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第162回:アイザック・アシモフを原典としたSFアクション大作
ロボット3原則は人間を守れるか?「アイ、ロボット」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ あのアシモフ作品が映画化された!?
アイ、ロボット <2枚組特別編>

価格:4,179円
発売日:2004年2月4日
品番:FXBE-24232
仕様:片面2層2枚
収録時間:本編約115分
       特典約3時間40分
画面サイズ:シネマスコープサイズ(スクイーズ)
音声:1.英語(DTS)
    2.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    3.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:20世紀フォックス
    ホームエンターテイメント ジャパン株式会社

 好きな作家は誰かと問われれば、確実にBest5に入るのが故 アイザック・アシモフ。SF界の巨匠の一人であり、最近だと「トリビアの泉」で知った人も多いかもしれない。

 アシモフは小説家としては、'39年に短編「真空漂流」がSF雑誌に掲載されデビュー。小説家として以外にも、'48年に生物学の博士号を取得し、ボストン医科大学の微生物学教授に就任。研究者としても活躍していたため科学分野の評論や論文も多数発表しているほか、神話学や地理学、言語学などの分野での著作も数多い。

 非常に多作な作家であるため、もちろんすべての著作を読んでいるわけではないが、小学生から中学生にかけて古本屋で見かけるたびに購入していたので、「われはロボット」(わたしはロボット)から、「鋼鉄都市」、「銀河帝国興亡史ファウンデーション」シリーズ、「はだかの太陽」(これを読んだのは大学生の時だが)などなど、数十冊は読んでいる。理詰めで進んでいくストーリーに、SF好きの少年は心を躍らせていた。

 そして2004年。「アイ、ロボット」という映画が紹介され、タイトルとアシモフの作品を元にしたという宣伝を見て期待が高まった。しかし、アシモフのどの作品が“原作”かの表記がない。タイトルからすると、「われはロボット」だろうか? 殺人を犯したロボットを捜査するというストーリーからすると、個人的にアシモフ作品の中で最も好きな「鋼鉄都市」(と、その続編のはだかの太陽)だろうか?

 宣伝文には「『われはロボット』にインスパイアされて誕生した」とあるのに不安を持ったが、実際にDVDを観てみて、アシモフ作品とは直接関係ないことがよくわかった……。

 日本では2004年9月に劇場公開され、「劇場初登場から5週連続No.1ヒット。秋興行としてはダントツのNo.1ヒットを記録」(20世紀フォックス)したという。タイミングを逃して劇場で見ることはできなかったが、劇場公開から5カ月後に、DVDが発売された。

“サニー”ヘッド付コレクターズBOX

 DVDは本編ディスクのみの「通常版」(品番:FXBA-24232、2,940円)と、特典ディスクを加えた「2枚組み特別編」(品番:FXBA-24232、4,179円)に加え、劇中に登場する「サニー」の頭部フィギュアを同梱した「“サニー”ヘッド付コレクターズBOX」(品番:FXBF-24232、18,900円)の3種類をラインナップ。なお、“サニー”ヘッド付のみ発売日が1カ月遅い3月4日となっている。

 最新技術を使った大作ということもあり、やはり特典ディスクの内容が気になるところ。“サニー”ヘッドも面白いとは思うのだが、さすがにの置き場所には困る。ヘッドフォンスタンドや、ヘルメットスタンドに使うという人もいるようだが……。

 結局「2枚組み特別編」を購入。ケースはAmary Doubleで、素材が透明なのでパッケージイラスト裏面に描かれたイラストを見ることができる仕様となっていた。


■ 元々はオリジナル脚本

 今からわずか30年後の近未来。2035年のシカゴでは、家庭用ロボットが人間のサポート役として普及し、日常生活に欠かせない存在となっていた。さらに新世代ロボットが登場し、新たなロボット社会の夜明けを迎えようとする直前、そのロボットの生みの親であり、ロボット工学の権威、アルフレッド・ラニング博士(ジェームズ・クロムウェル)が謎の死を遂げる。

