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第169回:15年餃子を食べ続けた男の復讐劇
トンカチは最強か「オールド・ボーイ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 日本、韓国、そしてハリウッドへ
オールド・ボーイ
プレミアム・エディション

価格:4,179円
発売日:2005年4月2日
品番:GNBF-7107
仕様:片面2層2枚
収録時間:本編約120分
画面サイズ:シネマスコープサイズ(スクイーズ)
音声:1.韓国語(ドルビーデジタル5.1ch)
    2.韓国語(DTS)
    3.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
    4.監督・キャストコメンタリー
    5.監督コメンタリー
字幕:日本語/日本語吹き替え用/コメンタリー用
発売元:東芝エンタテインメント
販売元:ジェネオン エンタテインメント

 「リング」や「呪怨」、「着信アリ」など、日本でヒットした映画のハリウッドリメイクがここのところ目立っている。ホラー映画に限った話ではなく、ゲームやアニメ、漫画など、日本が得意とするエンターテイメントが、ハリウッド映画化されるという話を耳にする機会が増えた。

 その波は日本だけでなく、韓国や香港映画界にも広がっており、最近ではヒットした映画や、シナリオの面白い作品は、とりあえずハリウッドが札束で頬を叩いてリメイク権を購入しているようにも見える。問題刑事と金髪美女が大爆発で大事件を解決するような映画も、さすがに飽きられたのだろうか。なんにせよ、新しい時代の映画の活力が、アジアの創造力に求められているのは確かだ。

 そんな中、こうした要素をすべて含んでいるような作品がDVD化された。タイトルは「オールド・ボーイ」。原作は「漫画アクション」に連載された、土屋ガロン(原作)、嶺岸信明(作画)の漫画。それをベースに、独自の設定などを盛り込んで映画化したのは「JSA」で知られる韓国のパク・チャヌク監督だ。

 こうして出来上がった作品は、2004年のカンヌ国際映画祭で、見事グランプリを獲得。審査委員長を務めたクエンティン・タランティーノが顔を真っ赤にしながら「グレイト! 最高! 素晴らしい!!」と、発表の席で褒めちぎっていた姿を覚えている人も多いだろう。

 そして、あっという間にユニバーサル・ピクチャーズが高額でリメイク権を獲得。ハリウッド版の主演には、ジョニー・デップやブラッド・ピットなどの名を挙げているらしい。まさに、現在の映画界を象徴するような経緯を持つ作品だ。

 しかしながら、カンヌ国際映画祭では、主演男優賞に「誰も知らない」の柳楽優弥が選ばれたことで、日本のマスコミの目はそっちばかり釘付けになり、「オールド・ボーイ」は日本であまり話題にならなかった印象がある。

 ちなみに、私が「オールド・ボーイ」の名を良く覚えているのは、タランティーノ監督が「本当はパルムドールを華氏911じゃなくて、オールドボーイにあげたかった」と話しているのを聞いて「発表直後にぶっちゃけ過ぎだろう」と突っ込んだ記憶があるためだ。

 そんなことを思い出しながら、発売日の4月2日に新宿のビッグカメラへ。山積みされていると思いきや、1枚も残っていない。話題にならなかったというのは思い込みだったようだ。慌ててヨドバシカメラに向かい、残り少ないDVDをようやく発見。レジでお金を払いながらホッと胸をなでおろした。ちなみに標準価格は4,179円。アジア映画の2枚組みであることを考えると妥当だが、ハリウッド大作と比べるとやはり割高感はいなめない。



■ そんなに餃子食べれません

 オ・デスは、うだつのあがらないサラリーマン。飲みすぎて暴れ、警察のやっかいになることもあるが、娘の誕生日プレゼントに天使の羽のオモチャを買って、彼女の喜ぶ顔を楽しみにする、ごく普通の中年男だ。だが、彼はある夜、何者かに突然拉致されてしまう。

 目を覚ますとそこはホテルのような部屋。テレビやベッド、風呂など、生活に必要なものは用意され、食事のつもりなのか餃子も置かれている。だが、外に出ようとすると外から鍵が。彼は監禁されてしまったのだ。誰が? 何のために? ここが何処なのかもわからないまま、なんと彼は15年間も監禁されてしまう。

 情報源はテレビ。食事として提供されるのは餃子のみ。彼はそこで、自分の妻が殺され、自分がその殺人犯に仕立て上げられていることを知る。次第におかしくなっていく精神を復讐心でつなぎとめ、耐え続け、そしてある日突然開放される。一層深まる疑問。だが、彼は偶然知り合った女の助けを借りながら、相手すらわからない復讐を遂行していく。

