■ 今年はDVDカメラ市場の立ち上がり年? コンシューマのカムコーダ市場は、世界的に見れば、まだ例年10%程度の堅実な成長を続けている。一方で日本市場ではほぼ飽和状態にあり、普及率も高いことから、これ以上劇的な伸びは期待できないと思われる。確かに国内では売り上げとしては頭打ちではあるのだが、実はその内訳はかなり変わってきている。2003年あたりでは3%程度しかなかったDVDカメラの比率が増え始め、今年は2~3割程度まで伸びるのではないかと予測される、割とカタイ分野なのである。 売れるとわかってから参入するのが、キヤノンのいつもの戦法である。イノベータではないにしろ、市場のニーズを確実に吸い上げて堅実な製品を作ってくるわけだが、そんなキヤノンが繰り出すDVDビデオカメラが、今回の「DC20」(店頭予想価格125,000円前後)だ。 キヤノン初のDVDビデオカメラとなるこのモデルは、記録メディアにDVD-R/RWを採用。これまでDVD-R/RWはソニー1社で頑張ってきたわけだが、今後はソニー/キヤノンのDVD-R/RW系と、日立/パナソニックのDVD-RAM/R系に二分される形となった。 もちろんキヤノンが以前から取り組んでいる、ビデオカメラでデジカメ並みの静止画「写真DV」をそのままDVDワールドへ持ち込み、言うなれば写真DVDとも言えるカメラへと仕上がっている。 ではDVDカメラ界期待の新モデル、DC20を早速テストしてみよう。
■ 突起部の少ないスリムな外観 ではまずいつものように外観から見ていこう。今回のデザイン的な目玉はその薄さである。今までDVDカメラというと、どうしてもDVカメラより大きく厚く、というのがなんとなくお約束になっていた。機能的には認めるものの、スタイルがなー、と二の足を踏む人も多かったのではないだろうか。 だがDC20の薄さは、「こっ、これは!」と思わせる魅力がある。一部ではミレニアムファルコン号と噂される薄型DVDドライブ部に、やはり薄型光学部がドッキングしたようなイメージで、両サイドに突起部が少ないすっきりしたデザイン。またアルミ素材を多用し、メタリックな質感が上品だ。
レンズは光学10倍ズームで動画では35mm換算で4:3が48.7mm~487mm、16:9の高解像度ワイドTVモード(手ブレ補正OFF)では41.6mm~416mmとなっている。静止画では38.1mm~381mm。本体にはレンズカバーも内蔵されている。
CCDは1/3.9型で、素数数は約220万画素、フィルタは原色だ。どうもレンズとCCDの光学系は、同時期に発表されたDVカメラ「IXY DV S1」と共通なのではないかと勘ぐるのだが、どうだろうか。
側面に回ってみよう。右側は結構ボタン類が多く、液晶上部に再生系のボタンが4つずらりと並んでいるだけでなく、液晶の内側にまでボタンがある。ボタンが多いと一見煩雑そうに見えるのだが、カメラを使い慣れている人にとっては、ダイレクトにボタンで機能を変えられる方が使いやすい。 DVカメラでは、ユーザーはかなり使い方もわかっているので、限りなくシンプルにした「IXY DV S1」のような製品も成立するのだが、比較的若いジャンルのDVDカメラではまだそこまでまとめてしまうのは時期尚早という判断だろう。
ボタン名は日本語で表記されているが、「MENU」と「FUNC.」など、円周部の表記だけは英語となっている。これもDV S1のシンプルさ方向へ走りながら、でも全部英語にしちゃったらまだユーザーは付いて来られないだろうという、デザイナーと設計のせめぎ合いと苦悩が垣間見える。 メニュー操作は上下ダイヤルではなく、ジョイスティックになっている。上下左右の隙間が少ないので、反対方向から押して倒すというよりも、指の腹でジョイスティックの頭を押さえて倒す、という操作感になる。 背面に回ってみよう。二重になった円盤底部といった様相で、電源/モードスイッチと録画ボタンが並んでいる。静止画のシャッターはその上にあり、ズームレバーとともに人差し指で操作するスタイルだ。ビューファインダはキヤノン得意のヒップアップ型で、角度は固定されている。
ドライブ部を見てみよう。前部を軸に背面から開くようになっており、フタは約45度程度まで開く。底部のOPENボタンで開くわけだが、電源OFFのときはロックが外れないようになっている。持ち歩き中に誤って開いてしまわないようにという工夫だろうが、普通DVカメラは電源OFFでもイジェクトだけはできるので、今のDVカメラに慣れている人はちょっととまどうところだ。
■ DVDでもさすがの絵作り
