■短期集中連載■

大河原克行の
家電メーカーのデジタル戦略を探る

【第6回:日立】見えない技術で、見える価値を創出するデジタル家電
~ 液晶/プラズマの大規模投資は吉と出るか? ~


■ 見えない技術で見える価値を創造

日立製作所・庄山悦彦社長
 日立製作所が、デジタル家電事業で掲げるキーワードが「ユビキタス情報社会」だ。

 自社が持つテクノロジーの強みを背景に、部品、製品、サービスという3つの領域からユビキタス情報社会に対して、アプローチすることにポイントを置くとともに、これらの自社技術をベースとした製品を投入することで、「見えない技術を活用し、見える価値を創出する」(日立製作所・小野功副社長)というのが日立のデジタル家電戦略の軸となっている。

 そして、同社では、「μVALUE」という言葉を用いて、デジタル機器、ソフトウェア、ITインフラストラクチャ、研究開発という日立グループの総合力による事業展開を進める考えだ。


■ Woooワールドで実現する高画質技術

 日立のデジタル家電戦略を捉える上で、強みとなる技術が大きく2つある。

 ひとつは、Woooワールドの言葉で代表される高画質テクノロジーだ。

 基幹となるパネルに関しては、プラズマの生産を担当する富士通日立プラズマディスプレイ、液晶の生産を担当する日立ディスプレイズによって、大画面から中小型までをカバーする。プラズマ、液晶の両方の資産を持つのは国産メーカーのなかでも大きな特徴だといえるだろう。

 とくに、液晶の生産を行なう日立ディスプレイズでは、中小型の生産に特化する一方で、大型パネルは、先頃、松下電器、東芝との提携によって設立する新会社が担当し、3社のリソースを持ち寄ることで、より効果的な生産体制を確立する考えだ。

日立製作所、東芝、松下電器による共同記者会見 大型パネルの液晶事業で手を組む3社

ハイビジョン対応を進めるWoooシリーズ
 新会社は、2005年1月に設立。日立ディスプレイズの千葉県の茂原事業所内に、2008年度に32型換算で年間250万台の生産能力を持つアモルファスTFT液晶パネルの製造ラインを稼働させる。

 この協業に対して、日立製作所の庄山悦彦社長は、「当社が培ってきたIPS液晶技術のリソースを最大限に活用できる協業だと考えている。技術的にも性能的にも競争力のある事業へと成長させることができる」と話す。

 同社のIPS液晶技術は、VA型と呼ばれるTFT液晶パネルに比べて、高透過率であること、これにより低消費電力化が図れること、視野角特性が高く、斜めから見た画質の色変化が少ないことなどの特徴がある。

 IPS技術は、今年度以降、次期IPSへと進化する予定で、透過率は現在のAS-IPS方式よりも、20%程度上昇することになるという。

 一方、デジタル高画質処理技術の「Picture Master」の採用などによって、上位機種では686億色相当の階調表現によって「奥ゆきの美学を実現した」(日立製作所・小野功副社長)と自負するように、立体感あふれるハイビジョン映像の表現を可能にしている。

次世代ディスプレイの研究
 「地上デジタル放送、ハイビジョンの本格化に伴い、日立の映像技術の真価が発揮できるようになる」(小野副社長)というわけだ。

 これらの技術は、当然のことながら薄型テレビに限らず、液晶プロジェクターやパソコンなどにも応用され、パソコン分野でも高画質の追求が、同社製品の大きな差別化策となっている。


■ ハードディスク事業も日立の強み

 もうひとつの強みがHDD事業である。

 日立グローバルストレージテクノロジーズや日立LGデータストレージを通じて生産されるストレージ製品では、1.0型、1.8型、2.5型、3.5型の4つのラインアップを誇り、基幹システムなどで活用された高い信頼性や高付加価値をコンシューマ製品にも提供。ストレージ管理ソフトウェア技術でも他社を一歩リードするノウハウをコンシューマ製品へとフィードバックしている。

垂直磁気記録HDDの研究
 車載向けなどに開発した幅広い温度環境でも動作を可能にするノウハウのほか、高速アクセス、著作権保護技術なども同社の特徴で、iPod mini向けに供給している小型、大容量の製品も、同社ならではのノウハウの蓄積によるものだといえる。

 これらのほかに、ルネサステクノロジによるメモリ事業、日立マクセルによるメディア事業も、同社のデジタル家電事業をしっかりと下支えする。

 こうした日立グループとしての総力によって、デジタル家電事業に取り組める環境が整っているともいえる。



■ プラットフォームにも力注ぐ

 同社の取り組みで見逃せないのが、デジタル家電を支える「プラットフォーム」に対する一手にも余念がないことだ。

 実は、これらの取り組みを見ると、まるでITシステム事業戦略のように見える。

 しかし、日立では、同社が目指すユビキタス情報社会には、こうしたプラットフォームの整備が重要だと位置づけ、ここに力を注いでいるのだ。

 同社ではこれを「繋ぐ」、「伝える」、「貯める」、「守る」という4つの言葉で示す。

 繋ぐという点では、サーバーおよびミドルウェアがある。サーバー、ネットワーク、ストレージをひとつの筐体に格納した「ブレードシンフォニー」や、安定的な運用を監視する「JP1」をはじめとする各種ミドルウェアを活用し、社会的なネットワークインフラを基盤を提供するというものだ。

 「伝える」では、ギガビットスイッチやルータといった製品群、第3世代携帯電話の基地局といった高速ブロードバンドネットワークインフラ、ユビキタス&モバイルアクセス基盤の整備などへの取り組みがある。

 そして、3つめの「貯める」では、同社が得意とするストレージ製品である「SUNRISEシリーズ」によるソリューション提案がある。

 最後の「守る」という点では、「SecurePlaza」によるセキュアなネットワーク環境の整備がある。セキュリティの体制、運用、基盤整備といった点で、安全で、安定したユビキタスネットワーク環境を構築することができるという。

ユビキタス環境のプラットフォーム
 このように日立が得意とするITソリューションを武器に、ユビキタス環境のプラットフォームに同社の強みを発揮しようというわけだが、これが日立がいうところの、表には出てこない「見えない価値」だというのだ。



■ 大規模投資は果たしてプラスか?

 ただ、グループとしての技術力の優位性、幅広い分野におけるリソースを持つことが日立の強みとはいえ、裏を返せば、過剰投資気味との見方があるのも事実だ。

 例えば、プラズマと液晶の双方に、しかも、大型から小型までのパネルに対して、大規模投資を進めているのは日立だけ。この体制を懸念する声もある。

 また、HDD事業も、IBMからの事業買収以来、今年度第1四半期に黒字転換したことで、通期黒字化に向けてようやく第1歩を踏み出したところだ。

 日立製作所は、中期経営計画である「i.e.HITACHIプランII」で、売上高の2割に当たる不採算事業からの撤退を掲げ、すでに「約10%程度の撤退を進めてきた」(庄山社長)というが、まだその手綱を緩めるのには早いといえる。

 今年2月には、庄山社長自らがコンシューマ戦略本部長に就任するなど、コンシューマ分野のテコ入れに全社をあげて取り組んでいる。社長プロジェクトである「InspireA」の30事業のなかにもデジタル家電関連製品および技術がいくつか含まれている。

 今後の日立のデジタル家電事業を占う上では、中期経営計画で打ち出したリストラを実行する一方で、大規模投資によって得られた日立の強みともいえる部分を、今後もいかに維持できるかが大きな鍵だといえる。

□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040714/hitachi.htm

(2004年9月28日)

[Reported by 大河原克行]


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