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S-VHSのダビングに対応した「3in1」モデル
松下電器 「DMR-E150V」
発売:6月21日
標準価格:オープンプライス(実売10万円前後)


■ HDD+DVD+VHSの使い勝手は?

 「VHS一体型DVDレコーダ」といえば、これまではDVDドライブとVHSの組み合わせたものを指していた。しかし今夏からはHDDを追加した「3in1モデル」が登場、同ジャンルの転機となっている。該当するのは、シャープの「DV-HRW30」(7月1日発売)、ビクターの「DR-MX1」(7月下旬発売)、松下電器の「DMR-E150V」(6月21日発売)の3機種だ。

 その中でも先行して発売されたDMR-E150Vは、2003年3月発売の「DMR-E70V」を発展させた機種になる。DMR-E70VもDIGAシリーズの1モデルとしてラインナップされ、「手持ちVHS資産のDVD化」を利用シーンの第一に挙げていた。これは、そのころ同社が盛んに謳っていた「□(しかく)から○(まる)へ」、つまりVHSからDVDへの変革を、具体的なソリューションとして見せたモデルだった。結果として、VHSを使用できる点が消費者に安心感を与えたのか、2003年前半はかなりのヒット商品だった。

 E150VとE70Vの違いで一番大きいのが、新たに80GB HDDを搭載したことだろう。E70VではVHSから直接DVDに一発勝負で記録していたので、画質や編集の面で妥協することが多かった。しかし、E150VではHDDをバッファとして使えるため、「VHSから最高画質でいったんHDDにダビング、編集後にDVDに書き出す」という、自然なワークフローが可能になった。

 さらに、E70Vでは非対応だったS-VHS記録、あるいはS-VHS ET記録のテープを高画質にダビングできるようになった(ただし、S-VHSの録画は不可能)。「DVD化したい」とまで思うテープコレクションが、S-VHS記録である可能性は高い。HDDへの一時記録とあわせ、AVファンにとってかなり有用な「取り込み・編集機」になり得るはずだ。

 そのほか画質面では、現行DIGAの各モデルと同じく「NEWディーガエンジン」を搭載している。「スーパーハイブリッドVBR」、「インテグレイティッドDNR」、「インテリジェント・ダビングDNR」からなる高画質化技術の総称で、特にE150Vでは、インテリジェント・ダビングDNRの効果が期待できそうだ。

 インテリジェント・ダビングDNRは、VHSテープに付き物のジッターノイズ、クロマノイズ、輝度ノイズを解消するノイズリダクションで、テープ映像の入力を自動判別し、ジッターにはTBC(タイムベースコレクタ、時間軸補正)、クロマノイズと輝度ノイズには3次元DNRを働かせて低減させるというもの。ほかのDIGAにも搭載されているが、一体型のE150VやDMR-E75Vでこそ活躍する機能といえる。

 今回はS-VHSのDVD化作業を中心に試用した。なお、現行DIGAシリーズについては「小寺信良のElectric Zooma!」第148回で、DMR-E85Hを詳しく解説している。ハイブリッドレコーダとしての使い勝手はシリーズで共通する部分が多いので、参照してほしい。


■ 高級感ある外観と「ワンタッチダビングボタン」がユニーク

 DVDとVHSに加えてHDDを組み込んだにも関わらず、本体サイズはE70Vとほとんど変わらない印象。奥行きは2cmほど増したが、高さを同等に抑えたことで、大きくなった印象はない。ただし、背面のファンが飛び出し、さらに2基付いていることに驚いた。E150Vの場合、HDD、DVDドライブ、VHSメカの3つが同時に作動することもあるため、ダブルファン設計からも熱対策の難しさがうかがえる。

 前面はミラー素材やアルミヘアライン仕上げを導入し、高級感が増した。また、左側にVHS、右側にHDD/DVDの操作ボタンをそれぞれ設けるなど、E70Vからの工夫を引き継いでいる。ダビング作業が主体になると、本体の側で操作することも多い。リモコンも付属しているが、本体で基本的な操作が行なえるのはうれしいところだ。

正面 HDD/DVD操作部 VHS操作部

 表示管は基本的に、左がVHS、右がHDD/DVDに分かれている。慣れてしまえば、カウンターやチャンネル表示、録画モード、挿入メディアの種別などが個別に確認できる点が便利だ。また、HDD/DVDに比べ、VHSの操作時にはカウンターを見ることが多い。E70Vと同じく視認性の高い大きな文字が役立つだろう。

