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第187回:元祖ループシーケンサの進化形
~さらにDAW的要素を増した「ACID Pro 5」~



 ループシーケンサの代名詞ともいえる「ACID」。現在ループシーケンス機能については、さまざまなDAWソフトでサポートされるようになり、「GarageBand」のようなユーザーフレンドリーで、一般に広く使われているソフトも出てきているが、元祖はなんといってもACID。そのACIDが「ACID Pro 5」>へとバージョンアップされ、さらに機能が強化された。具体的にどんな機能が加わったのかを中心に紹介する。


■ 初のオーディオグルーブクォンタイズ機能

 '98年、はじめて世の中に登場したACIDを触ったときには感激とともに、かなりのショックを受けた。というのも、それまでオーディオのピッチやテンポを変えるというのは不可能であり、MIDIでしかできないというのが常識であったからだ。まったく不可能というわけではなかったが、実際にピッチなどを変更するにはかなりのCPUパワーと時間を掛けなくてはならなかった。しかし、ACIDではMIDIと同感覚でリアルタイムに変更ができ、ループデータを元に曲を作るというまったく新しい音楽制作手法を編み出したのだ。また当時は、このACIDを目当てにMacユーザーがWindowsを導入するという現象もあった。

ACID Pro 5

 それから7年。ループシーケンスという手法は広く普及し、「Cubase」、「SONAR」、「Logic」といったDAWでも利用可能となり、いまでは音楽制作において欠くことのできないものとなった。また、ACIDの開発エンジニアのひとりがAppleに参加することで作られた、GarageBandは一種の社会現象ともいえるブームとなり、ループシーケンサは、DTMとは縁のなかったような一般ユーザーへも広まっている。

 そういう意味では、ACID自体の魅力は相対的に低くなったようにも思えるが、ACIDはその後も着実に進化を続け、今回ACID Pro 5として登場した。

 ACID Pro 5は先日紹介したSound Forge 8と同じSONYブランドでSony Media Softwareのラインナップの1つ。国内では4月15日よりフックアップから発売された。すでにVer3からMIDI機能を搭載し、Ver4からはVSTインストゥルメントに対応するなど、単なるループシーケンサというよりもDAWへと進化してきていたが、今回のバージョンではさらにDAW的要素が濃くなってきた。とはいえ、ACIDらしい機能強化もある。その目玉ともいえるのが業界初のオーディオグルーブクォンタイズ機能だ。

Sound Forge 8と同じSonyブランド 業界初となるオーディオグルーブクォンタイズ機能

 通常、グルーブクォンタイズといえばMIDIの機能だが、ACID Pro5に搭載されたのはオーディオのグルーブクォンタイズである。グルーブクォンタイズというのは、スウィングやシャッフル、また特定のフレーズから抜き出したノリを別のフレーズに適用させるという機能だが、ACID Pro5のオーディオグルーブクォインタイズでは、それをACIDのループ素材に適用できるというものだ。

 実際に適用してみると、元のフレーズとはまったく違う雰囲気のものに仕上がり、かなり面白い。あらかじめ50種類のテンプレートが用意されているので、まずはこれを使ってみることをお勧めするが、既存のループデータなどからもノリを抜き出してテンプレートとすることも簡単にできるので、応用範囲は広そうだ。実際の操作としては、まずテンプレートを選択した上で、マウスカーソルをグルーブツールに持ち替え、適用したい部分を選択するだけ。

 考え方としては、個別のトラックの必要部分に適用するというもので、曲全体に適用するものではない。今のところこのような機能を持ったソフトはほかにないので、いろいろ試してみる価値はありそうだ。


■ 全体を管理しやすいフォルダトラック

 次に挙げられる新機能が、メディアマネージャというもの。簡単に言ってしまえばGarageBandの真似ともいえるが、真似されたソフトから真似仕返したといったところだろうが、便利な機能だ。

 数多くあるループデータの中から目的のものを選ぶのに使うもので、ドラムなのか、ギター、キーボードなのかといった楽器について、またロックなのかジャズなのかクラシックなのかといったジャンルを選択することで、絞り込む。

テンプレートを選び、マウスカーソルをグルーブツールに持ち替えて選択 数あるループデータから目的のものを絞り込むメディアマネージャ

 デフォルトでは、ツリー形式でチェックを行なうのだが、GarageBandのようなボタンでの操作も可能となっている。ただし、AppleLoopsと異なり、従来のACIDデータの場合、こうした情報が埋め込まれていなかったので、自分で指定する必要があり、当然AppleLoopsとの直接的な互換性はない。とはいえ、現在Sony Media Softwareとして数多く発売されているループ素材集はすべてこれに対応しているので、即利用することが可能だ。

