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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第204回:ある意味理想のミュージックプレーヤー「iAUDIO X5」
~ ゼイタク仕様の全部入りモデル登場 ~


■ 動画対応は間違い?

 HDDタイプのミュージックプレーヤーがカラー液晶を搭載するようになって以来、「なぜカラーが必要か」の答えには、静止画表示機能を持ち込んできた。カラー液晶はもちろん製品の差別化のためで、音楽再生装置としては必要条件ではない。だがせっかくカラーなのに、写真が見られますというだけでは説得力に欠けるのもまた事実である。

 かのスティーブ・ジョブスはiPod photo発表の場で、「音楽プレーヤーが動画に対応するのは間違いだ」と言ったが、もちろんそれは自社製品を擁護するための牽制であり、それを額面どおりに捉えるべきではない。深読みすれば、それだけ動画対応製品が出てくることを恐れているという意味でもある。普通ハードウェアとしてiPod photoを見れば、動画再生を連想して当然だ。

 それを見越してか、最新のiTunes4.8では、Quicktimeの動画まで再生可能になっている。もはやユーザーからiPodでそれが見たいという欲求が沸き上がってくるのも時間の問題だろう。

 動画再生可能なポータブル機といえば、今のところ動画がメインで音楽再生機能は付加価値的なスタンスの製品が多いが、これはある意味購入する時点でユーザー層が違う。しかし「iAUDIO X5」(以下X5)は、音楽再生を中心に置きながら、MPEG-4動画の再生を可能にした意欲作である。

 iAUDIOシリーズは、韓国COWON Systemsの音楽プレーヤーで、日本ではバーテックスリンクが販売している。以前から音質補正技術としてBBEを採用し、音質にこだわった製品として日本国内でも評価の高いシリーズだ。

 その最新モデル、そしてシリーズとしては2作目となるHDDタイプであるX5を、音楽再生と動画再生を中心に試してみよう。


■シンプルなフェイス

 ではいつものように外観から見ていくと思ったら大間違いだ。いつもいつも同じ書き出しでは筆者も飽きるのである。まず最初に製品ラインナップから押さえていこう。

 X5は、オプションなどの組み合わせで3種類のバリエーションがある。通常モデルが「X5-20-BL」、それにリモコンとクレードルを追加したフルセットが「X5-20-BLF」、そして本体そのものを大型バッテリ搭載に変更したモデルが「X5L-20-BL」となっている。また別売で、革製キャリングケースがある。

 英語版iAUDIOのサイトには、HDD容量として20GB/30GBとあるので、30GBモデルも存在するのかもしれない。

厚みを感じさせない上手いデザイン

 機能としては、音楽再生機能はもちろん、XviD動画再生機能、FMラジオのリスニングと録音、マイクによるボイスレコーディング、ライン入力によるMP3録音、静止画表示、テキストビューワ、USBホスト機能がある。音声ファイルは、MP3、OGG、WMA、WAV、FLACに対応しているが、WMAのDRMはサポートしていない。対応ファームウェアは7月末に公開予定だという。

 本体のデザインだが、つや消しブラックのアルミをベースにした、シンプルな印象。縦横の面積はほぼiPod photoと同サイズだ。特徴的なのは厚み方向の曲線で、液晶付近だけが厚くなっている。もし全体的にこの厚みであれば、ほぼ体積もiPod photo 60GBモデルと同等となったところだが、下部を薄くしぼり込んだおかげで全体的に薄い印象を持たせることに成功している。曲面処理も破綻がなく、綺麗に仕上がっている。

 カラー液晶パネルは、1.8型、解像度160×128ドットのカラーTFTで、左側には「COLOR SOUND」という意味不明の英文がデザインされている。そのほか正面にはジョイスティックがあるのみで、シンプルだ。上部には充電時に点灯するLEDがある。

 右側側面には、電源ボタン、REC/A-Bボタン、PLAYボタンがあり、ボイスレコーディング用のマイクとリセットボタンの穴がある。反対の左側は、リモコン/イヤホン端子とUSB端子がある。USBは拡張端子類をまとめたサブパックやオプションのクレードルがあるので、本体の端子を使うケースは、屋外でデジカメと繋いでフォトストレージとして利用するときぐらいだろう。

