■ 幻のHDDレコーダ? 豊富な編集機能やPCとの連携機能など、どちらかというとマニアックな機能を多数搭載し、パワーユーザーを中心に支持を集め、ハイブリッドレコーダで確固たる地位を築いた東芝のRDシリーズ。3月に発売された「RD-Z1」はデジタルチューナやHDMI出力を備え、機能や高画質・高音質回路を満載したフラッグシップモデルとして注目を集めている。
その一方で、最近RDシリーズユーザーの目を釘付けにしているのはRD-Z1の対極にある最もシンプルなRDシリーズ、「RD-H1」だ。DVDドライブを省いた、RDシリーズ初の単体HDDレコーダとなっており、HDD容量は250GB。 DVDドライブを備えていないことや、直販サイトのみの販売でコストを抑えたことから、31,990円という低価格を実現したのが最大の特徴。同じ250GBのHDDを搭載した現行機種「RD-XS46」は、家電量販店で9万円前後で販売されているので、価格面では相当安い印象を受ける。 なお、RDシリーズの低価格モデルと比べても160GBのHDDを搭載したRD-XS34が量販店で5万円台前半、80GBのRD-XS24は4万円台中頃で販売されている。最安値モデルよりも、さらに1万円程度安く買えるRDシリーズというわけだ。 3月9日の午前10時から同社の直販サイト「Shop1048」(ショップトウシバ)で予約受付けを開始したが、初回出荷約1,000台は約3時間で完売。3月14日に再度予約受付を行なったが、予約開始当日に売りきれ。その後も追加されるたびにアクセスが集中、あっという間に売り切れという状態を繰り返している。さながら「幻のレコーダ」といった状況だ。
人気を集めている理由は、値段が安いというだけではない。RD-H1は、単に番組をHDDに蓄積するだけのHDDレコーダとは異なり、非常に豊富な拡張性を持っている。
■ 増設用HDDであり、動画サーバでもある
簡単に仕様を見てみよう。チューナは地上波アナログチューナを1基搭載。価格が価格なので、ゴーストリダクション機能や、BSアナログチューナ、スカパー!連動機能などは装備していないが、3D Y/C分離回路は備えている。 EPGは、Ethernet経由のEPG「iNET」と、地上アナログ放送波から受信した「ADAMS」を組み合わせた「WEPG」を採用している。既にお馴染みの仕様だが、「RD-XV34/44」などから採用された「野球延長」機能は搭載していない。 ここからが重要な機能だが、「ネット de ナビ」機能をサポートしている。これは同一LAN内のPCからRD-H1を制御できる機能で、PC上からiEPGを利用して録画予約したり、外出先のPCや携帯電話から電子メールを経由した録画予約を行なったり、PC上で録画済みコンテンツの一覧を見たり、「ネット de リモコン」を使ってPCからリモコン操作を行なったりと、様々な機能が含まれている。 そして、最大のポイントは、「ネット de ダビング」機能をサポートしていること。これにより、LAN内に対応したRDシリーズがあれば、HDD内の録画済みコンテンツをEthernet経由で相互にダビングできるのだ。 現在、ネット de ダビングに対応しているRDシリーズは、RD-XS43/XS53/XS24/XS34/XS36/XS46/X5/Z1の全8機種。いずれかの機種を持っている場合、LAN内にH1を追加すれば、単体HDDレコーダでありながら、録画したコンテンツを手軽にRDシリーズのHDDに受け渡すことができる。さらに、他のRDシリーズの内蔵DVDドライブを、あたかもH1のDVDドライブのように扱い、DVDメディアにダイレクトに書き出すこともできる。
もちろん、H1以外のRDシリーズから録画データをH1へコピーすることもできるため、HDD容量に余裕がなくなった際の緊急退避用HDDとしてH1を利用することもできる。つまりH1は、録って観たら消すだけのHDDレコーダだけでなく、RDシリーズの増設用HDDとしても、DVDドライブを間借りする低価格なハイブリッドレコーダとしても利用できるという、今までにない面白いコンセプトの製品なのだ。
■ 低価格ながら安っぽさはない では実際に製品を見てみよう。箱から出してまず感じるのは軽さだ。重量は3.9kgで、組み合わせ相手として用意したRD-X5の7kgと比べると約半分。外形寸法は430×336×58mm(幅×奥行き×高さ)と、X5の430×338×78mm(同)と比べると若干薄い。横幅や奥行きはさほど違わないため、よけいに軽く感じる。ともかく、既存のレコーダに追加で購入するという場合が多いことを考えると、この薄さはありがたい。フロントパネルはプラスチックだが、無駄のないデザインであまり安っぽくは感じない。ボタンもシンプルで、ディスプレイを挟んで左側には電源ボタン、右側には録画、再生、一時停止、停止ボタンのみ。もっとも映像を蓄積する用途がメインとなるHDDレコーダでは本体に複雑なボタンは必要ないだろう。
