今年もCEATECが開幕。大画面マニアにとって、今年、最も注目すべきフラットディスプレイは、現実的な画面サイズの中で一気にフルHD解像度化したプラズマテレビ(PDP)、そして2006年より製品化が始まるSEDということになる。 今回の大画面☆マニアCEATEC特別編の第一回目はこの2つに着目したレポートをお送りする。
■ SEDブースが今年も大人気
液晶でもプラズマでもないフラットテレビ第三の刺客として注目されている「SED」(Surface-Conduction Electron-emitter Display)は、今年もSED単体ブースとして設立され、常に黒山の人だかりという状態であった。日本人の大好きな「テレビ」と「最新技術」の強力タッグとあって、今年もCEATEC一番の注目スポットとなりそうだ。 まずは、簡単にSEDの基礎知識を整理しておこう。SEDは自発光型の固定画素形のディスプレイパネル。自発光型と固定画素形という2つのキーワードは、プラズマディスプレイ(PDP)の特徴でもあるが、SEDとPDPは発光のメカニズムも階調の表現も全く異なっている。
PDPでは各画素セルに封入された希ガスに放電して紫外線を発生させ、画素セルの内壁に塗布された蛍光体で発光する。 これに対し、SEDでは画素サイズの極小の電子銃(電子源)から電子を打ち出し、これを同じく相対するガラス基板上に塗布された画素サイズの蛍光体にぶつけて発光させる。電子の打ち出し距離は違うものの、基本的な概念はブラウン管と同じだ。いわばSEDは「ミクロなRGB単色ブラウン管が解像度分立ち並んだもの」というイメージになる。 SEDが優れている点の1つ目は、同一画素サイズならばSEDの方が非常に明るいという点。これは電子ビームを受けて発光するSED画素の方が、紫外線を受けて発光するPDP画素よりも発光効率がいいという単純な理由だ。
2つ目は高解像度に向いているという点。PDPでは希ガスを各画素内に密閉するために隔壁を持つのに対し、SEDでは電子を相対する蛍光体へわずかな距離飛ばすだけなのでこれが不要。すなわち、画素の微細化 = 高解像度化に向いていることになる。 3つ目は階調についての優位性。PDPでは各画素の明滅頻度で時間積分な階調を生成するのに対し、SEDでは電子ビームの強弱でアナログな階調表現が行えるために暗部から明部までが非常にリニアなものになる。
4つ目は応答性。PDPのような時間積分方式では画面内の動きを目で追う場合には正しい階調が認識されにくく二次輪郭やざわつきが見えてしまう。SEDではアナログ階調なので光ったその瞬間からその階調/色で発光し、さらにはブラウン管と同等の短残光特性のために残像が見えにくい。 よく言われることだがSEDは「熟成を極めたブラウン管画質を完全フラットにしたもの」なのである。 さて、このSEDは昨年からどう進化し、今後はどうなっていくのだろう? 東芝SED開発担当参事の森慶一郎氏に聞いた。
■ 55V型フルHD解像度のSEDがついに公開
今年もブース内に展示されていたSEDは昨年に引き続き1,280×768ドットの36V型のもの。ステージには10機以上、この36V型SEDが立ち並び試作機ながらも開発が進んでいることをアピールしている。 しかし、画面解像度と画面サイズは昨年と同じ。それでは今年のSEDはどこか変わったのか。表示映像をよく見ると、昨年よりも明らかに表現のダイナミックレンジが広がっていることに気が付く。コントラスト性能が劇的に向上しているのだ。この立体感はハイエンドのブラウン管かそれ以上だろう。 森氏によれば、「コントラスト性能を昨年の10,000:1から100,000:1以上と劇的に向上させることに成功した」という。これは電子銃(電子源)から打ち出される電子の漏れを抑え、徹底的な黒の沈み込ませることに成功した結果と、電子源の効率向上によってピーク輝度が昨年の300cd/m2から430cd/m2へと高められたことの相乗効果によるもの。 「コントラスト10万:1“以上”と、“以上”という言い回しをしているのにはわけがあって、使用している計測器では、計測不能だったからなんです(笑)。たぶんもっとあるはずです。」
発色もより洗練された印象がある。特に赤が艶やかで、PDPのように朱色に寄った感じになったり、青や緑のパワーに負けて黒ずんで見えることもない。 また、昨年はあまり近づいて見られなかったのだが、今年は比較的近くまで寄ってみることができ、画素1個1個のシャープな映り具合が、PDPのそれを上回っていることを実感できた。