上部には充電時に点灯するLEDがある 右側にボタン類が集中 左側にはイヤホン/リモコン端子とUSB端子

 底部にはクレードル用マルチコネクタがある。標準モデルではクレードルは付属しないが、同じ機能を持つサブパックが付属するので、機能的な不自由はない。要はサブパックでは「自立できない」だけである。ちなみにフルセットにのみ付属するクレードルとリモコンは、前モデルiAUDIO M3のものが流用可能となっている。ボディ下部の絞り込みには、デザイン以外にこういう意味もあったわけだ。ただし色はX5の本体に合わせて、付属のものは黒になっている。

標準で付属するサブパック。クレードルと同じ機能を持つ フルセットに付属するクレードル

 リモコンも見てみよう。バックライト付きのモノクロ液晶で、文字は小さくなるものの、本体表示とほぼ同等の内容を表示することができる。ボタンは上部にMODE、REC-A-Bボタン、下部にはホールドボタンがある。また上下対称位置にレバーがあり、上部は曲の再生、スキップなど、下部はメニュー表示やボリューム調整となっている。

 付属のイヤホンはiAUDIO M3に付属しているものと同型で、Cresynの「AXE599」。最近韓国製プレーヤーには、Cresyn製のイヤホンを採用する例が増えている。オーディオテクニカの高級モデルをOEMするなど、優れた製品を輩出するメーカーのようだ。

 ついでにオプションのキャリングケースも見ておこう。Made in Chinaと書いてあり、匂いを嗅ぐとどうも本革ではないかという気がする。そういう判断基準でいいのかという話はあるが、他に確かめようがないので勘弁してくれ。

 これを装着すると、とたんに昔懐かし「オヤジのFMラジオ」に見えてしまうから不思議だ。だが悪い事ばかりではない。こういうルックスであるから、あまり人から注目されずに動画も楽しめるというメリットもある。またあまり高そうに見えないことから、盗難避けにも効果があるだろう。いや、これは本気で言っている。最近ニューヨークの地下鉄では、iPodが盗難に遭うケースが増えているという。

フルセットに付属するリモコン 付属のイヤホンはCresynの「AXE599」 「オヤジのFMラジオ」に偽装可能な革製キャリングケース


■充実の音質補正機能

 まずは音楽再生からチェックしてみよう。X5は多くの韓国製製品がそうであるように、音楽の転送に関して特に権利関係を処理しない。したがってPCに繋いだらドラッグ&ドロップで転送できるのだが、プレーヤー側の容量が大きくなるほど、そういったちまちました転送方法は不向きだ。

音楽転送ソフト「JetShell」

 X5には「JetShell」というソフトウェアが付属しており、CDからのリッピングや音楽転送を一括で処理することが出来る。構造としてはエクスプローラが上下二段組みになったみたいな感じだが、上にPC内の音楽ファイル、下にX5の内部が表示される。上下間は双方向に転送できる。

 ただこれだけではエクスプローラを使った転送と大差ないのだが、画面右下のダウンロードリストに転送したいフォルダを登録しておき、一気に転送することもできる。まあたしかにこういった仕組みは必要なのだが、所詮PCでのフォルダ構造をそのまま転送するだけなところは、今ひとつだ。

 例えば1曲だけを転送した場合、プレーヤー内部で「アーティスト名/アルバム名/曲名」といった階層を自動形成してくれるわけではなく、単にぽつんと曲データが転送されるだけなのである。こういう作りだと、うっかり「ダブリ転送」をしてしまうことも多い。つまりフォルダ構造がちょっと違うだけで、同じ曲やアルバムを重複して転送できてしまうのだ。これはiPod以外のほとんどのプレーヤーに当てはまることだが、音楽ファイルをID3タグを元に転送先で整理するようなオペレーションこそ、もう一歩脱却すべきポイントだろう。

 転送するフォルダなどには特にルールはなく、ルートに全部ぶちまけてもいいが、自分で「MUSIC」などフォルダを作ってやってそこに転送したほうがわかりやすいだろう。

 本体での操作方法だが、ジョイスティックを短くセンター押しするとディレクトリを表示する「ナビゲータ画面」となる。ジョイスティックの左で上位階層、右で下位階層に移動しながら、聴きたい音楽を探していく。聴きたいアルバムのフォルダが見つかったところでセンター押しすると、「Expand/Play now/Add to List」の選択肢が出てくる。Play nowを選ぶと、そのフォルダ内の全曲を再生する。

