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第50回:DVD鑑賞基準を謳う480p液晶プロジェクタの実力は?
~レンズシフトを備えた入門機。エプソン「EMP-TW20」~


 ホームシアタープロジェクタといえば、パナソニック「TH-AE700」や三洋「LP-Z3」、エプソン「EMP-TW200」といったリアル720p解像度対応のプロジェクタを連想する人が多いかもしれないが、より低価格で、DVD映画を見ることに特化した「480pホームシアタープロジェクタ」という製品カテゴリも存在する。「TLP-ET1」、シャープ「XV-Z10」、日立「PJ-TX10J」、三洋「LP-Z1X」、三菱「LVP-HC100J」などが、このタイプに分類されるだろう。

 ただ、地上デジタル放送開始から始まったハイビジョンブームと、720pプロジェクタの低価格化の影響もあってか、世間の注目がこのクラスに向けられなくなってきている。実際、東芝、シャープ、日立などは、ここ2年、このクラスのモデルチェンジを行なっていない。

 そんな中、エプソンが、このカテゴリに新製品を投入した。それが今回紹介する「EMP-TW20」だ。型番からも分かるように、先代「EMP-TW10H」からのモデルチェンジ製品となる。実売価格は138,000円。

 今回は、本連載でもしばらく取り扱っていなかった、480pホームシアタープロジェクタの最新モデルが、どんな製品に仕上がっているかを見ていくことにしたい。


■ 設置性チェック
  ~100インチ(16:9)を投射距離2.5mで実現。レンズシフトも搭載

 ELP-TS10ELP-TW100の時代はいわゆる「無骨な“箱”デザイン」で無機質な印象だったエプソンプロジェクタも、ここ最近のホームシアターモデルはリビング環境への調和を意識した、曲面をふんだんに使った柔らかいデザインが主流になってきている。EMP-TW20も“角の取れた”デザインが美しく、先代EMP-TW10Hをさらに洗練させた面持ちとなった。

 本体サイズは373×295×111mm(幅×奥行き×高さ)で、設置面積的にはA4ファイルサイズノートPC程度。最近のエントリクラス向けホームシアター機としては標準的な大きさ。本体重量は約3.5kg。取っ手のようなものはないが、女性でも両手を使えば難なく移動できる軽さだ。

曲面基調のデザイン

 本体下部にはフットアジャスタが付いており、回して上下することで投射仰角を調整できる。ただし、仰角調整を行なってしまうと、映像は台形に歪んでしまう。このEMP-TW20には台形歪みを補正する機能が実装されているが、デジタルでの画像加工による台形歪み補正であるため、調整機能を利用すると表示画素数が減り画質は劣化する。

 特にEMP-TW20は画素数の少ないパネルを採用している関係で、調整時の画質劣化度合いが激しい。フットアジャスタは仰角調整よりも、投射軸の水平バランス補正に使う程度に留めておくべきだろう。

 投射レンズは1.5倍マニュアルズーム式を採用。最大限に短焦点にふった設計で、100インチ(16:9)の投射の最短投射距離は実に2.5mを達成している。EMP-TW20のカタログには「6畳間で120インチ」という記述があるが、他にスピーカーなどを置くことを考えると実際には120インチはやや厳しいかもしれない。しかし、それでも6~8畳間での100インチ投影は十分行なえそうだ。

 EMP-TW20は、低価格モデルながらも、投射レンズにレンズシフト機能を盛り込んでおり、上下に画面50%分、左右に25%分のシフトが行なえる。なお、最大上方向シフトで画面下辺が光軸に位置する形で、逆に最大下方向シフトで画面上辺が光軸に来る形になる。台置き設置の場合は、本体を相当高い台に設置するか、あるいはスクリーンの方を低い位置に設置しないと設置のバランスがとりにくい。レンズシフト機能は搭載されてはいるが、上位モデルのEMP-TW200/500シリーズが上方向のシフトのみ100%に対応しているのと比べると、若干の制限を感じる。

右が上下レンズシフト調整ツマミ。左が左右レンズシフト調整ツマミ。中央、上側(内側)がズーム調整ツマミ。下側(外側)がフォーカス調整ツマミ

 また、この大幅な短焦点レンズのおかげで短い投射距離で大画面投影ができるという魅力はあるものの、部屋の最後部に常設設置したいという設置ケースでは、ズーム最小(テレ端)にしても投射映像がスクリーンをはみ出してしまう可能性があり、注意が必要だ。

 たとえば10畳の部屋の最後部に設置しようとすると投射距離は約4.0m以上になるわけで、EMP-TW20の場合は100インチ(16:9)の投影がテレ端でも3.8mなので、投射映像が一回りスクリーンからはみ出てしまうことになる。

