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第183回:ガイナックス配給の韓国大作アニメ
アニメにも韓流ブーム!?「ワンダフルデイズ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ アニメにも韓流ブーム?

ワンダフルデイズ
価格:5,985円
発売日:2004年7月22日
品番:GNBA-7047
仕様:片面2層1枚
収録時間:本編約87分
       特典約12分
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
    2.韓国語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語・英語
発売元:ガイナックス
販売元:ジェネオン エンタテインメント株式会社

 「ヨン様」に代表される日本の韓流ブーム。最近では一頃より落ち着いた印象を受けるが、人気が無くなったと言うよりも、ハリウッド映画などと同様に、コンテンツの1つのジャンルとして“韓国ドラマ”や“韓国映画”が定着した感もある。数年前と比べ、日本人が目にする韓国の映像作品の量は爆発的に増えていると言っていいだろう。

 ドラマや映画にばかり注目が集まっているが、韓国ではゲームやアニメ、漫画も元気だ。特に漫画は日本のコミックの影響を強く受けており、画風だけではパッと見でどちらの国の作品か見分けがつかない状態なので、日本人も違和感なく楽しめる。「新暗行御史」や「黒神」など、日本のコミック誌でも韓国の作家が連載を行なうパターンも増えており、最近では「萌え」系韓国漫画まであるという。ゲームの分野では、MMORPGのキャラクターデザインなどで目にする機会も多いだろう。

 アニメ業界も、一昔前は米国や日本のアニメスタジオの下請け的な仕事が多かったようだが、昨今ではオリジナル作品も積極的に製作していると聞く。そんな中、劇場用長編アニメとして製作された「ワンダフルデイズ」のDVDが日本で発売された。日本での配給はあのガイナックスが担当。しかも同社初の配給作品だという。韓国映画やドラマと比べると知名度は低いかもしれないが、テレビCMも放送されているので気になっている人も多いだろう。

 監督は、「愛・地球博」韓国館の映像も手がけたキム・ムンセン。スーパーバイザーとして「猟奇的な彼女」や「僕の彼女を紹介します」のクァク・ジョエン監督が参加。スタッフも一流だが、総制作費13億円、制作期間5年をかけたというから、そのプロジェクト規模も相当なものだ。

 日本語版の脚本と演出は、「オネアミスの翼」や「まほろまてぃっく」などで知られるガイナックスの山賀博之が担当。日本語吹き替えの声優は、山寺宏一、真田アサミ、清川元夢ほか、日本の一流声優が参加している。国内展開のバックアップ体制は万全。はたしてアニメ分野でも韓流ブームは起こるのか? 日本のアニメファンの1人として期待を込めてDVDを手にとった。

 だが、トールケースを裏返してみると、そこには5,985円という値札が。本編の収録時間は87分で、特典ディスクなどはなし。日本のアニメと似たような値段ではあるが、洋画の新作としては釈然としない価格だ。「アニメのDVDが高価なのは万国共通なのだろうか……」などと考えながらレジへと向かった。


■ ハイレベルな映像に無難なシナリオ

 時は2142年。人類が引き起こしたエネルギー争奪戦争により環境は汚染され、空には常に真っ黒な雲が広がり、人々は太陽の光を失った。汚染された空気をエネルギーとして活用し、浄化するためのシステムとして建造された都市「エコバン」。そこには選ばれた人々が暮らしていた。

 世界各地から集まった難民もエコバンに辿り着いたが、エコバンの人々は彼らの立ち入りを拒否。難民達は都市の周囲に住み着き、エコバンの労働力として奴隷のように扱われていた。だが、大気の汚染が減るに従い、エコバンはエネルギー不足に陥り、難民達の不満もピークに達しつつあった。

 難民との共存を拒否し、自らの優位性を確保したいエコバンは、人工的に世界を汚染する計画を発動。それを阻止するため、地下組織で活動するエコバン生まれの青年・スハは、エコバンの心臓部へと潜入。そこで、幼い日に「いつか青い空を見よう」と約束した女性・ジェイと再会する。だが、予期せぬ再会は、惹かれ合いながらも、敵として対峙するという悲しい運命を意味していた。

