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ついにMP3対応したHDDウォークマン
ソニー 「NW-HD3」
発売日:12月10日発売
標準価格:オープンプライス
実売価格:42,000円


■ HDDネットワークウォークマンの挫折?

 ソニー初のHDDネットワークウォークマン「NW-HD1」は、6月の製品発表から「“ウォークマン”のソニーがついにHDDオーディオプレーヤーに本腰を入れた製品」として大きな期待がかけられた。“iPod独占市場にウォークマンがついに乗り込む”的な視点で、経済紙や一般紙でも報道されたのは記憶に新しい。

 しかし、そこから半年近く経った今思い返せば、初期ロットこそは人気は集めたものの、その後アップルがiPod mini、第4世代iPodを相次いで投入したこともあり、市場での存在感はさほど高まらなかった。

 結果としては、iPod miniやiPodが圧倒的なシェアを持つという状況は変わらなかった。また他メーカーへの影響を考えれば、カラーバリエーションを展開したiPod miniに他社も追従。ソニーもHD1の後継製品となる「NW-HD2」ではブルー/ピンクのモデルを投入するなど、外野からはiPod/iPod miniへ実質的に敗北したと映ったことは確か。

NW-HD3。4色のカラーバリエーションが用意される

 製品発表時から、各所で厳しく指摘されていたのは対応オーディオコーデックがATRAC3/ATRAC3plusのみという点。後発メーカーであるにもかかわらず、デファクトスタンダードとなっているMP3に対応しない(転送時の変換という形では対応していたが)という点に疑問の声があがった。

 しかし、新モデルのNW-HD3では、MP3へのネイティブ対応を果たした。さらに、SonicStageもバージョンアップし、リッピングデータの3回までの転送制限を廃止、また、ハードウェア的にも強化され、新たにUSB充電に対応した。

 なお、従来モデルのNW-HD1/2もMP3ネイティブ対応の有償アップデートが開始されている。“最初からそうすればよかったのに……”という気もするが、SonicStageの転送回数制限解除など、周辺状況的にも対応できる素地が整ってきたということなのだろう。



■ NW-HD1/2と共通イメージの外観

同梱品

 付属品は、専用のUSB/ACアダプタ用と、ヘッドフォン、USB/ACアダプタ用変換コネクタ、ACアダプタ、キャリングポーチなど。初代のNW-HD1から比較すると、USBクレードルとリモコンが省かれているが、コストダウンが理由だろう。

 本体は外形寸法90×13.8~14.8×62.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約130gと小型/軽量で、胸ポケットなどにも収まるサイズ。HDD容量は従来モデルと同じく20GB。

 ボディはアルミ製で、工作精度を含め高級感は高い。前面に1.5インチのモノクロ液晶を搭載。液晶右脇に上下/左右ボタン、決定ボタンを備え、上面のMENUボタン、MODEボタン、ボリュームボタンと組み合わせて操作を行なう。基本的なデザインイメージは、NW-HD1/2を踏襲しているが、操作ボタンが大きくなり、プレート部のデザインなどが変更されている。

 下面にはUSB接続と充電に利用する専用のコネクタを装備する。USB充電はNW-HD1/2ではアップデートでも対応できないため、HD3のみの特徴となるが、専用コネクタのためUSB、ACアダプタにかかわらず充電のためには変換アダプタが必要となる。

本体前面。液晶は1.5インチモノクロ。デザインは若干変更されているが、ボタンの操作系などはNW-HD1/2と共通だ 上面にMENUボタン、MODEボタン、ボリュームボタン、ヘッドフォン出力を備える 底面には変換アダプタ接続用のコネクタやHOLDスイッチを装備
右側面にストラップホールを備える USB/ACアダプタ接続用の変換アダプタ 変換アダプタ利用時

第4世代iPodやgigabeat F20との比較



■ 使いやすい操作形はNW-HD1を踏襲

SonicStage Ver.2.3

 本体へのオーディオ転送には、USB接続アダプタが必須となる。パソコン上の転送ソフトはSonicStage Ver.2.3。CDからのリッピングはATRAC3/ATRAC3plusのみだが、他のソフトでリッピングしたMP3をライブラリに登録することができ、NW-HD3などの対応機器にMP3形式のまま転送できるようになった。