 ロボットを毛嫌いするトラウマを抱えたシカゴ市警の刑事デル・スプーナー(ウィル・スミス)は、最新のNS-5型ロボットで人間に近い感情を持つ、サニー(アラン・テュディック)に疑いの目を向ける。ロボット心理学者スーザン・カルヴィン博士(ブリジット・モイナハン)の協力により事件の謎を追うが、スーザン・カルヴィン博士はロボット三原則により、ロボットは絶対に人間に危害を加えられないと主張する。

 しかし、そこには人類の存亡がかかった巨大な計画が潜んでいた。スプーナー刑事、スーザン・カルヴィン博士、サニーは驚愕の真相に迫っていく……。

 アシモフと編集者のキャンベルが考え出した「ロボット三原則」はあまりに有名だ、他の作家の多くの作品に取り入れられているほか、実際のロボット研究でもこの概念が語られることもある。そのため、アシモフの小説を読んだことがなくても、「ロボット三原則」を知っている人も多いだろう。

 しかしアシモフの小説を読んだことがない人だと、この三原則は絶対のもので、これさえあれば人間はロボットから安全だと思っているかもしれない。実はアシモフのロボット小説は、ロボットが知性を高めれば高めるほど、さらに人間とその感情が不確定であることにより、この三原則に矛盾が発生するということを主題に据えているものが多い。

 その矛盾がなぜ生じるのかと、それによりどうなるのかがアシモフのロボット小説の醍醐味となっている。この映画でもその点を突いているのだが、期待したような「鋼鉄都市」のようなストーリーではなく、良くも悪くもハリウッドのSFアクション映画に収まっている。

 たとえば三原則が矛盾するポイントや、陰謀の黒幕、結末など類型的で意外性はほとんどない。特に推理しなくても、予想通りの結論になる。SFやミステリー好きだと、逆に「こんな簡単なことはないだろう」と思って、外してしまいそうだ。しかし、それが決して悪いわけでなく、SFの知識がなくても、ストーリーに置いていかれる心配もなく安心して観ていられる。その意味では、まさにハリウッド映画といえる。

 この映画の構想は、10年ほど前に脚本・原案のジェフ・ヴィンターが、売り込み用に書き上げた「ハードワイアード」と題した、ロボットが容疑者となる殺人事件を描いた脚本から始まる。この脚本を、ローレンス・マークがプロデューサとなって企画を進め、映画化権を獲得した20世紀フォックスが、アレックス・プロヤスを監督に迎えて、企画を練りあげていったという。

 その一方で、デイヴィス・エンタテインメント・カンパニーが、アイザック・アシモフの「われはロボット」の映画化権を取得。プロヤス監督は、アシモフ作品の要素を追加して、映画の全体像を構想し直した。つまり、元々はオリジナル脚本であり、アシモフのどの作品にも似ていないのは当然といえば当然。

 プロヤス監督自信は「10歳くらいのころ、SFをたくさん読んでいて、アシモフはたっぷり楽しませてくれた作家の1人だった。映画化したらすごくカッコいいとずっと考えていた数少ない本の1冊が『われはロボット』。いつかは映画化することを夢みていた」という。

 「われはロボット」の映画化権を取得したことで、ヴィンターのオリジナル脚本に、アシモフのアイディアやスーザン・カルヴィン博士、アルフレッド・ラニング博士といった主要人物が織り込まれていることになった。アシモフファンであれば、スーザン・カルヴィン博士が登場してきたところで、ニヤリとさせられるが、小説の中での人物像とはかなり違うのは、仕方のないとこだろうか。

 スプーナー刑事と並ぶ、主役の一人サニーを含めたNS-5型は、体が透明、筋肉組織を持ち、人間に似た形をし、顔が完璧に左右対象という特徴を持っている。ロボットについては、ほぼCGアクターとなっている。映画に登場する未来のシカゴには、プロヤス監督のビジュアル・スタイルとして緑の樹木が存在しない。ロケ撮影の際、植木職人をスタッフに雇い、カメラのフレームから茂みや樹木を排除したという。

