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第189回:ハワード・ヒューズって誰?
映画/飛行機/大富豪
「アビエイター プレミアムエディション」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ ハワード・ヒューズって誰?

アビエイター
プレミアム・エディション
価格:4,935円
発売日:8月27日
品番:DZ-0162
仕様:片面2層
収録時間:本編約170分
画面サイズ:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語
   吹き替え用
発売/販売:松竹株式会社

 映画「アビエイター」は、大富豪、ハワード・ヒューズの伝記映画。レオナルド・ディカプリオが、アカデミー主演男優賞候補となったことでも話題になった。

 ディカプリオの主演男優賞獲得とはならなかったものの、事前の賞レース予測では最有力視されており、ワイドショーなどでも、かなり取り上げられいたのを記憶している。しかし、ハワード・ヒューズについては、映画監督としても、事業家としてもなんとなく聞いたことはあるものの今ひとつ実感がなかった。

 しかし、調べてみると、代表作「地獄の天使」の監督や、ハワード・ホークスの「暗黒街の顔役」の製作などの映画界の活躍に加え、飛行機での世界記録更新。さらに、TWA買収などの航空業界での活躍などを知り、「そういえば映画タッカーにも出てきたような……」と、彼の縦横無尽の活躍がつながったとき、俄然興味が沸いてきた。

 DVDは本編、特典ディスクの2枚組みの「プレミアムエディション(4,935円)」と、本編のみの「通常版(3,465円)」を用意している。監督はマーティン・スコセッシ。出演はレオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、ケイト・ベッキンセール、ジュード・ロウほか。

 今回購入したプレミアムエディションは、本編ディスクと特典ディスクの2枚組みで、本編ディスクは通常版と同じ。特典ディスクには、特殊効果や未公開シーン、トークショーなどを含んだメイキングと、スタッフへのインタビュー、ハワード・ヒューズの実像に迫るドキュメンタリーなどを約3時間に渡って収録している。



■ 反発と情熱。ハワード・ヒューズの生涯を描く

 「アビエイター」は、究極の飛行機と世界一の映画を追い求めた伝説の大富豪、ハワード・ヒューズの生涯を描いた作品。

 石油掘削機で巨万の富を得た父親が他界したことで、ハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)は18歳にして大富豪となる。21歳になった彼は、映画制作を夢見てハリウッドに飛び込み、財産の全てを注ぎ込んで、航空アクション映画「地獄の天使」に着手。戦闘機を買い集めて私設の空軍を編成。製作、監督に加え空中スタントを自らこなした。

 さらに、映画の製作を続けながらも、「世界一の航空家」を自負する彼は、自ら開発したH-1レーサーによる世界最速(556km)記録の樹立や、最速での世界一周記録などを実現。さらに、ハリウッド女優との交際では、キャサリン・ヘップバーン(ケイト・ブランシェット)や、エヴァ・ガードナー(ケイト・ベッキンセール)といった超大物も登場。ハリウッドスターよりも有名な、文字通り時代の寵児として大活躍する。

 さらに航空機への情熱と将来を確信した彼はヒューズ・エアクラフトを設立。航空機業界でも異端児として暴れ回り、ついには航空大手TWAを買収。さらに、軍と協力して、大型輸送機の開発にも乗り出す。しかし、行動原理は一貫しており、信条は「政府とは媚びない」、「気取ったインテリには媚びない」。それゆえ、生じる各所での衝突、そして、ワンマンぶりでも名を馳せた。

 ヒューズの大胆さ、慇懃無礼な態度、強引さなどは多くの人を惹きつけると同時に、多くの人の反発を招くが、あらゆる業界に顔を出しながら、さまざまな慣習を打ち破る活躍を見せる。

 しかし、彼は幼少からの難聴に悩ませられるほか、大きなを問題を抱えていた。それは、不潔に対する極度の恐怖を常に抱えていること。映画では、幼少期に教えられたコレラなどの感染を極度に恐れた彼の姿が描かれる。たとえば、手を洗っても細菌が不安で、出血するまで手を洗い続けてしまう。トイレのドアノブや、人の衣服の汚れなどに極度の緊張を覚え、それが人々の誤解を呼び、いつしか彼の「奇行」が知られるようになる……。

 現代では「強迫性障害」との病名のもと、彼の抱えた病について分析されているようだが、この病、そして「ハワード・ヒューズを演じている」とまで揶揄される彼のプライドの高さが、彼の人生に暗い影を落としていく。

 アカデミー賞発表前には、レオナルド・デカプリオが主演賞を取れるかどうかでも話題になった本作だが(結果的には「レイ」のジェイミー・フォックスが受賞)、実際に1920年代から50年代までの幅広い年代に渡って好演を続けている。特に順風満帆な青年期に対して、大事故、そして強迫性障害の症状が酷くなってからの、不安で物憂げなヒューズ像は印象的だ。

 全編を通して中心となるのは、やはりハワード・ヒューズという強烈な個性。170分と長尺な本編だが、見終えた後でも「もう少し詳しく見たい」と思うほど魅力的なキャラクターだ。実際、20代前半から、50代までの人生を振り返るのだが、十分にその魅力が描かれるのは、冒頭の「地獄の天使」の撮影程度。あまりにも彼の歩みが速いので、各エピソードとももう少し深く描いてほしいと感じるほど、個性があふれている。そのあたりは特典ディスクでかなりフォローされてはいるのだが……。


■ ビットレートは低いが雰囲気ある画調

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは5.83Mbps。本編が170分と長いこともあり、かなり低めではある。ただ、エンコードに起因するMPEGノイズなどはほとんど見られなかった。コントラストは低めで、暗いシーンも非常に多いが、目立った破綻はない。

