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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第192回:サイズも機能も凝縮されたDVカメラ「DCR-PC55」
~ この割り切りが次世代エントリーモデル ~


■ デファクトスタンダードの集大成?

 今年のCES2005は年明け6日からスタートということもあって、同時に国内メーカーは今年最初の新製品発表会という意味合いとなった。特に映像機器は日本と米国が同じNTSCであるため、ここで発表されるモデルが日本でもほぼ同時期にリリースされるケースが多い。

 ビデオカメラもその例外ではなく、毎年CESには大量の新モデルを投入してくるソニーの動向が気になっている人も多いだろう。すでに日本では、3CMOSの「DCR-PC1000」や、DVDカムの最上位モデル「DCR-DVD403」などが発表されたが、今回はぐぐっとエントリークラスにシフトして「DCR-PC55」(以下PC55)を取り上げる。

 DVカメラにおける世界最小化合戦は、行き着くところまで行った結果「あんまり小さいのも撮りにくい」という結果となり、以前ほどチャンピオンベルト的な意味合いは持たなくなった。だがPC55は仮に世界最小の冠がなかったとしても、そのスタイルと価格で十分にインパクトのあるビデオカメラだ。

 ビデオカメラ市場で半数近くのシェアを持つソニーのハンディカムは、必然的に「ビデオカメラとはこういうもんだ」というデファクトスタンダードを作り上げてきたシリーズでもある。今年のラインナップでもっとも売れ筋と目されるPC55の作りは、まさにその部分が凝縮されたモデルとなっている。

 では早速その実力をテストしてみよう。


■ 質の高いボディ

 PC55は、CESでは4色のカラーバリエーションと発表されたが、国内ではシルバーとブラックの2色。今回お借りしたのはブラックだが、表面には赤や緑の粒子を散りばめたパール地の塗装が施されており、全体としては黒というよりも濃紺に見える。

 一応世界最小ということにも触れざるを得ないわけだが、さすがにテープフォーマットまで新しく起こしたMicroMVカメラとは違って、ああ言われてみればDVカメラでは一番小さいかも、というぐらいのサイズ感だ。従来のPCシリーズは縦の寸法をどんどん短くしていったために、もう指3本ぐらいでしか持てなくなってしまって閉口したものだが、今回のPC55は縦方向に余裕があり、手の中に綺麗に収まる。

大きく張り出した液晶モニタがポイント ホールド感もかなり自然

 全体のフォルムで特徴的なのは、やはり本体サイズと比較して大型の3インチ液晶モニタを搭載していることだろう。これにより、縦型モデルながら十分な視認性を確保しているのは大きい。ただし見た目は少し大仰に見える。なんだかユーザーの欲望をストレートに具現化したようなスタイルだ。

 前面からの見た目も、左側の膨らみ部がホールドした手の中に入ってしまうことでボディがスリムに見えるような、二段構造になっている。このあたりのデザイン処理の上手さはさすがだ。

左側の膨らみ部の素材を変え、段差を付けることで目立たなくしている よく見るとレンズのセンターがやや左よりになっている

 レンズは35mm換算でワイド端44mm、テレ端440mmの光学10倍ズーム。もちろんツァイスのVario-Tessarである。電源OFF時やビデオ再生時には、自動でレンズカバーが閉まるようになっている。よく見ると、鏡筒部のセンターとレンズのセンターが若干ズレており、このあたりからもかなりキツい実装であることが伝わってくる。

撮影モードと焦点距離(35mm換算)
モード ワイド端 テレ端
4:3
44mm

440mm
16:9

静止画
44mm

440mm
 CCDは総画素数約68万画素、1/6インチの1CCDで、いわゆるメガピクセル機ではない。動画も静止画も、撮影時の有効画素数は約34万画素で、手ぶれ補正の有無や4:3/16:9モードの違いで横方向の画角は変わらない。静止画もVGAサイズが上限である。静止画用のフラッシュを搭載していないのも割り切りだろう。フィルタは資料がないが、色調から見て、おそらく補色系ではないかと思われる。

 本体右側のほぼ全面を占める液晶モニタは、透過型と反射型両方として使えるハイブリッド仕様。画素数は560×220ドットで、最近の液晶パネルとしては少なめ。メニュー類はお馴染みのタッチスクリーンで、モニタのフレーム下に操作ボタンをいくつか設けている。その代わりボディ側には操作ボタン類を排除して、非常にシンプルな印象を持たせている。

