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■ 賞味期限付きDVD? DVDビデオが発売開始された'96年以降、日本国内のセルビデオソフトの市場は右肩上がりで拡大してきた。ビデオレンタル市場が大きい日本国内においては、VHSやLDなどの世代では、セル市場としては北米などと比較してかなり小規模。それ故、ビデオソフトの価格も世界一高く、販売数量も増えないという悪循環が続いていた。 しかし、DVD世代となりプレーヤーが普及、さらにビデオソフトの低価格化などによりセル市場は大幅に拡大し、DVDの発売開始以来、昨年まで大幅な成長を記録してきた。しかし、人気タイトルのDVD化も一段落し、大きなヒット作も無かった2005年の上半期にはとうとう、初の前年割れとなった(JVA調査)。 もっとも、コンビニエンスストアや書店などでは旧作を中心とした「500円 DVD」が販売されたり、セルビデオ市場はより手軽かつ低価格、多様な方向にシフトしている。日本独自のビデオレンタルという市場も健在だ。レンタルショップでは、旧作であれば400円弱で1週間レンタルが可能。TSUTAYAなどの大手チェーンでは「旧作、準新作は半額」といったキャンペーンも月イチペースでやっている。この場合は200円以下で、DVD/VHS 1タイトル借りられてしまうわけで、世界に類を見ない大規模なレンタル市場を形成している。 しかし、レンタルの場合「返却」という手間が発生する。さらに、一日数百円単位で加算される延滞費用もユーザーにとっては不安の種。実際にレンタル店舗、会員数も年々減少しており、セルDVDの攻勢も受けて、レンタル市場の縮小傾向は続いている。 レンタルでもセルでもない、映像の楽しみ方という意味では、通信事業者やCATV事業者などによるVODサービスが提案されたり、定額制のオンラインDVDレンタルなどもスタートしているが、まだ本格的な普及には至っていない。 そうした中、出版取次大手の日本出版販売(日販)が17日より発売開始するのが、48時間限定で鑑賞可能なDVD「48DVD(よんぱちDVD)」だ。48DVDは、特殊な樹脂でディスク表面をコーティングし、真空パッケージを開封すると、約48時間で空気に反応した樹脂が光を通さなくなって再生できなくなるというもの。米Flexplayが開発した技術で、日販では独占販売契約を締結し、国内展開する。 コンビニなどで購入して、観たいときに開封して視聴。その後2日間経過すると再生できなくなるため、2泊3日のレンタルDVDに近い感覚とも言えそうだ。レンタルと比較したメリットとしては、借りてから見始めるまでの時間は自由に決められることと、借りたり返却したりする手間が省けるという点が上げられる。デメリットとしては600円という価格がレンタルよりは高いという点だろう。 17日から販売される、第1弾作品は、レオナルド・ディカプリオ主演の「アビエイター」、杉本彩主演の「花と蛇」、香港テレビドラマシリーズの「カンフーサッカー オープニングスペシャル版」の3タイトル。
販売店舗は首都圏1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)のコンビニエンスストア(ファミリーマート、サークルKサンクス、ポプラ、生活彩家、くらしハウス、スリーエイト)。また、48DVDオリジナルサイトと、楽天市場でも販売される。 レンタル店舗よりも、圧倒的に店舗数が多いコンビニでの販売ということもあり、入手性の高さもポイントだろう。なお、初回発売タイトルのうち「花と蛇」は18歳未満の購入が禁じられているため、一部コンビニとネット販売のみとなる。日販では、「従来の映像マーケットで捉えられなかった新しい需要創出を目指す」と意気込む。
■ 使ってみるとほぼ普通のDVDビデオ
パッケージは厚紙でディスクを挟んだ簡単なものだが、縦が約25cm、横が約16cmの縦長のジャケットを採用。普通のDVDのトールケースより一回り大きなパッケージだが、「コンビニの雑誌棚に専用の柵を設置して販売するため、雑誌などと並んでもしっかりわかるようにした」という。ジャケット上部には48DVDのロゴと、「48時間DVD」、「600円」という価格がしっかり視認できるようにデザインされている。 パッケージを空けると、真空パックされたDVDディスクが封入されている。このパックを開封後、48時間だけDVD映像を視聴できる。記録面が赤く光っているのが特徴的で、中央のリング部も赤い。この中央リング部が時間の経過につれ、黒に変わると再生不能となるという仕組みだ。 開封して再生してみたところ、「このDVDは開封後48時間経過すると観ることができなくなります」との警告が表示される。それ以降は、ほぼ通常のDVDと同じで本編再生が行なわれる。なお、ディスクの内容については、セルやレンタルなどで収録しているトレーラや特典などは省かれており、本編のみを収録する。 本編のみの収録と言うこともあり、メニュー画面は用意されず、すぐに映像再生が始まる。また、チャプタはきっちり設定してあるが、チャプタメニューは用意されていない。そのため、任意のチャプタへ移動する際には、リモコンなどで順送りにスキップ/バックする必要がある。 レジュームにも対応し、通常再生時に停止ボタンでレジューム、再生ボタンを押すと再生開始する。唯一、通常のDVDビデオと異なるのが、再生停止した際の動作。というのも、再生を完全に停止した後、再度プレーヤーの再生ボタンを押しても再生できないことがあるのだ。この問題に関しては、パッケージ背面にも注記があり、「再生中に停止ボタンを押して、再度再生ボタンを押しても再生出来ないことがあります。その場合はディスクを一度入れ直してから再生してください」としている。実際に、ディスクを入れ直すと、ディスクの最初から再生可能となった。 この現象は、DVDプレーヤー「パイオニア DV-578A」やPCの「WinDVD 7」などで、開封後約40時間経過したディスクで確認され、開封直後のディスクでも生じることがあった。最内周のディスク情報領域が開封後に酸化することで、一定時間経過後にディスクを読めなくするという、48DVDの仕組みに起因する問題なのかもしれない。それ以外に通常のDVDビデオと比較して操作的に大きく異なる点は無かった。
■ 60時間以上の再生も可能?