ではさっそく撮影してみよう。本機には、フルオート、プログラムAE、シーンモードの3つの切り替えスイッチがあり、撮影中でも切り替えることができる。このあたりの使い勝手は、DV S1のモードダイヤルと同じ感覚で、非常に使いやすい。 ホールド感は、ディスクドライブの円盤部を握るような感じで、手が小さい人でも問題ないだろう。ただ長時間電源を入れっぱなしだと、アルミ素材を多用しているが故に、本体の熱がかなり伝わってくる。通常は適度に入切するのであまり問題ないかもしれないが、長時間の発表会など記録物の撮影などでは、手持ちはやめといたほうがいい。 記録メディアがDVDということは、当然MPEG-2で記録しているということになるわけだが、基本的な絵作りはキヤノン色というか、以前からのDVカメラと同じトーンだ。画質に関しては、DVカメラに比べると若干細かいディテールを省略している感じはあるものの、全体的に柔らかいトーンで破綻なくまとめているという印象を持った。DVDカメラでここまで撮れれば、もう十分だろう。
スミアは、太陽入れ込みだと厳しいのは、DV S1と同じ。フレアも角度が悪いと菱形絞りの形がバッチリ出てしまうので、オプションでもレンズフードは欲しいところだ。
記録系にもふれておいた方がいいだろう。本機はDVD-RとDVD-RWが使用できるわけだが、DVD-RWではVRモードでの記録ができる。Videoモードでは、そのままファイナライズすればそのディスクはDVD Videoとして完成するわけだが、VRモードで撮影した場合は、本体で若干の編集ができる。 どちらの記録方式がいいか、あるいはどちらのメディアがメリットがあるかは、撮った映像をどうしたいのかで判断することになる。
画質モードには、XP、SP、LPの3種類がある。音声はすべてDolby Digital 16bit 256kbps記録となっている。画質や記録時間を表でまとめてみた。
最高画質で20分というのはちょっと心配な感じもあるが、SPモードもかなり健闘しているので、普段はSPモードでも問題ないだろう。ここぞという大事なシーンや、短いイベントにはXPモードと、使い分けるのもいい。
画質モードの変更は、FUNC.メニューから行なうことができる。ボタンが多いの設計もそうだが、撮影時に必要な設定はMENUではなく、FUNC.から行なうことができるのは、わかりやすい。ただ手ぶれ補正のON/OFFはMENUにしかない。 撮影していて若干気になったのが、ズームレバーの反応だ。倒してから実際にレンズが動き出すまで、通常のDVカメラに比べて一拍遅いように思う。微妙に画角を調整するときなど、ちょっとズームレバーを動かしてもリニアに追従してこないので、違和感を覚えた。
また静止画とモードを切替て撮影するには、ちょっとしたコツが必要だ。DVDで撮影後すぐに静止画モードに切り替えても、DVDの書き込みが完了するのを待ってから切り替わる。 逆に静止画から動画への切り替わりも、切り替わって各ステータス表示がきちんと表示されてからでないと、録画ボタンを押しても無視される。頻繁に動画と静止画を切り替えて使うタイプの人は、ボタンを押したはずなのに撮れてない、ということが起こりうる。
■ 相変わらずソツのない静止画 続いて静止画撮影を試してみよう。あいかわらず記憶色による絵作りは健在で、2.2Mピクセルではあるものの、デジカメと遜色ない絵が撮れる。今回は斜光の時間帯で、夕焼けモードを中心に撮影したが、黄昏時ならではの空気感をうまく捉えている。
静止画撮影では、DVDに撮るかminiSDカードに撮るかを選択できる。DVDに記録すれば、1メディアで動画と静止画をまとめられるのだが、書き込みの遅さから、連写やAEB(3段階の露出で撮る)機能が使えない。一方miniSDカードを使えば連写機能は使えるのだが、撮影のためにまた新しいメディアを買わないといけないのか、とうんざりする人もいるだろう。
両方のメリットを生かすのであれば、静止画はminiSDカードで撮って、撮影が終わったらDVDに転送しておけばいい。この手を使えば、miniSDカードは大きな容量の物を買う必要もないので、比較的お財布にやさしい運用が可能だ。 またフラッシュのモード、連写やAEBなどのドライブモードは、液晶上のボタンで簡単に選択できる。デジカメではボタンがあって当たり前の機能だが、ここまで静止画撮影用にシフトしているビデオカメラは、あまりないだろう。
■ 編集機能を試す
では撮影後の再生機能を見ていこう。動画モードでは、撮影したシーンがサムネイルで表示される。ジョイスティックで選択シーンを移動すると、サムネイル上に波紋のようなアニメーションがオーバーレイしてオレンジの枠で囲まれるなど、妙なところに凝っている。 ジョイスティックのセンタークリックで、そのシーンから再生される。シーンのスキップは、ジョイスティックの左右で操作。停止ボタンを押すと、またサムネイル画面に戻るといったインターフェイスだ。 サムネイル画面は次のページに移動すると、6つのサムネイルが順次作成される。一度作成したサムネイルはメモリに覚えているようで、ページを戻ったときにはすぐに表示される。だが電源を切ってしまうと消えてしまうので、またページを送るたびにサムネイルを作り直すようだ。せっかくDVDなんだから、作ったサムネイルを記録しておくようなことはできないのだろうか。 DVD-RWで、さらにVRフォーマットで録画した場合のみ、本体での編集機能が使える。サムネイル画面でFUNC.ボタンを押すと、「プレイリスト追加」、「分割」、「消去」の3つのアイコンが表示される。 分割機能を選ぶと、そのシーンの再生が始まる。通常の再生と違って、画面上部にはタイムラインが表示され、下部にはコマ送りやスキップなど、本体にはない再生機能のボタンが表示される。本体ボタンと画面下のボタンを使いながら編集点を特定し、「はさみ」のアイコンをクリックすると、シーンが2分割される。