 操作ボタンで特徴的なのは、右端の「ワンタッチダビングボタン」だろう。HDD、DVD、VHSのダビング元とダビング先を指定し、ダビングを開始するためのシーソーボタンで、押すだけでダビングが始まる。この機種の特徴を一番良く表すボタンといえ、店頭でも訴求ポイントとなるに違いない。

表示パネル ワンタッチダビングボタン

 DVD部はDVD-RAM、DVD-Rの記録が可能。DVD-Rを読み込ませるたびに「このディスクには、一回だけ録画可能な番組は録画できません。」と表示され、決定ボタン、または戻るボタンを押さないと先に進めないのには閉口した。デジタル放送への移行期ということで用意した心配りだと思うが、少しわずらわしく感じる。もちろん、DVD-RAMでは表示されない。

 DVD部の再生は、DVDビデオ、DVD-RAM、DVD-R、音楽CD、ビデオCD、CD-R/RWをサポート。さらにDVDオーディオの2ch出力にも対応している。マルチチャンネルのDVDオーディオを再生すると、表示管に「D.MIX」と表示され、2chにダウンミックスして出力しているのがわかる。また、MP3を記録したCD-R/RWの再生も可能だ。最大記録速度は、DVD-RAMが3倍速、DVD-Rが4倍速。

 チューナは引き続き、地上アナログを2基搭載する。E70VではDVD、VHSの同時録画が可能だったが、今回のチューナおよびエンコーダは、HDDまたはDVDと、VHSにそれぞれ割り振られている。したがって、HDDとDVDの同時録画や、HDDへの2番組録画は不可能だ。また、ゴーストリダクション機構もない。

 映像入力はS映像/コンポジットを3系統備え、そのうち1系統を前面に配置している。出力はD2を1系統、S映像×1系統、コンポジット×2系統を装備。ただし、S映像はHDD/DVD部専用、コンポジットも2系統のうち1系統がHDD/DVD専用となっている。

 ほかにも、地上波EPG「Gガイド」、動画サムネイル表示とリスト表示を選べる「プログラムナビ」、PCの右クリックメニューを思わせる「サブメニュー」、DVD1枚に8時間記録できる「新EPモード」といった、現行DIGAシリーズの特徴を受け継いでいる。高速ダビング中にHDDの録画・再生が可能になったのも大きなポイントで、ダビング・編集機としての利便性が向上した。再生音が比較的滑らかな音声付き1.3倍速早見再生(HDD/DVD-RAMのみ)も健在だ。

DVDトレイ 背面 リモコン


■ S-VHSの画質をそのままデジタル化可能

 E150VでVHSからコレクション用のDVDを作るとしたら、まずHDDにXPで全部取り込み、CMなどを編集後、DVDに書き出す方法がベターだろう。

 VHSをHDDにダビングするには、大きく分けて「ワンタッチダビング」と「マニュアルダビング」の2種類の方法がある。マニュアルダビングにはさらに、HDD/DVD部のダビングと同様の「ダビング設定画面」を使う方法と、一時停止状態からいきなり録画する方法を選べる。

 まず、ワンタッチダビングは、VHS内の録画番組を一気にHDDに移す方法。ダビングしたいポイントで止めたVHSをセットし、HDDの録画モードを選択、本体前面の右端にあるワンタッチダビングボタンを3秒間押し続けるとダビングが始まる。録画モードはXP/SP/LP/EPに加え、FRモード(ぴったり録画)も選択可能。FRモードにすると、テープ長を考えずに全域をダビングできる。

 ワンタッチダビングボタンを押すと、HDDとVHSのオンスクリーンがOFFになった後、HDD側の録画チャンネルが「TP」に切り替わり、ダビングがおもむろに始まる。TPとは、HDD/DVDからはVHS専用のチャンネルとして見える外部入力のような位置付けのチャンネルで、前出したVHSのD2出力もこのチャンネルで見ることができる。

 HDDにダビングした映像は、テープのVISS信号(頭出し信号)にあわせて番組(タイトル)に分割される。ダビングを途中で止めるには、[停止]ボタンを押すか、[リターン]ボタンを押す。また、[リセット]でカウンターリセット、[チャンネル]の上下でトラッキングの調整が可能だ。

 マニュアルダビングの設定で使う「ダビング設定画面」は、「ダビング方向」、「録画モード」を埋めて行くウィザード形式のもの。HDDからDVD、DVDからHDDではこれらに「リスト作成」、「詳細設定」(レート変換ダビングのみ)が加わる。

