■ 懐具合で選べる、3種類のパッケージを用意
映画自体は、第28回日本アカデミー賞 最優秀脚本賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞、最優秀音楽賞などを受賞して、2004年の日本の映画界を盛り上げた。さらに、サントラ盤が13万枚を超えるヒット、関連本も映画関連書籍としては多い5種が刊行され、この映画の影響でサックスの売上が急上昇するなどの現象も巻き起こしたとも聞く。 女子高生がビックバンドでどんな演奏をするのか、などなど、気になる映画ではあるものの、「女子高生がたくさん出てくる青春映画」と聞けば、オッサンが映画館に行くのは気が引ける。ということで、DVDが発売されたら観ようと思っていた。 結局2004年9月の封切から、約半年が経過した3月25日にDVDがリリースされた。販売元が、少々高めの価格を設定する東宝なのが不安だったが、ヒット映画ということで懐具合に合わせて、「スタンダード・エディション」(TDV-15162D)、「スペシャル・エディション」(TDV-15098D)、「プレミアム・エディション」(TDV-15163D)の3種類をラインナップ。 本編ディスクのみのスタンダード・エディションは3,980円と、邦画としては買いやすい価格に設定されて、一安心。本編ディスクに、特典ディスクとブックレット(16ページ)が付属する「スペシャル・エディション・エディション」は6,300円。 さらに特典ディスク(2)、ブックレット(144ページ)、お守りねずみマスコット、切り出し本編フィルムまで同梱した「プレミアム・エディション」が10,290円となっている。なお、プレミアム・エディションは、「完全予約限定生産商品」ということで、在庫していない販売店も多いようだ。
本編ディスクのみのスタンダード・エディションが値ごろ感があるとはいえ、やはり本編ディスクだけというのも寂しいと思え、スペシャル・エディションを購入した。つまり、東宝の一般的な邦画DVD価格の製品を購入したわけで、術中にはまっているような気もしないでもないが……。ちなみに、スペシャル・エディションは、初回生産分のみデジパック仕様となっている。 国内外のキャンペーンの模様を追ったドキュメンタリや、監督による絵コンテアニメ、音楽シーンのメイキングなどを収録しているという、特典ディスク(2)の内容も気になるところではあるが、さすがに1本の映画のDVDに1万円を払う気にはなれなかった。「完全予約限定生産商品」というのも敷居が高かった。
なお、オフィシャルサイトに、DVD本編ディスクのチャプタ26の日本語字幕の演奏曲名「K点を越えて」と「カルメン(第五楽章)」が入れ替わっているという訂正が掲載されている。字幕の一部の間違いだけなので、特に交換対応などは実施しないようだ。
■ 青春ファンタジー? ストーリー 東北の片田舎にある高校で、夏休みだというのに補習を受けている女子生徒達。そんな補習から抜け出すため、野球部の応援に行った吹奏楽部にお弁当を運ぶことに。しかし夏の炎天下の中、寄り道しながらダラダラ運んでいたため、お弁当は腐り、それを食べてしまった吹奏楽部の部員は食中毒を起こしてしまう。 一人だけお弁当を食べれなかったおかげで食中毒を免れ、補習組み以外で唯一食中毒の原因を知る男子の中村(平岡祐太)は、責任をとらせようと補習クラスの女子を吹奏楽部に誘う。女子達も補習をサボる口実に参加することを決めるが、吹奏楽をやるには人数が足りず、ビッグバンドでジャズをやることに。もちろん、女子たちは楽器などほとんどやったことがなかった。 さらに、何事にも無気力な彼女達にはやる気もゼロ。しかし、楽器から音が出始めるにつれ、いつしかビックバンドジャズの魅力に引き込まれ、バンドを結成することを決意する。だが、楽器はなく、お金もなく、練習場所もない。バイトをすれば大失敗。それでも、音楽への熱い思いを武器に、はちゃめちゃパワーとあいまって、紆余曲折を吹き飛ばし、夢に向かって突き進む……。 「男のシンクロ」を題材にした「ウォーターボーイズ」を、邦画として大ヒットさせた矢口史靖監督が、ウォーターボーイズから3年を経て、そのガールズ版として、高校ジャズクラブの名門「兵庫県立高砂高校ジャズバンド部」をモデルに制作されたのが、スウィングガールズだ。 矢口監督はメイキングの中で、「最初から、全員、本当に演奏することを決めていた」と語っている。その狙いを、「プロを目指す話ではなく、楽器を持ったことがない人間が、楽器を手にしてその楽しさを表現できるようになっていくこと」と説明する。 高校生が未経験のことにチャレンジし、失敗を繰り返しながら成長して、最後にお披露目という構成はウォーターボーイズと変らない。今回のビックバンドのメンバー17人全員は、1,000人以上のオーディションから選ばれている。映画の題材から女子生徒達には演技、演奏、キャラクタの三要素が重要になるが、オーディションで三要素が揃った人材はなかなか見つからず、結局キャラクタ重視で選び出したとのこと。そのため17人のほとんどが、楽器も触ったことがなかった。 