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第156回:分離・合体できるオーディオカード「Juli@」を試す
~“ターンヘッドソケット方式”の使い勝手は? ~



 Ego-Systemsから「Juli@(ジュリエット)」という、ユニークなオーディオインターフェイスPCIカードが発売された。なんとカード自体を分離し、構成を組み立て直すことによって、端子の形状を変えられるという製品だ。


■ 分離して回転するとRCAがTRSに

珍しい「白基板」を採用

 韓国のオーディオインターフェイスメーカー、Ego-Systemsはプロオーディオ向けのESIブランドと、コンシューマー向けのAUDIOTRAKブランドの2つのブランドで製品展開をしている。今回紹介するのは、ESIブランドのJuli@というPCIバス接続のオーディオインターフェイスだ。

 基板が白というちょっと変わったもので目を引くのだが、さらによく見ると、奇妙な形状をしている。PCIのブラケット側に入出力端子が並んでいる一方、その反対側にも4つの入出力端子が並んでいる。内部バス接続のような端子を装備したカードというのはよくあるが、TRSフォンジャックが内部に向いてあるカードは見たことがない。

 実はブラケットをはずした上で4箇所のネジをはずすと、基板が2つに分かれる構成になっている。そして、コネクタがある上部を180度回転させると、ブラケットの外側を向く端子が別のものに切り替わるというのが、不思議な形状の理由だ。

 実際に分離してみたところ、ドライバがあれば2、3分でバラバラにできた。2つの基板を接続しているネジを計4箇所と、ブラケットと接続している2箇所の計6つのネジをはずせばいいだけ。大きいほうの基板を回転させてみると、確かにカード上部にも下部と同様のコネクタが装備されており、点対称の形状をしているのがわかる。

分離状態 基板上のコネクタ ブレイクアウトケーブル

 このように回転させた状態で再度ネジをつけると、RCAピン端子が4つあったオーディオインターフェイスがTRSフォン4つの端子に変身した。実際の使用においては、一度セッティングしたら、そのまま使うため、再度分離させることはあまりないと思うが、状況に応じて端子形状を変えられるというのはユニークな発想だ。

 また、Juli@は標準価格25,200円と安価ながら24bit/192kHzに対応し、オーディオ4IN/4OUT、MIDI 1IN/1OUTを装備したというパワフルな設計。またデジタルはコアキシャルの入出力とオプティカルの出力も装備している。MIDIおよびコアキシャルの端子は付属のブレイクアウトケーブルを用いる。当然のことながら、先ほどひっくり返した端子はアナログの入出力というわけだ。


■ DirectWIRE 3.0によるルーティングが可能

ドライブ設定の初期画面

 さて、これを実際にPCに接続して使ってみた。ドライバはWebに上がっている最新の1.12というバージョンを使用した。Juli@はほかのEgo-Systems製品と同様E-WDMというEgo-Systemsオリジナル方式のドライバが使われている。これはMME、WDM、ASIO 2.0、GSIFと、後で紹介するDirectWIRE 3.0にも対応したユニークなドライバだ。

 ドライバをインストールして使えるようになると、タスクトレイにESIのロゴのアイコンが表示され、これをクリックするとミキサー風のドライバ設定画面が登場する。これを見てもある程度わかるが、1/2chがアナログ入出力、3/4chがデジタル入出力となっている。また、このMONをクリックしてオンにすると、入力した信号がそのままモニターとして出力される設計だ。

ASIOドライバの設定

 レイテンシーの設定も、やはりこの画面で行なう。デフォルトでは256sampleになっているのを64sampleまで小さくした上で、CubaseSXを起動し、24bit/96kHzで動作させたところ、CubaseSX上での表示は入出力ともにちょうど1.000msecとなった。またこの状態で音を鳴らしてみたが、とくに音切れなどはく動作してくれた。

