■ 新ポータブルAVプレーヤープラットフォーム「Windows PMC」とは? Microsoftが「Media2Go」という新モバイルプラットフォームを発表したのは、1年半以上前の2003年のInternational CESだった。ビル・ゲイツ氏の基調講演で、“ビデオ再生ができる液晶ディスプレイ/HDD搭載プレーヤー用プラットフォーム”として2003年末の発売が予告された。しかし、正式発表は遅れ、正式名称が「Windows Mobile based Portable Media Centers(Windows PMC)」となって2004年第2四半期の発売をアナウンス。 そのWindows PMC搭載プレーヤーがmWindows Media Player 10の正式公開にあわせて、ついに9月2日より米国で発売された。PC業界の巨人、Microsoftが本腰を入れてビデオ/オーディオ機能を併せ持ったメディアプレーヤーを展開するというのは業界的には大きなインパクトだろう。 なにしろソニーの「HMP-A1」や「PCVA-HVP20」以外では、大手メーカーからのポータブルビデオプレーヤーのリリースは非常に少なく、市場が立ち上がっていない段階。その市場に、豊富な資金力、開発力を持ったMicrosoftが真剣に取り組もうとしているのだから、市場の起爆剤となる可能性は高い。
とはいえ、Microsoftはハードウェアの製造などは行なわず、プラットフォームを規定し、OSを提供するという立場をとっている。Windows PMCプレーヤーは、IntelのXScaleプロセッサとWindows MobileベースのOSを搭載し、ガイドラインに沿ったハードウェアと操作体系を共通化。そのプラットフォームを利用して、各ハードウェアメーカーがプレーヤーを製品化する図式だ。 Windows PMCプレーヤーの第1弾として、米国でCreative Technologyが「Zen Portable Media Center」を499.99ドルで発売した。また、Samusungやiriverも今秋の発売を予告している。 今回は、この「Zen Portable Media Center(Zen PMC)」を検証した。なお、まだベータ機のため、一部仕様が異なっている場合がある。また、日本での発売についてクリエイティブメディア株式会社では「日本での発売に関しては現在未定。マイクロソフトと連携してスケジュールの調整を行なっている」としている。
■ やや大きめの本体
Zen PMCでは、本体のほか、PC接続用のUSBケーブルとACアダプタ、イヤフォン、専用AVケーブルなどが付属する。 外形寸法は144×80.7×27mm(幅×奥行き×厚み)、重量は約340gと、HDDオーディオプレーヤーなどと比べると二周りぐらいは大きい。厚みも結構あるが、基本的に両手で持ちながら視聴するスタイルとなるので、利用時に気になるほどの重みではない。 320×240ドット/3.8型のTFT液晶ディスプレイを装備。20GB HDDを内蔵し、MP3/WMAなどのオーディオやWMVなどのビデオの再生が行なえる。 前面左側にWindowsロゴが記されたグリーンのボタンと、戻るボタン、十字キーとOKボタンを装備。右側にボリュームボタンと再生/停止、早送り/戻しボタンを備えている。左面には電源入力を、右面にはHOLDボタンやAV出力、ヘッドフォン出力などを備えている。 また、上部に電源ボタンと4つのプリセットボタンを装備し、これは任意の操作をキーに割り当てて利用できる。下面にはPC接続用の端子を装備する。裏面にはバッテリを装備する。バッテリは取り外しも可能となっている。本体の質感はなかなか高く、ボタンの操作感も良好だ。
■ ファイルはWindow Media Player 10から転送
パソコンとの連携はWindows Media Player 10経由で行なえる。WMP 10をインストールすると、Zen PMCを認識し、ウィザードに従って操作するだけでドライバも組み込まれた。ファイル転送はWMP10から行なうほか、USBストレージとしても認識されるため、対応ファイルの場合はドラッグアンドドロップでPMC上の[Media]フォルダに転送することもできる。 PMCで再生可能な形式はビデオが320×240ドット以下、ビットレート800kbps以下のWMV(.WMV/.ASF)。オーディオはMP3とWMA、静止画はJPEG/TIFFをサポートしており、これらのファイルはWMP10の同期(Sync)機能を使って直接転送できる。 なお、Windows PMCの対応ファイルについては、展示会などに出品される試作機について説明員に尋ねると「MPEG-2やMPEG-4にも対応」との回答が多く、発表当初より情報が混乱していた。
