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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第202回:NAB2005レポート
~ ようやく走り出したHDソリューション ~


■ NAB2005開幕

 例年NABでは初日の午前中は人出が少なかったものだが、今年のNAB2005はいつになく開幕初日から大変なにぎわいを見せている。世界的にも放送波のデジタル化を機に本格的なHD化の幕開けを迎えたことで、設備投資も加速されているようである。

 本日のNABレポートは、主なメーカーのHD関係のトピックを中心にお送りする。


■ PanasonicはP2ソリューションに集約

 セントラルホール入り口近くでもっとも大きなブースを構えるPanasonic。ただし今年は例年よりも若干ブースの面積を縮小し、P2のHDを中心とした撮影および編集ソリューションに集約した展示を行なっている。

 すでにリリースも出ている通り、P2カードにHVCPRO HDコーデックで記録するハンドヘルドタイプのカメラ、「AG-HVX200」を発表した。ただしまだ実動モデルはなく、モックアップによる展示となっている。

セントラルホール最大のPanasonicブース P2初のHD記録を実現した「AG-HVX200」 展示エリアは大変な人だかり

 しかしそれでも世界初の半導体記録HDカメラということもあり、展示機の周りは大変な人だかりで容易に近づけないほどだ。

 AG-HVX200は、ビデオでありながらバリアブルフレームレートで撮影可能として人気の高いVARICAMと、機動性とクオリティの高さで一躍ヒット商品となったAG-DVX100Aのいいとこ取りから生まれた製品であるという。コンパクトな筐体ながらもバリアブル撮影可能、またDVテープドライブまで内蔵しており、HDはP2カード、SDとしてはDVカメラとして使えるという、面白い仕様となっている。

背面にはP2スロットが2基

 また内部にはダウンコンバータを内蔵しており、HD撮影したファイルをSDにコンバートしてP2カード内に記録、それをDVテープに書き出すという使い方も可能になるという。PanasonicはこれまでP2の戦略として、放送局の報道向けに集中してきた向きがあるが、このHVX200を以てプロダクションユース、つまり番組制作用としても積極的に展開していく。

 日本での発売時期は、米国と同時で2005年秋。ご存じのようにP2カードの中身は、SDカード4枚である。つまり本機と8GB P2カードの発売は、2GBのSDカードのリリースに合わせることになるようだ。目標価格として約70万円を想定している。

 またP2カード用のバックアップストレージとして、「P2 store」こと「AJ-PCS060」を発表した。これはP2カードをHDDにバックアップするためのデバイスで、バッテリで駆動できるようになっている。HDDは60GBだが、型番が60ではなく060となっているところから、将来的には100GB以上のラインナップの存在も臭わせている。発売時期は2005年8月で、目標価格として225,000円を想定している。

P2カード専用ストレージ「P2 sore」 USB2.0端子も備え、バッテリで動作する

□関連記事
【4月18日】松下、P2カード対応のハンドヘルド型HDカメラ
-2005年秋発売。米国での価格は5,955ドル
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050418/pana1.htm


■ ProHDで注目を浴びるJVC

 JVCのブースでは、HDVフォーマットをプロユースとして展開する「ProHD」ブランドのカムコーダ「GY-HD100U」を発表、多くの来場者を集めている。

 GY-HD100Uは、HDVらしいコンパクトなサイズながらも、レンズが交換可能なショルダータイプを実現したカムコーダ。光学部は1/3インチ 1,280×720のプログレッシブ3CCD。レンズのマウントはバヨネット1/3となっており、残念ながら現状ではまだHD用レンズのラインナップは少ない。

ProHDで注目を集めるJVCブース レンズ交換可能なHDVカムコーダ

 記録フォーマットとしては、HDVとして720/24P、720/30P、480/60P、SD DVとして480/60i、480/24Pとなっており、ライブ出力として720/60Pのアナログコンポーネント出力も可能。会場では実機も多数用意され、テスト撮影もできるようになっている。また参考出品として、テープドライブをなくしてHD SDIで720/60Pの出力を可能にした同型モデルも展示されている。

 ユニークなのはショルダータイプの特徴を生かして、音のモニタ用にヘッドホンの片側だけのようなオーディオモニタを備えるところ。肩に担いだだけで、音声のモニタまで同時にできるわけだ。