フォルダの状態を表示するナビゲータ画面 フォルダに対して再生を指定する 音楽再生中の画面

 つまりどの階層でPlay nowするかで、再生する曲の範囲が決まるのである。例えばアーティストフォルダ内に複数のアルバムがある場合、アーティストフォルダでPlay nowすればアルバム全部が再生範囲になる。アルバムのフォルダでPlay nowすれば、そのアルバムのみが再生範囲となるわけだ。

 他の選択肢、Expandは内部フォルダへ移動、Add to Listはプレイリストへ登録できる。X5では、本体のみでプレイリストが作成できるのである。

 本体のジョイスティックを使っての操作は、すぐに覚えられる。面倒なのが、リモコンでの操作だ。ディレクトリや曲名の表示は縦スクロールなのだが、縦レバーというのがないので、左右のレバー操作で上下を移動することになる。そもそも右に倒すと下に行くとか、いや左が下に行くとかいった感覚は、元々操作が不条理なだけに、各個人で感覚がまちまちなのではないだろうか。前モデルiAUDIO M3はこのリモコンしか操作法がなかったはずだが、みんなこれでよく使えたな。

 本体ジョイスティックをセンター長押しすると、トップメニューに移動する。ここで他の機能への切り替えや、オーディオの設定などができる。iAUDIOシリーズの特徴として、オーディオエフェクトが豊富という点が上げられる。

「JetEffect」という名目で括られたこれらのエフェクトは、全部で6種類。中でも「BBE」は、古くから楽器関係では、スピーカーの物理特性に起因する低域と高域の位相のズレを補正するとして、評価が高い。X5では0~10まで段階的に設定できる。

全機能にアクセスできるトップメニュー 音質補正のエフェクトが充実

 付属のイヤホンとの組み合わせでは、元々の音は中音域にちょっとクセがあるサウンドだが、効果を上げるにしたがって高域、低域の密度が上がっていき、変なクセが消えていく。ただしあまり上げすぎると中域のボーカル帯が押しつぶされてしまうので、程度を心得て使うべきだろう。またこの設定は接続するイヤホンによって変えるべき設定でもある。

 「Mach3Bass」も同じく0~10までの可変範囲を持ち、中低域に影響を与えずに低音部だけを増強する。もちろん設定は好みだが、あまり上げすぎるとソースによっては歪んでしまうので、BBE設定とのバランスを考慮すべきだろう。

 MP Enhanceもいい機能だ。ON/OFFしかないが、破壊型圧縮に起因する高周波特性の劣化を補正する機能である。ONにすると、全体的に音が前に出てくる。

 曲間はほんの少し開くものの、大半のプレーヤーに比べればかなりギャップは狭い。音楽再生に関しては、かなり満足度が高いプレーヤーである。


■意外に使える? ビデオ再生

 続いてビデオ再生を見てみよう。サイトの情報には単にMPEG-4としか書かれていないが、MPEG-4ならなんでも再生できるわけではなく、マニュアルによるとXviD対応のようである。

 カタログなどでは付属のソフト「JetAudio」でファイル変換、と書かれているが、正確にはJetAudioから起動できる「Convert Video」というバッチ変換ソフトで変換を行なう。Convert Videoは、それ単体でも起動できる。

音楽再生以外にも様々な機能にアクセスできる「JetAudio」 映像ファイルを変換する「Convert Video」

 JetAudioをインストールすると、専用にカスタマイズされたJetAudio XviD Video Codecが一緒にインストールされるが、試しにDV-AVIやMPEG-2などのファイルを試してみたところ、出力後のファイルが不完全であったり、変換途中で停止してしまったりといった現象が見られた。

画質設定のようなものはほとんどない

 XviDは確かにフリーのコーデックではあるが、あまり一般的とまでは言い難い。わざわざX5で見るためだけにいったんXviDのファイルを用意するというのもしんどい話なのだが、試しに手持ちのDivXのファイルを変換してみたところ、上手く行った。そのほか試した範囲では、ASFやWMVも行けるようだが、QuicktimeのMPEG-4ファイルはダメだった。

