■ 人気のシャマラン監督最新作
「ヴィレッジ」は、「アンブレイカブル」から「シックスセンス」、さらに前作「サイン」と、立て続けにヒットを飛ばしたM.ナイト・シャマラン監督の最新作。前作ほどのヒットとは至らなかったようだが、量販店のDVD売り場では平積みで、大々的にディスプレイされている。現在、「エイリアン VS プレデター」などと並んで一押しのタイトルといえるだろう。 パッケージはアウターケース付きで、赤い影が村をのぞき込んでいる様子が描かれた不気味なもの。「ヴィレッジ読本 “迷宮のシャマラン・ワールド”」と題された20ページ超の小冊子も同梱されている。この小冊子はストーリーや登場人物について、よくまとめられているので、一度見た後、復習する時には重宝する。 丁寧な作りで知られる、シャマラン監督作品だが、ストーリーのどんでん返しでも有名。個人的には、サインにも乗り切れなかったクチではあるものの話題作なので購入。価格は3,990円。あと半年すればキャンペーン対象製品で2,500円程度にはなるだろうが、新作なので妥当なところだろう。
■ 山里の「ヴィレッジ」。「語ってはならぬもの」とは?
深い悲しみに暮れる男のロングショットから映画は始まる。棺の前で嘆き悲しむ男、その脇には「ダニエル・ニコルソン 1889-1897」と刻まれた墓標が立っていた……。 舞台は、深い森に囲まれたある村(ヴィレッジ)。19世紀風の衣装、風俗を漂わせるその村では、自給自足の生活を営んでおり、人々が互いに支え合いながら生活していた。井戸の水を汲み、菜園を作り、羊の放牧などののどかな田園風景が広がる。しかし、その村には誰もが口を閉ざす謎があった。 ヴィレッジには「赤」、「赤いもの」は存在してはいけない。村人たちは赤の果樹や花を見つけたらすぐに土に埋めてしまう。なぜならば、「赤」は森の中に住む「語ってはならぬもの(Those We Don't Speak Of)」を呼び出してしまうからだ。言い伝えでは、「語ってはならぬもの」と、人々は互いに不可侵の約束を結んでおり、森には人々は近づいてはいけないことになっている。森に近づき、境界を侵害したときには、村人たちに災いが降り注ぐ。そう信じられている。 しばしの平穏を保っていたヴィレッジ。しかし、ある日、皮を剥がれ、首をねじ曲げられた家畜の死体が発見される。それこそは、「語ってはならぬもの」からの警告であった。 徐々にエスカレートしていく警告。いつしか赤いマントに身を包んだ「語ってはならぬもの」らしきものが、民家を訪れ、赤い印を残してゆく。村人たちは恐怖におののき、そして「和解」が破られたことを知る。 さらに、ヴィレッジには数々の掟がある。共同体のリーダ的存在のエドワード・ウォーカーら、村の年長者による合議でさまざまな決議が行なわれるのだが、そこには大きなタブーが一つある。それは「町に出る」ということだった。 ルシアス・ハント(ホアキン・フェニックス)は、こうしたヴィレッジの閉鎖性と極度の秘密主義に疑問を抱く。ルシアスは、年長者への反発、さらには精神を病んでしまった幼なじみのノア(エイドリアン・ブロディ)を病気を直したいという思いから、町へ出ることを申し出るのだが、年長者たちの反対に遭ってしまう。 アイヴィ・ウォカー(ブライス・ダラス・ハワード)は、エドワード・ウォーカーの娘。子供の頃の視力を失ってしまったものの、鋭くとぎすまされた感覚により、彼女は人や感情を色で感じることができるという。 幼少より、互いに惹かれ合う気持ちを持つアイヴィとルシアス。しかし、そのことが思わぬ悲劇を呼び起こす。アイヴィは、救いを求め町へ向かう決心をするのだが……。 「ヴィレッジ」はシャマラン監督の前作「サイン」と同様に、心理的な恐怖を描いた映画といえる。この村がどういう場所なのかの説明は全くなく、そして恐怖の源泉である「語ってはならぬもの」の存在の謎、これが目に見えない恐怖としてジワジワと伝わってくる。 その恐怖の表現方法も、異形のモンスターが突如襲ってくるというタイプのアクション映画的なものではなく、徹頭徹尾心理的なものだ。森の動物達のさえずり、風、目に見えない、揺らぐ雲などの自然現象の変化から、「なにか」が変わりつつあることを伺わせる。その表現が実に巧みで、マルチチャンネル音声を生かしながら、「見えないが知覚できる恐怖」として伝わってくる。怖いか、怖くないかといわれたら間違いなく怖い部類だといえるだろう。ただ、ある程度映画に没入できる環境に無いとその効果も半減してしまうかもしれない。 また、ヴィレッジの住人も、精神を病んだノアを除いて多くが表面的な明るさの裏に何か暗い影を感じさせるところも、本作の独特の重さを強調する。個人的には急展開のラストシーンが、やや説明が過ぎるように感じたが、感じ方は人それぞれだろう。