背面端子部も必要充分といった感じで、アンテナ入出力とS映像、コンポジット、アナログ音声の入出力を各2系統、さらにD2と光デジタル出力を各1系統備えている。HDDレコーダとしては豊富な部類に入るだろう。 冷却ファンは出っ張ったタイプ。内部に空間が多いようで、筐体の鳴きと合わさり、低い「ゴォー」という動作音が確認できる。だが、AVラックに入れてしまえば気にならないレベルだ。筐体の鳴きを取ろうとオーディオで利用している鉛の塊を乗せたり、インシュレーターに乗せたりしたところ、だいぶ低減できた。
■ 起動の早さに感動 起動時間を見てみよう。リモコンの電源ボタンを押し、「見るナビ」ボタンを連打。見るナビ画面が表示されるまでの時間は約15秒だった。DIGAの2005年春モデルなど、最近は高速起動をウリにした製品も登場しているが、起動の遅さが印象的だったRDシリーズのユーザーにとっては十分高速に感じるだろう。この高速化は、DVDドライブの起動時間や、メディア認識(メディアが入っていないという認識を含む)にかかる時間がないためだと思われる。なお、RD-X5ではメディアが入っていない状態で約20秒、メディアがあるとメニューが表示されるまで30秒以上かかることもある。すぐに録画を行ないたい時など、H1の起動速度は魅力だ。 設定画面では、DVDドライブのファームウェア情報がないほかは、従来のRDシリーズと大きな違いはない。ネットワーク接続が重要になってくるが、ネットワークの設定方法も従来通りで、RDシリーズを使っているユーザーなら迷うことはないだろう。なお、正常にネットワーク接続が行なえても、「ネット de ダビング」を利用する際は、ダビング先のレコーダとH1が同じ「ダビンググループ名」になっている必要がある。細かい点だが注意が必要だ。
メニューはEPG表示や番組情報表示などを行なう「番組ナビ」と、編集やダビングを行なう「編集ナビ」、録画予約を行なう「録るナビ」、録画済コンテンツを表示する「見るナビ」を用意する。また、それらの機能へ目的別に案内する「簡単ナビ」も備えているので、迷った時はリモコンの「簡単ナビ」ボタンを押せば良い。 搭載しているソフトウェアはX5以降の機種とほぼ同じなので、基本的な機能については過去のレビューを参考にして欲しい。違いは「編集ナビ」にDVDメディアへの書き出しに関連する項目が無くなっているくらいなので、現行のRDシリーズを利用しているユーザーは説明書を読まなくても使いこなせるだろう。 見るナビではフォルダごとの分類機能も備えており、作品毎やユーザー毎にコンテンツを管理できる。パスワード付きのフォルダも作成可能。編集ナビではチャプタの位置をずらす「チャプター境界シフト」や、編集ポイントをGOP単位で確認するための「再生範囲拡大」といった機能も利用できる。書き出す術のないHDDレコーダでは編集機能がおざなりにされがちだが、メディアへの書き出しが容易に行なえるH1の場合はRDシリーズの編集機能をほぼフルに利用できるのも特徴だ。
「録るナビ」の録画予約では、当然のことながら録画先がHDDのみに変更されている。また、ネット de ナビに対応しているので、番組検索などは本体だけでなく、PCでも行なえる。
画質面ではゴーストリダクション機能を備えていないが、必要十分な画質は確保している。録画モードはSP(4.6Mbps)、LP(2.2Mbps)のほか、1Mbpsから9.2Mbpsまでのマニュアルレート設定が可能。X5で録画したサンプル動画を比べると、輪郭や細部の描写で若干解像力が落ちているが許容範囲だろう。各モードのサンプル動画は下表の通り。
■ PCへのネット de ダビングも可能
ネット de ダビングは、リモコンの左下の専用ボタンから1発でメニューに飛べるほか、編集ナビの「ダビング先」から、「ネットワーク」を選ぶことでも選択できる。メニューにはネットワークに接続しているネット de ナビ機能対応レコーダの一覧表示されているため、ダビングしたい機種名を選び、決定を押すだけでダビングがスタートする。 H1のHDDに、ほかのレコーダからダビングする際も同じ方法で、メニューからH1を選択するとダビングが始まる。ダビングにかかる時間は、マニュアルレートで最高画質の9.2Mbpsで録画した1時間番組で1時間1分10秒、SPモード(4.6Mbps)で1時間録画したものは32分程度かかった。SPモードで録画した番組のファイルサイズは1.97GBだったため、転送速度は8Mbps程度。LANは100BASE-TXなので、速度の遅さはレコーダ側の性能によるものだ。ちなみにH1からX5、X5からH1でもダビング速度にほとんど差はなかった。
ほかにもいくつか番組をダビングしてみたが、ビットレートが最高レートに近づくにつれてダビング速度は実時間に近くなり、SPモードでは実時間の半分程度となる傾向は変わらない。なお、ネット de ナビではレート変換ダビングは行なえず、無劣化ダビングのみとなる。コピーワンスコンテンツのダビングも行なえない。