 印象的なのは色調が全体的に赤よりなこと。監督によるオーディオコメンタリでは、「20年代~37年までは、2色式のテクニカラーの色を再現した」という。白黒フィルムに赤と緑で着色する当時の技法で、'37年以降はRGB3色着色を模した色調にした語る。20年代当時の色調を出すためには衣装などの色にも気を使い、例えばヘップバーン(ケイト・ブランシェット)が飛行機のシーンで着用したドレスは、「映画中ではベージュに見えるが、実際にはマスタード・グリーン。常に2色式でどう見えるか考えながら撮影した」と話す。

 実際に'37年以降になると、ややコントラストが向上したヌケのよい画質になり、さらに50年代の法廷シーンになると、より現代的な映像に変化する。しかし、全体的に赤よりな傾向は続いている。監督によれば、意識したのは、「20年代のハリウッド、特にアールデコの再現」。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 音声はドルビーデジタル5.1chで、英語と日本語を収録。ビットレートはともに384kbps。一番の聞かせどころは、アクションシーンで言えば「地獄の天使」の撮影と、テスト飛行のシーンだろう。飛行機の移動量から考えれば、さほどリアチャンネルが活用されることもないのだが、上下移動の感覚がきっちり感じられる点が印象的。また、当時の流行歌やジャズなどの使い方が非常にうまく、時代の雰囲気を音を通して感じさせてくれる。

 特典は本編ディスクにはオーディオコメンタリのみ。特典ディスクには、メイキングと「アビエイターを創る」と題された、美術/衣装/音楽などについての解説。さらに、ハワード・ヒューズのドキュメンタリ映像などを収録。トータルで187分もの特典を収めている。

 メイキングはヒューズについての俳優/スタッフらのコメントや、特殊効果の解説、未公開シーンなど。ヒューズについての一通りの情報や、スタッフやレオがキャストを褒めちぎるような内容でさほど面白くない。一方、未公開シーンは、かなり直接的にヒューズの人生観を描いたワンシーン。ヒューズらしさはでているのかもしれないが、個人的にはカットして正解と感じた。

 総制作費150億円の最新大作としては、VFXに驚かされるようなところはあまりない。実写との区別がつかないような圧倒的なCGではなく、例えば「地獄の天使」の空中戦の再現シーンでも、実際に地獄の天使のタッチを残したような、独特の絵画調ともいう雰囲気。解説を聞くとかなりのCGやミニチュアなどが活用されているが、いろいろ説明しながらも、「この映画は特殊効果を楽しむ映画ではない。目立たず本物だと思って見てもらえればいい」と語るVFXスーパーバイザーのロバート・レガード氏のコメントが印象深い。

 特典で最も面白かったのがハワード・ヒューズのドキュメンタリ。ヒューズの伝記作家らが、探索機の発明により財を成した一家に生まれ、「発明が金を生み出すことを知っていた」と分析。彼の成功の理由やハリウッド進出の動機について解説される。また、彼が最も心血をそそいだ木製大型輸送機「ハーキュリーズ」の、一度だけ、1.6kmだけのフライトも収録されているなど、彼の残した足跡が振り返れる。

 さらに、ワンマンかつ非公開企業だっため事業の秘匿性の高さを魅力に、ヒューズエレクトロニクスをはじめとする関連企業は、軍事関連やCIAなどには歓迎されたという。'68年にはソ連潜水艦の回収船の開発などを行なうなど、さまざまな彼の事業の側面が確認でき、非常に興味深い。もっとも、回収船「HMB-1」は、引き上げ途中で折れてしまったとのことだが……。

 しかし、強迫神経症に蝕まれていくヒューズは、ラスベガスのホテルに引きこもり、さらに、バハマやメキシコに移住。病状の悪化した'58年以降の写真はなく、'76年にメキシコで亡くなった時の彼の容姿は、誰にも判別できないほど変わっていたという。

 彼を蝕んだ強迫神経症に関するコンテンツや、患者らのコメントも収録。本作の監修にあたったUCLAのシュワルツ医師も「今の環境があれば、ヒューズの病は治っただろう」とコメントしている。

 オーディオ・コメンタリはマーティン・スコセッシ監督やプロデューサのマイケル・マン、編集のセルマ・スクーンメーカーらが参加。最も興味深い点はスコセッシ監督が、監督ハワード・ヒューズを語る点だろう。「地獄の天使」については、「演出の腕はイマイチかもしれない」としながらも、ツェッペリン号の衝突シーンなどに驚いたことや、70年代にブライアン・デ・パルマやスピルバーグらと上映会を開いて鑑賞したことなどを語る。また、'43年の「ならず者」の頃には「彼は既に映画より飛行機に夢中だった」と監督としてはあまり評価していないようで、「言論の自由を信じていたのか、金目当てなのかは分からない」とかいいながらも、検閲制度との戦いなどは高く評価しているようだ。


■ プレミアムエディションの満足度は高い

 映画自体も楽しめたが、個人的にはハワード・ヒューズの生涯にもっとも惹かれるものがあった。彼の魅力をしっかり描き出したという点は、非常に興味深い作品と言えると思う。

 それゆえ本編だけでなく、充実した特典ディスクがかなり楽しめた。特に強迫神経症の症状などについてある程度知ることで、彼の抱えた不安が、映画からも感じられるような気がしてきた。そうした意味では、特典ディスクつきのプレミアムエディションの方が、個人的には充実感は高いと感じる。

 本作に限っていえば、通常版やレンタルのほか、48時間限定視聴DVD「48DVD」で600円でも鑑賞できるのだけれど、個人的には特典の充実により、パッケージメディアの魅力を再認識させてくれた作品だ。

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http://www.aviator-movie.jp/
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(2005年9月20日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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