■ 印象的な「赤」と「黄」
音声は、英語をドルビーデジタルEX、日本語をドルビーデジタル5.1chで収録する。ビットレートはともに448kbps。BGMは弦楽器を中心とした、密やかながら存在感のあるもので、本作の独特の重々しさを強調している。 この重々しいBGMの上に、鳥のさえずりや、風の音などの自然音、さらには、自然界ではあり得ないような怪物の呻き声や、遠くで吠える獣らしき声などが加わることで、陰鬱なヴィレッジの雰囲気が高まっていく。ルシアスが森に入っていくシーンなどはその最も顕著な例だ。逆に言えば、音を絞っておけば、あまり怖い映画では無いのかもしれない。それくらい音による効果が絶大だ。 登場人物もヒソヒソと喋る人が多いので、いつもよりボリュームを大きめにしておいて、驚くときにはしっかり驚くというのが、本作の一番よい楽しみ方と感じる。環境音の聞かせ方や、背後の足音など聞かせ方が上手で、不覚にも部屋で実際に鳴った音なのか、スピーカーで鳴った音か判別できずに、振り返ってしまうこともあった。是非、各チャンネルのセットアップをしっかりやっておきたいところだ。
DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは6.4Mbps。後半のグラフの落ち込みがかなり気になるが、目に見える画質の低下は感じなかった。映像は、フィルムグレイン的な軽めのノイズが散見されるが、解像度はしっかり維持しており、暗部シーンでも大きな破綻はない。落ち着いた色調で、時間の経過につれ退色しかけた絵画を思わせる彩度の低さが印象的。人肌の質感はしっかり出ているものの、全般にやや赤を落として、冷たさを感じさせている。 全体的に彩度は低めなのだが、ヴィレッジと森の関係を語るには、鮮烈な赤と黄色の表現は不可欠。なぜなら、森に住む「語ってはならぬもの」は赤に呼び寄せられる。そして、村人が「森」に近づく時には、災いから身を守るという「黄色」のマントを着ることが義務づけられている。 つまり、住人を脅かす「赤」、守る「黄」と、色により位置づけがされている。危機を表す象徴的な色として、赤い草花がくっきり映し出された時には、何かが起こる予兆。シーンの転換時には必ず印象的な赤が現れる。そのため見終わった後も、彩度の強い赤い花の印象がくっきりと残った。 特典は、約25分のメイキングと、未公開シーン集、M.ナイト・シャマランのホームムービー、ブライス・ダラス・ハワードのビデオ日記など。 メイキングは撮影時のエピソードや、コンセプトなどが監督や俳優などから語られる。ロケ地はプラハ。映像からは全く想像できなかったので驚いた。撮影時に特にこだわった色は、「黄金色」と「赤」とのことで、この2色を作品の軸にしたことが監督から明らかにされる。また、最高の恐怖を提供すべく作られた「語ってはならぬもの」の試作着ぐるみのマヌケな姿も注目だ。 個人的に面白かったのは未公開シーン集。カットしたシーンは4つで、どれもさほど長くないが、その理由が監督により、明快かつ端的に説明される。いずれの説明も非常に論理的で、「見えないもの」を描きながらも、どこかで説明せずにはいられない監督の性格が、作品にも出ている、と妙に納得してしまった。 「M.ナイト・シャマランのホームムービー」はシャマラン監督が少年時代に作成したサスペンス風ホームムービー。劣悪な画質とほぼ一人というキャストが微笑ましくもあるが、まあお遊びといったところ。
■ あなたの感想は?
スリラーなのだけれども、どこかヒューマンドラマの要素を残している、という点では「サイン」にもよく似たタイプの作品といえる。心理的な恐怖の描き方の巧さも相変わらずだ。 正直、なぜ皆がヴィレッジで共同生活を行なっているのか、など動機付けに若干苦しい部分が無いわけでもないのだが、勢いでスリラーとしてしっかり成立させているのはさすが。ただし、最後の大展開には賛否が分かれるところだろう。逆に、作品の感想について激論を交わしやすいタイトルともいえるのかもしれない。 ともあれ、よくできたマルチチャンネル音声と、このヴィレッジの雰囲気を見るだけでも購入価値はあるだろう。
□ポニーキャニオンのホームページ (2005年5月17日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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