRESETスイッチ、右脇にHOLDボタンを配し、下部にDC電源端子とPC接続用のUSB 2.0端子、USBホストとして利用できるUSB 1.1端子を装備する。 本体はカーボンファイバ調の網目をデザインモチーフとした高級感あるもので、手に持った質感や工作精度も高い。個人的には“ヘソ”が気になったH100シリーズより、デザインは洗練されて、親しみやすくなったと思う。 外形寸法/重量は、62×22×103mm(幅×奥行き×高さ)/約183gと、H110の60×19×105mm/160gからやや大きく重くなっている。カドが丸みを帯びたデザインは持ち運びやすい。重量バランスはいいが、手に持ったときの重量感はそれなりにある。
リモコンは液晶無しのシンプルなもので、再生/停止やスキップ/バック、ボリュームコントロールなどが可能。電源のON/OFFもリモコンから行なうことができる。
■ シンプルな操作性
USB 2.0端子でパソコンと接続するとUSB充電を開始、充電中に再生ボタンを押すとPC連携モードとなり、データの転送が行なえる。USBストレージクラスに対応し、エクスプローラ上からドラッグ&ドロップするだけで、オーディオデータの転送が可能。 最大2,000フォルダ、9,999ファイルの管理が可能で、MP3のID3Tagなどを利用した楽曲データ管理に対応する。1.01GBのファイルを転送したところ2分20秒で完了した。通常のUSB 2.0ストレージということもあり、転送速度は早く、ストレスはまったく感じない。 それでは早速利用してみる。立ち上げると音楽再生画面が現れる。[●]マークの録音/モード切替ボタンを長押しすることで、モード選択画面が現れ、[Music]、[Radio]、[Record]、[Text]、[Picture]、[Browser]、のモードが選択できる。 Musicメニューで音楽プレーヤーとして利用できる。デフォルト状態でも、ファイル名を利用した曲情報表示が行なえるが、付属のDB作成ソフト「HSeries Manager」を利用することでMP3ファイルのID3Tagを利用したデータベースを作成できる。このDBを利用することで、DBナビゲーション画面が現れ、アルバム/アーティスト/ジャンル別の検索が可能となる。
H300シリーズでは、MP3のほかWMA、OGG Vorbisなどのオーディオファイルに対応しているが、HSeries ManagerでDBを作成できるのはMP3のみ。なお、MP3のファイル名が52文字を超えたものはDBに追加できない。 デフォルト設定ではDBナビゲーションを利用しないようになっているため、DBを利用するためにはNAVIボタンの長押しでセットアップ画面を呼び出し、[Display]-[Tag Information]をONにするほか、[General]の[DB Scan]をYesにしておく必要がある。 アーティスト/アルバム検索を重要視する人はMP3でライブラリを作成し、DBナビゲーションで利用するのがベストだろう。OGG VorbisやWMAで利用する際にはフォルダメニューでフォルダ階層の上下移動などで任意の曲/アルバムの選択/再生ができる。リピート、シャッフルなどの特殊再生にも対応し、それぞれ全曲/全ディレクトリ/ディレクトリ/1曲などのモード設定も可能。リピート/再生位置のリジューム機能も備えている。
操作は簡単でNAVIボタンの上下左右で項目の移動を行ない、NAVIボタンで決定動作となる。再生画面の操作では特殊再生設定や音質設定などが行なえる。 動作速度には大きな不満はないが、ライブラリが10GBを超え、フォルダやアルバム数が100以上になると、選びたい曲までたどり着くまで延々スクロールするのは結構面倒。また、電源投入時の起動がやや遅いのが気になるところ。DBScanをYesにしていると起動などが遅くなるようで、約11GBのライブラリを転送し、DBScan Yesで起動した際は約23秒。DBScan Noの場合は18秒程度で起動した。 リモコンは再生/停止やボリュームコントロールが行なえるシンプルなもの。ややボタンが小さめだが、使い勝手は悪くない。機能的にはiPod付属のものとほぼ同等といっていいだろう。やはり、H100シリーズの大型液晶リモコンと比べるとやはり機能的には寂しい。