同時に弱点も確認。それは外光の映り込みが激しいこと。ステージ上のSEDの画面に、反対側のHD DVDブースのロゴがくっきり映ってしまうほどなのだ。これについては表示面側にノングレア加工を施していなかったり、各種カラーフィルタを組み合わせていないためだという。これは技術的にできないというのではなく、単純に試作機なのでそういう作り込みを行なっていないだけ、とのこと。最終的な製品では、最新のブラウン管レベルのノングレア加工が施され、映り込みは大幅に低減される見通しのようだ。 さて、今年、SEDの最大のトピックは1,920×1,080ドットのフルHD解像度の55インチSED試作機が公開されたことだろう。昨年公開されたSED試作機は36V型1,280×768ドット(720p)解像度のものであったが、「SEDの最終製品はフルHDでいく」と宣言され、今回の55V型フルHDのSED試作機の展示はその公約実現に向けた第一歩といったところ。 この55V型フルHD-SEDは2006年に発売を予定しており、価格は未定としている。ただ、SEDが大安売りされる可能性は低く「SEDというデバイスの価値にふさわしい値段になるだろう」という。また、当面、SEDテレビは東芝のフラットテレビ製品群の中のフラッグシップモデルとして設定される可能性が高いようで、同型PDPよりも価格は高くなると予想される。 55V型より小型、たとえば40V型クラスの開発は未定としながらも、ニーズは高いために検討しているという。また、SEDの発表以来、放送業界や映画業界などプロフェッショナル用途向けモニタとして小型SEDの登場は強く期待され、問い合わせも多いようで、「より小型なタイプの開発も検討しなくてはならないと考えている」とのこと。SEDはPDPのように画素隔壁は持たないため小型画面での高解像度の実現に障害は少ない。 SEDパネルは2007年から本格量産を開始するとしており、そこから価格が下がり、普及期に入ると期待される。
■ パナソニック
パナソニックブースで一番の存在感を放っていたのは65V型のフルHDプラズマと、今回のCEATECで初公開となった50V型のフルHDプラズマの2製品。
65V型フルHDプラズマの「TH-65PX500」は、11月には実勢価格99万円程度で販売が予定されている。
TH-65PX500の実現には「フルHD PEAKS」と命名されたパネル形成技術がキーになっていた。PDPの場合、階調を明滅頻度の時間積分式に行なうことから、単純に画素数が増えるとパネル全域の画素を明滅させるのに間に合わなくなってしまう。そこで高速駆動技術が必要になる。 また、画面サイズを固定して画素数が多くなると必然的に画素サイズが小さくなる。小さくなれば開口率が下がり発光量が少なくなり暗くなってしまう。
パナソニックではこれらの問題を「フルHD PEAKS」という技術的ブレークスルーにより解決。具体的にどのような工夫であったかは公開されていないが、同一画素サイズ比較にて開口率が25%が向上し、画素セル内に封入される希ガスも新効果ガスとすることで発光効率を25%増加、高速駆動も両立したという。このことが65V型フルHDプラズマの実現を大きく前進させたのだそうだ。 今回、初公開となった1,920×1,080ドットの50V型フルHDプラズマでは、1画素あたりの寸法は0.576×0.576mmで、1,366×768ドットの現行50V型TH-50PX500の0.81×0.81mmと比較して面積比にして約1/2となる。それでも、この50V型フルHDプラズマでは、そうした開口率向上と発光効率向上の相乗効果によりTH-50PX500並の輝度性能を達成できているという。暗室コントラスト性能についても3,000:1を謳う。 50V型では65V型以上に厳しくなる画素隔壁(リブ)の微細化とその耐久性の問題についても技術的な解決を果たし、これも50V型フルHDプラズマ実現に大きく貢献したとしている。 この初公開となった50V型フルHDプラズマの発売にいては「未定」としており、他社の動向や市場の50V型に求める価値を吟味しつつ発売時期や価格を検討したいとした。 実際にその映像を見てみたが、65V型フルHDのTH-65PX500と比べると明るさのダイナミックレンジが低めで暗い。画調パラメータの追い込みが不十分という可能性もあるが、暗部階調も死に気味でTH-50PX500と比べてもまだまだ画質面での追い込みが足りないという印象であった。発売時期と価格が確定しているTH-65PX500の画質の完成度が高いだけに並べて展示されて画質の差が出てしまっているのが見ていて辛かった。だからこその「参考出品」なのだろうが……。
■ パイオニア