 魅力的な物語ではあるが、設定とストーリーに目新しさは少ない。ある意味で「王道的なSF」と言えるだろう。キャラクターデザインは日本のアニメとアメリカンコミックを足して2で割ったようなイメージで、日本ではアニメファンよりも一般の人々に広く受け入れられそうだ。米国でも違和感なく支持される映像ではないだろうか。映画全体のトーンは太陽を失った世界だけあり、暗めで混沌としている。

 作品情報トレーラーなどを観ると、フル3DCG作品にも見えるが、キャラクターは2Dだ。背景が全て3DCG描かれている……のかと思ったのだが、雨のシーンや工場の遠景など、どう見てもCGにしては生っぽすぎる場面が多い。まさかと思って再生を一時停止し、特典コンテンツをちょっとだけ覗いてみると、なんと背景の大半はミニチュアの模型で作られているという。

 そのスケールと精密さは驚くべきもので、大きな街並みから、バーに置かれた酒瓶に至るまで、実に精巧に作られている。壁の落書き1つにしても、注意して細部に目をこらせば、唖然とするほどの手間隙がかけられていることがわかるだろう。前述の通り映像は暗いトーンなので、大半は画面の闇の中に没してしまっているが、表示されない部分まで作り込むことで、結果として映像全体に深みが与えられている。「上手く汚した3DCGだなぁ」と思い込んで見過ごしてしまっては勿体無い映像だ。

 また、バイクや戦車などの車両は3DCGで描かれている。つまりこの映画は、模型の実写と2Dアニメ、3DCGの3つを重ね合わせて作られいるのだ。制作費や制作期間が膨れ上がったのも納得がいくこだわりの映像だ。ガンアクションやバイクの疾走感など、演出も過不足ない。ハリウッド映画を目指して目覚しい成長を続けている韓国映画界の映像パワーを充分見せてくれる。

 2Dアニメの動きも自然で、表情や口元の演技にも豊富な動画枚数が割かれている。また、キャラクターの輪郭をなぞる境界線がぼかされているため、実写というか、一瞬3DCGキャラのようにも見える描き方が斬新だ。映像にリアリティを与えるだけでなく、模型 + 2Dアニメ + 3DCGと重ね合わせる中で生まれがちな違和感の払拭に大きな効果を上げているようだ。

 反面、ストーリーやキャラクターが弱い点が残念だ。主要キャラクターは、無口だがやる時はやる主人公と、彼を忘れられない不器用な女兵士、そんな彼女に横恋慕して主人公を逆恨みする嫌な上官という、悪く言うと「よくあるパターン」だ。物語もあらすじを読んで「こうなるだろうなぁ」と想像するものと大きく違わず、どんでん返しもない。終盤にかけてのアクションシーンも映像的には大いに盛り上がるのだが、シナリオの教科書を観ているような気がして、「この先どうなるのだろう」というハラハラドキドキ感に乏しい。もう少しインパクトのある裏設定や、独自のアイデアを盛り込んで欲しかったというのが正直な感想だ。


■ もうちょっとボリュームが欲しい特典

 本編映像はビスタサイズをスクイーズ収録。音声は日本語と韓国語をドルビーデジタル5.1chで収録している。ディスクは片面2層。本編の収録時間は87分、特典は12分で、合計すると約100分。DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは8.5Mbpsと高めだ。

 映像にはブロックノイズ、モスキートノイズなどはなく、総じて高画質。トーンを落とした難民居住地区と、近未来的で緑や青の鮮やかなライティングに包まれたエコバン。2つの街の描写の違いが鮮明で面白い。暗部の階調も豊か。ただし、キャラクターが中程度アップになった際、頬と背景の境界や、首の後ろあたりに擬似輪郭らしきものが見える場面があった。

 音声は日本語、韓国語ともに448kbps。バイクの移動感や銃声が音でよく表現されている。また、印象的なのは残響音を使ったホールの描写。残響音がたっぷりと部屋に広がり気持ちが良い。特にエコバンの建造物の中では、残響音の長さで空間の広さの違いが判断できるのが面白い。唯一欠点を挙げるとすれば、アクションシーンでの低音が不足気味に感じたことくらいだ。

