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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第191回:10万円レンジの意欲作「キヤノン FV M30」
~ 原色フィルタ+光学手ブレ補正の売れ筋モデル ~


■ DVカメラはもう10万円以下

 動画撮影という意味でのビデオカメラは、今や様々なバリエーションが選べるようになってきている。下を見ればデジカメでも動画に強いモデルもあるし、メモリやHDD、DVDに記録するビデオカメラも出てきた。その中でDVカメラは、今やレガシーなビデオカメラになりつつあると言えるだろう。

 価格にしても、よほど画質に関してこだわりを持った人でなければ、もはやDVカメラは10万円以上出して買うものではないという意識が広がり始めている。2~3年前ならば、各社とも売れ筋モデルを12~3万円に設定してきたわけだが、ここに来て低価格化と差別化の両立が難しくなってきているようだ。

 そんな中、キヤノンのDVカメラ春モデルは、上位モデルに「FV M30」、中級機に「FV M200」、エントリーモデルに「FV500」と3ラインナップを投入する。今回取り上げる上位モデルのFV M30は、店頭予想価格は10万円前後で、売れ筋モデルとしてはギリギリのラインだ。

 株式会社BCNの調査による「BCN AWARD 2005」では、キヤノンがビデオカメラ部門でついにパナソニックを逆転し、ソニーに次ぐ2位を獲得した。もっとも舞台裏の事情を話せば、BCNがビデオカメラの調査を開始したのが昨年の9月末頃からなので、今回のランキングは第4クオーターのみの集計となる。だがそれでも、キヤノンがもはや「へービデオカメラも作ってんだー」というスタンスでは語れないメーカーとなってきたことは間違いないだろう。

 ではさっそく、キヤノン最新鋭モデルFV M30(以下M30)を実力を検証してみよう。


■ 形はオーソドックス

 M30は、昨年6月に発売されたFV M20の後継機となる。M20は同時期に発売された縦型機IXY DV M3の陰に隠れた存在であったが、機能と値頃感からかなり売れたようだ。M30のフォルムはM20から大きくは変わっていないが、グリップ側のボディの膨らみが少なくなり、約10%小型軽量化されている。

 そしてこのサイズに、今回は光学式手ぶれ補正を搭載している。ハイエンドならともかく、普及価格帯の小型モデルに光学式手ぶれ補正搭載は、業界的にもインパクトがあるだろう。以前からキヤノンのDVカメラは、ワイドモード撮影時に電子式手ぶれ補正をOFFにすることで「高解像度ワイドモード」になったわけだが、今回は最初から高解像度ワイドモードしかないため、使い方もシンプルになった。事実上ワイド撮影機能強化策としても機能している。

 では順に見ていこう。まず光学部だが、テープ記録時の画角は、4:3のときが35mm換算で約47.8mm~669mm、16:9のときが40.9mm~573mm。カード記録時は35mm換算で約37.6mm~526mmとなる。光学ズームは14倍。

前モデルよりやや小型化された レンズは若干ワイド寄りにシフトした

撮影モードと焦点距離(35mm判換算)
モード ワイド端 テレ端
4:3
47.8mm

669mm
16:9
40.9mm

573mm
静止画
37.6mm

526mm

前面にはS端子とUSB端子のみ

 CCDは1/3.4インチの1CCDで、原色フィルタを採用している。総画素数は約220万、テープ記録時はワイドモードで約150万画素、ノーマルモードで約123万画素を使用。カード撮影時は約200万画素で、最大1,632×1,224ピクセルの静止画が撮影できる。

 前面には静止画撮影用のフラッシュと、白色LEDのビデオライトがある。S端子とUSB端子も前面で、DVやAV端子は左前面にある。

 本体右サイドには、新たに「FUNC.(ファンクション)」ボタンが設けられた。これは撮影時に変更可能なパラメータをまとめたもので、ホワイトバランスや画質効果の切り替えなどがここに集約された。画質効果も新たに取り入れられた機能で、くっきりカラーやすっきりカラー、美肌といったカラーや質感に関する設定だ。これもあとで試してみよう。

流れるラインが綺麗な側面デザイン 新たに設けられたファンクションボタン ファンクションボタンから画質効果が選択できる

 液晶モニタは、今回新たに白色LEDをバックライトに使用して、従来比で1.7倍の明るさとなった。また新たに「液晶バックライト」ボタンが設けられ、明るさを2段階に切り替えることができるようになった。液晶表面には反射を押さえるコーティングも施され、認識性がアップしている。

液晶バックライトボタンでさらに輝度アップできる モードダイヤルも新たに装備

 本体で特徴的なのが、モードダイヤルの装備だ。以前からXL2のようなハイエンド、あるいはFV M1のような上位モデルでは撮影シーンモードを切り替えるダイヤルを装備してきたが、普及モデルへは初搭載となる。今回はダイヤル上に汎用性の高い9モードを配置し、それに加えてスペシャルシーンモードが1つある。このスペシャルシーンモードは、6つの撮影モードが割り付けられるため、合計で以下の15種類のシーンモードがある。

