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第157回:RealNetworksのDRM互換技術「Harmony」を試す
~ iPod以外のプレーヤーにAACが転送可能に ~



 いま、色々なところで話題になっているのが、AppleとRealNetworksの戦い。RealNetworksが7月27日に複数のDRM(デジタル著作権管理)を変換する技術「Harmony」を発表。すると、それを非難する声明をAppleが発表し、さらにRealNetworksがAppleに反論するなど、かなりもめている。

 一連のニュースはINTERNET Watchをはじめ、いろいろなニュースサイトで掲載されるとともに、その話題が各所の掲示板やブログなどで議論されている。しかし、そのHarmonyが具体的にどんなDRM変換が可能で、われわれ国内ユーザーにとってどんなメリットがあるのかなど、その詳細についた紹介しているところは少ない。そこで今回は、実際にHarmonyを搭載したRealPlayerを使い、どんなことができるのか試してみた。


■ 話題をさらった「Harmony」

Harmonyを搭載したReal Player Version 10.5

 AppleとRealNetworksの争点と経緯について詳細には触れないので、興味のある方はWatchの各記事(1/2/3)や両社の声明文などを読んでいただきたい。が、事実としてあるのはRealNetworksがHarmonyという新しい技術を開発し、それを搭載したRealPlayerをリリースしたということだ。

 RealNetworksの説明によれば、このHarmonyを使うことで、現在ユーザーが使用する上で障害となっているDRMの壁を乗り越えることができる、という。といっても、別にプロテクト破りをして、著作権保護のかかっている曲データをコピーフリーにしよう、というわけではない。著作権保護はかけたまま、別のDRMに乗せかえるというのである。

 具体的な例としては、iPodとiTunes、そしてiTunes Music Storeとの関係がわかりやすい。AppleのiPodは、MacintoshだけでなくWindowsとも連携できるようになっているが、そのためにはAppleが無償配布しているiTunesを必要とする。なぜなら、iPodは独自のDRM「FairPlay」を使用しており、それに唯一対応しているソフトがiTunesだからだ。そして、そのiTunesでアクセスできる音楽配信サイトがiTunes Music Store。1曲99セントで購入できるということから大ヒットしているが、このiPod、iTunes、iTunes Music Storeの3者の関係から、iPodで利用可能な音楽配信サイトは唯一iTunes Music Storeであり、iTunes Music Storeでダウンロードした曲を再生可能なポータブルプレーヤーは、iPodだけになっている。

 まあ、Appleのマーケティングとしては、当然の囲い込みを行なったわけだが、そこに異議を唱えたのがRealNetworksなのだ。同社の開発したHarmonyを使えば、別サイトからダウンロードした曲もiPodへ転送可能というのである。iPodユーザーにとって、ダウンロード可能なサービスがiTunes Music Store以外にも増えるため、非常に有益に見える。もっとも、すべての音楽配信サービスが対象になるわけではなく、RealNetworksが運営するReal Music Storeというサイトのみ。つまり、RealNetworksはiPodユーザー向けに音楽配信サービスをスタートさせたわけであり、Appleは自分の作った囲いを壊されたので面白くないというのが今回の構図でもある。現在RealNetworksはキャンペーン期間という位置づけのもと、1曲49セントとAppleの半額で曲の販売をしている。

 また、このDRMの壁を超えるというのは、Real Music Storeでダウンロードした曲をiPodに転送するということのみならず、CreativeやRio、Plamなど各社のデバイスへもダウンロード可能となるので、どのプレーヤーのユーザーでもReal Music Storeが利用可能となったわけだ。


■ iPodに転送した曲はHelixがFairPlayに変換

最新RealPlayerのバージョン表記。Harmonyの搭載が記されている

 さて、ここからが本題。Harmonyは日本のユーザーにとって何か意味があるのか、ということ。iTunes Music Storeは現在のところ日本でのサービスはしておらず、直接アメリカのサイトへアクセスしてもダウンロード購入することはできない。RealNetworksのReal Music Storeと同様で、日本でのサービスは行なっていない。

 したがって、HarmonyがいろいろなDRMをサポートしたとはいえ、日本のユーザーにはあまりメリットのないもののように思える。でも、本当に意味がないものなのか? 実際にUSサイトから最新版RealPlayerをダウンロードして試してみたところ、結構面白い使い方があった。

 なお、現在のところHarmony搭載のRealPlayerはWindows版のみ。Macintosh版やUNIX版などは提供されていない。さっそくインストールして起動すると、見た目には従来のものとなんとなく違うが、何をどうサポートしているのか、このままだとわからない。ここでバージョンを確認するとReal Player Version 10.5 Helix Powered with Harmony Technologyと表示され、Harmonyが搭載されたものであることがわかる。

 さて、このプレーヤーをよくみてみると、Burn/Transfarというタブがあるので、これをクリックしてみた。するとHarmonyのロゴが表示され、左側にはAdd a new deviceという表示がある。ここでデバイスを追加することで、さまざまなオーディオプレーヤーを利用することができるようになる。

