大河原克行の 【第4回:三菱電機】画像技術の優位性で挑むデジタル家電事業
■ ソリューション展開も大きな鍵に
三菱電機がデジタル家電事業において掲げる基本的なスタンスは、「日本および米国市場において、同社の独自技術により差別化できる領域で勝負する」、というものだ。 ここでいう同社が得意とする技術とは、高解像度映像処理技術やカラーマネジメント技術、映像圧縮技術、画像認識技術、そして光学エンジン技術などである。同社のテレビであるREALシリーズに搭載されている「Diamond Engine II」などは、まさに、こうした同社の映像技術の蓄積によって完成したものだといっていい。
さらに、これらを家電事業、自動車事業、通信システム事業との連携によって、ホームセキュリティシステム分野などへの展開、車載システム、携帯電話などの融合を図るソリューションビジネスへと広げていこうというシナリオも描いている。JR東日本の山手線などの車両に採用されている情報提供モニター「トレインビジョン」も三菱電機の製品。また、カーナビなどにも同社の技術が数多く採用されている。こうしたソリューション事業による収益拡大も、同社のデジタル家電事業の発展系として見逃せない。 また、三菱電機の映像事業は、「1インチから数10mまで」という表現で示されるように、小型液晶画面を利用した製品から、LED方式のマルチ大画面表示技術を背景にした大型表示装置の提供まで含まれる。大画面では、米ネバダ州ラスベガスのシーザースパレスに縦10.2m、横幅33.3mの屋内型大画面を設置。また、香港のシャティン競馬場には、縦8m、横幅70.4mの世界最大のスクリーンを設置した。ギネスにも世界最長として登録されたシャティン競馬場のモニターの面積は21インチテレビ換算で4,500台分の規模に匹敵するという。これも同社の映像技術を軸としたソリューション事業のひとつだといえるだろう。 一方、一部のセット製品に関しては、他社との協業戦略を明確に打ち出している。液晶パネルの調達や、液晶テレビの生産では他社と連携。さらにDVDレコーダの開発生産についても、船井電機と手を組んで設立した合弁会社で行うなど、協業によって主力セット製品を取り揃える戦略を打ち出している。もちろん、ここでも単に生産委託をするという手法ではなく、同社の技術を背景にした戦略が推進されている。 たとえば、DVDレコーダーの楽レコシリーズは、起動から1.5秒で録画が開始できるが、これも同社独自の高速録画技術と画像処理技術によって実現したものだ。 技術的に強みを発揮できる部分においてのみ自社の開発、生産にこだわることで、他社との差異化を実現しているというわけだ。
■ デジタル家電事業を支える3つのキーワード
同社のデジタル映像技術は、「リアルに」、「使いやすく」、「ネットワーク化」という3つのキーワードで構成される。 まずは、「リアルに」という点を見てみよう。 ここでは同社が持つ画像処理技術が最大の特徴だ。三菱電機では、液晶の画質補正技術として、ぼやけた輪郭を補正する「ASPECT」という技術を開発。従来の輪郭補正技術に比べても自然な輪郭を見せることに成功している。また、DLP方式のリアプロジェクションテレビでは、超広角の光学エンジンを開発。160度の投射角度と、歪曲0.1%以下を実現するとともに、60~70インチの画面サイズにおいても、奥行き20cm以下という薄さを実現するという。 そのほかにも、スキャンバックライトの光を左右の目に交互に照射するとともに、同期して液晶パネルに左右の画像を交互に表示することで実現した小型立体液晶や、透明バックライト方式の採用でこれを液晶パネルを挟み込むことで実現した、表裏別々の画像を表示可能な両面液晶なども同社独自のもの。 一方、「使いやすく」という点では、シンプルリモコンという取り組みがある。手元のボタンはシンプルにしながら、テレビ画面に表示されるアイコンを表示しながら、それにあわせて操作するというものだ。また、対話型インターフェイスとして、キャラクターが操作を指示する仕組みを開発。シンプルリモコンとの組み合わせによって、より操作性を高める考えだ。さらに、動画検索表示技術などにも積極的に取り組んでおり、近い将来の実用化が期待されている。
「ネットワーク化」という点では、無線技術などを活用したホームネットワーク、モバイル多地点映像通信、MPEG21によるコンテンツ変換、サーバー型放送などが、同社の今後の重点的な取り組みになってくるといえそうだ。
■ テレビで狙う3つのターゲット
同社のテレビは、REALシリーズのブランドで展開しているが、その市場ターゲットを3つに分けている。 10~20インチまでを「パーソナル」と定義、21~39インチまでを「リビング」、そして、40インチ以上を「ニューリビング」と位置づけている。 これらの市場ターゲットを前提として、パーソナルおよびリビングの領域を液晶で、ニューリビングの領域をPDPとリアプロジェクションテレビでカバーする考えだ。
製品ラインアップはブラウン管テレビを含めて細かく設定。リビング向けのフラッグシップ機としては、37インチのフルHD液晶テレビを投入。今後、ラインアップのHD化を促進することで、リアルな画像の強みを発揮する考え。 なかでも三菱電機が、力を注ぐのがリアプロジェクションテレビである。同社では、この分野においては米国でもトップグループの一角を担うと自負する。そして、同社が得意とするDLP技術によって、プラズマ並みの薄型が実現できる強みを生かすことができる点も見逃せない。 日本では、リアプロジェクションテレビの需要はまだまだ低いが、米国では大画面テレビのほとんどを占めるという人気を博している。先ごろ、LCOSを採用した82型のリアプロジェクションテレビを米国市場で投入し、この分野における三菱電機の強みを見せつけた。ここでの実績を背景に、日本でもリアプロ事業に本腰を入れる考えだ。同様に、日本市場向けには家庭向けプロジェクタの品揃えにも乗り出す。
■ 強い製品分野を広げられるか ここ数年、三菱電機は、大規模なリストラを余儀なくされた。 その成果は徐々にあがりつつあるが、電子デバイス事業はもとより情報通信事業もまだ本調子とは言いがたい。 そうした状況において、デジタルメディア事業およびデジタル家電事業では、2006年度には、2003年度実績の30%増を目指すという成長戦略を描く。 デジタル家電の領域において、同社独自技術を背景にした製品戦略によって、その強みを発揮できる分野を、果たしてどこまで広げることができるのだろうか。ここに三菱電機のデジタル家電事業の今後の成長の行方がかかっている。
□三菱電機のホームページ (2004年9月17日) [Reported by 大河原克行]
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