ダイヤル上のモード 機能
Av 絞り優先
Tv シャッタースピード優先
P プログラムAE
AUTO フルオート
ポートレート 人物撮影用
風景 遠景シーン用
スポーツ 高シャッタースピード
スローシャッター 低シャッタースピード
ナイト 夜間撮影用
スペシャルシーンモード
新緑/紅葉 緑や花を鮮やかに
打ち上げ花火 花火を適切な露出で
ビーチ 海面や砂浜の反射を押さえる
スノー 雪が背景で被写体を明るく
夕焼け 夕焼けを印象的に
スポットライト スポットライトの白飛びを押さえる

新しいRECボタンとライトボタンに注目。角にはDC INがある

 デジカメなどではシーンモードはお馴染みだが、ビデオカメラでこれだけのシーンモードを備えるものはない。特に夕焼けとスポットライトは、同社のデジカメにもないモードだ。またこれらのモードは、動画だけでなく静止画撮影時にも機能する。

 さらにこれらのシーンモードは、画像処理のアルゴリズムを含めて設定されているため、その可変幅はマニュアルセッティングで可能な領域を超えるという。

 背面での変更点は、ビデオのスタートボタンが細長く出っ張っていて、押しやすくなった。本体をスリム化したため、従来サイズの丸いボタンが配置できないという理由もあるだろうが、実用上は問題ない。ただ、色は初心者用に赤くしても良かったかもしれない。

 同じく背面には、「ライト」ボタンが付いた。従来はナイトモードで自動点灯するだけだったビデオライトを、マニュアルでも点灯できる。屋外から暗い屋内に撮影しながら入っていった時など、自分の判断で点けられるのは便利だ。また暗い中で、ちょっと明かりが欲しいときなどにも便利だろう。ただこのライトはLEDだと思って嘗めてると相当に明るいので、近距離で直視しないように注意したい。


■ 積極的な絵作りが楽しめる

 では実際に撮影してみよう。今回のポイントは、やはりスペシャルシーンモードがどれぐらいのものなのか、という点だ。とはいってもこの時期、花火大会があるわけでもなし海に行っても寒いだけなので、まず新緑/紅葉モードをテストしてみた。

 同じシーンで撮り比べてみたところ、絞り優先などの一般モードに比べて、コントラストとクロマ、シャープネスが高めに設定されているようだ。またこのモードでは、空の青さが気持ちよく撮れる。そのあたりの爽快感も狙ってパラメータを作り込んでいるようだ。冬枯れのこの時期、被写体がイマイチなので細かい部分までの効果が判然としないが、新緑の季節が楽しみである。

プログラムAEモードで撮影

新緑/紅葉モードで撮影

爽快感のある空が撮れる

 光学ズームが14倍なのが気になったが、実際に撮影してみるとあまり不自由は感じなかった。ワイドモードではあまり寄りすぎると縦が切れてしまうので、構図として大アップを撮りにくいということで救われている。

 構図決めに関しては、今回ポーズ時のズームスピードが従来機の2倍になったため、非常にスムーズに決められるようになった。またキヤノンのビデオカメラの弱点であったオートフォーカスの追従性が良くなって、軽快に撮影できるようになった。

フレアやスミアはかなり出やすい 深度表現も可能だが、被写体によっては菱形フィルタの弊害も出る

 ワイド撮影の細かい改良点としては、全部おまかせのAUTOモードでも、ワイドモードが解除されなくなった。従来モデルでは、ワイドモードに設定していてもフルオートにすると強制的に4:3に戻されていたのである。

 もう一つ、夕焼けモードも試してみた。ノーマル系のモードに比べると、中間値のあたりもかなり暖色を拾っているのがわかる。ただしビデオモードではスミアの影響をまともに食らうので、夕日入れ込みでの夕景が撮りにくい。静止画ではだいじょうぶなのだが、わざわざモードを搭載した割にはCCDの性能が付いてこないというのは残念だ。

プログラムAEモードで撮影

夕焼けモードで撮影。太陽入れ込みだとスミアが厳しいため、日没後数分間が勝負となる

 では今回新たに搭載された、ファンクションボタンの画質効果を試してみよう。プリセットされているのは、くっきりカラー、すっきりカラー、ソフト、美肌の4つにカスタム設定1つ。カスタム設定では、明るさ、コントラスト、シャープネス、色の濃さが設定できる。ただ設定できるとは言っても、プラス方向に1つ、マイナス方向に1つしか動かないので、さほど細かい設定ができるというわけではない。

 美肌モードは本来人肌で試すべきだが、一応比較のためにカラーチャートで撮ってみた。カスタム設定は、それぞれのパラメータを全部プラスにしたものと全部マイナスにしたものを試してみた。これで可変範囲を想像して貰えればいいかと思う。