 発売は今年7月を予定しており、米国での価格はFUJINONの16倍ズームレンズを付けて、6,295ドル。レンズなしモデルの販売も検討中であるという。

 昨年参考出品であった3-CMOSのカメラは、型番「GY-HD7000U」として出展されていた。16:9 2/3インチの1,920×1,080サイズのC-MOSを採用しており、テープ記録は720Pだが、出力は1080iが可能。外部にHDDストレージなどを用意することで、1080iの撮影も可能となっている。HD100UがProHDシリーズであるのに対し、こちらの上位ラインナップは「ProHD XE」というシリーズで展開していくという。

 こちらのほうの価格はレンズなし本体のみで27,500ドル、発売は来年4月を予定している。

HD SDIの出力を可能にしたスタジオカメラタイプも出展 ヘッドホンのようなオーディオモニタがユニーク「AG-HVX200」 3-CMOS採用のHDVハイエンドカムコーダ「GY-HD7000U」


■ソニー、XDCAM HDの実動モデルを展示

 NABで最大面積のブースを誇るソニーブース。製品の数も非常に多く、一通り見て回るだけでも相当時間がかかる。今年のスローガンは「HD HIGHWAY」ということで、昨年よりもさらに加速するHD化をイメージさせる。

 ブルーレイベースのディスクメディアに記録するXDCAMも、今年はHDに対応したカムコーダとレコーダが「XDCAM HD」として参考出品された。まだ自由に触れる状態ではないが、プロトタイプのカムコーダで撮影した映像も見ることができる。

NAB会場で最大規模のソニーブース XDCAM HDカムコーダのプロトタイプ

 カムコーダは従来と同様のディスクメディアに25MbpsのMPEG-2 LongGOPでHD収録可能。メディア1枚に90分の映像が記録できる。SD撮影はDVフォーマットのみに対応し、IMXはニーズが少ないとして今回の製品では対応していない。

 レコーダのほうも記録方式などは同スペック。発売時期、価格ともに未定だが、おそらく両製品ともにリリースは来年になる見通し。将来的には50Mbps以上のビットレートを目指し、またメディアの2層記録にもチャレンジしていくという。

 またHDVに関連して、コンバータなどで高い技術を誇るMirandaのブースでは、ソニーと共同開発したHDVからHD SDIのコンバータ「HD-BRIDGE DEC」を出品した。対応フォーマットは720Pと1080iで、前面には4ピン、背面には6ピンのIEEE1394端子を備えている。

XDCAM HDレコーダのプロトタイプ Mirandaのブースに展示されている「HD-BRIDGE DEC」

アナログコンポーネントのほか、タイムコード出力も備える

 出力はHD SDIのClean Out以外にも、タイムコード表示をオーバーレイしたHD-SDI出力を持つ。またHDアナログコンポーネントがある。オーディオはAESのほか、アナログ出力も備えている。

 最大の特徴は、収録素材のタイムコード出力も可能なところ。現在もHDV to HD SDIのコンバータは存在するが、タイムコード出力まで備えるのはこの製品がおそらく初めてではないかと思われる。また入力はHDVだけでなく、D-VHSのIEEE 1394端子からのMPEG-2ストリームからも変換可能と言う点は、非常にユニークだ。

 リリースは今年の夏を予定しているが、価格は説明員によって3,000ドルと言う人もあれば日本円で100万円以内と言う人もあり、まだフィックスしていないようだ。



■ Avid、旧Avid SymphonyをHD化したSymphony Nitrisを発表

 ノンリニア編集システムで最大勢力のAvidは、すでに昨年末からHD対応のノンリニアシステム、「Avid Media Composer Adrenaline HD」をリリースしている。今年はさらにMedia Composerの上位バージョンでHD化が遅れていたAvid SymphonyをHD化、Avid DS Nitrisのハードウェア部分と組み合わせた「Avid Symphony Nitris」を発表した。

ノンリニアシステムの最大手Avidブース Nitris上で動作するAvid Symphony

 Adrenaline HDのリリース以前から、ハードウェアのアクセラレータを装備してHDの2ストリームリアルタイムエフェクトが可能なシステムとして、「Avid DS Nitris」が存在した。しかし元々のソフトウェアはSoftimage|DSであったものをAvidが買収したもので、GUIなどはAvid製品とはまったく違っていた。このためMedia Composerに慣れているユーザーからは、NitrisのハードウェアでMedia Composerが動かないのか、というニーズが多かったのだという。

 Avid Symphonyは元々Avidが開発したソフトウェアで、GUIなどはMedia Composerに準じているため、従来のユーザーも同じ操作感でNitrisの機能が使えるようになる。発売は今年の9月を予定しており、価格は1,380万円を予定している。