 またATRAC3/ATRAC3plusでのリッピングについても、従来のSonicStageでは3回までのチェックイン/アウト制限が掛けられていたが、既報のとおり、2.3では無制限となった。MP3対応のみならず、ATRAC3/ATRAC3plusユーザーにとっても利便性が向上している。

 MP3ファイルについては、[ファイルを追加]でMP3ファイルもライブラリに登録できるのは従来どおりだが、NW-HD3など対応デバイスにMP3ファイルを転送可能となっている。転送時には、OpenMG AudioのDRMを用いたMP3ファイルとして転送するが、従来のようにATRAC3に変換しなくてすむので、転送時間が大幅に高速化されている。ThinkPad X31からの転送時間は1.75GBのMP3ファイル転送時で約6分となかなか高速だ。


マイセレクトアルバム作成機能

 SonicStageにはプレイリスト機能はないが、編集から[新規のマイセレクトアルバム]を選んで、好みの曲順の再生リストを作成し、アルバム登録できる。作成したアルバムは、プレイリストとして管理されず、リッピングあるいはファイル読み込みしたアルバムと同様に管理されるので、判別しにくいのが難点。また、M3Uプレイリストを読み込んで再生リストをアルバム登録する機能も搭載している。

 今回、MP3のネイティブサポートどかなりの改善が行なわれたSonicStageだが、相変わらず起動や動作は、ややもっさりと感じられるので、この点はなんとかして欲しいところだ。


 操作体系は、従来モデルを踏襲しており、液晶脇の丸型の上下/左右、再生/停止ボタンで曲の再生/停止、スキップ/バックなどの基本操作が行なえる。上面のMODEボタンを押すと、Artist/Album/Genre/Group/Otherといった検索モードが現れ、アーティストやアルバム、ジャンルごとの検索が可能となる。

再生画面。画面右下にMP3やATRAC3などのコーデックタイプも表示される

 ここで、液晶脇のボタンで任意の曲やアルバムなどを選択すれば、再生がスタートする。再生画面では丸型ボタンの左右で曲スキップ/バックが行なえ、曲名のほか、アルバム名、アーティスト名、ジャンル名、曲数、再生時間、イコライザモード、ファイルフォーマット、ビットレートなどが確認できる。上下を押すとナビゲーション画面となり、アルバムモードであればアルバム内の曲を表示、さらにここで左を押すと上位の階層に移動。右を押すと下位の階層に移動する。ナビゲーションモードから再生モードに戻るためには、上部のMODEボタンを長押しすればよい。

 シンプルでわかりやすいという意味では、良くできたインターフェイスだ。レスポンスも良く、特に戸惑うことも無いだろう。上下左右操作ボタンもクリック感があり、押しやすいので片手でも操作できる。個人的にはHDDプレーヤーの中ではiPodに次いで良くできたインターフェイスだと思っている。


アーティスト検索画面 アルバム検索画面 ジャンル検索画面

 また、SonicStageで作成したマイセレクトアルバムは、Groupモードから選択して再生できる。ただ、アルバム登録時に他のアルバムに混じって登録されるので、作成したマイセレクトアルバムだけを表示できないのが残念なところ。

 Otherは[New Tracks](新たに転送されたグループに含まれる曲)と、[Bookmark](本体で作成したプレイリスト)をつけた曲を検索/表示するモードとなっている。[New Tracks]は最近の転送分5回のグループを表示する。

 Bookmark機能は本体で再生リストを作成する機能。任意の曲の再生中に、再生モードで上下操作ボタンのいずれかを長押しするとその曲を登録、最大50曲までの再生リストを作成できるというもの。本体のみで簡易的にプレイリストを作成できるが、曲順の変更はできないほか、作成したブックマークをSonicStageに書き戻したり、ブックマークを複数個作成することはできない。

グループ検索画面 Othersでブックマークや新グループ順の検索が可能 Bookmarkで本体で作成した再生リストを聞くことができる

 再生系の機能では、アルバム/アーティスト検索で言えば特に不満は無い。再生リスト順の再生を行なういわゆるプレイリスト機能については、マイセレクトアルバムの作成や管理が、他のオーディオプレーヤーのプレイリスト機能と比べるとややわかりにくいのが難点だ。