 衝撃的なまでに理不尽なストーリーだ。自分が15年間監禁されたらと考えるが、その苦痛はとても想像できない。とてもまともではいられないだろうし、自殺も考えるだろう。監禁生活の中でオ・デスは、風貌だけでなく、性格も変わっていく。孤独から来る幻覚はあたりまえ。心の唯一の拠り所として、自分をこんな状況に陥れた何者かへの復讐を誓い、その者を殺す準備として、監禁部屋の壁に男を描き、そこにひたすら拳をぶつけていく。長い月日は彼に屈強な体を与え、復讐の鬼、モンスターへと作り変えていく。

 想像もできない難しい役柄を、「シュリ」でお馴染みの演技派俳優チェ・ミンシクは、見事に演じている。長年言葉を発していないので極端に無口になり、爆発すると感情の制御ができなくなる。鬼気迫る彼の演技には恐ろしいほどのリアリティがあり、メイクのせいもあるだろうが、拉致される前の彼と15年後の彼はとても同一人物には見えない。

 また、さらに強烈なのは、15年間餃子しか食べられないという設定だ。さっぱりとした日本料理ならまだなんとかなるかもしれないが、朝餃子を出され、昼に餃子を食べ、晩御飯に餃子が出てきたら、大抵の人は口を押さえてしまうだろう。それが15年……。風呂に入ってもニラの匂いが取れそうもない。ある意味、どんな拷問よりつらそうだ。

 ちなみ、彼は犯人の手掛かりを探すため、解放後に再び餃子を食べ歩く。つまり、15年間毎日食べた餃子なら、味を間違うわけはないということだ。そして、探し出した中華料理店の出前の情報から、自らが監禁されていた場所を割り出そうというのだ。まさに餃子まみれの復讐劇だ。

 映画の骨組みはサスペンス。観客はオ・デスと同じ立場に置かれ、謎だらけの状況を1つずつ解き明かしていく。展開は極めてスピーディーでスリリング。様々なヒントが散りばめられているので、「どういうことだ? あ、なるほど!!」と頷きながら、グイグイと物語に引き込まれる。気が付くとオ・デスと共に走り出していて、衝撃的な物語の結末で呆然と立ち尽くす……そんな作品だ。

 ちなみに、アクションシーンもふんだんに盛り込まれているのだが、アジア映画なので爽快感よりもリアルさ重視。思わず目をそむけたくなるような「痛い」シーンが連続する。DVDのジャケットからしてトンカチを振りかざしたオ・デウだ。こんなもので殴られたら痛いどころではない。

 ちなみに彼はトンカチの反対側の釘抜きで、敵の歯を強引に引き抜く拷問も好きなアイデアマン。タランティーノ監督が大喜びするだけあって、バイオレンス描写は超一級だ。その手の描写が苦手な人は心構えをしてから見るべきだろう。ただ、それを我慢しても観る価値のある映画だ。



■ 15年間ラーメンになるはずだった?

 DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは8.35Mbps。オリジナルの韓国語をDTSとドルビーデジタル5.1chで、日本語吹き替えをドルビーデジタル5.1chで収めている。ビットレートはDTSが768kbps、ドルビーデジタルは韓国語、日本語ともに448kbpsで収めている。

 サウンドデザインはBGMを重視したもので、環境音の包囲感や臨場感は今ひとつ。セリフは明瞭だが強弱が少なく、淡々とした印象を受ける。ただ、繰り返し挿入されるテーマ曲が印象的で、映画全体としての音響は、作品に良く合ったものだと言える。

 テーマ曲は弦楽器の響きが印象的なもので、豊かな低音が胸に迫り、緊迫したストーリーにある種の凄みを与えている。DTSとドルビーデジタルの音質の違いは明瞭で、ドルビーデジタルの音圧、1音1音の情報量、音楽全体のナチュラルさは、DTSのそれに大きく及ばない。

 映像はコントラストと彩度が強い独特のもので、赤やオレンジなど、暖色系の色が強く出た絵作りだ。暗部の情報量はあまり多くないが、暗闇に包まれた部分が逆に想像力を刺激する。明るい部分は非常に鮮やかだが、抜けの良い色彩ではなく、ボッテリとした濃い色合いだ。なお、監禁から解放された後の野外や、回想シーンなどでは彩度やコントラストを落とした、落ち着いた色調になる。こうした独特の絵作りは、映画に現実とかけ離れた、漫画やアニメチックなトーンを与えているように思える。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 特典ディスクの収録時間は約207分とボリュームたっぷり。インタビューが中心のため、派手さはないが、内容は濃い。特に印象に残ったのは、オ・デスのヘアースタイルにまつわる話。ジャケットにもある彼の髪型は、現場では「爆発ヘアー」と呼ばれているらしく、美術的に非常に重要な意味がある髪型だという。

