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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第194回:コンシューマ初の3CMOS採用DVカム「DCR-PC1000」
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■ 動画でCMOS?
CMOSセンサーという撮像素子は、今までイメージング機器の世界でいくつかのブレイクスルーを作ってきた。まず思い出すのが、フラットベッドスキャナの低価格化である。以前はどんなに安いものでも6万円ぐらいはしていたA4サイズのスキャナが、ある時期を境に1万円台にまで落ちた。これはイメージセンサーにCCDではなく、CMOS(CIS方式)を採用したからだ。
CMOSとCCDの違いはいくつかあるが、CCDが撮像面を一気に読み出すのに対し、CMOSは1ラインずつしか読み出すことができない。しかし、スキャナであれば、構造的にライン読み出しでもまったく問題ないことから、スキャナのような低速な順次読み出し装置には向いていたのである。
CMOSの評判を下げたのは、デジカメブームに乗って安価なトイカメラで採用されたからではないだろうか。CCDが製造に専用プロセスを使用するのと違って、CMOSはCPUやメモリなどの製造プロセスと同じなので、製造コストが安い。だがその反面、データ処理回路にお金をかけて技術開発しないと、反応速度画や画質が上がらないという事情がある。たんにコスト面だけを追求すると、絵はひん曲がるわ汚いわというところに落ち込みやすいデバイスなのである。
しかしその後、デジタル一眼レフの世界で600万や800万画素の大型撮像素子としてCMOSが採用され、また新たな認識が生まれようとしている。さらに最近は、巨大市場であるケータイ産業が、CMOSの採用に積極的な姿勢を見せ始めている。
だがここまではあくまでも、静止画用撮像素子という切り口であった。そこをソニーの新ハンディカム「DCR-PC1000」(以下PC1000)は動画で、しかも3板式でやろうというのだから、驚きだ。
「安かろう悪かろう」というCMOSのイメージを動画で払拭できるだろうか。ソニーのお手並みをとくと拝見しよう。
■ 3板を小型にまとめたボディ
PC1000にはブラックとシルバーの2色があるが、今回お借りしたのはシルバーモデルだ。まずいつものように外観から見ていこう。
縦型ボディの割には鏡筒部がドーンと強調された印象を受ける。正面や背面から見るとわかるが、この要因は本体部にしぼり込まれたラインを採用したからだろう。実際にはそのしぼり込まれた部分にバッテリと液晶モニタが収まるため、全体のシルエットとしては幅もそれなりにあるのだが、本体部が細い印象を受ける。
鏡筒部が強調される独特のフォルム | 実際には本体幅も鏡筒部と同じぐらい | 背面のラインが鏡筒部を強く印象付ける |
このデザインが、損か得かの判断は難しい。このおかげで必要以上に鏡筒部が強調されてしまい、頭でっかちに見えるからだ。しかしもともと縦型カメラで3板式というのは、過去に類を見ない。そういう意味でも新しい撮像素子を使って縦型3板式というのは、なかなか意欲的なチャレンジだ。
前から順に見ていこう。レンズはお馴染みカール ツァイスの「バリオ・ゾナーT*」、光学10倍ズームで、F値はF1.8~2.4。フィルタ径は30mmで、レンズ自体は実測で約20mm径。自動レンズカバーを採用している。
画角は、動画の16:9撮影時で44~520mm、4:3で41~480mm。光学10倍のハズなのに数値が10倍にならないのは、ワイド端テレ端の間で手ぶれ補正の読み出しエリアが変わるからだろうか。静止画では16:9が43.5~435mmで、4:3が40~400mmとキッチリ10倍になっている。
撮影モードと焦点距離(35mm判換算) | ||
モード | ワイド端 | テレ端 |
動画 4:3 |
41mm |
480mm |
動画 16:9 |
44mm |
520mm |
静止画 4:3 |
40mm |
400mm |
静止画 16:9 |
43.5mm |
435mm |
レンズ上部にフラッシュがある。フィルターリング部にはセンサーが |
静止画用フラッシュはレンズ上部に固定され、ポップアップ式ではない。そのためワイコンなど幅の広いアタッチメントを付けると、フラッシュは使えなくなるだろう。フィルタ溝の上部に小さなスイッチがあるが、これはワイコンなどの装着時に、フラッシュを自動発光させないためのセンサーではないかと思われる。
肝心のCMOSは、1/6型79万画素が3つ。動画では67万画素、静止画は69万画素を使用する。手ぶれ補正は電子式で、ON/OFFしても画角は変わらない。16:9と4:3の画角も、縦が変わるだけで横方向は同じだ。基本的には手ぶれ補正ONでワイドで撮るカメラという作りになっている。
鏡筒部右サイドには、特徴的なカメラコントロールダイヤルがある。横のボタンを押し続けると、このダイヤルに「フォーカス」、「カメラ明るさ」、「AEシフト」、「WB(ホワイトバランス)シフト」のいずれかを割り付けることができる。元々これらの項目は、よく使う機能を自由に配列できる「パーソナルメニュー」に割り付けることができるのだが、より積極的に使えるようになった。