 変換プロセスでは、画質に関する設定は縮小化のアルゴリズムが選べるぐらいで、ほとんど何もする必要はない。変換速度は、最初は0.4倍程度からスタートするが、徐々に加速していき、最終的には3.5倍速程度まで速くなる。

 テストマシンはPentium 4 1.8GHzだが、30分番組(実質23分程度)の変換が6分ぐらいで完了するので、手元にDivXファイルがあるユーザーならば、現実的な速度だと言える。参考までにDivXの元ファイルと、アルゴリズム別のサンプルを掲載しておく。DivX Playerならば再生できるだろう。


動画サンプル
アルゴリズム サンプル
オリジナルDivXファイル
ezsm01.avi

(約3.34MB)
Default
ezsm02.avi

(約1.5MB)
Point
ezsm03.avi

(約1.42MB)
Bilinear
ezsm04.avi

(約1.32MB)
Bicubic
ezsm05.avi

(約1.43MB)
Lanczos
ezsm06.avi

(約1.09MB)
編集部注:DivXの再生には、専用のコーデックが必要になります。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。(c)CREATIVECAST Professional


 音楽とビデオの再生は、特にモード切替のようなものはなく、単に再生するファイルの違いのみによって判別される。再生画像は15fpsとなるが、全体的にコマ落ちなどもなく滑らかだ。液晶の特性としては、ダイナミックレンジが狭いのが気になるものの、視聴に支障をきたす程度ではない。

 屋外では液晶の輝度を最大に設定しないと見づらいが、予想外にちゃんと楽しめる。もちろん欲を言えば、画面が大きい方がいいに決まっているが、持ちやすい形状、そして持っていて疲れない軽さが魅力だ。このサイズでちゃんと動画再生でき、ファイル数もかなり放り込めるという点では、携帯電話よりも現実的だろう。


■総論

 音質が良く、動画再生まで可能なミュージックプレーヤーというのは、ある意味誰もが夢想した存在であろう。筆者としては、まだしばらくは動画と音楽は別のプレーヤーという時代が続くのかなと思っていたのだが、音楽プレーヤーでいち早く動画再生を実現したiAUDIO X5の存在意義は大きい。

 本文では触れていないが、FMラジオもワールドワイド仕様だし、録音もできる。出張には是非もので持っていきたいアイテムである。価格も意外に高くなく、すでにネットでは4万円を切る値段が付き始めている。

 個人的な意見だが、クレードルやリモコンは、無理には必要ないだろう。充電中は平行して動画再生などの操作ができるわけではないので、立てておく意味があんまりないのである。リモコンの使いにくさに関しては、すでに本文中で述べた。

 機能的にはiAUDIO X5は、広く一般にもブレイクする要素を数多く持っている。だが問題は、PC臭さがまだそのまま残っている点だろうか。例えばPC接続時には、SYSTEMやFIRMWAREといったフォルダが丸見えになってしまう。マニアにとってはいじりがいがあるだろうが、単にコンテンツが楽しめればいいというユーザーにとっては、難しそうな印象を与える。また好きにフォルダを作って管理は自分でやって、というのも、コンシューマ機としては善し悪しだろう。

 また製品の情報が不足気味なのも気になるところだ。単に動画再生が「誰でも簡単に」と書かれても、コーデックでつまずく人は多いことだろう。せっかくのアドバンテージなのに、そこがうまく機能しなければ魅力は半減する。

 X5は、「わかる人にはわかる」プレーヤーでは勿体ない、ある意味国産メーカーにはまず作れないタイプの製品だ。多くの人にこの魅力がうまく伝わることを切に願っている。



□バーテックスのホームページ
http://www.vertexlink.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.vertexlink.co.jp/press/2005042701.html
□製品情報
http://www.iaudio.jp/product/iaudio_x5/
□関連記事
【4月27日】バーテックス、MPEG-4再生可能な20GB HDDプレーヤー
-「iAUDIO X5」。M3のリモコン/クレードルが利用可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050427/vertex.htm

(2005年5月11日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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