実際に試してみると、MPEG-2をドラッグ&ドロップで転送することはできない。しかし、WMP10のSync機能を用いてWMV形式に変換して転送することはできる。変換して転送できるファイルはMPEG-2やMPEG-1に加え、DVR-MS(Windows Media Center Edition用で録画したMPEG-2ファイル)など。また、WMP10を利用する場合は、WMVファイルなども同様に変換されて転送され、WAVのオーディオファイルもWMAに変換される。 Windows Media PlayerのSync機能を使って転送するとMPEG-2ファイルの場合は、WMVへの変換を開始し、変換完了後に転送を行なう。モバイルPentium M搭載のThinkPad X31では640×480ドット/4MbpsのMPEG-2の変換に、ファイルの実時間とほぼ同様の時間を要するが、転送は数10秒で行なえた。 WMP10のSync設定では基本的に全て変換するように推奨されているが、この強制変換機能をOFFにもできる。720×480ドット/2MbpsのWMV9や、320×240ドット/645kbpsのWMV9、MPEG-2/4MbpsのファイルをWMV変換せずに、転送したところWMVのファイルは認識したが、MPEG-2ファイルはPMC上から認識されなかった。 また、高解像度/高ビットレートのWMVに関しては、読み出しまでに時間を要する上、コマ落ちが激しく実用に耐えなかった。推奨解像度に近い低レートのWMVについては再生できたが、液晶の解像度とソース解像度が異なる場合は、フル画面表示してしまうのでアスペクト比が崩れてしまう。WMP10で変換を行なう場合は、ソースの情報を見ながらPMCの液晶に最適化するので、アスペクト比を維持して再生することができる。
また、WMP10では「Digital Media Mall」と呼ばれるコンテンツ配信サイトへのアクセスも可能となっている。 音楽配信のNapsterやMusicmatch、MusicNowや映像配信のCinemaNowなどにMedia Player内から直接アクセスできるようになっている。現在日本からは利用でいないが、これらで購入した楽曲や映像を転送して視聴できるのがPMCのウリのひとつでもあるので、日本での早期サービス開始にも期待したい。
転送したファイルは、PMCのマイテレビ/マイミュージック/マイピクチャ/マイビデオの各ジャンルに区分けされ転送される。ビデオファイルは、基本的にPMCの[マイビデオ]以下に収録され、音楽は[マイオーディオ]、静止画は[マイピクチャ]に転送される。 「マイテレビ」には、Windos Media Center Edition(MCE)搭載PCで録画したテレビ番組が転送される。今回Windows Media Center Editon 2004を搭載したDellのDimension 4600Cで転送を試みたが「マイテレビ」へはうまく転送できなかった。通常のビデオファイルと同じようにWMP10から変換しながら転送することはできたが、その場合は「マイビデオ」に格納された。 転送時に毎回最適化を行なうのは面倒だし、時間もかかる。録画時にPMC用にトランスコードするような機能をOSやキャプチャカード側の機能として搭載して欲しいところだ。
■ シンプルかつ高速な操作感が魅力
本体の操作はシンプルで、液晶左側のボタンをファイル選択や本体設定などに利用、右側には再生操作や早送り/戻し、ボリューム操作ボタンを装備している。グリーンのWindowsボタンでメインメニューを呼び出して、マイテレビ/マイミュージック/マイピクチャ/マイビデオ/設定の中から任意の機能を選択する。[設定]ではバックライト点灯時間や輝度の調整、イコライザ設定などが行なえる。 メインのユーザーインターフェイスは、PC向けOSのWindows XP Media Center Editionの10feet GUIを踏襲したものとなっている。ジャンルの移動やファイルの選択などの操作はいずれも高速に行なえ、操作感は非常に良い。UIもパソコン的なフォルダ階層を意識させないようデザインされており、基本操作で戸惑うことはほとんど無いだろう。
ビデオファイルの視聴には「マイテレビ」、「マイビデオ」を選択する。これらの操作は左側の十字キーとOKボタンを利用、戻るボタンの[←]で前の操作に戻ることができるという非常にシンプルなもの。新規追加順や日付順、50音順でファイル検索が行なえ、ファイルを選択してOKを押すと再生/レジュームポイントからの再生が始まる。 再生時には、ボタンを長押しすることで早送り/巻き戻しが行なえる。また、左の十字キーの左右でファイル情報の確認が行なえる。特殊再生機能などは特に備えておらず、機能としては非常にシンプルだ。 転送したビデオファイルを再生してみたが、輝度は十分で、字幕もきっちり解像されるので特にストレス無く視聴できる。ベータ機のため詳細な画質評価は控えるが、液晶の特性か、彩度は低めなものの、大きな不満は無い。ポータブル用途としては十分な性能だろう。 視野角についても左右45度ぐらいまではコントラストも維持しており十分と感じた。なお、ソースファイルをパソコンで見た際には確認できないコマ落ちも若干確認できた。液晶の応答速度か、CPUスペックに起因するのかはわからないが、このあたりは製品版では改善されていることを期待したい。 画質的には十分満足だが、Zen PMCでは表面加工により“つるつる液晶”搭載のAVパソコンのように映り込みが強いのが気になり、ビデオ視聴中でも暗めの画面になると自分の顔が映り込んでしまう。自分の顔が映るのでストーリーから急に現実に引き戻されるようで心地悪い。できれば改善してもらいたいところだ。