パッケージ開封後、48時間で再生不能となるが、48時間以内であれば何度でも再生可能。実際に再生してみたところ、48時間を超えても続けて再生でき、約67時間で再生できなくなった。再生不能となったディスクを見ると、中央のリング上の部分が黒く変色している。リング部の変色により、マウント時にディスク情報の確認ができなくなるため、再生できなくなるという仕組みで、そのため、リピート再生を延々続けている場合などは延々と再生できるようだ。 複数のディスクで48時間を超える再生が可能だったが、実際48時間から若干余裕を持たせたマージン設定としているという。48時間きっかりでの酸化して再生不能を意図して設計すると、真夏の自動車内など高温環境では、48時間よりも早く寿命がきてしまう可能性がもある。そうしたトラブルを避けるためある程度のマージンを設けているという。 今回試したディスクでは60時間以上再生できたが、平均的な動作環境であれば、これくらいの時間は再生できそうだ。もっとも、動作保証は48時間まで。できるだけ限りその時間内に見終えた方が無難なのは間違いない。 本編映像は市販DVDと同じとのことだが、実際に市販のDVD「アビエイター プレミアムエディション」と比較してみた。DVD Bitrate Viewerで見た平均ビットレートは48DVDが5.64Mbps、プレミアムエディションが5.83Mbpsと差が出たが、波形はほぼ同じ。プレミアムエディションにはオーディオコメンタリ(192Mbps/ドルビーデジタル)を収録しているので、特典の違いが要因と思われる。実際の再生画質を見た限りでは大きな差は感じられなかった。
なお、パックを真空状態に保たなければいけないため、未開封の場合でも、販売開始後の再生保証期限も1年に限られている。今回発売の3タイトルでは、2006年7月までに鑑賞するよう告知している。 パッケージには、返信用封筒を同梱。回収したDVDディスクはオリエント測器コンピュータ株式会社と協力し、リサイクル品として再生する。
■ 新しいビデオコンテンツ流通の可能性 再生開始してしまえば普通のDVDだが、低価格で、返却期限や延滞金などを意識せずに好きなときに楽しめるという点では、セルでもレンタルでもない新しいビデオコンテンツの試みとして非常に面白い。 また、レンタルビデオ店やDVDショップでなく、ほぼ24時間開いているコンビニでの販売ということもあり、「映画は見たいが忙しくてなかなかショップに寄れない」という人にとって、アクセスしやすいメディアとなるだろう。 VODなどのネットワーク経由のサービスもまだまだ黎明期。従来のDVDとほぼ同じように購入するというわかりやすさや、コンビニ販売によるアクセスしやすさなど、手軽に映像を楽しめる、新しい映像流通チャンネルとして非常に有望といえそうだ。あとは、DVDの新作や人気タイトルを如何に集めて、それをうまくコンビニの流通で整理して販売できるかという点にかかっているように思う。 第1弾として「アビエイター」という大作をセルDVD発売から3週間でコンビニ販売できるというインパクトは大きい。今後も毎月のようにビッグタイトルをリリースできれば、多くのユーザーを獲得できるだろう。 なお、第1弾タイトルについてはテストマーケティング的な位置づけで、トータル10万枚製造(内訳はアビエイターが4万枚、花と蛇とカンフーサッカーが各3万枚)。売上や市場の反応を検証し、年内を目処に事業化を検討。パートナーと共同で事業会社を設立して、本格事業に乗り出す予定という。 また、第一弾の反応などを見て、価格も変更する可能性もあるが、価格については全タイトル一律の価格設定とする方針という。ともあれ、ビデオコンテンツ流通の新たな一チャンネルとして高い可能性を持った製品と言えるだろう。レンタルでも、セルでもない新しい提案として、今後のタイトル拡充にも期待したい。 □48DVDホームページ (2005年9月15日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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