■ クセのない再生品質。SRS WOWの効果は大きい イコライザ設定をノーマル状態にしてMP3を中心に再生品質をチェックしてみると、大きなクセもないが、驚くほど高音質というわけでもない。ヘッドフォンはお馴染みのゼンハイザー「MX400」。低域はやや弱めなものの、癖のない再生品質で、ポータブルプレーヤー付属品としては十分満足いくクオリティ。ユニット径がやや大きめなので、耳の形によってはうまくフィットしない人もいるかもしれない。
音質面での特徴はSRS WOWを搭載していることだろう。SRS WOWは、3Dサラウンド技術「SRS」、「TruBass」、「FOCUS」を融合させた技術で、最近ではカーオーディオやポータブルプレーヤーでの採用例も多い。 標準設定では、SRSが[05]、TruBassが[07]、Focusが[High]、BOOSTが[60Hz]となっているが、大抵のソースではノーマル設定よりもSRS WOW ONのほうが気持ちよく音楽を聞くことができた。このSRS WOW設定はカスタマイズできるので、SRSやTruBassの数値をいじって楽しむのもいいだろう。 特に、Focusの効果によりボーカルが聞きやすくなるのでポップスやロックを楽しむのに重宝する。また、さほどボリュームを超えなくても、音像がしっかりとするのでさほど音量を上げずに音楽を楽しめるのもポイントが高い。MX400はユニット径が大きいこともあり、やや音が漏れしやすいのでが、SRS WOWを併用することで、通勤電車で迷惑をかける可能性も減るだろう。 もちろん、SRS WOW以外にもノーマル/ロック/ジャズ/クラシック/ウルトラバスの5種類のプリセットイコライザとユーザーモードが用意される。 本体上面にはライン出力、ライン入力を端子を装備。H100シリーズでは光デジタル入出力を備えていたが、H300シリーズで省略されたのはやや残念なところだ。ライン出力端子をコンポなどにつなぐだけでオーディオ出力が可能だが、デフォルト設定のSRS WOW ONなどでは音場が狭く、ヘッドフォン向けの設定で出力すると今ひとつ。ライン出力時には出力オーディオ機器にあった設定を行なったほうがいいだろう。
バッテリは内蔵のリチウムポリマー充電池で、連続再生時間はカタログ値で最大約16時間の再生が可能。128~160kbpsのMP3を中心に連続再生したところ、11時間強で再生停止となった。 充電は付属のACアダプタのほか、USB 2.0端子でも行なえる。ノートパソコンさえ持っていれば出張の際にACアダプタを持って行かずにすむなど、利便性向上に大いに寄与する機能だ。ただし、ホスト機能を備えたUSB 1.1端子では充電できないので注意が必要だ。 パソコンと接続すると充電が始まり、再生ボタンを押すとPC接続モードとなり、データ転送などが行なえる。さらに、単3電池×4本を利用する外付けバッテリーパックも付属する、バッテリーパック併用時の連続再生時間は約50時間。
■ 豊富な録音機能。フォトビューワ機能は今一歩か
MUSICモードのほか、[Radio]、[Record]、[Text]、[Picture]、[Browser]モードが用意される。Recordモードはではライン入力からのMP3録音ができるほか、内蔵マイクによるボイスレコード。さらに付属の外部マイクを利用した録音にも対応する。 ライン録音では、レベル設定や入力音声のモニターが行なえるため、望みどおりの結果をすぐに得ることができる。録音ビットレートは40~320Kbpsから選択できる。 内蔵マイクによるボイスレコード機能ではAGC(オートゲインコントロール)機能も備えている。録音ビットレートは40~128kbpsから選択できる。外部マイク利用時にはステレオ録音も可能で、録音ビットレートは40~320kbpsとなる。外部マイクのケーブル長は約1mで会議や講演でも、本体から離れた最適な箇所で集音できるのは大きなメリットだろう。
本体にはFMチューナを内蔵。オートスキャン機能を利用して簡単にプリセットチャンネルを割り当てることもできる。MP3形式での録音も可能。録音ビットレートは40~320kbpsから選択できる。 テキストビューワ機能では、ROOT以下の[TEXT]フォルダに転送したテキストを表示することができる。横26文字(半角)の表示が行なえるが、さまざまな種類のフォントが混在していて読みにくいので、特に日本語表示の場合は実用的とは言いがたい。テキスト容量をKB指定で数値入力することで、テキストの任意の箇所までジャンプする機能も搭載している。