 舞台設定がか30年後と遠い未来でないため、街並みやファッションは現在とあまり変わらない中を、数多くのロボットが溶け込んでいるという世界観が目を引く。また、この映画で特徴的な交通システムは、都心はすべて地下道路網になっており、地表から地下トンネル道へと潜りこみ、地下駐車場に車をとめることになる。登場する車はすべて、映画用に設計・製造されたもので、アウディとの共同作業によって作られている。この映画のカー・デザイナーのジェフ・ジュリアンは、数回ドイツに渡り、アウディが実際に発売予定の新型モデルの試作品を基にスプーナー刑事用の車を作りあげている。さらにアウディは、数種類の既存のモデルも提供し、映画用に改造されたという。


■ 彩度の高い高画質、迫力のあるDTS

 DVD Bit Rate Viewerで見たビットレートは7.67Mbps。このDVDで特徴的なのはチャプタ数で、本編115分と一般的な長さにもかかわらず39個も設定されている。この辺りの仕様は、製作者側のこだわりなのだろう。

 画質は全体的にコントラストがきつめで、鮮やかな画質。ノイズも少なく、彩度も高いので、一見して高画質と感じる。その反面、奥行きがあまり感じられず、CGの背景と人物やロボットとの合成の立体感に違和感があるシーンもある。そういった細かい部分も高画質なため、余計に目立ってしまう。

 本編の音声のビットレートは、英語のドルビーデジタル5.1chが448kbps、DTSが768kbps、日本語のドルビーデジタル5.1chが384kbpsで収録している。DTSとドルビーデジタル5.1chを聞き比べると、DTSの方が音に厚みがあり、特に低音がより重厚になっている。さらに、音の包囲間も高いため、全体的な迫力が増している。

 アクション大作ということもあり、大音響のシーンも多く、それ以外のシーンでも全編に渡ってサラウンド感のある音場設計となっているので、是非ともDTSで鑑賞したいところだ。

DVD Bit Rate Viewerでみたの平均ビットレート

 映像特典はDISC1にも、「メイキング・オブ・アイ,ロボット」(約13分)と、「スティル・ギャラリー」(30枚)を収録。メイキング・オブ・アイ,ロボットでは、監督や出演者により、ストーリーや撮影に関して解説しているが、13分と短いのでダイジェスト的な内容になっており、詳細はDISC2に譲る形になっている。

 DISC1で最大の特典はオーディオコメンタリーで、3トラックも収録されている。トラック1は監督のアレックス・プロヤスと、脚本のアキヴァ・ゴールズマン。トラック2はテクニカルスタッフ11名、トラック3には音楽指揮のマルコ・ベルトラミのコメンタリが収録されている。

 面白い試みとして、トラック3ではセリフや効果音を省いて、音楽と端々にマルコ・ベルトラミのコメントが入るのみとなっている。マルコ・ベルトラミは、劇中の音楽だけでなく、自分自身の経歴や音楽家として生計を立てることの難しさについても語っていて楽しめる。

 また、2枚組特別編に付属するDISC2には、映像特典として「アイ,ロボット プロダクション・ダイアリー」(約96分)、「CGIとデザイン」(約36分)、「知覚力を持った機械:ロボットの行動」(約36分)、「ロボット3原則:SFとロボットについて」(約31分)、「フィルムメーカー・ツールボックス」を収録。トータルで約3時間30分を超えるボリュームだ。

 メインは、「プロダクション・ダイアリー」になるが、ここでは各シーンの撮影の様子を見ることができるが、そのシーンに対応した「CGIとデザイン」や、「フィルムメーカー・ツールボックス」などのコンテンツに移動できるようになっている。

 特に面白いのが、ロボット役の撮影風景。ロボットは最終的にはCGで描かれているが、撮影時には緑や青のスーツ(全身タイツ)を着た役者が実際に演じている。普通の衣装の役者に混じって、赤い“オッパイ電球”を付けた緑色の全身タイツが大量に混ざっている情景は、圧巻である。また、U.S.R.のビルや倉庫が完全CGと聞いて驚かされた。

 「CGIとデザイン」では、舞台となる2035年シカゴの街について「科学的な根拠を持つ、未来の街を作りたかった」と語られほか、ロボットの動きとして参考にしたのは大極拳の動きであることが明かされる。