 部屋の最後部に設置した本棚の最上段天板に設置する「疑似天吊り設置」を考えている人は、EMP-TW20の短焦点性能が裏目に出る可能性があるわけだ。

 10~12畳、あるいはそれ以上の部屋で天吊り設置で100インチ(16:9)前後の投影を考えているユーザーも注意が必要だ。この短焦点レンズのために、部屋の天井の真ん中寄りに設置しなくてはならなくなるため、照明器具と設置位置が重なる可能性があるのだ。

 整理すると、EMP-TW20は、組み立て式の高さの低いスクリーンと組み合わせた台置き設置が望ましいということになるだろうか。常設せずに、レンズシフトと短焦点レンズを活かして、必要なときにテーブルなどの上に設置して視聴するという使い方もアリだろう。

 なお、投射モード自体は、フロント、リア、天吊りの全組み合わせに対応しており、専用の天吊り金具「ELPMB19」(標準価格47,250円)も用意されている。

 画調モードが「シアターブラック1あるいは2」時、騒音レベルは公称値28dB。他のモードではランプが高輝度駆動される関係で若干騒音レベルが上昇する。どちらのモードでも、プレイステーション2(SCPH-30000、以下PS2)とほぼ同等が若干上程度の騒音レベル。ユーザーとの位置関係が近いと排気ファンの音は聞こえるが、2mほど離れて映像の視聴が始まってしまうとそれほど気にはならない。

 光漏れは、吸排気スリットを側面に配置している関係で投射軸方向には皆無だ。側面の吸排気スリットにおいても、その各スリットのフィンを下向きに配列させているため、本体内部からの光をうまくシャットアウトしている。このあたりはうまい設計だと思う。

 光源ランプは135Wの超高圧水銀系のUHEランプ。公称寿命は約2,000時間となっている。交換ランプ「ELPLP33」は26,250円と比較的安価で、本体価格だけでなく、ランニングコストの低さもEMP-TW20の魅力といえそうだ。

下部にあるのが2脚のフットアジャスタ。投射レンズ左にあるのは赤外線リモコン受光部。その下には3板式液晶方式である証「3LCD」のロゴが 排気口。このスリットが下向きになっているため光漏れはなし。熱気も下向きに吹き出される


■ 接続性チェック
  ~DVI端子、HDMI端子を実装せず

 ビデオ系は、コンポジットビデオ、Sビデオ、コンポーネントビデオの各入力が1系統ずつ。コンポーネントビデオ入力はY/Pb/PrのRCA端子×3タイプで、D端子はない。

接続端子パネルは背面に位置している。右にある丸いのが1Wモノラルスピーカー。その左にある黒いものはリモコンの赤外線受光部

 PC入力系としてはD-Sub15ピンのアナログRGB入力を1系統実装。デジタルRGB接続端子のDVI端子はなし。

 音声入力用の端子もあるが、映像入力との連動はなし。端子接続されたラインの音声が常に本体内蔵の1Wモノラルスピーカーから再生される。カジュアルにゲームを楽しむ際などは便利に活用できそうだが、音質はそれなり。この他、プロジェクタのリモート制御用のRS232C端子が実装されている。

 接続端子は先代EMP-TW10と全く同じで特に改良点が見られないのが残念だ。特にデジタルビデオ接続用のHDMI端子を実装していないのが2005年モデルとしては不満が残る。HDMI端子を実装したDVDプレーヤーも増えてきているので、DVD再生に特化したEMP-TW20だからこそ、HDMI端子は欲しかった。



■ 操作性チェック
  ~ユーザー設定モードを各入力ごとに3個登録可能

リモコン。小型のリモコンに独立ボタンをたくさん実装したことは評価したいが、ボタンを押しても設定メニューが呼び出されるだけで、順送り切り替えができない操作系にはストレスを感じる人もいるかも

 EM-TW10のリモコンは簡易的なカードリモコンであったが、EMP-TW20では、立体的なリモコンへと変更された。

 各ボタンは蓄光式で、暗闇では柔らかく光る。暗闇ではリモコンの場所こそ分かるものの各ボタンの機能名までの判読は難しく、やはり利便性を考えれば自照式を採用して欲しかったところ。

 メニュー操作の基本は、[Menu]ボタンを押してメニュー画面を出し、リモコン最下段の十字キーで操作するというスタイル。メニュー階層を降りるのは[Enter]あるいは[→]、戻るのは[Esc]あるいは[←]でよく、直感的な操作系に対応している。リモコンの感度は良好で、メニュー操作の動きもまずまずの早さであった。