大型液晶モニタの下部に操作ボタンがある 小さな足のおかげで、モニタを開いても自立できる

 本体下部にほんのちょっとだけ出ているパーツは、どうやら「足」のようだ。本機はモニタが大きいので、この足がないと、モニタを開いた状態では倒れてしまうのだろう。ほんの数㎜の小さい工夫だが、よく考えられている。

 本体後部は、電源/モード切替のスライトスイッチとスタートボタン、ズームレバーがある。またメモリースティックデュオスロットもある。

 テープドライブ部は、背面開き。従来のPCシリーズは底面が開くものが多かったが、これなら三脚使用時にもテープ交換が可能だ。その代わりと言ってはナンだが、今度は三脚使用時にバッテリが交換できなくなった。バッテリはなんとこのフタに底面から格納するようになっているのだ。

背面は最低限のボタン類だけでシンプル ドライブ部は背面から開く バッテリはフタ部分に挿入する

 スロットインのため、別途大型バッテリを装着できるわけでもない。液晶モニタのバックライト使用時で実働55分、バックライトOFFで65分と、バッテリサイズの割には持つほうだとは思うが、実働時間から見てもテープ交換よりバッテリ交換のほうが頻度が高い。もっともこのクラスのカメラはハンディで撮るべし、という事なのかもしれないが……。

 このサイズに似合わず、上部にはアクセサリーシューを備えている。外部マイクやフラッシュなどの電源供給も行なえるタイプだ。AV端子は特殊コネクタで小さくまとめられている。DC INもあるが、本機にはクレードルも付いているので、普通はそちらを使うことになるだろう。クレードル用の端子はバッテリ上部にある。

このサイズでアクセサリーシューまで備える 本体だけで充電やAV出力が可能 左前方にクレードル用接続端子がある

 クレードルは、本体を立たせるのではなく、寝かせて乗せるようになっている。また適度な傾斜がつけられており、モニタをひっくり返せばビューワとして見やすい角度に収まる。クレードル背面にはi.LINK、USB、DV、DC IN、AV端子がある。i.LINKや、USB端子は本体にはなく、クレードルのみだ。

アクリルの多様で清潔感のあるクレードル 装着すると本体に角度が付き、モニタが見やすくなる



■ フルオートを基本にした作り

 では実際に撮影してみよう。いざ構えてみると、若干角張った感じはあるものの、ホールド感は至って普通だ。必要最小限の操作は右手だけで可能だが、やはり安全のためにリストバンドはしておいたほうがいい。

 モニターの大きさが十分なので、それほど小さいカメラを持っているという意識はない。だがモニターの画素数が少なく、細かいドットがわかってしまうのは残念だ。またモニターの発色も、タッチスクリーンのせいもあってあまりパッとしない。実際に撮れている絵はそれほど精彩を欠くわけではないのだが、撮っているときの満足感があまりなく、「だいじょうぶかこれで?」という不安感がある。

ビデオの発色はやや大人しめ
解像感もそれほど高くない

動画サンプル
映像的は、色調がやや淡泊であっさりしたソニー流だ
sample.mpg(約39.8MB)
 今回はビューファインダを搭載しないこともあって、液晶モニターの開閉でスタンバイや復帰といった機能があっても良かっただろう。液晶を閉じればモニタは消えるが、本体電源が入りっぱなしなのはもったいないような気がする。

 もともと細かい設定はなく、多少調整するならば「スポット測光」と「スポットフォーカス」ぐらいだろう。これらはユーザーが自由に配列できる「パーソナルメニュー」に仕込んでおけば、すぐに呼び出すことができる。ただこれらの機能は、オート以外のプログラムAEを選択すると使えなくなってしまう。なぜそんな制限があるのかわからないが、結果的に一番自由が利くのがフルオートというのは、本末転倒のような気がする。

 太陽入れ込みではさすがにスミアは出るが、レンズのコーティングでうまく散らしているので、それほど強烈には出ない。フレアはかなりワザと狙って撮ればそれなりに出るが、レンズの前玉が多少フレームから引っ込んでいることもあって、通常の使用ではあまり気にせず撮れるだろう。このあたりは不自由しないように、うまくまとめている印象だ。

よく使う機能を自由に配列できる「パーソナルメニュー」 フレアやスミアは、一般的な使い方ではあまり気にならないだろう

 ズームレバーは親指で操作することになるが、ストロークが短くレバーが柔らかいので、さほどコントロールは難しくない。ただ筆者の感覚としては、上がワイド、下がテレという方向に戸惑いを感じる。設定で動きを逆にできると、より良かった。