 また、「知覚力を持った機械:ロボットの行動」では、ロボット全般について、開発の歴史と現在、そして未来を掃除ロボット「ルンバ」のメーカーであるアイロボット社の会長のヘレン・グライナーや、R2-D2とC-3POのデザイナーのラルフ・マクォリー、MITの教授などが、それぞれの思いを語る。面白い内容ではあるが、ロボットの話であるのに、欧米とは違った開発が進んだ日本や日本の研究者が出てこないので、少々偏ったロボット感になっているのが残念である。

 「ロボット3原則:SFとロボットについて」では、プロヤス監督や脚本・原案のジェフ・ヴィンター、アキヴァ・ゴールズマンが今回の映画を作った経緯を語る。プロヤス監督は、「SF文学の大ファン。とりわけ、アシモフ作品には若いころから感化され続けていた。ロボットの究極の姿を描いた映画を作りたかった」と語っている。また、編集者のジェニファー・ブレルに加え、注目なのはアシモフの娘であるロビン・アシモフがインタビューに答えていることだだろう。

 「フィルムメーカー・ツールボックス」には、「未公開シーン集」(4本)と「VHX解析」を収録。未公開シーン集では、エンディング2種類収録されており、実際には採用されなかったもう1つのエンディングを観ることができる。これを観ると、最終的に採用されたバージョンが、一番説明的でハリウッド映画的ハッピーエンドになっていることがわかる。

 VHX解析では、デジタル・ドメイン、WETAデジタル、レインメーカーの3つの工房が各シーンのVFXを作り上げていく様子を観ることができる。収録されているのは、デジタル・ドメインが11本、WETAデジタルが16本、レインメーカーが8本。

 なお、DISC1/DISC2の特典映像には、すべて日本語字幕が付いている。ただし、焼き込まれているので、表示をON/OFFすることはできない。さらに、フィルムメーカー・ツールボックス以外のコンテンツは16:9で収録されているのも評価したい。また。隠しコマンドとして、トースターが激走したり、カチンコを落としまくったりする5本のムービーを観ることができる。


■ アシモフ作品の映画化ではなく、ハリウッド映画

 アシモフの作品を元にした映画といわれると、アシモフファンとしてはかなりの違和感や不満があるが、ハリウッドのSFアクション映画として観ればよくまとまっていると思う。特にSFファンでなくても、楽しめる映画に仕上がっている。続編が作りやすい結末になっているが、プロヤス監督は「続編を作るなら、宇宙を舞台にしたい」と語っているので、最近オリジナル脚本不足のハリウッドのこと、続編が制作される可能性はかなり高そうだ。

 また、DVDとしても画質は鮮やか、音の迫力も高いので、来客用デモディスクとしても使えるだろう。「通常版」と「2枚組み特別編」どちらを購入するかだが、その価格差は1,239円。撮影の裏側やアシモフの娘を見たければ、迷わず特別編だが、そこに興味がなければ通常版にもメキングやオーディオコメンタリが3トラックも収録されているので、通常版で十分楽しめるだろう。

●このDVDについて
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前回の「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」
スペシャル・エクステンデッド・エディション
のアンケート結果
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64票
4%

□20世紀FOXのホームページ
http://www.foxjapan.com/
□「アイ、ロボット」製品情報
http://www.foxjapan.com/dvd-video/cgibin/UserSearch/foxhe_search.cgi?page=detail&jan=4988142240323
□「アイ、ロボット <2枚組特別編>」製品情報
http://www.foxjapan.com/dvd-video/cgibin/UserSearch/foxhe_search.cgi?page=detail&jan=4988142240422
□映画の公式サイト
http://www.foxjapan.com/movies/irobot/
□関連記事
【2004年11月19日】FOX、DVD「アイ、ロボット」を2005年2月4日に発売
-ロボットの頭部フィギュア付バージョンは18,900円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041119/20cfox.htm
【2004年9月8日】【やじうま】
映画「アイ, ロボット」主演のウィル・スミス氏がツクモロボット王国を訪問(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/yajiuma/index.htm

(2005年2月15日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]


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