特に主役の上野樹里は演技力や演奏能力は二の次で、「この役は他の人にはできない」と直感したという。上野樹里は「ジョゼと虎と魚たち」では、偽善的な女子大生を好演していたが、今回はうって変わってポジティブな高校生を演じている。本人は、今回の役はそのままの自分と話している。 楽器の演奏は5月から週末を除く毎日を練習にあて、さらに2度の合宿を行ない、8月に演奏会のシーンを撮影している。演奏会のシーンは5日間を費やして撮影されているが、劇中の演奏シーンは、すべて出演者本人による演奏で「A列車で行こう」や「ムーンライトセレナーデ」など、誰もが聞き覚えのある往年のスタンダードナンバーを多数披露している。 また、映画初出演が大半を占める中、桜むつ子、竹中直人、谷啓、渡辺えり子、小日向文世などのベテランが脇を固めることで、映画全体を引き締めるバランスをとっている。 映画のストーリーとして、チャレンジしていることが楽しくなっていくという状況が、出演者自身にも厳しい訓練が化されることで、役と出演者がオーバーラップするという構図は、ウォーターボーイズと同じだ。ただ、男子シンクロだと、その演技を見たことがある人がほとんどいなかったのに対し、この映画で演奏される曲は、誰でも一度は聞いたことがある曲ばかりなので、その点では観客の見る目は厳しいともいえる。 映画の中には矢口史靖監督らしく、笑いの要素を取り入れられているが、そこで笑えるかどうかは人を選ぶだろう。ストーリー展開的には、「そんなことあるわけがない」というようなところも多々あるものの、そこを下手に納得させようとはしていない。 実際、演奏がうまくなっていく過程が、あまり描き込まれておらず、突然演奏できるようになっているようにも見える。最後の演奏会は、ソロパートを織り込んだ編曲がされているが、詳しくJAZZを知っているメンバーがいないのに、そんな編曲や編成を誰がやったのか?、疑問が無いわけではない。きっと、お笑い的な要素も含め、ドキュメンタリではなく、青春ファンタジとして楽しむべき映画なのだろう。 AV Watch的には、JAZZマニアと設定されている、竹中直人演じる数学教師の小澤忠彦の自宅に設けられているオーディオルームが気になるところ。監督自身は元々その分野にあまり興味がなかったらしく、今回の撮影にあたり「オーディオ雑誌を見て、普通にお金を稼いでいる大人が、趣味に走るとこうなるのかというの写真で見た。片田舎に住んでいるとはいえ、家族持ちじゃないと、相当なお金をつぎ込んでいるのではないか」と思ったという。 最終的にはスピーカーはJBL、アンプはマークレビンソン、ターンテーブルはAvidと王道の機器が設置されていた。竹中直人自身は、自宅にシアタールームを持つマニアでもあるので、今回のセッティングをどう思ったのかを、聞きたかったところだ。
■ THX仕様の本編。充実の映像特典 DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.72Mbps。本編は105分と長い作品ではないが、コメンタリを2トラック収録していることもあってか、本編のビットレートは低めになっている。なお、THX仕様となっており、冒頭にTHXロゴトレーラーと、ドルビーデジタルのSTOMPトレーラーが再生される。また、THX仕様のDVDではお馴染みの「THXオプティマイザー」も収録している。 映像はビスタ版をスクイーズ収録。映像は最近の映画のDVDにしては、フイルムグレインがかなり乗っている。THXオプティマイザーで設定してもコントラストが高く、色温度が低めの暖色系で、彩度も飽和気味に感じる。ビデオ的なクリアな画像を見慣れていると、低画質に感じてしまうかもしれない。ただ、モスキートノイズのようなMPEG化時に劣化している印象は受けないので、この画質をねらって設定しているのだろう。 音声は日本語をドルビーデジタル5.1chとDTSで収録する。ビットレートは、ドルビーデジタル5.1chが448kbps、DTSが768kbps。本作では、ドルビーデジタル5.1chとDTSでの音質差はかなりあり、DTSの方が圧倒的に音の質感が高い。 特にこの映画の場合、DTSの方がドラムの低音と、金管の高音の伸びがよく、包囲感も高く感じられる。音楽が主役ともいえる映画なので、DTSで鑑賞したいところだ。 字幕は日本語に加え、邦画のDVDとしては珍しく、英語字幕も用意されている。また、日本語字幕は「山形弁」となっている。さらに、字幕でト書きのような状況説明も行なわれているので、音声を聞かなくても、字幕だけでも内容を理解することができるようになっている。
