■ スタイリッシュな首掛けシリコンプレーヤー登場 ひところはHDDに比べてやや割高感のあったシリコンプレーヤーも、フラッシュメモリの価格下落に伴いiriverや、Rioなどが1GBで2万円台の製品を発売するなど、値頃感も出てきた。 シリコンプレーヤーは、録音機能などの高機能化でHDDプレーヤーとの差別化を図ってきたが、今回取り上げるiriverの「N10」はフラッシュメモリ採用によるデザインの自由度を最優先したプレーヤーだ。 N10は、ネックストラップ一体型イヤフォンを採用した首掛け型のMP3/WMAプレーヤーで、本体重量22g/ネックストラップ込みでも42gという軽さと、有機ELディスプレイやハーフミラーを配した高級感あるデザインがウリとなっている。
首掛け型プレーヤーというと、従来よりアドテックのペンダント型プレーヤー「AD-EMPZ」や、ソニーのネットワークウォークマンシリーズなどが発売されているが、多機能プレーヤーで市場を切り開いてきたiriverにとっては新機軸といえる製品。 7月の韓国のプレスツアーで実機を見た際も、品質感/高級感と作りの良さは実感でき、少し触った程度だが音質も非常によかったので、日本での発売を期待していた。そのN10が9月3日に発売された。 256MBモデルと512MBモデルが用意され、実売価格は256MBモデルが21,800円、512MBモデルが27,800円。価格下落の続くシリコンプレーヤーの中ではやや高めな価格設定ではあるが、特に512MBモデルについては数カ月前の相場からみればかなり安い。
■ 高級感ある有機ELディスプレイ。本体は小型
本体とネックストラップイヤフォンに加え、USBケーブルやミニUSBアダプタ、インストールCD、付属品以外のヘッドフォンを利用するためのBキャップ、Bキャップ用ネックストラップなどを同梱。 リチウムポリマー充電池を内蔵した本体部と、ネックストラップを一体化したキャップ(Aタイプ)から構成され、外形寸法は27.2×62.5×13.3mm(横×縦×奥行き)、重量は本体のみで22g、ネックストラップ一体型イヤフォンをつけた状態で42g。また、通常のステレオミニプラグのヘッドフォンを利用可能にする変換キャップ(Bタイプ)も付属する。
本体前面にハーフミラー加工を施した16階調に発光する有機ELディスプレイを搭載。本体左側面に再生/停止ボタンと、前/左移動、次へ/右移動ボタンを装備。右側にMENU/A-Bリピート、ボリューム/下へ移動、ボリューム/上へ移動ボタンを装備する。HOLDボタンが存在しないという、なかなか割り切った構成だ。 キャップを外すと、専用のオーディオ出力コネクタと、USB 1.1端子を装備。最新MP3/WMAプレーヤーでUSB 1.1というのは残念だが、このあたりは小型化とのトレードオフと考えるべきだろう。 ELがうっすらと光るハーフミラーの表示部はなかなかの高級感。ボタンのクリック感もまずまずで、モノとしては非常に良くできてる。ネックストラップイヤフォンも金属の重量感を持たせたなかなか高級感あるもので、トータルデザインがしっかりしていて好感が持てる。ネックストラップは長さ調整が行なえるほか、ストラップ部に固定して収納時に嵩張らないように工夫が凝らされている。 充電はキャップを外して、USBケーブルでパソコンと接続してUSB経由で行なう必要がある。充電時間は約1.5時間。
■ 転送には専用ソフトを利用
パソコンからのデータ転送にはUSB 1.1を利用する。そのためキャップを外して、USBでパソコンと接続する必要がある。頻繁にデータを入れ替えする人にとっては億劫な仕様だが、このあたりもデザインと小型化を優先しているためだろう。 N10はUSBストレージクラスに対応していないため、転送ソフトの「iriver Music Manager(iMM)」を利用する。iMMはシンプルなオーディオジュークボックスソフトとなっているので、特に迷うことなく利用できる。USB 1.1のため、転送速度は遅めだ。また、iMMだけでなくWindows Media Playerからの転送にも対応している。。 なお、USBストレージクラスへの対応については「後日UMS用のファームウェアを提供予定」としている。
オーディオプレーヤーとしては、MP3/WMA/ASFに対応。Ogg Vorbisには対応しない。フォルダ階層管理をサポートしているため、パソコンでのフォルダ階層をそのまま維持して転送することも可能だ。 再生/停止や、スキップ/バックボタンによる曲送り/戻し、長押しで早送り/戻し、ボリューム上下などの基本操作は非常にわかりやすい。しかし、フォルダ間移動などのナビゲーションはやや面倒だ。 MENUボタンを長押しして、メインメニュー画面を立ち上げ、[NAVI]からナビゲーションメニューに入る。ここで、スキップ/バックボタンで階層の上下、ボリュームボタンで選択中のフォルダ内のファイル選択が割り当てられている。覚えれば、操作自体はさほど難しくないが、ステップが多くて、あまりスムーズに操作できないのでストレスを感じる。