モード カラーチャート
OFF
くっきりカラー
すっきりカラー
ソフト
美肌
カスタム最強
カスタム最弱

動画サンプル
動画サンプル。TMPGEnc3.0 Xpressにて5Mbps VBRでMPEG-2エンコード
sample.mpg(約39.3MB)
 ただこのファンクションボタン、実際に撮影するとなると、ボタンが液晶モニタのヒンジのむこうがわにあるので、非常に押し辛い。特に液晶モニタは、直角よりも少し上向きに倒すことが多いため、余計ボタンが押しにくくなる。また選択レバーも出っ張りが少なく、押し込んでSETする動作がやりにくい。

 さらに効果を選んでRECボタンを押しても、メニューが引っ込むだけで録画が開始されない。FUNC.ボタンをもう一度押してメニューを完全に閉じるか、最初のRECボタン押しでメニューを閉じたあと、もう一度RECボタンを押す必要があるのだ。効果は高いとは思うのだが、操作が面倒でなかなか使う気になれないのは残念だ。

 さらにシーンモードとの兼ね合いも考えていくと、限りない組み合わせが発生してしまう。このクラスのミニカメラを買うユーザーには、オーバースペックかもしれない。


■ デジカメライクな静止画機能

 M30の静止画は、14倍光学ズームに光学式手ぶれ補正、さらにシーンモードや画質設定がそのまま使えることもあって、非常に強力なものになっている。解像度が2Mピクセル止まりなのが惜しいが、解像感や色表現などはデジカメに匹敵する。

光学14倍で水滴までわかる解像感は強力 細かい毛並みの描写もすごい 水面のシズル感もなかなかいい

 ピント合わせに関しては、同社のデジカメで採用されている9点AiAFを採用した。DVカメラの静止画機能で9点AiAF搭載は世界初。また測光モードも、評価測光、中央重点平均測光、スポット測光の3つが選べるなど、かなりデジカメライクだ。

測光タイプも3種類から選べる 静止画でもシーンモードが使える。左がプログラムAE、右が新緑/紅葉モード

 さらにここでもマニュアルでビデオライトを付けることができる。暗闇でフラッシュ撮影をする際にも、あらかじめビデオライトを点けて構図をしっかり決めることができるのは、デジカメにはないアドバンテージだ。

 撮っていてまどろっこしく思ったのは、静止画確認時間が2秒以下に設定できないことだ。デジカメでは1秒に設定できるものも多いので、そのタイミングでいると2秒の確認画面が長く感じる。

 今後の課題は、テープと静止画の切り替えスイッチだろう。すでにテープに静止画を記録するという機能は使われなくなって久しい。またメモリに撮る動画も用途が明確でないため、使い出がある機能とは言えない。いっそのことモードレスにRECボタンでテープ記録、シャッターを押せばメモリに静止画記録ができれば良いと思うのだが。

 実際にはこの切り替えスイッチで、DIGIC DVのアルゴリズムを動画用と静止画用に変更しているという都合もあるようだ。だがビデオカメラは大局的に、動画と静止画のモードレス撮影に移行しつつある。すでに昨年、パナソニックのGS400Kでは、動画とフルサイズの静止画同時記録を実現しているという実績もある。

 いろいろ厳しい事情はあるだろうが、このスイッチの撤廃が普及クラスの今後の課題ではないかと思う。



■ 総論

 「記憶色」という方向性での絵作りは、イメージングデバイスにとっては今や当たり前のキーワードになりつつある。もっともこういう作り込みが、映像をクリエイトするカメラ側の責任において発揮されるのは構わないが、最近はテレビモニタも同じようなことを言い始めて、いやそれは違うだろと思うこの頃である。

 以前からキヤノンのビデオカメラもこの記憶色にこだわり続けてきたわけだが、今回のシーンモードや画質効果の搭載によって、もうちょっと踏み込んだ形になってきた。以前は「記憶色で撮れちゃう」カメラだったのが、「こうだったらいいな色に撮る」カメラに変わってきたのかなという印象を受けた。

 これだけの機能を積んで10万円程度とは、すでに2台目3台目の買い換え経験者にとっても、お買い得感は高い。機能の使いこなしまで考えると、かなり長く遊べるカメラだ。

 だがどうも感じとしては、このクラスのミニカメラにしては機能を積み過ぎのような印象も受ける。あるいはこのエンジンを積んで光学系の性能を上げた上位モデルの登場が近いうちにあるのでは、と勘ぐってしまうのだが、どうだろうか。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2005-01/pr-fvm30.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/dv/lineup/fvm30kit/index.html
□関連記事
【1月25日】キヤノン、光学式手ぶれ補正搭載DVカメラ「FV M30」
-15種類の撮影モード、新開発14倍ズームレンズ搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050125/canon1.htm

(2005年2月2日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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