 一方DAWとして、他のソフトを追随している機能もいろいろとある。そのひとつが、いままさに流行のフォルダトラック。トラックをフォルダにまとめることで、管理しやすくするもの。たとえば、リズム用のフォルダを作り、そこにドラム関連のものをすべてまとめておけば、音量バランスをとったり、エフェクトを掛ける際などに便利な上、全体を見渡しやすくなる。

 また、今回ようやく対応したのがVSTプラグイン・エフェクト。ACID Pro 4ではVSTインストゥルメントには対応していたのに、なぜかエフェクトはDirectXのみでVSTプラグインには対応していなかった。それが、今回VSTプラグインに対応したことで、普段使い慣れているエフェクトをそのまま利用できるようになった。もちろん、数多くあるフリーウェアなども利用することが可能だ。

デフォルトでは、ツリー形式でチェックするが、ボタンでの操作も可 トラックをフォルダにまとめて管理しやすくするフォルダトラック 今回ようやくVSTプラグインに対応

 さらに、今回はVST関連では、オマケでついてくるソフトが強力。なんとのXpress Keyboards VSTiがバンドルされている。これはNative InstrumentsのPro-53、FM-7、B4の簡易版がセットになったもの。簡易版とはいえ、音源としての性能はオリジナルのものと同様。ただし、エディットできるパラメータが制限されている。

 もちろん、数多くのプリセットが用意されているので、それらでProphet-5やDX7、B3のサウンドがすぐに出せるようになっている。これはミディアがオープンプライス(実売15,800円前後)で販売しているXpress Keyboardsと同等のもののようだが、市販のものがWindows、Mac両用で、スタンドアロンでの使用も可能なのに対し、このバンドル版はWindowsのVSTインストゥルメントのみとなっている。

Pro-53 FM-7 B4


■ ReWire対応で利用の幅も拡大

 そのほか、今回のACID Pro 5で強化されたものとしてはReWire機能があげられる。ACIDユーザーでReWire対応を期待していた人も多いと思うが、今回それがようやく実現された。しかもReWireホストおよびReWireクライアントの両方に対応したので、CubaseやSONARといったDAWとの同期、Reasonなどのソフトシンセとの同期も可能になった。試しにSONAR4とReWire接続したところ非常に簡単にACIDの出力をSONARの1つのトラックとして取り込むことができ、ACID側の設定を見るとReWireのクライアントになっていることが確認できた。また、Reasonとの接続では、MIDIトラックの出力先としてReasonを選ぶことができた。

ACIDの出力をSONARのトラックとして簡単に取り込める ACIDをReWireのクライアントにできた MIDIトラックの出力先としてReasonを選択可能

 また、そのMIDI関連では、MIDIエディターがより充実した。キー、スケールスナップ機能が追加されより使いやすいものとなった。ピアノロール型のエディタと、リスト型のエディタの2種類があるが、とりあえずACIDだけでも編集作業はできる。とはいえ、やはりほかのDAWと比較すると貧弱なイメージはあり、ACIDだけですべてのMIDI制作を行なうというのはあまり現実的ではなさそうだ。

ピアノロール型のMIDIエディタ リスト型のエディタ

 さらに、リアルタイムでのイベントをリバースする機能、PCのキーボードを使ってトラック上にあるループやワンショットをリアルタイムで入力するLive風な機能、またディスクアットワンスCDのバーニング機能なども追加されている。

既存のMP3データやWAVデータもBeatmap機能で簡単にアレンジできる

 以上が、ACID Pro 5の概要だ。これでACIDも思いつく限りの機能を搭載し、完成したといっていいのではないだろうか。また、すでにお気づきだと思うが、今回のバージョンでまた日本語化されたので、よりユーザーフレンドリーになった。よくある音楽制作系ソフトの日本語版と違い、妙な言葉遣いなどもなく、気持ちよく使えるし、HELPファイルなどもしっかり日本語化されているので、わかりやすい。

 確かにループシーケンス機能自体はどのDAWでも可能になったが、やはりACIDならではという機能も数多く残されており、ACIDの価値の高さは十分に感じられた。たとえば、既存の曲のMP3データやWAVデータを読み込めば、Beatmap機能により自動的にテンポやピッチを分析してくれるので、簡単にアレンジできる点などは、他のソフトの1歩も2歩も先を行っている感じだ。その上で、ReWire機能で各種ソフトとリンクできるようになったので、今後も大きな威力を発揮してくれそうだ。


□Sony Media Softwareのホームページ
http://mediasoftware.sonypictures.com/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/acidpro/
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(2005年4月18日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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