 ダビング設定画面を使わない場合は、VHSを一時停止状態にしてHDDに切り替え、TPチャンネルを選択。HDDの録画モードを設定し、録画を始めると、ダビング始まる。手法としては、昔ながらのダビング方法だ。これらのマニュアルダビングでもVISS信号による番組(タイトル)分割が適用される。

タイトル一覧 チャプター一覧 チャプター作成

 こうしてHDDに取り込んだ番組(タイトル)から、次はCMなどを除く編集作業を行なう。番組本編とCMの境をチャプタで分割した後、番組本編のチャプタを集めたプレイリストを作成するのが楽だろう。チャプタ作成画面はそっけないつくりだが、早送りやコマ戻しなどの操作性は悪くない。編集中のプレビュー画面も大き目で、状況を確認しやすい。

 ただし、プレイリスト作成画面では、編集元タイトル、編集元チャプタ、編集先チャプタの動画サムネイルが計12枚並ぶこともあり、チャプタ数が多いときなどは操作の重さが気になる。他社のハイブリッドレコーダでもこうした局面では遅くなりがちだが、カタログなどでVHSのDVD化を大きく謳うE150Vとしては、動画サムネイルの再生を一時OFFにできるなど、独自の視点を取り入れても良かったのではと思う。

 DVDへの書き出しには、ダビング設定画面を利用する。ここで記録モードの設定とダビングリストの作成を行なう。ダビングリストはその名の通り、ダビングしたいタイトルやプレイリストを登録する場所。ダビングを終えてもリストは本体に残っており、別のメディアに続けてダビングする際に便利だ。

ダイビング元とダビング先の選択 自動CM早送り ダビングリスト
DVDメニュー選択 ディスク管理 高速ダビング中

 また、高速ダビング以外なら「自動CM早送り」機能を利用できる。モノラルや二カ国語放送でCMを検知し、ダビング時にとばしてくれる機能だ。番組本編の前後が少しだけ切れることも多かったが、とりあえず大まかにCMをカットして保存したい場合には有用だろう。大幅な省力化につながる。

 気になったのは、ダビングしたいタイトルやプレイリストごとに録画モードを設定できない点。リストに登録されたタイトルやプレイリストは、すべて同じ録画モードで変換される。番組ごとにビットレートを変えたい場合は、1番組ずつダビングするしかないようだ。つまり番組を追記していくことになる。面倒だが、ファイナライズが自動実行されないのが救いといえば救いだ。すべてのダビングを終えてからファイナライズすれば、タイトルごとにビットレートを変えたDVDビデオが出来上がる。

 また、ファイナライズ前に入れたタイトル名は、ディスクを取り出しても保持される。そのため、日を置いた追記も問題なく可能。ファイナライズするまでなら、タイトルナビなどもHDDと同じ感覚で利用できる。

 実験として同じDV素材をS-VHSとVHSにダビングし、E150VにXPで取り込んでからDVD-Rに書き込んでみた。その際、XPから各モードにレート変換している。ソース元のS-VHSとVHSの差は歴然で、XPとSPでは精細感に大きな差が出た。ただし、LP以下に落とすとどちらも元ソースより画質が悪化し、ほとんど差はなくなる。ライブラリ用としてDVDに残すなら、SP以上が良いようだ。

【DMR-E150Vの録画サンプル】
モード 記録時間 解像度 音声 ダビング元別サンプル
HDD DVD S-VHS VHS
XP 約17時間 約1時間 704×480ドット ドルビーデジタル
256kbps

svhs_xp.mpg
(49.9MB)

vhs_xp.mpg
(49.7MB)
SP 約34時間 約2時間 704×480ドット ドルビーデジタル
256kbps

svhs_sp.mpg
(28.2MB)

vhs_sp.mpg
(27.5MB)
LP 約68時間 約4時間 352×480ドット ドルビーデジタル
256kbps

svhs_lp.mpg
(15.6MB)

vhs_lp.mpg
(15.7MB)
EP
(6時間モード)
約106時間 約6時間 352×240ドット ドルビーデジタル
256kbps

svhs_ep6.mpg
(10.1MB)

vhs_ep6.mpg
(10.2MB)
EP
(8時間モード)
約142時間 約8時間 352×240ドット ドルビーデジタル
128kbps

svhs_ep8.mpg
(7.85MB)

vhs_ep8.mpg
(7.93MB)
編集部注:DVデッキ「WV-DR5」と「DMR-E150V」をS映像ケーブルで接続し、DVデッキで再生したCREATIVECAST Professionalの映像をHDD上にXPで録画。その後、UNIFINOのDVD-Rに各レートでダビングした。ダビング終了後にファイナライズし、DVD-R上のVOBファイルをリネームしている。掲載した静止画のキャプチャにはPowerDVD 5を使い、すべて800×600ドットでキャプチャした。(c)CREATIVECAST Professional