一度実行してしまうと編集モードを抜けてしまうので、続けて編集したいときはまたFUNC.ボタンを押さなければならないのが面倒だ。確かにいったんモードを抜けないとサムネイルの移動ができないので、しょうがないといえばしょうがないのだが。またここで分割したシーンを削除すると、本当にディスク上からなくなってしまうので、素材を残したまま編集したい場合は、プレイリスト上で作業したほうがいい。
編集メニューでプレイリストを選ぶと、全シーンを追加するか1シーンを追加するかの選択となる。ここでボタンを押してもさらにもう一度確認されるのが煩わしい。またさきほどの分割と同じように、実行後は編集モードから抜けてしまうので、次のシーンを追加したいときはまた最初からである。 編集とは単調な作業の繰り返しなので、このような余計な一手間が、全体作業の中でボディーブローのように徐々に効いてくる。プレイリストなどは画像データを消さずにいくらでもやり直しができる部分なので、もう少し手順を整理して欲しいところだ。
プレイリスト画面に移動すると、追加したシーンがサムネイルで表示される。ここでもFUNC.ボタンを押すと、今度は「移動」、「分割」、「消去」のアイコンが表示される。ここでの編集は、実際に画像データに手を入れるわけではなく、あくまでもリスト上での編集になる。このあたりは、DVDレコーダでの編集で、多くの人が経験している部分だろう。 プレイリストは1つしか持てないが、まあ撮影時間が20分とか30分なので、大抵は事足りるだろう。足りない場合は、付属のMyDVDを使って別途パソコンで編集するという手段が使える。最終的には12cmDVDメディアにオーサリングして、撮影用8cmメディアはDVD-RWで何度も使い回すというのも、考え方としてはリーズナブルだ。 ただ、大事な収録メディアを何度も使い回して信頼性がどうか、という問題はある。確かにDVDメディアは、いったん読み出せなくなるとどうにもならないという面はあるので、怖いのは事実だ。実際に今回も、ディスクの読み出しエラーを体験した。あるショットを撮影する際に、バッテリ交換のアラートが出ていたのだが、いい絵柄だったのでなんとか保ってくれーと、そのまま撮影したのである。 ところがこのディスクの内容を、編集のためにPCにコピーしようとすると、どうしてもCRCエラーになってコピーすることができない。しかたがないので、バッテリ低下アラートが出たシーンを削除したところ、無事コピーすることができた。ディスクメディアの場合、こういうことは起こりうるのだということを把握しておかないと、いやな汗をかくことになる。
■ 総論 DC20は、DVカメラからの買い換えでDVDカメラを狙っていた人には、まさにようやく出た本命と言っていいのではないだろうか。DVカメラと遜色ないスリムなボディ、凝った絵作りが簡単にできるシーンモード、記憶色で思い出のシーンがそのまま残せるデジカメ品質の静止画など、DVカメラで実現した世界をそのままDVDに持ち込んでいる。今回のテストではXPモードを中心に撮影したが、MPEGくさい破綻も少なく、画質的にDVDだからややガッカリはしょうがないよね、という妥協点は、かなりクリアできていると思う。細かいところまで見れば、DVカメラよりはディテールが失われている部分はあるのだが、絵作りの上手さがそれを救っている。いわゆるビデオくさーい絵にならないのである。 多くの人はビデオカメラに、生々しさを求める。だが思い出というのは、あんまり生のままで残っても、あとから見直したときに「あれ、こんなショボかったっけ?」と思ってしまうのである。そういう意味で、個人的に思い出保存としてお薦めしたい方向性と、キヤノンの絵作りは合致する。 今後DVDカメラの普及に問題があるとすれば、今SD解像度がちゃんと綺麗に見られるテレビがなくなってきているということだろう。現在のHD解像度のテレビは、SDの画像を映すとヒドいことになるものが多い。 今回のDC20も、HD対応FDPで見るのと、ちゃんとSDが綺麗に映る昔のテレビで見るのとでは、ずいぶん評価が違ってしまうだろう。ぜひこの画質は、SD用のテレビで確認してみて欲しい。
□キヤノンのホームページ (2005年9月14日)
[Reported by 小寺信良]
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