 また、セリフは日本語吹き替え版を中心に観賞したが、スハ役の山寺宏一の演技は相変わらず冴え渡っており、「この手の主人公の声をやらせたら無敵だなぁ」と惚れ惚れするほど。ヒロインであるジェイ役の真田アサミは、日本のアニメでは弾けた演技が印象的だが、同作品では内面に秘めた強い想いを持ち続けるヒロインの抑えた演技が良い。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 特典映像はメイキングと劇場/テレビ用予告編で構成されている。特典映像は10分程度のものだが、前述した背景用模型セットの精巧さや撮影方法を簡潔に紹介している。撮影にはスターウォーズ エピソード2でも使われたソニーのHDカム「HDW-F900」を使用。レンズには特殊な形状を持ち、小さな模型の中に入り込んで撮影が行なえるパナビジョンのフレイザーレンズを使用したという。

 基本的な撮影方法は、モーションコントロールシステムを利用して、カメラとレンズの動きを自動制御。その動きのデータに合わせながら2Dアニメを描き、3DCGで作ったオブジェクトを配置していく。足元に水があるシーンの融合や、2Dのキャラが3DCGの車のドアを閉めるシーンなどで僅かな違和感も感じたが、逆に言えばそんな些細な事にしか目がいかないほど、全体の融合はハイレベルだ。

 最も気になる点は、「なぜ模型にしたのか?」という理由。これについては、「2Dでは、3Dより人物の感情をより細やかに表現できる。また、3DCGは金属の質感などに優れている。そして、背景に模型を使うことで、3DCGよりも自然で、重量感のある空間表現ができるから」だという。つまり、2D、3D、模型(実写)の利点を融合させたということだろう。

 なお、メイキング映像は最後に「3DCGを含め、撮影技術は急速に進歩しているが、米粒ほど小さい船や小さな部屋の模型など、これらを作り出したスタッフの技術と努力は時間を経ても色あせず、高く評価されるだろう」と締めくくっている。確かにその通りだが、これだけの作業にかけた熱意を語るインタビューや、模型でしか出せないリアリティを3DCGと比較して説明するコンテンツなどもあると嬉しかった。必要最低限といえばその通りだが「これだけ凄いのだからもう少し自慢すれば良いのに……」と思ってしまった。


■ 独自の魅力が欲しいところ

 前述の通り、映像は一級品。物語も大きな破綻はなく、無難にまとまっている。エンターテイメント作品として考えれば、充分オススメできる一本だ。だが、DVDとして考えると6,000円近い価格が気になってしまう。アニメやSFが好きな人なら許容範囲かもしれないが、それ以外となるとコストパフォーマンスは悪い。

 価格さえ気にならなければ、残酷描写や性描写は控えめなので、夏休みに家族で鑑賞する1本としてチョイスしても良いだろう。銃器の描写やSF設定などがマニアック過ぎることもなく、誰でも楽しめる作品だ。

 ただ、キャラクターの設定やストーリーに独自色と言うか、この作品ならではのアピールポイントが無いことが残念だ。模型を含め、これだけの映像を作り出す熱意や技術は高く評価したいし、その熱意にガイナックスの山賀氏が惚れ込んだというのも頷ける。3DCGに見慣れた現代の観客を、模型でアッと言わせたアイデアを、物語の方でも見せて欲しい。次回作への期待は大だ。

 また、何度も繰り返すようだが、あれだけの模型を映画の撮影だけで廃棄するのは勿体無い気がする。実写の俳優と重ねて、テレビあたりで特撮ドラマシリーズでもスタートさせれば良いのに……などと、いらぬお節介に思考をめぐらせてしまった。

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□「ワンダフルデイズ」の公式サイト
http://www.wonderfuldays.jp/
□DVD情報
http://www.wonderfuldays.jp/release.html
□ガイナックスのサイト
http://www.gainax.co.jp/
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【7月11日】「DVD発売日一覧」 7月8日の更新情報
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050711/newdvd.htm

(2005年7月26日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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