ガールズ&ア・ボーイズキャラクター紹介では、17人のキャラクタ設定を解説。映画本編では、主要5人以外の、ほとんどの登場人部の背景が描かれていないので、それを補間する形になっている。本編を見るだけでは、行動理由がよくわからない部分もあったが、これで解決できた。 さらに、オーディオコメンタリとして、「その1:巻き込む人々(上野樹里、平岡祐太、矢口監督)」と、「その2:巻き込まれる人々(貫地谷しほり、本仮屋ユイカ、豊島由佳梨、矢口監督)」の2種類のトラックを収録。両方とも、本編にも登場している山形出身のフジテレビの武田祐子アナウンサーが司会を務めている。 オーディオコメンタリの中で、監督がこの映画の設定が架空の街であることが語られている。登場する車のナンバーも米沢ではなく、架空の「米山」にしているという。方言も、「山形弁」ではなく、「スウィングガールズ弁」とのこと。実際に、米沢方言ともかなり違うようだ。もちろん、あまり完璧にすると、その地方以外の人が聞いても、何をいっているのかわからなくなってしまう。 また、この映画の中では、常にメガネをかけている本仮屋ユイカが、撮影中ずっとメガネを外したがっていたというのも興味深い。本人は、「撮影後に、メガネを外さないでよかったと思えた」という。さらに面白い試みとして、登場人物が多いシーンで、一人一人の音声をオンリーで録音しているが、本編では混ざってしまっている音声を、2つのコメンタリーで別々の音声を収録して、それぞれ何を話しているのかわかるようにするなど、凝った構成になっている。 加えて特典ディスクも、トータルで220分以上収録と盛りだくさん。特典内容については、オフィシャルサイトで、かなり詳細に公開されている。ここまで、公開されているのは珍しいだろう。 メイキング映像としては、CSで放送された、オーディション後の楽器練習から撮影までガールズに焦点をあてたメイキング「GIRLS meet JAZZ!」(約27分)と、映画制作に焦点をあてた「スウィングガールズの作り方」(約48分)の2本を収録。 「ロケ地探訪~GIRLS MAP~」(約23分)では、神奈川県出身の矢口監督、山形県米沢出身の眞島秀和(高志役)が最上川、フラワー長井線など山形県内のロケ地や、モデルになった高畠高校が紹介される。さらに気合が入っているのが、5分17秒~11分5秒の長さのサイドストーリー7本だろう。監督助手や、プロデューサなどが、そのぞれのサイドストーリーの監督を担当している。 そのほかにも、「未公開映像集」として、エンドクレジットで、「L-O-V-E」に合わせて歌い踊るエンドクレジット3種類「L-O-V-E ライブラリー」や、「失恋してもラヴィン・ユー」のフルバージョン(約3分、歌詞字幕付き)、「未公開シーン」(約1分)、NGを含めて、使われなかったカット集「アウトテイク集」(約4分30秒)を収録する。 さらに、講師に音楽評論家の岩浪洋三氏を迎えての「簡単 JAZZ 講座」(約5分30秒)、ガールズの解説動画付きの「HOW TO 管楽器」(トランペット約2分、トロンボーン 約1分30秒、サックス 約2分)など、特典の種類は多い。 「キャスト&スタッフ」では、映画撮影時の17人のガールズインタビューを収録。各人約1分程度収録し、さらに豊島由佳梨、金崎睦美、根本直枝の3人については、オリジナルソングも再生できる。ちなみに、SpecialThanksにアップルコンピュータとMac Fan編集部がクレジットされ、アップルコンピュータの代表取締役の前刀氏の名を連ねているのが目を引いた。 そのほかにも、「全国上映劇場リスト」(静止画、全12ページ)、「舞台挨拶全記録」(静止画、全60ページ)なども収め、質・量ともにかなりの充実度だ。
■ DVD仕様の完成度は高い DVDの仕様として、特典も含めて非常に丁寧に作られているのはよく伝わってくるが、コンテンツの内容を面白いと思うかどうかは別問題で、人それぞれだろう。ちなみに、最後に流れる、注意書きもレコードから流れ出るように表示したり、DVDのレーベル面もレコードを模したデザインになっていたりと凝りに凝っている。 チャプタ数も30と、105分の映画としてはかなり多く、さらにチャプタメニューも動画になっている。メニュー画面も表示されるムービーが複数用意されている。ディスクのレーベルデザインも、レコードをモチーフとしている。東宝といえば、「ラヂオの時間」で、当時としては飛びぬけて凝ったDVDをリリースしていたが、それに通じるものを感じる。 DVD化にあたって、「ただDVDにするだけでなく、DVDならではの魅力を発揮しよう」という心意気が感じられる。特典ディスクのスタッフリストの中に、DVD制作スタッフも名を連ねているのが、自信の証だろう。 もちろん、映画本編だけでも青春映画として楽しめるが、音楽を聞くより演奏したくさせる。監督自身もこの映画をきっかけに、楽器をならい始め、現在でも練習しているという。そんな音楽の魅力がちりばめられている。 しかし、ドキュメンタリとしての17人の成長物語として捉えるには、スタンダード・エディションでは面白さは半減する。やはり、特典ディスクのついた、スペシャル・エディション以上を購入したいところ。スペシャル・エディションの6,300円は決して安くはないが、ただありものの素材を詰め込んだだけではない、丁寧な作りからすると高すぎるということはないだろう。
□東宝のホームページ
(2005年3月29日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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