HD SDIの信号をSDIで伝送する「DNxchange」

 またユニークなコンバータとして、「DNxchange」を参考出品した。これはHD SDIの信号をDNxHDにエンコードすることで帯域を減らし、SDI出力にデータストリームとして流すというコンバータだ。

 これによりSDI対応の製品、たとえばルーティングスイッチャーやVDAといった信号伝送機器をそのまま使って、HDの信号を送ることができるようになる。受け側のAvid製品でこの信号をDNxHDとしてキャプチャし、HDの映像信号に復元し、編集などの作業を行なうわけである。

 基本的にSDIはインターフェースを規定しているだけなので、中身は何を伝送しても構わない。しかしこれまでは慣習として、SDの非圧縮映像信号ぐらいしか伝送してこなかった。SDIを映像信号ではなく、データストリームの伝送に利用する例は、エンベデッドオーディオを別にすれば、きわめて珍しいと言えるだろう。

 発売時期および価格は未定だが、放送局のように大規模なSDIの伝送システムがすでに存在する場合には、HD化に際して大幅なコストダウンが見込めることになる。


■ GrassValley、報道用ノンリニアNewsEditをHD化

 仏Thomsonのプロ機器ブランドとして名を残すGrassValley。以前から報道用ノンリニアシステムとしてNewsEditという製品をリリースしてきたが、今回はこのHDバージョンを参考出品した。日本では報道から先にHD化が進行するという特殊事情のため、長らくHD化が望まれてきた製品でもある。

 NewsEdit最大の特徴は、テープデッキからキャプチャすると同時にタイムライン上で編集を行なうことができるため、報道編集で敬遠されるキャプチャ時間の無駄がないところ。今回HDに対応したということで、HDCAMやDVCPRO HDのデッキをHD SDIで接続して、テープから直接ノンリニア編集を行なうことができる。

米国では絶大なブランド力を誇るGrassValleyブース NewsEditのHDバージョン。正式な製品名はまだ未定

 展示機はまだプロトタイプということで、ソフトウェアエンコードによるMPEG-2のキャプチャしか動作していないが、本来はNECとNHKが共同開発したエンコーダチップで、Iフレームオンリーのハードウェアエンコードが可能だという。

 操作性はSDバージョンと全く同じで、エフェクトもリアルタイムレンダリングを目指して開発中。ただ初期リリース時には、エフェクトは2Dのみとなる。

 本体はWindows PCにストレージを組み込んだターンキーシステムだが、SDバージョンで存在したラックマウントモデルは当面なく、タワー型PCの筐体になるとのこと。Xeon Dual CPUがベースになるため、ヒートシンクのサイズがネックとなり、ラックマウントボディに収まらないというのが真相のようだ。

 ユニークなのは、デュアルモニタ仕様で片方のモニタをHD用の高解像度ビデオモニタとして利用する機能。放送用HDのビデオモニタは非常に高価でそう簡単には用意できないが、これを安価な割には高解像度のPC用モニタで代用するわけである。

 もちろんフレームレートやガンマの問題があり、本物のビデオモニタの代わりにはならないが、とりあえずフル解像度で絵柄を確認することができる点は評価できるだろう。

Viper専用記録ストレージ「Venom」

 正式発表が今年の秋頃で、受注もそのころから開始する。実際のシッピングは、年内から来年初頭の見込み。価格は800万円台を想定している。また本体でキャプチャせず、ビデオサーバと組み合わせるネットワークタイプの製品も予定しており、こちらは400万円台となる見込み。

 また、ビデオカメラながら非圧縮フィルムストリームモードを備えるハイレゾリューションカメラ「VIPER」に、本体に取り付け可能な記録ストレージ「Venom FlashPak」も発表された。従来VIPERで録画するためには、巨大なHDDストレージユニットが必要であったが、Venomはカメラ本体に取り付けることでVIPERに機動力をプラスする製品。これを付けた見た目はまさにフィルム用カメラだ。

 4:2:2の非圧縮HDストリームでは約10分から18分ほど記録が可能で、Venom自体を取り外して大型HDDストレージに接続することで、映像をバックアップできる。発売は2005年7月を予定しており、価格は45,000ユーロから。


□NAB 2005のホームページ
http://www.nabshow.com/
□関連記事
【2004年4月28日】【EZ】NAB2003レポート:ハードウェア編
~急速にHD化する米放送業界~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040428/zooma152.htm
【2004年4月21日】【EZ】NAB2004レポート:サウスホール編
~ ようやく見えてきたHDノンリニア時代の幕開け ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040421/zooma151.htm

(2004年4月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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