■ “ビートたけし”。自身の監督作以外で12年振りの主演
映画「血と骨」は、第11回山本周五郎賞を受賞した梁石日の同名小説を、崔洋一監督が映像化した作品。劇場公開は2004年11月。公開時にも大々的なテレビCMキャンペーンなどで注目を集め、ビートたけしが、自身の監督作品以外で12年振りに主演を張った作品としても話題となった。 公開後半年も経たない、4月6日にDVDが発売。「通常版(PCBE-51386)」と、特典ディスクと豪華パッケージの「コレクターズ・エディション(PCBE-51385)」が用意され、通常版は3,990円。コレクターズ・エディションは6,090円で発売されている。 9日に新宿界隈の量販店を中心に回ったところ、多くの店で特典ディスク付きの「コレクターズ・エディション」が売り切れ。あまり特典どうこうというタイトルでもないので、入荷量が少ないだけなのかもしれないが、どうにか見つけだして割引きなしで購入した。ちなみに、通常版は各店舗で平積みとなっており、この4月に発売の邦画としては一番のプッシュ作となっているようだ。 特別版は、特典ディスクが付属するほか、骨を模した素材の白地のアウターケースが付属。アウターケースには赤文字で「血と骨」とプリントされており、背面には「血は母より、骨は父より受け継ぐ」という本作のテーマが記されている。おどろおろどしいジャケットだが、インパクトという点ではビートたけしの顔が大写しになった通常版の方が上回っているようにも感じる。 なお、R15指定になっているので、家族揃って鑑賞といったシチュエーションにはあまり向かない作品だろう。
■ 強烈すぎる俊平の人生を描く
時は'23年の大阪。一旗揚げることを夢見て祖国を後にし、済州島から日本に渡ってきた金俊平(ビートたけし/幼少期は伊藤淳史)。しかし、日本到着後の劣悪な生活環境などから、いつしか彼の希望は潰え、ただただ本能のままに生きる「怪物」となっていた……。 家族への暴力はおろか、各所でトラブルを引き起こしながらも、その強靱な肉体とあまりに凶暴な性格から朝鮮人街の顔役となる俊平。終戦後には、突如蒲鉾工場を立ち上げて、労働者に過酷な労働条件を課しながらも成功する。 家族は、俊平の妻 李英姫(鈴木京香)と娘 花子(田畑智子)、正雄(新井浩文)。そのほか、英姫の子供で、花子らとは異父兄弟の金春美(唯野未歩子)や、俊平の一人目の愛人 山梨清子(中村優子)、二人目の愛人 島谷定子(濱田マリ)など、親族や愛人関係をベースとしたコミュニティの絶対君主として君臨する俊平。 誰にも心を開かず、圧倒的に理不尽で不条理な存在の俊平。いつしか、蒲鉾工場も閉じ、金銭への執着からやがて高利貸しへと転じていく。家族や親族は、彼を避けるように共産主義活動や宗教、結婚などに逃げ込んでいく。しかし、俊平から逃げるための生やさしい方法など無く、周囲の人々は事故や不幸に巻き込まれていく。 見所は、なんといってもビートたけし演じる俊平の粗暴な態度と飽くなき破壊だろう。家族や親族、部下へのの暴力は日常の風景。街金としての強烈な取り立てにより、借主を完膚無きまで追い込んでしまう。 彼に従う、刃向かうに関わらず、全ての人間に対して、敵意を剥き出しにして対峙する圧倒的な街の悪として立ち振る舞う俊平。家族にも誰にも心を開かずに、ただ一瞬だけ、見せる愛情。しかし、その愛情すら暴力とは切り離して考えることはできない……。 また、正雄らの異父兄弟である朴武(オダギリジョー)の鮮烈な登場シーンも印象的。ブカブカのスーツの着こなしなど、チンピラ風情が妙に様になっており、登場時間は短いのに印象に残る。俊平との対決シーンの立ち回りも見所の一つだ。 さらに清子や定子などの俊平の愛人もいずれ劣らず、癖のある配役だらけで、出てくる人間が皆揃いも揃って“濃い”ので、なんとも濃密な144分間となっている。もちろん、ドロドロの愛憎(といってもほとんど主体は俊平なのだが)や、誰も信頼できないくせに、うんざりする程が固執する“血の継承”なども、重要なテーマとなっている。 もう一つの見所は時代背景。戦後の風景を再現したというセットはもとより、戦争に荷担した同胞に対する敵意と反発、共産主義に走り、“地上の楽園”北朝鮮に救いを求める仲間、いかに反発しあっても「家」の継続に固執する英姫など、当時の描写を自然に織り交ぜながら、ストーリーにリアリティを加えている。 また、本作を理解する上で、見逃せないのが予告編などでも登場した冒頭の船上のシーンだろう。青空と広大な海のもと、'23年済州島から希望に満ちて、大阪にやってきた俊平の表情。その後の俊平の変化を予感させることなどなにもない純朴な表情が、ストーリーでは語られない、もう一つの俊平の過酷な人生を物語るかのようだ。
■ 暗い生活を反映するかのような独自の色調。特典は至って普通