AV出力も装備しており、専用AVケーブルによりコンポジットでのテレビ出力が可能となっている。29型のCRTテレビに出力してみたが、ソースファイルがQVGAのWMVファイルのため高画質というわけには行かないが、大人数で映像を楽しみたいときには十分重宝する機能だろう。
■ オーディオプレーヤーやフォトビューワ機能も装備
「マイミュージック」でMP3/WMAのオーディオ再生機能も可能。もちろんWMA DRMつきのファイル転送も行なえる。アルバム名やアーティスト名、追加日時、新規順などで検索可能で、任意のファイルを選択して再生できる。アルバムごとの再生のほか、シャッフル再生機能やリピート機能も装備している。 付属のヘッドフォンはクリエイティブ製のプレーヤーで付属しているものと同じ。非常にクセが強いので、Shure E2cなどに変更して音質をチェックしてみたが、音ヌケよい気持ちいいサウンドで好印象。音楽専用プレーヤーのiPodと比較してもZen PMCのほうが好ましいと感じた。 また、本体のみでプレイリストを作成できる「ポータブル再生リスト」も搭載している。これはリストに追加したいファイルを選択し、「ポータブル再生リストに追加」でOKとするだけで、リストに追加される。iPodのOn-The-Go機能などと同様のいわゆるダイナミックプレイリスト機能だ。なお、作成したプレイリストをWMP10に書き戻すことはできない。 イコライザはアコースティック/クラシック/エレクトロニック/ヒップホップ/ジャズ/ポップ/ロックの7モードが用意されている。[設定]メニューからの選択のほか、再生中にイコライザ変更を行なうことも可能だ。
マイピクチャではフォルダ階層にも対応し、PMCの\Media\Pictures以下にドラッグアンドドロップで転送できる。各フォルダごとのスライドショー表示も行なえ、スライド間隔も5/7/10/15/30秒とランダムが選択できる。 高解像度の画像表示も行なえ、左の十字ボタンの上下で写真の送り/戻りができる。また、音楽を再生しながらのスライドショー表示なども行なえる。 バッテリ駆動時間はカタログ値で7時間(ビデオ)/22時間(オーディオ)。実際にバックライト輝度を最大にしてWMV動画を連続再生したところ、約5時間で再生停止した。長期の旅行などで利用するには物足りないが、この手のビデオプレーヤーとしてはかなりの長時間駆動といえるだろう。また、Zen PMCの場合交換式のリチウムイオンバッテリを採用しているので、ぜひオプション販売してほしいものだ。なお、USB充電には対応していない。
■ ハードの完成度は高い。録画ソリューションの洗練に期待 ビデオプレーヤーとしての性能は十分で、音楽再生/写真表示も可能なマルチメディアプレーヤーとして非常に良く仕上がっている。特に高速な操作感は非常に魅力的だ。欲を言えば小型化や液晶の視認性向上が図られればよりよい製品になると思うが、新プラットフォームの第1弾としては完成度が高く、ハードウェアに大きく不満を抱くようなところは無い。 ただ、ポータブルビデオプレーヤーとして活用するためには、「パソコンで録画したファイルを以下にスムーズに連携し、転送できるか?」、というシステム全体の利便性が重要となってくる。そうした意味では、そのつどMPEG-2/MPEG-1などから、WMVに変換する現在の仕組みには不満の残るところだ。 そのあたりについてはWindows XP Media Center Edition(MCE)などOS側の対応でこうした連携をうまくできるように解決していくと思うが、「パソコンで予約録画して、PMCを接続すると直ぐに同期されて持ち歩ける」というように、シームレスな連携が行なえるようになれば、おのずとPMCプレーヤーの魅力も高まっていくだろう。ハードウェアとしては既にかなり洗練されているが、ソリューションとしてはもう少し成熟していく余地はあると感じる。 MCEの自作PC市場向け販売の解禁など、Microsoftのメディアソリューションに向けた積極策が見受けられるが、こうした取り組みがどうやって結実していくのか、注目していきたい。 米国での価格は499.99ドルとのことで、ソニーのHMP-A1(約63,000円)よりは若干安く、iriverのMPEG-4対応プレーヤー「PMP-120(52,800円)」などと同等といえるだろう。MPEG-2の再生ができるという意味では現状HMP-A1のほうが使い勝手がいいかもしれない。しかしPMCの向かっている方向というのは、OSの発展などのトータルソリューションへの期待値として、非常に高いという印象を受けた。 □Microsoftのホームページ(英文) (2004年9月3日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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