 また、そもそもSonicStageにはiTunesやWindows Media Playerのように、再生回数やジャンルなどから動的にプレイリストを作成する機能は無いので、そうした機能を活用したい人にはやや物足なさは残るといえそうだ。

 ただし、プレイリスト再生を除けば、検索性や操作のわかりやすさは間違いなくトップクラス。アルバムやアーティスト検索を中心に利用する人であれば、不満に感じる点はほとんどないだろう。


■ パワフルでクリアな音質。MP3のサウンド設定には制限も

付属のイヤフォン

 付属イヤフォンは、プラスチックの素材感がややチープな印象。しかし、使ってみると、やや低域の不足こそ感じるもののクセもなく音質的には大きな不満は感じない。ただ、イヤーパッドが付属せずにつるつるとすべるため、歩きながらや通勤電車中などでの利用だと外れやすいのが難点といえる。

 ヘッドフォンをShure E2cなどに変更して聞いてみたが、本体の再生性能は高い。中域に独特の勢いがあり、iPodと比較すると骨太な印象。全域を通してクリアした音作りで、中高域の分解能も申し分ない。個人的にはかなり好みの音作りだ。

 音質設定はNW-HD1と同様にバーチャルサラウンド機能や6バンドイコライザを搭載するが、これらはATRAC3/ATRAC3plusでのみ利用可能となっている。バーチャルサラウンドは、Studio/Live/Club/Arenaの4つの音場が、イコライザはHeavy/Pops/Jazz/Uniqueと2つのユーザーモードが選択できる。ただし、MP3再生時にはモードの選択はできるのだが、実際の音楽には反映されない。

Sound設定画面でバーチャルサラウンドやEQ設定が可能だが、MP3では利用できない SoundEQ

Digital Sound Preset

 しかし、低音/高音域をそれぞれ8段階に調節できる「Digital Sound Preset」も搭載しており、こちらはMP3でも適用可能。低域にやや不足を感じたときなどに簡単に音質設定が可能で、2モードのユーザー設定が保存できる。

 ライブ盤などを再生した際に曲間のギャップが開いてしまう問題を解決する、いわゆる「ギャップレス再生」については、「ATRAC系の音源については従来のMDと同様に対応している」とのこと。実際にATRAC3/ATRAC3plusの音源でギャップを感じさせるようなことはほとんどなかった。MP3でもほとんどのアルバムではギャップを意識することがなかったが、アルバムによっては時折曲間で一瞬「プチ」という小さなノイズを感じることがあった。しかし、iPodと比較すると曲間を意識させる条件はかなり少ないといえる。

 バッテリ駆動時間は、カタログ値で30時間(ATRAC3plus 48kbps)/22時間(MP3 128kbps)。128~160kbpsのMP3を中心にMP3を中心に連続再生を行なったところ、カタログ値を若干上回る22時間強の再生が行なえた。

 バッテリ駆動時間については、HDDプレーヤーの中でも最高クラス。充電するもの忘れそうな程の長時間駆動が可能だ。また今回、USB経由の充電にも対応したというのがうれしいところ。

 ただ、本体にはDC入力やUSB端子を装備していないため、付属のコネクタを利用することとなるが、据え置きできるNW-HD1付属のクレードルと異なり、小さくていかにも無くしてしまいそうな頼りなさ。コネクタ管理には気をつけたいところ。

 このコネクタの取り外しが難しい。基本的に両脇のボタンを押しながら奥に一度押し付けて、引っ張ればいいはずなのだが、引き抜こうとすると微妙な引っ掛かりがあり、外しにくい。慣れればうまくいくのかもしれないが、イマイチ使い勝手がよくないように感じた。コスト面で難しいのだとは思うが、できれば、家庭用にクレードル、モバイル用にコネクタといった使い分けを望みたいところだ。


■ 実は最高の液晶リモコン対応プレーヤーかも?