また、H1からレコーダのHDDだけでなく、DVDドライブに直接ダビングが行なえる。対応したメディアはVRモードのDVD-RAM/-RW/-Rで、ビデオモードのDVD-R/RWへはダビングできない。DVD-R/RWへビデオモードでダビングしたい場合は、ダビング先のHDDを一旦経由する必要がある。 VRモードでフォーマットしたDVD-RAM/-RW/-RメディアがDVDドライブに入った状態では、ダビングメニューの機種名の横に、新たに「DVD」という文字が追加されている。H1からダビング先の機種のDVDを選べば、DVDメディアに直接ダビングするという仕組みだ。先ほどと同じSPモードのコンテンツを3倍速のDVD-RAMメディアに直接ダビングしたが、所要時間は32分でHDDとほぼ同じだった。
フォーマットが限定され、ダビング前にはダビング先のレコーダの電源を入れなくてはならないという手間もかかるが、単体のHDDレコーダにDVDドライブを増設したような、違和感の少ない操作性を実現している。なによりも、PCを使わずにこれだけ手軽に映像をメディアに落とせるHDD単体レコーダはほかにないだろう。 なお、手動で録画を開始した場合は、録画とネット de ダビングを同時に行なえるが、予約録画がスタートするとダビングは中止されてしまう。これはH1本体だけでなく、ダビング先のレコーダが予約録画を開始してもダビングがキャンセルされてしまうので注意が必要だ。
また、PCをRDシリーズのように見せて、RDシリーズからPCへネット de ダビングが行なえるフリーソフト「VirtualRD for Windows」も利用可能だった。Ver 1.01で利用したところ、問題なくH1からMPEG-2ファイルが取り出せた。ダビングの所要時間はRDシリーズ間でのダビングと同程度だ。 PCへのダビングは、H1のダビングメニューに追加される「VirtualRD」を選択すると開始される。なお、VirtualRDのVer 2.00β7も利用できたが、一度だけ転送中にエラーが出て終了してしまった。H1を再起動したところ問題なく完遂できたが、このあたりの安定度はH1とVirtualRD双方のバージョンアップに期待したいところ。また、PCからH1へダビングする機能も、現在のバージョンでは上手く動かないようだ。なお、VirtualRDの利用は東芝のサポート外となる。
■ 用途によって魅力度がアップする低価格機 仕様としては「現行のRDシリーズからDVDドライブを省いた低価格機」であり、それ以上でもそれ以下でもない。利用イメージが明確に描けるか否かで魅力度やコストパフォーマンスが変わってくるだろう。現在、デジタルレコーダを所有しておらず、「とにかく安くデジタル録画環境を手に入れたい」という人には31,990円という価格は魅力的だ。家電量販店で取り扱っているHDDレコーダは、ほとんどがi.LINK端子を備え、HD放送をストリーム記録する機器であり、価格も5万円を越える。HD録画にこだわらなければ、WEPGや予約録画機能、番組検索機能、編集機能などは競争の激しいハイブリッドレコーダ市場で培われたRDシリーズのソフトがそのまま使われているので、良い意味で枯れた操作性が期待できるだろう。
また、家庭内LANを組んでいるというユーザーには、ネット de ダビング機能を利用してPCに書き出せるため、映像サーバとしての魅力もある。ネット de ナビ機能には、現在H1が表示している画面情報をMPEG-1に変換し、PCにストリーミング送信する遠隔モニタ機能「ネット de モニタ」も利用できるため、部屋にいながらリビングのH1を制御することも可能だ。 ネット de ダビングに対応したRDシリーズを持っているユーザーには、緊急退避用のHDDとして利用できるが、H1の録画機能を利用しないのはもったいない。できればBSアナログチューナや、スカパー! 連動機能なども備えて欲しかったが、価格を考えると仕方のないところ。ただ、「外部入力2」において、入力自動録画機能が利用できるため、外部チューナとの組み合わせは可能。デジタルチューナと組み合わせればデジタル放送をSD解像度で録画することもできる(その場合はネット de ダビングは行なえない)。 DVDドライブへの直接書き出しを積極的に利用すれば、HDDだけでなく、地上アナログチューナを増設したことにもなるので、31,990円でダブルチューナ機能を手に入れると考えても面白いだろう。 また、ネットワーク機能をより積極的に利用するのも良い。例えば各部屋のテレビにH1を設置し、家族でそれぞれ好きな番組を保存。家族間で番組のコピーも手軽に行なえ、DVDに残したい時はリビングなどに置いた共有のハイブリッドレコーダで各自が書き出すといった使い方も便利そうだ。
「高価なハイブリッドレコーダを購入してみたものの、HDDに録って、観て、消すばかりでDVDへの書き出しはほとんどやっていない」というユーザーが多いことを考えると、H1の録画ソリューションは新鮮な魅力を持っている。「ネット de ダビング対応のDVDドライブだけ」といった製品が登場しても面白いだろう。
■ とりあえず、分解してみました
□東芝のホームページ (2005年4月21日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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