 VGAサイズではあるが、一応静止画も撮影してみた。ちゃんとコントラストも静止画なりの処理になっているが、暗部のS/Nはあまり良くない。

静止画なりの色処理が行なわれているようだ
コントラストは高めだが、VGAサイズなのが残念

本体だけで静止画を楽しむ機能を装備

 静止画で面白いのは、本体でスライドショーとしての再生機能があるところだろうか。4つのモードがあり、それぞれに違った雰囲気でスライドショーが楽しめる。「ファンシー」などは、適度にズームやパンをしながら、花のアニメーションがオーバーレイされるといったことまでやってのける。

 基本的に印刷してどうこうというよりも、みんなで楽しく見たらそれで終わりという、刹那的というか大量画像消費時代的スタイルなのだろう。そう言う意味ではやはり、「写真」ではなく、「静止画」なのである。


■ 付属ソフトで気軽に遊べる

ランチャを兼ねるPicturePackage Menu

 今やほとんどのビデオカメラには、レベルの差はあるものの、何らかの画像編集ソフトが付属するようになった。PC55に付属するのは、「Picture Packege 1.5」というソフトウェアのセットだ。最初に起動するPicturePackage Menuがランチャーになっており、6つの機能にアクセスできるようになっている。

 またこれらとは別に、USBのストリーミングモードでビデオカメラの映像を取り込みながらビデオCDを作成する、VCD Makerという常駐ソフトもある。作成開始をビデオカメラ側で制御できるので、PCが苦手な人でもなんとかなるだろう。

ソフトウェア 機能
ImageMixer
ピクセラ製のソフトで、メニュー付きのビデオCDを作成
MyPage カスタマーサービスサイトへのリンク
ImageStation オンラインプリントサービス「イメージステーション」へのリンク
PicturePackage Viewer
静止画・動画のビューワー
PicturePackage CDBackup 静止画・動画をCD-Rにバックアップ
PicturePackage Producer 静止画・写真から自動編集してビデオCDを作る

自動的に映像を編集して作品にしてくれるPicturePackage Producer

 リンクは別として、ImageMixer以外はすべてソニー製のソフトで、共通のGUIデザインとなっている。DVD系のソリューションはない代わりに、執拗なまでにビデオCDにこだわったソフトウェア構成だ。ソフトウェアがワールドワイド共通仕様ということもあって、確実に作成できるビデオCDを選択しているという面もあるだろう。

 この中では、PicturePackage Producerは興味深い。任意の動画や静止画を選んだのちスタイルを選択すると、自動的にビデオクリップを作成して、ビデオCDを作成してくれる。

 これはおそらく、過去にバイオにバンドルされ、一時期市販もされた「Movie Shaker」と同じエンジンではないだろうか。何もしなくても、なんだかそこそこ見栄えのする映像を作ってくれるという機能は、今だからこそ受けるソフトなのかもしれない。



■ 総論

 PC55には大幅な改革ポイントは少ないが、従来のビデオカメラからいろんなところをバランス良く削った結果生まれたモデルのように思える。店頭での引きがかなりいいモデルとなることだろう。初めてビデオカメラを買う層に対しての、ソニーなりの回答だと言えるかもしれない。

 映像的には、色調がやや淡泊であっさりしたソニー流。モニターの解像度が低いことと相まって、撮ってるときの手応えがあまり感じられないが、ここはコストダウンの対象でもあるだろう。レンズやCCDは枯れたレベルのものを採用して、うまくまとめている。

 市場予想価格は85,000円前後と安いが、ボディのしっかりした作りと丁寧な塗装で、モノとしての質感は高い。ただ先週のキヤノン「FV M30」が、ルックスは平凡ながら1.5万円違いであの絵であることを考えると、男性に購入決定権があるファミリー層はM30、独身女性が旅行用に買うのがPC55といった流れなのかなぁと、勝手に想像してしまう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200502/05-0208/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/DCR-PC55/index.html
□関連記事
【2月8日】ソニー、世界最小・最軽量のDVカメラ「DCR-PC55」
-重量290gの小型ボディに3型液晶を搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050208/sony.htm
【1月6日】【CES】【EZ】松下とソニー、同日にプレスカンファレンスを開催
~ DVD+R対応「DIGA」や3CMOS採用DVカメラなど ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050106/zooma184.htm

(2005年2月9日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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