パイオニアも50V型のフルHDプラズマの試作機を展示、やはりこちらも実現困難といわれた50V型サイズでのフルHD解像度パネル実現に向けての技術解説を行なっていた。 やはり画素サイズが小さくなる50V型でのフルHD解像度実現において問題となるのは発光効率と高速駆動であると指摘。この問題を解決する立役者となったのは、新開発の「高純度クリスタル層」だったという。 高純度クリスタル層は画素セル内の表示面側のガラス基板に形成されており、画素セル内でのプラズマ放電に対して、自らが電子を放出する特性があるという。これがフルHD解像度における小型画素セル内でも安定した放電を実現し、発光効率を22%向上、さらには従来比3倍もの高速駆動を可能にした。
このフルHDプラズマを実現するために開発された高純度クリスタル層は1,280×768ドット以下のXGAモデルにもフィードバックされ、こちらが2005年秋より先行発売されることとなっている。
この3倍に高められた高速駆動により、従来はパネル上下になければ画素の明滅駆動速度が間に合わなかったデータドライバブロックがXGAモデルでは下側のみでよくなり「片側駆動」を達成。これが部品点数削減を実現し、ひいては省電力性能の向上とコスト削減をもたらすこととなった。 とはいえ、フルHD解像度では駆動画素が多くなることから、この3倍速駆動を持ってしても片側駆動は実現できず、この50V型フルHDプラズマ試作機では上下にデータドライバがある両側駆動になっている。 さて、この50V型フルHDプラズマの発売時期だが、こちらも価格、発売時期は未定。ただし「2006年のワールドカップはこれで見せられるようにしたい」としており、やはり競合他社や市場動向を見てリリース時期を模索しているという印象だ。
実機の画質を見てのインプレッションだが、個人的には、今回の50V型クラスのフルHDプラズマの試作品の中ではもっとも画質の完成度が高いと感じた。
輝度ダイナミックレンジはPDP-506HDとほとんど変わらないレベルを実現できており、同サイズのフルHD液晶と比較して、プラズマの自発光の強みをコントラスト性能に反映できている。
また、3倍駆動の効果だろうか、暗部階調のリニアリティも良好で見ていて安心する。パイオニア独自のダイレクトカラーフィルタの効果はフルHDパネルでも現れており、1ピクセル1ピクセルの描写が非常にシャープ。
色については全体的によいバランスなのだが、欲を言えば青や緑が鋭い反面、赤が若干朱色に寄っている印象があり、青や緑の深みに負けている。これは調整か改良を期待したいところだ。
■ 日立製作所
偶数ラスターと奇数ラスターの各走査線の放電電極の役割を交互に入れ替えて放電させる構造を取ることで電極の数を減らして開口率を稼ぐ「ALIS方式」、および「e-ALIS方式」とよばれる独自のプラズマテレビを製品化している日立製作所。ここも今年のCEATECのタイミングでフルHDパネルの試作機の展示を行なった。 画面サイズはパナソニックやパイオニアよりも若干大きくなる55V型となる。55V型は日立の現行製品でも採用されている大きさであり、フルHDでもこの大きさを踏襲することにしたようだ。 パネルのタイプについては明言を避けたが、55V型という大型画面であることと、実際に画素形状を見て縦横の格子目が見えている感じからe-ALIS方式、あるいは一般的なプログレッシブ方式同等だと思われる。 「あくまで参考出品である」ということを強調しており、パイオニアやパナソニックのような具体的な技術的解説は行なっていなかった。とはいうものの、他メーカーがあまり数値スペックを語りたがらないのに対し、日立は基本的なスペックをパネルを立てて提示していた。
これを見ると、ピーク輝度は現行の1,366×768ドットの55V型パネルと同等であるが、それでいてコントラスト性能はかなり大きく現行を上回っていることがわかる。ということは暗部の沈み込みが向上していることになる。 実際に見てのインプレッションだが、明るさに関しては同じ日立の1,366×768ドットの55V型e-ALISパネルよりもやや暗い印象があるものの、解像感に関してはスペック通りの違いがあることを実感できた。 価格、発売時期、共に未定で、2006年夏以降の発売を目標に開発が進められているとのこと。最終的なテレビ製品となったときには、現行WOOOシリーズと同様の一体型デザインとなる見込みだという。
「あそこが65V型を100万円未満で出してきたことを考えると、競争力のある価格帯というのは。もしかしたらある程度決まってきてしまうのかも」と担当者は話していた。
□CEATECのホームページ □関連記事 (2005年10月5日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
|