使い出があるカメラコントロールダイヤル | ボタンを長押しすると、機能の割り当てが変更できる |
液晶下に「液晶ヨコボタン」 |
液晶モニタは、タッチスクリーンの2.7型ワイドを採用。透過型と反射型の両方の特徴を持つハイブリッドタイプだ。モニタの下には、スタート、ズーム、ワイド切り替えボタンがある。カタログではこれを総称して「液晶ヨコボタン」としているが、どう見ても「液晶下ボタン」である。
ヨコに並んでいるからヨコボタンなのかもしれないが、通常日本語では、位置を表わす単語の前に基準となる場所を示すことで、自身の位置を表現することになっている。「神楽坂下商店街」は「神楽坂」の下にある商店街のことで、「神楽坂」に対して下を向いてる商店街のことではないのである。
ワイドボタンの装備は、液晶のワイド化と合わせて、より積極的にワイドで撮って貰おうという誘導だろう。ちなみにPC1000は静止画でも、ワイド画角で撮影できるようになっている。これも新しい試みの一つだ。
ボタン類は、背面に集まっている。電源とモード切替は、最近のPCシリーズで採用が多いスライド式。バッテリーインフォや逆光補正、ストロボ、シンプルといった小さいボタンが並んでいる。
ボタン類は背面に集中 | テープ装填時は背面が開く |
テープ挿入時は、背面がガバッと開くスタイル。バッテリはフタ部分に挿入するなど、以前レビューしたPC55と構造的には同じだ。ただしズームレバーは本体左側に斜めに配置されている。
上部にはアクセサリーシューがあり、別売のサラウンドマイクを使用することでサラウンド収録ができる。その他本体には、LANC端子とAV集合端子、DC INがある程度で、意外に開くところが少ない印象だ。
本機にはクレードルも付属している。本体を縦にまっすぐ乗せるスタイルで、作りもシンプル。背面にはDC IN、AV集合端子、i.LINK、USB端子がある。
アクセサリーシューも装備 | クレードルは縦置き型のシンプルなスタイル |
■ モニタでヒストグラム表示が可能に
では実際に撮影してみよう。肝心の色味だが、今回はあいにく撮影日が晴れたり曇ったりの不安定な天気で、曇天では淡泊な色合いとなり、光量が足りれば発色が良くなる。光量に対してはかなりシビアな印象だ。解像感はほぼCCD並みで、CMOSだから特別どうということでもないようである。
曇天では色味も渋い | 日が出れば十分な発色 |
ただ今回はWBシフトでトーンを暖色から寒色まで9段階で変えられるので、積極的な絵作りができるようになっている。しかもカメラコントロールダイヤルに割り付けられるので、設定も楽だ。
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ビデオでもヒストグラムが表示できる |
モニタ表示で特徴的なのは、今回からヒストグラム表示ができるようになったこと。これにより、同じくカメラコントロールダイヤルに割り付けたAEシフトなども、使い出がある機能に変身している。
ヒストグラム表示、従来デジカメでは採用された例はあったが、過去ビデオカメラではゼブラ表示のほうが一般的であった。だがゼブラ表示には、問題がある。いつだったか、このレビューでも何度かお手伝いいただいてるプロのCFカメラマン、前島一男氏に改めて質問されたことがある。
前島:「ノブさん、民生機によくあるこのゼブラって、どういうときに使うのかなぁ」
小寺:「え、そりゃ70%だったらフェイストーンをそこに合わせたりとか……」
前島:「でもさ、ゼブラが出ちゃったら、その顔がゼブラで見えないんだけど」
確かに言われてみればその通り。ゼブラは絵の上にオーバーレイしてしまうので、肝心の絵柄やトーンが確認できない。一方ヒストグラム表示は、全域のビデオレベルを監視できるので、AEシフトなどはこのほうが使いやすいはずだ。
ただカメラコントロールダイヤルに機能を割り付けるマニュアルボタンはもっと軽く押せて、クリック感があるほうが良かった。長押しして機能を変えるというインターフェイスなのだが、押したつもりが押されてなくて、しばらく待ちぼうけということがよくあった。
ラティチュードは心配したほど狭い感じもなく、上手く全域を押し込めている感じだ。CMOSは暗部のS/Nに難があると言われているが、ザラツキ感はほとんどない。このあたりが新開発の「エンハンスド イメージング プロセッサ」による処理部分だと思われる。
全体的にノイズ感が少ない映像が楽しめる | 逆光に強いため、アングルを選ばない |
フネを付けてネジで留めると、少し斜めに傾く |
CMOSのメリットは、CCDの宿命であったスミアが出ないというところ。したがって光の表現に対する自由度はかなり高い。例えば逆光や水面のきらめきなど、従来のカメラでは難しかった表現も、かなり楽に撮れる。
筆者はいつも三脚を使用しているが、今回は若干支障があった。というのもこのカメラ、あまりにもネジ穴が底面の端っこにあるために、ネジを締めると水平がずれてしまうのである。小型カメラとはいえ、高画質モデルを謳い、値段もそこそこするカメラでこれはちょっと……。
ネジ穴を取り付けるスペースが割けないなら、無理に変なところに付けないで、いっそのことクレードルにネジ穴付けて本体ごと乗っけるとか、なんかもっと「ちゃんとできる」方法が欲しい。
動画サンプル |
動画サンプル。TMPGEnc3.0 Xpressにて5Mbps VBRでMPEG-2エンコード |
■ ワイド画角の静止画は面白いが...