 Add a new deviceをクリックすると、数多くのプレーヤーがずらりと並ぶ。ちょうど手元にiPodがあるので、Apple iPod & iPod miniを選ぶとそのドライバがすぐにインストールされる。ここで、PCにUSB経由でiPodを接続すると、なんの苦労もなく、画面左側ではiPodが認識されている。これを選択すると、iPodに収録されている曲が一覧でみることができる。またそれをPC上から演奏させることもできてしまう。

転送設定で“Add a new device”が表示された 利用できるプレーヤーにはiPodも 再生デバイスにiPodを指定可能

 そこで、ためしにPC上にあるMP3ファイルやWMAファイルをiPodへドラッグしてみると、あっけないほど簡単にiPodへ転送される。そして、一旦接続を解除した後iPodを操作してみると、いま転送した曲を再生することができた。つまり、iTunesをまったく使うことなくRealPlayerのみで転送ができたのだ。

 転送後、iTunesを起動し、転送したデータのプロパティを見てみると、普段ならエンコード方式としてiTunesと表示されるところが、Helix Producerという表示がされている。つまり、HarmonyがうまくRealのDRMであるhelixをFairPlayに変換し、iPodへデータ転送していたことがわかる。

iPodに転送した楽曲のプロパティ。左はiTunesを使用、右はRealPlayerで転送

 続いて、Excite Music Storeから購入したセキュリティーのかかったデータをiPodに転送してみた。が、残念ながらこれは無理のようで、はじかれてしまった。つまり、HelixからFairPlayへの変換はできてもWMTからFairPlayへの変換はできないというわけだ。

 結果的にいえばiTunesを使った場合も同様であり、iTunes自体無償で手に入るソフトであるため、RealPlayerの存在価値はあまり感じられない。でも、iPodと連携させる方法の選択肢が広がったというのは、1つのメリットといえるだろう。


■ AACをiPod以外のプレーヤーに転送

 続いて、CreativeのMuVo2を接続するとともに、Add a new deviceを用いてドライバを組み込んでみた。すると、iPodをつないだときと同様に、PCとMuVo2間でのデータのやりとりが可能となる。MuVo2の場合、わざわざアプリケーションを使わなくてもエクスプローラなどでMP3、WMAのデータをコピーするだけで利用できるため、どうでもいいことのようにも思えるが、Harmony搭載のRealPlayerだからこそできることもいくつかある。

 まず1つ目は、先ほどのExcite Music Storeで購入したデータだが、これのセキュアな転送ができた。購入したデータは3回までのセキュアな転送が可能となっているが、MuVo2へRealPlayerで転送した後、Windows Media Playerのプロパティで確認してみると、確かに2回に減っている。とはいえ、これもWindows Media Player 9があればできることなので、あくまでも代替ソフトとして利用可能であることに過ぎない。

 しかし、RealPlayerでしかできない面白い使い方が見つかった。それは、iTunesを使って構築したAACのライブラリを再生できるのとともに、そのままMuVo2へデータ転送できるということ。この際、MuVo2へはWMAに変換した上で転送されるのだが、これはなかなか大きなトピックではないだろうか。

Excite Music Storeの曲をセキュア付きで転送 転送後、転送可能回数が2回に減少した iTunesの楽曲をMovo2にも転送できた

 というのも、いまのiPodユーザーの多くはiTunes標準のAACでライブラリ構築していると思うが、このデータはiTunesでしか再生できないし、iPodへしか転送できない。そのため、もしiPodから別のプレーヤーに買い換えるとせっかく構築したライブラリが無駄になってしまうわけだが、それをそのまま有効活用できることになる。もちろん、AACでなくMP3でライブラリを構築してあれば問題はないのだが、これによってAACもよりオープンなフォーマットとして利用することが可能になったのである。

 現状、国内でRealNetworksの音楽配信がされていないため、Harmony搭載のRealPlayerはそれほど画期的ソフトというイメージではないかもしれない。また国内において主流のDRMでるATRAC3/OpenMGに対応していないことも気になるところだが、DRMによるユーザーの閉塞感を打ち破る1つの起爆剤であることは間違いないだろう。

 もっともAppleは、「iPodのファームウェアアップデートにより、Harmonyからの転送を防止する」との声明を出しており、今後のHarmonyの展開はまだまだ不透明だ。しかし、プラグインのような形などで、さまざまなDRMに対応し、音楽配信サービスとポータブルプレーヤーの関係をシームレスにしてくれると面白いのと思う。今後の動向にも注目していきたい。

□RealNetworksのホームページ(英文)
http://www.realnetworks.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.realnetworks.com/company/press/releases/2004/harmony.html
□RealPlayer 10のダウンロードページ(英文)
http://www.real.com/beta/harmony.html
□関連記事
【7月26日】Real、iPodやWMAのDRM変換技術をRealPlayerに搭載
-27日にβ版を公開予定
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040726/real.htm

(2004年8月23日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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