 素人考えでは、「監禁された後のボサボサ頭」という、イメージ通りの髪型だが、現場では「派手すぎる」、「やりすぎだろう」などの意見が多くあったという。だが、実際にチェ・ミンシクが爆発ヘアーにしてみると意外に似合い、そこから洋服や監禁部屋など、様々なデザインイメージが広がったという。「爆発ヘアーの枝葉として映画全体の美術が決定した」というから、まさに髪型が映画の中心になったわけだ。

 パク・チャヌク監督は「出来上がった映画に監督があれこれ説明するのはどうかと……」というスタンスの人だが、コメンタリーやインタビューでは控えめに演出意図などを語ってくれる。特に面白いのが観客(映画学校の生徒?)との質疑応答。「かなり激しい暴力シーンがありますが、監督にもそういう気質があるんですか?」、「性的なシーンは監督の欲求が反映されてますか?」などなど。「登場人物の考えが監督の考えではないので……」ど、タジタジになりながら答える監督が面白い。

 設定面ではやはり、原作者の土屋ガロン(狩撫麻礼)の音声インタビューが聞き所。最も気になっていた「15年間餃子のみ」というアイデアは、当初「ラーメンのみ」にするつもりだったという。しかし、「主人公は復讐の鬼として体を鍛えなくてはならない。でも、ラーメンだけだと栄養が偏ってしまい、そこまで持たないと考えた。そこで、栄養満点で各店舗で必ず味の違う餃子に目をつけた」のだという。

 また、ネタバレになってしまうので説明することはできないが、ストーリーの根幹には、韓国の検閲制度に引っかかりかねないという、ショッキングな設定が隠されている。監督やスタッフ、出演者の中にはこの部分に対する大きな不安があったようで、インタビューでもその話が多く聞かれた。だが、その中で「国の文化的成熟度を考えると、撮影中から観客の憂慮の声が聞こえるようで、心配だった。しかし、私達が自らが検閲を恐れて表現を幅を狭めてはならない」と答えるチェ・ミンシクの姿が印象的だった。

 ちなみに、規制という意味ではベッドシーンにも悩んだとのことで、韓国の映倫を通らなかった時に備えて、ベッドシーンの代わりに撮影したキスシーンが未公開映像として収録されている。なお、監督によれば「問題なく映倫を通ったので不要になったと思っていたのだが、テレビ局にこの映画の放映権が売れ、テレビで放送するためにキスシーンが使えた」とのこと。「まさかテレビの放映権が売れるとは思わなかった」と話す監督の声には、クリエイターとしての意地と、それが世間に認められた嬉しさが滲んでいるようだった。


■ アジアのパワーに打ちのめされたいならぜひ

 衝撃的なラストでそれまでのストーリーが吹っ飛んでしまいそうになるが、映画全体を通してみると謎が謎を呼ぶ良質のミステリーと評価することができる。また、アクション面でも無粋な銃が登場せず、トンカチと角材で殴りあう、壮絶な格闘シーンはインパクト大だ。

 ストーリーとしても破綻がなく、ハリウッドが目を付けるのも頷ける完成度の高い脚本だ。原作の漫画にかなりオリジナル要素が加えられているので、原作を知らない人はもちろん、漫画を読んだ人も「あの作品が、こんな物語になるのか」と新鮮に楽しめるだろう。ただし、「徒労感を覚える映画を作りたかった」と語る監督の作品だけあり、鑑賞後の後味は爽快とはほど遠い。映画好きの人と鑑賞後に語り合いたくなるような作品だ。

 15年という時間を奪われたオ・デスの復讐心は相当なものだが、彼を複雑で綿密な罠にかけた相手も、彼を心の底から憎悪していることになる。つまり、映画の図式は復讐対復讐、憎悪対憎悪となり、そこで一貫して主張されているのは「むなしさ」だ。映画に込められたこのメッセージには、素直に共感できる。

 問題となるのは4,179円というDVDの価格だが、「何度も観返して楽しみたい」と思うか、「面白かったが、もう観たくない」と思うかで大きく評価がわかれるところ。ただ、アジア映画の持つパワーを肌で感じることができる作品なので、バイオレンスシーンが苦手だと考えている人にも、手に取ってもらいたい。

●このDVDについて
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□ジェネオン エンタテインメントのホームページ
http://www.geneon-ent.co.jp/
□タイトル情報
http://db.geneon-ent.co.jp/search_new/show_detail.php?softid=357378
□映画の公式サイト
http://www.oldboy-movie.jp/
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(2005年4月5日)

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