■短期集中連載■

大河原克行の
家電メーカーのデジタル戦略を探る

【第5回:ソニー】新たに掲げたHD World戦略とは?
~ VAIOが初めて全社戦略の一角を担う ~


■ ソニーが打ち出すHD World

 先週から、ソニーがデジタル家電の新たな方針を掲げ始めた。それが、「HD World」だ。ハイビジョンという呼称が一般的な日本国内では、「ハイビジョン・ワールド」という言葉に置き換わることになるだろう。

 この言葉に示されるように、ソニーは今後の映像の世界標準をHDと位置づけ、それに向けた製品群の投入を加速する。

 わずか数年前まではプロフェッショナル機器への採用だけだったものを、ホームおよびパーソナルの領域にまでHD Worldを広げようというわけだ。そして、その製品群は、今年秋に一気に出揃うことになった。

米国で投入したSXRDによるリアプロジェクションテレビ

 放送、上映、制作というプロフェッショナル領域における製品群強化はもとより、ホーム分野では、年末商戦向けに投入した基幹製品のテレビが、WEGA、QUALIAでHD対応に強化した「ベガエンジンHD」を搭載。

 さらに、米国では、同社独自のSXRDを採用した70インチのリアプロジェクションテレビを発表。これに従来から投入しているブルーレイを加え、「観る、録画する、保存する」という世界をHDへと進化させる。

 一方、パーソナルでは、WEGA、QUALIAと同様に、年末商戦向け製品として投入した民生用初の1080i対応のHDVカメラ「ハンディカム HDR-FX1」に加え、VAIOでは新たにtypeRでハイビジョン録画および編集を行える提案を行うなど、撮る、編集するというHDソリューションを提供。パーソナル分野においてもHD Worldが展開されることになる。

 まさに、同社の基幹製品群がHDという分野に焦点をあわせた形で、進化を遂げはじめたと言っていい。

民生用初の1080i対応のHDVカメラとなるハンディカム HDR-FX1 ハイビジョン編集に対応したVAIO typeR これらがHD Worldを形成する製品群


■ 全社戦略に組み込まれたVAIO

 特筆したいのが、パソコンのVAIOが発売から約8年を経過して、初めてソニーの全社戦略のなかで一角を担う製品と明確に位置づけられたことだ。

 VAIOは、'96年に第1号機を米国で投入して以来、AVとITの融合をコンセプトに「ソニーらしい」パソコンとして、市場を席巻したが、ソニーのAV機器戦略とは一線を画した形で進化してきた感は否めない。

 もちろん、「つながる」というキーワードによって、AV機器との連動は図られてきた。しかし、それは、あくまでもデータのやりとりなどの連動であって、パソコン事業側からの一方向型の提案に留まっていたのも確かだ。

type X

 だが、今回のtypeRでは、HD Worldを実現する上で、HD映像の編集という作業にVAIOを活用すると位置づけられた。これは、パソコン事業部門からの提案ではなく、全社方針のなかで組み込まれたものだといえる。

 しかし、HD Worldという指針のなかでは、VAIOはHD映像の編集というツールとしていることから、現時点ではデスクトップシリーズだけ、しかもtypeRだけが対象となっている。先頃、東京・品川の新高輪プリンスホテルで開催されたディーラー向け製品展示会のソニー・ディーラー・コンベンションで、年末向けに発表された58機種のVAIOのうち、展示されたのはtypeRと、次世代AVレコーダとされる参考出品の「typeX」だけである点からもそれは明確だ。


■ デジタル家電は二足で立ったばかり

 だが、HD Worldの考え方が今後、進化するのは明らかで、そのなかで、ノートパソコンも戦略的製品として組み込まれる公算が強い。

 今回、発表されたHD Worldでは、プロフェッショナル、ホーム、パーソナルという3分野だけを対象にしたものだったが、当然のことながら、ソニーが得意とするモバイルへの発展、HDとは切っても切れないオーディオとの連動も考えられる。

ソニーの出井伸之CEO

 その点では、当然ノートパソコンの製品群も含まれるし、ウォークマンやVAIO pocketなどの製品群も、この方針にどう組み込まれるかが注目すべきポイントだ。

 ソニーの出井伸之CEOは、「デジタル家電の世界は、猿から人間への進化に例えれば、まだ二足で立ったばかりという段階。今後の進化の方が劇的になるだろう」と話す。

 もろちん、それはソニーが描くデジタル家電戦略も、今後の進化の方が激しい、ということと同義語だと受け取っていい。



■ もうひとつの柱はコンテンツサービス

 ソニーがデジタル家電事業を推進する上で、HD Worldとともに、もうひとつ見逃せないポイントがある。それがコンテンツサービス事業だ。

FeliCaの全世界への普及状況

 すでに、ゲーム事業部門におけるゲームソフトや、ソニー・ミュージックエンタテインメントによる音楽事業や、相次ぐヒットで業績が好調なソニー・ピクチャーズエンタテインメントの映画事業など、コンテンツ分野でいくつもの実績をあげているほか、最近では、映画事業における米MGMの買収への取り組みも記憶に新しい。

 また、国内外でスタートした音楽配信、ドコモの携帯電話への搭載などで広がりつつある「FeliCa」などのサービス事業も話題を集めている。

 出井CEOは、「ハードウェアでソニーらしさを打ち出したのが20世紀型のエレクトロニクス事業だとすれば、コンテンツやサービスなどを融合させたものが21世紀型のエレクトロニクス事業となる。ネットワークにつながるハードウェア、それらを通じてあらゆる環境で自由に利用できるコンテンツやサービスを融合させた形で事業を推進していくことになる。エレクトロニクス製品のブランドとしてだけでなく、サービスブランドとしてのソニーを定着させることがこれからの鍵になるだろう」と話す。

 コンテンツサービス事業の比重は急速に増加しており、これらの事業が約4割まで拡大することになるという。ソニーのデジタル家電事業は、ホーム、パーソナル分野へとHD化を加速することで同社の映像の強みを発揮するとともに、サービスブランドとしての「ソニー」を認知させ、エレクトロニクスと、サービス、コンテンツを組み合わせた融合型の事業形態を目指すことになりそうだ。

 「その全貌をお見せするのはまだまだ時間がかかる」と出井CEOは語るが、その片鱗は早くも見え始めているといるだろう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
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(2004年9月24日)

[Reported by 大河原克行]


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