 このJuli@に限らずEgo-Systemsの製品で面白いのは前述のDirectWIRE 3.0に対応していること。これはアプリケーション間での信号のやり取りを可能にするもので、たとえばWindows Media Playerで再生している音をSoundForgeやWaveLabなどの波形編集ソフトで録音するとか、CubaseSXでASIOドライバ経由で4chパラで再生している音を、SONARのWDMで4chパラでリアルタイム録音するといったことを可能にするものだ。

ルーティング画面

 先ほどのドライバ設定画面から起動するDirectWIREの画面でルーティングを行なうのだが、どのドライバのどの出力をどこへルーティングするか自由自在。ReWireなどに近い考え方のものだが、どんなアプリケーション、どんなドライバ対応のものでも連携できてしまうというのが面白いところだ。たとえば、普通は録音することができないインターネットラジオをキャプチャするといったことも簡単にできてしまう。

 なお、このJuli@には、いくつかのアプリケーションが標準でバンドルされている。その目玉ともいえるのがAbleton Live ESI。これはAbletonのLive 3をベースとした機能限定版なのだが、かなりのことができてしまうので、これだけでも結構お得。このAbleton Live ESIはJuli@などESIのドライバ以外は選べないようになっている。

 そのほかにも、数多くのVSTインストゥルメント、VSTプラグインエフェクトも同梱されている。VSTインストゥルメントとしてはAAS Tassman ESIは結構使えるアナログモデリングのソフトシンセサイザーだし、妙な歌声で有名なあのDelay Lamaもバンドルされている。また、エフェクトとしてもSteinbergのものやPSP audiowareのものなど、いろいろなものが用意されている。

同梱ソフトの一例。左からAbleton Live ESI、AAS Tassman ESI、Delay Lama


■ 優秀なアナログ出力

 さて、ではいつものように、アナログ部分の音質チェックを行ってみよう。Juli@はカードの構成によってRCAピンとTRSフォンの双方がありえるが、RCAの場合はアンバランスの-10dBV、TRSフォンの場合はバランスの+4dBuとなるため、ここではTRSフォンを使って実験してみることにした。

 まずは、左右チャンネルとも入出力を直結し、無音状態で入力されるノイズを測定した。結果を見るとわかるようになかなか良好。最高レベルとまではいかないまでも、ノイズのピークが-93dB程度と結構いい。また、1kHzのサインを使った結果もキレイなグラフになる。若干高調波が出ているようだが、それでもS/Nが87.65dBというのは立派なものといえる。そして、もう1つのスウィープ信号の結果もフラットでキレイなグラフとなった。

ノイズレベル 1kHzサイン波 スウィープ信号

 これを見る限り、かなり高性能なオーディオインターフェイスであるといっていいだろう。ここ数年こうしたベンチマークをとってきたが、品質の底上げが顕著で、低価格であっても高品質という時代に変わってきているようだ。最高級性能とまではいえないが、プロのレコーディング用でも十分使えるレベルといえる。もっとも、マイクプリアンプなどはないし、当然ファンタム電源対応などともなっていないため、レコーディングといってもライン接続のものに限られるが……。

 この実験は24bit/48kHzでの実験であるため、同じセッティング状態でRMAAのループテストも行ってみた。これは、同じ24bit/48kHzのほかに、24bit/96kHz、24bit/192kHzのそれぞれで行なった。これについても、やはり先ほどと同じ傾向であり、24bit/192kHzのIMD値以外すべてにExcellentという結果となった。

 現在PCIバス接続のオーディオインターフェイス需要はかなり少なくなっているようだが、PCIのものをこれから買うのであれば、候補の1つに入れたい機材といえそうだ。

RMAAループテスト結果。左から24bit/48kHz、24bit/96kHz、24bit/192kHz

□エゴシステムズのホームページ
http://www.egosys.co.jp/
□製品情報
http://www.egosys.co.jp/HP/php/juli@.php
□関連記事
【6月3日】EGOSYS、専用ソケットで入力端子を変更できるオーディオカード
-6,000円台の低価格サウンドカードも発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040603/egosys2.htm

(2004年8月9日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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