 なお、VHS部独自の機能としては、3倍モード録画、5倍モード録画、CMカット録画、プログラムナビ、テープリフレッシュ、レンタルポジションなど、最新の機種らしく豊富だ。GガイドからVHSへの予約も行なえる。

 また、D2端子からのVHS出力も可能で、E70V同様、VHSのプログレッシブ出力もできる。プログレッシブで出力すると、輪郭が若干細くなり、より鮮明な映像になる。また、画面全体が安定する印象も受けた。もちろん、S-VHSテープのプログレッシブ再生も可能だ。

 ただし、VHSデッキの再生能力はかつての重量級デッキほど高くないようで、それほど高価でない機種、たとえば編集部にあったビクターの「HR-S200」に精細感や安定度で若干劣る印象を受けた。内部にドライブ類を抱えているため、ノイズや振動の点で画質的に不利な面もあるのだろう。いまさらVHSの再生画質を求めるのも変な話だが、高級デッキが市場に存在しない今、E150Vのがっしりしたボディに過度の期待をしてしまったようだ。

 コピーワンス番組については、VHSへの直接記録に加え、HDD/DVDからVHSへは、ムーブではなくダビングが可能。ただし、ダビングするとVHSにコピー制御信号があわせて記録されるため、再度HDD/DVDへのダビングは不可能になる。

トップメニュー プログラムナビ(リスト表示) Gガイド Gガイド→VHS予約録画
EPモード設定 DVD-R挿入メッセージ 画面表示 タイムワープ


■ まとめ

 S-VHS対応とHDDの搭載で、編集機としての可能性はE70Vから大きく向上したE150V。VHSを手軽にDVD化するという本来の目的により近づいたといえる。特にHDDの搭載はワンタッチダビングボタンを活かすことにつながり、専用機としての価値を高めることだろう。

 もちろん、ハイブリッドレコーダの外部入力にS-VHSデッキをつないでも、同じような作業は可能だ。しかし、入力TBCがしっかりしていないと、長時間かけて変換する意味はあまりない。そういう意味では、E150Vには専用機としての安心感がある。ネックはハイブリッドレコーダとしては少ない80GBのHDD容量と、実売で10万円強という価格だろうか。

 なお、同じく3in1機のビクターDR-MX1は、120GB HDDとDVDマルチドライブ、DV入力に加え、HDD録画時に得た情報からダビング時にビットレート再配分を行なう「インテリジェントパスコード」、動き予測演算の「モーションアクティブノイズリダクション」など、高画質化機能も特徴。S-VHS再生に対応し、店頭予想価格はE150Vより2,000~3,000円ほど高価になると見られる。

 もう1つの3in1機、シャープのDV-HRW30は、地上アナログダブルチューナに加え、BSアナログチューナの搭載が特徴。ただし地上波EPGは搭載していないし、S-VHS再生もサポートしていない。実売価格は94,000円前後が多いようだ。

【DMR-E150Vの主な仕様】
HDD容量 80GB
録画メディア DVD-RAM、DVD-R、VHS
再生メディア DVD-RAM、DVD-R、DVDビデオ、DVDオーディオ(2ch)、音楽CD、ビデオCD、CD-R/RW(MP3可)、S-VHS、S-VHS ET、VHS
搭載チューナ 地上アナログ×2
EPG Gガイド
入力端子 S映像×3、コンポジット×3、アナログ音声×3
出力端子 D2×1、S映像×1(DVD専用)、コンポジット×2(内DVD専用×1)、光デジタル音声×1、アナログ出力音声×2(内DVD専用×1)
外形寸法 430×371×89mm(幅×奥行き×高さ)
重量 約7.2kg

□松下電器のホームページ
http://matsushita.co.jp/
□製品情報
http://panasonic.jp/dvd/products/e150v/spec/01.html
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-6WAYダビング対応。新ディーガエンジン搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040309/pana3.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030404/dev019.htm

(2004年7月1日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]


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