Pictureメニューではフォトビューワ機能として利用できる。対応ファイルはJPEG/BMP。500万画素のデジカメ画像の表示には2秒程度かかるが、低解像度の画像であればさくさくスキップできる。また、4枚の画像を同時表示するサムネイル表示も可能となっている。 なお、1MBを超えるファイルやプログレッシブJPEGには対応しない。また、低解像度の写真はフル画面表示できるのだが、高解像度のJPEGファイルなどのフル画面表示はできない。どういう条件でフル画面表示ができるのかよくわからなかった。 2インチ/26万画素の液晶表示は確かにきれいではあるが、フル画面表示できなければ魅力は半減といえる。ただでさえ最近のデジタルカメラでは2.5インチ液晶などの大型液晶搭載機が増えており、ビューワとしての魅力も増している。単体のフォトビューワとしては今の仕様は力不足と感じる。
「Browser」メニューでは、本体内のフォルダ/ファイルの移動や、外部デバイスからのデータ読み込みが行なえる。USBホスト機能も搭載しており、同梱のUSBホスト端子とUSBストレージクラス対応機器と接続することで、他のUSB機器からのデータ転送が可能。USBのHDDやUSBストレージクラス対応のデジタルカメラからのファイルの送受信、コピー、削除などの操作が、本体の液晶ディスプレイを見ながら行なえる。 動作確認機種は同社ホームページに掲載されている。なお、パソコンからのデータ転送はUSB 2.0対応だが、USBホスト機能ではUSB 1.1となる。これは搭載のUSB OTGチップの制限と思われるが、本格的にフォトストレージとして利用するならばUSB 2.0に対応してほしいところだ。
対応機器にはあげられていないが、オリンパスのデジタルカメラ「E-1」を接続し、USBを利用して画像を取り込んで見た。[Browser]画面を開き、カメラを接続すると、液晶下部に本体を表す[HOST]のほか、外部デバイスを表す[DEVICE]の表示が現れる。 ここでA-Bボタンを長押しすると、HOST/DEVICEの切り替えが可能となる。あとは通常のフォルダビュー画面と同様に外部デバイスにアクセスできる。A-Bボタンを再度押すとCOPY/PASTE/DELというメニューがあわられるので、DEVICEの任意のファイル/フォルダを選んでNAVIボタンでCOPYを決定。デバイスを切り替えてHOST(H320)上の任意の場所でPASTEを選択するとファイルの転送が行なえる。 転送時間は約4MBのファイルの転送で25秒強。USB 1.1なので納得できるスコアではあるが、できればUSB 2.0に対応してほしかったところ。また、100MBを超えるファイルなど大容量になるほど、容量あたりの転送時間が長くなるように感じた。
■ 録音重視のユーザーに最適。付加機能やSRS WOWをどう評価するか 非常に機能が豊富なHDDプレーヤーで、特に録音機能がここまで充実している機種はほかにはないだろう。使い勝手も良好で、音楽プレーヤーとして利用した際に気になった点は起動の遅さ程度だ。ストレージクラス対応によるPCとの親和性の高さも相変わらずで、フォルダ管理が行なえることもあり、パソコンのヘビーユーザーには非常にわかりやすいプレーヤーだと思う。 しかし、それらの特徴の多くはH100シリーズで実現されていたこと。H100シリーズからは液晶リモコンや光デジタル入出力が省かれた分、カラー液晶を搭載し、USBホスト機能やフォトビューワ機能などが追加されたわけだが、それらのマイナス要素をプラスの要素が上回っているかといわれると微妙なところ。特にフォトストレージとしての機能を売りにするのであれば、もう少し完成度を高めてほしかったところだ。 とはいえ、毎日持ち歩くものだけにデザインの洗練や本体の質感向上は歓迎できるし、個人的にはボディカラーがブラックというのもポイントが高いと思う。価格的には実売で47,800円程度と、同容量のiPod(44,900円)より若干高めだが、同じフォトビューワをウリのひとつにするVAIO Pocket(約53,000円)よりは安いという設定。録音重視のユーザーや、デザインが気に入れば、H320は面白い選択肢といえるだろう。 □アイリバー・ジャパンのホームページ (2004年6月18日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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