MENUボタンの長押しはナビゲーション画面呼び出しとなるが、普通に押すとA-Bリピートとなる。シャッフル再生を選択するには、MENU長押しから[SETUP MENU]→[PLAY MODE]から再生モードを選択する必要がある。これだけ操作ステップが多いと、シャッフル再生しようという気持ちにならないかもしれない。 ボタン関係で気になるのはHOLDボタンが無いことだが、側面はボタン部をカバーするように緩く内に湾曲していることもあり、首掛け時や胸ポケットに入れていて誤動作を起こすようなことはなかった。HOLDボタンを省くため、きちんと考えて設計されていると感じるし、HOLDボタンを省いたことで、いざ操作するときにも1ステップ操作を省略できるわけで、このあたりのつくりのよさには好感が持ている。 本体を首から掛けても重さはほとんど感じない。やや固めのネックストラップの素材に違和感を感じたりするものの、慣れればさほど問題はない。小走りしてみたりすると胸にコツコツ当たって気になるものの、不自由を感じることは無い。ただ、液晶は横表示で、操作体系も横表示を前提としているので、操作時には首から縦位置で首から下げたN10を横に回して操作しなければいけないのが残念なところだ。
■ 再生性能は高く、付属ヘッドフォンも高品質
キャップA一体型のイヤフォンは、Cresyn製ヘッドフォン「LMX-E700」を採用。本体の再生周波数帯域は20Hz~20kHz、S/N比は90dB、ヘッドフォン出力は18mW×2ch(16Ω)。6種類のプリセットイコライザのほか、5バンドEQの「Xtreme 3D」や、iriverオリジナルの「Xtreme EQ」などのサウンドエフェクトを搭載している。 全てのエフェクトをOFFとして付属のイヤフォンで聞いてみたが、中高域の音ヌケが非常に良く、開放感のある音。やや低域は不足しがちなので、Xtreme 3DのDBE(Dynamic Bass Enhancement)機能などを併用して低音を補間してもなかなかいい具合だ。ポータブルオーディオプレーヤー付属イヤフォンとしては今まで試用した中でベストと感じた。 イヤフォンは金属ボディで質感も高く、よく見るとオーディオテクニカの「ATH-CM5(実売6,000円)」に非常に良く似ている。最近のプレーヤー付属イヤフォンの進歩は目覚しいので、MuVo2シリーズなどの付属イヤフォンがイマイチなクリエイティブメディアもがんばって欲しいところだ。 なお、Bキャップに変更すると付属イヤフォン以外も利用できる。Shure E2cやSennheiser PX 200に変更してみると、付属イヤフォン利用時とはやや傾向が異なり、低音がかなり強く出るのが印象的。出力を上げると若干のノイズが確認できるものの、プレーヤーそのものの再生性能も高い。 マイクも装備しており、ボイスレコーディング(独自形式)に対応する。録音クオリティは、3段階で設定可能で、録音したファイルはiMMで変換することで、PC上で再生できる。マイクの性能はイマイチだが、会議の録音程度には十分使えるだろう。ただ、録音開始/停止機能が、MENUボタンに割り当てられているのには戸惑った。
時計も内蔵し、アラーム付きのタイマー機能なども備えている。時間になると音楽再生が始まるのだが、ヘッドフォンで音楽が鳴るだけなので、目覚まし時計代わりに使うのは難しそうだ。 連続再生時間はカタログ値で約11時間。MP3/WMAファイルを中心に、レベル20/Xtreme 3D ONでシャッフル再生を行なったところ、8時間強で再生停止した。■ シリコンプレーヤーの新しい可能性 ライン録音やFMチューナーなどを備えたほかのシリコンプレーヤーと比較すると、機能的には物足りないものの、この小ささ/軽さ/デザインは魅力的だ。本体の質感、有機ELディスプレイの醸し出す高級感とともに非常に魅力的な製品になっている。 小型化を優先したために、操作体系の融通の悪さは残るものの、基本的な操作はシンプルなので、小さくてスタイリッシュなプレーヤーが欲しい、というユーザーには最高の選択肢となるだろう。 個人的には、首掛けスタイルはあまり好みではないということもあり、Bキャップに変更してネックストラップも省き、胸ポケットにN10を入れて超小型/軽量プレーヤーとして利用するのが一番しっくりきた。“アクセサリ的なスタイリッシュさ”を目指した製品コンセプトからは外れた使い方だが、N10の小ささ/軽さは幅広い応用が利くように思える。 PCとの連携時のステップがやや面倒で、キャップを外したり、専用ソフトが必要だったり、USB 1.1だったりという細かい不満はあるものの、デザイン優先のコンセプトと実際の製品仕上がりはそれらの欠点を十分補う魅力を獲得していると思う。そういう意味では、シリコンプレーヤーの新たな方向性を提示する意欲的な製品とも感じる。 ただ、N10の操作体系はあくまでもMBクラスのシリコンプレーヤー向けという印象で、この体系を維持したまま1GB/2GBと大容量化が進むと欠点ばかりが目立ってしまうかもしれない。そういった意味では現状の256MB/512MBという容量も含めて微妙なバランスの上に実現している製品とも感じた。 □アイリバー・ジャパンのホームページ (2004年9月10日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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