RM-MC40ELKとNW-HD3 RM-MC40ELK(上)とRM-MC35ELK(下)

 リモコンは標準では付属しないが、NW-HD1に付属した縦型の1行表示液晶リモコン「RM-MC35ELK(6,825円)」や、3行表示のジョグダイヤルリモコン「RM-MC40ELK(8,400円)」がオプションで用意される。

 今回はそれらのリモコンも試用してみた。まず、1行表示の「RM-MC35ELK」については、カナ漢字表示に対応。NW-HD1の標準リモコンなので、基本的にNW-HD1と同種の操作が行なえる。

 液晶下部のジョグレバーで再生/一時停止やスキップ/バックなどの基本操作を行ない、レバー左には停止ボタンを備える。レバーの右側にはフォルダ+/-ボタンを装備し、次のアルバムやグループへの移動が行なえる。MENU画面のアーティスト/アルバム/ジャンルなどの切り替えは行なえない。

 また、上面にHOLDボタンや、曲名や再生時間などの表示切替を行なう[DISPLAY]ボタン、シャッフル/リピートなどの再生モードを切り替える[P MODE]ボタン、バーチャルサラウンドなどを選択できる[SOUND]ボタンを備えている。一覧性は低いが、検索メニューの切り替え以外の再生操作はほぼ全て利用できる。

3行表示対応のRM-MC40ELK。前面にジョグダイヤルを装備

 3行表示の「RM-MC40ELK」についても可能な操作は基本的に同じだが、ジョグを押し込むとアーティスト/アルバムなどの検索メニューの変更も可能となっているため、再生操作系のほぼ全てのコントロールが行なえる。

 また、3行表示のため「RM-MC35ELK」より情報量は圧倒的に多い。ジョグダイアルの上下でアルバムを選択し、液晶下部のジョグレバーで再生/一時停止やスキップ/バックなどの基本操作が行なえる。シンプルだが誰にでもわかりやすい構成で、非常に使いやすい。

 全ての操作をリモコンで行なうiAUDIO M3を除けば、ここまで操作できる液晶リモコン対応HDDオーディオプレーヤーは無いだろう。オプション対応となるものの、液晶リモコン派には非常に魅力的な製品といえそうだ。なお、両リモコンとも従来モデルでも利用できる。

HOLDやSOUNDボタンを装備 ジョグレバーで再生系の操作を行なう



■ MP3対応でウォークマンブランド復活へ

 NW-HD1/2についても有償アップデートによるMP3に対応。アップデート対応できるのであれば、最初からMP3対応すればよかったとも思うが、同社でも、MP3対応は「市場の要求が強かったため」としており、NW-HD1を発売するまでは、ここまで要望が強いとは考えていなかった、ということなのだろう。ともあれ、SonicStageの転送制限解除とともに、ユーザーの使い勝手向上という意味で、非常に歓迎できるアップデートであることは間違いない。

 もともと小型/軽量かつ、インターフェイスも洗練されており、基本性能の高かったネットワークHDDウォークマンだけに、MP3対応やUSB充電対応などで他社製品と製品スペック上で大きく劣るポイントはなくなった。小型/軽量や製品の質感など、ソニーの得意とするフィールドで戦える状況が整ったといえるだろう。

 個人的にはSonicStageの動作速度改善と、プレイリスト対応の充実を望みたいところだが、ハードウェアの完成度は相変わらず高く、ソフトウェアとあわせたトータルなソリューションとして、NW-HD1の頃から大幅な改善が見られたことは素直に歓迎したい。

 価格的には実売で42,000円と、iPod(33,800円)やカラー液晶搭載のgigabeat F20(39,800円)などより割高感はあるが、小型/軽量を求めるのであれば、有力な選択肢となるだろ。特にオプションの液晶リモコンを求めるユーザーにとっては他に選択肢が無いぐらい完成度は高い。

 フォト対応やカラー液晶がトレンドとなっているHDDオーディオプレーヤー市場では地味なアップデートかもしれないが、まずはオーディオプレーヤーとしての本分を高めてきた「NW-HD3」は“ウォークマン”の復活を感じさせる製品に仕上がっている。この機能をベースにした新製品の登場にも期待が持てそうだ。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200411/11-1130/
□製品情報
http://www.walkman.sony.co.jp/hdd_nwwm/
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040701/sony1.htm
【9月30日】ソニー、ネットワークウォークマンのMP3サポートを検討
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040930/sony.htm

(2004年12月3日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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