静止画撮影も試してみよう。最大解像度は1,920×1,440ピクセルだが、ワイド撮影では1,920×1,080ピクセルとなる。ちょうどフルHD解像度になるわけで、このあたりにもソニーが全社的に進めるHD化の影響を感じる。
メガピクセル機でもないのにこれだけの解像度で撮れるのは、画素ずらしによる補間技術によるものだが、そのためか、ワイド端での遠景の木立のような細かい部分に、あまり解像感を感じず、もっさりした印象。またテレ端では、画面両端に収差を感じるなど、レンズが追いついていない部分も見受けられる。
ピクセル数の割には解像感はあまりない | テレ端では画面両端にレンズ収差が見える |
近景はそれなりに撮れるが、フォーカスが合っている割には眠い感じに見える。技術的に見れば、補間の割には健闘していると思うが、許容範囲であるかは読者の判断に任せたい。
テレマクロで撮影。こういう被写体なら解像感はまずまず | 約5倍程度のズームで撮影 |
最後にバッテリだが、付属の「NP-FA50」では実撮影時間45分と、いささか心許ない。今回の撮影には約1時間半かけているが、最後はバッテリ切れで終わった。ソニーのハンディカムで、テスト撮影中にバッテリが切れるのは珍しい。
■ 総論
3CMOS搭載のハンディカムDCR-PC1000は、新しい撮像素子を使ってそつなく仕上げたという印象だ。懸念された暗部のノイズもプロセッサで上手く処理され、S/Nのいい絵が撮れる。CMOSはCCDに比べて読み出し電圧が低いため、暗部の信号のS/Nが悪くなるという弱点があるが、CMOSそのものの構造をいじるよりも、得意のプロセッシングで処理したほうが現実的という判断だろう。
撮影して感じたCMOSの強みは、光源に対する強さだ。太陽入れ込みの構図など、今まででは諦めざるを得なかったカットも、トライしてみる価値はある。
新しいアイデアとしてカメラコントロールダイヤルもなかなか有効で、新搭載のヒストグラム表示を頼りに、オートでは今ひとつというところを一歩踏み込んで、積極的に絵が作れるカメラに仕上がっている。
静止画では、ワイドテレビで鑑賞しやすいようにワイド画角を採用するなど、いかにも「テレビ屋」らしい発想で面白い。ただやはり79万画素でフルHDサイズは、ちょっと無理だったのではないかという気がする。
今回は3板を縦型に仕込んだため、デザインやバッテリの面でやや不利になる面はあるが、価格もなんとか135,000円前後に押さえ込み、最初の一歩として手が届く範囲にまとめてきた点は評価できる。
今後はさらにこのCMOSを使ったバリエーション展開に注目したい。単板でメガピクセル、静止画強化という方向もいいだろうし、横型で長時間駆動可能な3板ハイエンドモデルも見てみたいところだ。
CCDと違ってCMOSは製造メーカーが多く、将来的にはCCDを駆逐していくであろうデバイスである。他社もイケルと判断すれば、高画質の動画分野にも参入してくると推測される。PC1000がセールス的にどうなるのか、また市場でどれぐらいの評価が得られるのか、それによって未来のビデオカメラ像が変わってくるだろう。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200502/05-0202/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/DCR-PC1000/index.html
□関連記事
【2月2日】ソニー、独自開発のCMOSセンサ3板式DVカメラ
-「同一サイズのCCDを超える高画質を実現」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050202/sony.htm
【1月6日】【EZ】松下とソニー、同日にプレスカンファレンスを開催
~ DVD+R対応「DIGA」や3CMOS採用DVカメラなど ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050106/zooma184.htm
(2005年2月23日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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