DVD Bitrate Viewerで見た画質は平均ビットレートは7.18Mbps。日本語をドルビーデジタル5.1chとDTSで収録している。ビットレートはDTSが768kbps、ドルビーデジタルは448kbpsで収めている。 映像は全般的に緑よりで、独特の暗さと陰惨さが画面からも伝わってくる。フィルムグレインを若干残しながらも、画質は比較的クリア。暗いシーンも多いが、暗部はしっかり落としつつも、階調の破綻などは感じさせない。冒頭、船上から俊平が大阪を見やるその鮮烈な青空を俊平の希望に満ちた側面とすれば、“怪物”となって以降の俊平を包む全体のトーンがこの鬱屈とした色調に現れているのかもしれない。そうした意味でも、冒頭の船上のシーンの意義はとても大きいと感じた。 サウンドデザインは今日のDVDとしては拍子抜けするぐらいシンプル。一応5.1chのマルチチャンネル音声のはずなのだが、リアチャンネルが大きくなるような場面はほとんど無い。それどころか包囲感も、家具の破壊や決闘シーンなど以外では、あまりない。一番の聞かせどころは、冒頭の船上のシーンかもしれない。各シーンのセリフは明瞭だが、俊平や正雄など、ややどもったような声質の登場人物が多く、独特の気味悪さが残る。
特典は、本編ディスクにトレーラを収録するほか、特典ディスクに「ビートたけしの背中、崔洋一の眼差し」、「徹底密着80日!! 血と骨 ドキュメント」、「俳優陣が語る血と骨の全て」などを収録。さらに、ジャパンプレミア試写会での挨拶などの模様も収めている。 「ビートたけしの背中、崔洋一の眼差し」は、主演のビートたけしと監督の崔洋一にフォーカスした約42分のメイキング映像。12年振りに俳優ビートたけしに専念し、主役を張った本作だが、崔監督は「たけしさんがいなければ、この作品はなかった。ビートたけしという存在無しに作品は成立しなかった」と、まず俊平役ビートたけしあっての映画だという点を強調する。 ビートたけしは右肩を痛めながらの撮影となるなど、体力的には非常に苦しい撮影となったという。実際にリハーサル中に脱臼してしまうシーンなども収録されており、改めて撮影の厳しさを感じさせる。 崔監督については現場の厳しさやスタッフに怒鳴ることでも知られているが、ビートたけしは、「自分がいるときは怒鳴らないで」と要望を出していたという。そのため、確かにビートたけしがいるときには怒鳴らなかったそうだが、やはりスタッフに怒鳴ったり、メガホンを投げ付けたりなど俊平並みの立ち回りも見せてくれる。俊平に「ある種の共感」を得たという監督らしいエピソードかもしれない。ただ、一方で自らが動きながらの細かい演技指導などを行なうなど、怒号一辺倒でないこともしっかり描かれている。 「徹底密着80日!! 血と骨 ドキュメント」は、撮影の約80日間を日程順に追った約20分のドキュメントで、メインの舞台となる関東村のオープンセットの設営や、その際の苦労などが撮影、照明、美術などの各スタッフの口から語られる。 俊平の家、英姫など木造住宅のセットでは、俊平の色は黄色を下塗りしてから、英姫の家には赤を下塗りしてから茶色の塗装を施すことで、質感に違いを出しているなど細かいこだわりが明らかにされるほか、衣装やメイクのこだわりも説明されている。エキストラの子供達ののどかな佇まいも本作を見た後だと妙にほっとさせるところがある。 特典は一通りそろっているのだが、通常版より2,000円超の魅力を感じるかと問われると、やや疑問も残るところ。DVD特典としては十分ではあるが、圧倒的に力強い映画と比べると、なんとも物足りない印象が残るのだ。オーディオコメンタリが無いのもそう感じる一つの要因かもしれない。
■ 鑑賞よりは体感
バイオレンスとセックスシーン、さらには豚の解体やら独特の漬け物など、“エグさ”では事欠かない映画なので、そうした映画が苦手な人にはあまりおすすめできない部分もある。しかし、そうしたことを抜きに、俊平の圧倒的なパワーや自信を体験するという点では大いに楽しめる映画とも言え、鑑賞というよりは体感というのがふさわしい映画にも感じる。 特典ディスクも悪くないが、この世界を体感するためには通常版でも問題なく、ジャケットのインパクトもより強烈だ。あまり後味の良い作品ではないかもしれないが、その後味の悪さも本作ならではのもの。冒頭からしっかりと見ていると、不思議と理不尽な暴力主義者である俊平への違和感が薄らいでいく。もっとも、現実に俊平の真似ごとするのは迷惑極まりないのだが……。
□東芝エンタテインメントのホームページ (2005年4月12日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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