 電源ボタンは誤操作防止のためだろう、[On]と[Off]の個別ボタンが最上段に離れた位置関係で実装されている。

 この[On]ボタンを押して、EPSONロゴが表示されるまでは約6.5秒(実測)かかり、コンポーネントビデオ入力の映像が表示されるまで約29.3秒(実測)かかった。ロゴ表示まではかなり早いが、映像表示までは最近の機種としてはやや遅めという印象。

 入力切り替え操作は、[InputA]、[InputB]、[S-Video]、[Video]の4つの独立ボタンを使って行なえる。InputAがコンポーネントビデオ、InputBがPC入力に対応するのだが、素直にCOMPONETとPCのように記述せず、なぜこのようなわかりにくいA,B表記となっているのかは謎だ。

 入力切り替えの所要時間はS→コンポーネントビデオが3.1秒(実測)、コンポーネントビデオ→PCが3.4秒(実測)であった。最近の機種としては遅いが、順送りでなく、直接希望する入力ソースへ切り替えられる操作系なので、イライラすることはないはずだ。

 アスペクト切り替え操作はリモコン上の[Asp]ボタンを押して、アスペクト変更メニュー画面を出し、十字キーの上下ボタンで希望のアスペクトモードを選択して[Enter]を押して決定という操作系。押すボタンの数と回数が多くなるのと、指の移動があるので、暗闇での操作はやりづらい。なお、アスペクト比の切り替え所要時間はゼロ秒に等しく、操作した瞬間に切り替わる。であるならば、なおさら、このような操作系にせずに、せめて順送り式の切り替えにして欲しかった。

 アスペクトモードのバリエーションは以下の3つ。

  • ノーマル
     パネル中央を使ってアスペクト比4:3の映像として表示する
  • スクイーズ
     パネル全域を使ってアスペクト比16:9の映像として表示する
  • ズーム
     アスペクト比4:3のフレームの中央に16:9映像を収録している、いわゆるレターボックス記録された映像をパネル全域を使って表示する

 映像外周のみを引き延ばすモードや、入力映像をスケーリングせずに表示するスルーモードはなし。

「映像」メニュー 「画質調整」メニュー 「設定」メニュー
「画面調整」メニュー 「情報」メニュー 「初期化」メニュー

 画調モードは[ColorMode]ボタンを押すことで画調モード変更メニューを出し、それから十字キーで選択するという、アスペクトモード切替と同様の操作系。これも少々、操作が面倒。画調モードの変更所要時間は約1.9秒(実測)で遅め。

本体上面にある操作パネル。リモコンがなくても、電源操作、入力切り替え、アスペクト切り替え等の基本操作はここだけで行なえる

 調整マニアのために、リモコンにはブライトネス[Bright]、コントラスト[Contrsast]、色温度[Color Temp]、肌の色調整[S.Tone]といった独立ボタンが設けられており、階層メニューを潜ることなく、該当パラメータの調整メニューを一発で呼び出せるようになっている。

 設定した状態はユーザーメモリとして、各入力ごとに3個まで登録が可能。そして、登録したユーザー設定画調モードは、リモコン上の[Memory]ボタンを押して「ユーザー画調モード切り替えメニュー」を開き、十字キー操作で選びだせる。

 この他、独立ボタンが用意されているのは垂直台形補正用ボタン、内蔵スピーカーの音量調整ボタン、内蔵スピーカーのミュートボタンなど。

 EMP-TW20には、投射画面を一時静止させる機能を備えており、[Still]ボタンを押すこと実行できる。



■ 画質チェック
  ~透過型液晶ながらネイティヴコントラスト1,000:1を実現

 映像を作り出す液晶パネルは、アスペクト比16:9、解像度854×480ドットの0.55型ポリシリコンTFT液晶パネル。3LCDロゴが本体に呈されていることからも分かるようにこの透過型液晶パネルをRGB3枚分使用して映像を生成する。

 現行DVDは映像を720×480ドットで記録しており、実際の表示は、各ディスプレイ機器内蔵の映像エンジンにて表示パネル解像度に変換してから行なわれている。

 EMP-TW20の場合、縦解像度がDVDの記録解像度と一致しているため、横方向のスケーリング処理だけでパネル全域に解像度変換ができることになる。つまり、EMP-TW20は最も少ない画像処理でDVD映像が投射できるプロジェクタといもいえる。

 ちなみに、854×480ドットという解像度は、縦480ドット基準のアスペクト比16:9の正方画素系が丁度この解像度になるところからきている。

画素間の隙間はそれなりにある。100インチを超えた大画面ではこの格子模様による粒状感が際立つ。若干の色収差が出ているが、ズレは画素自身の格子内に収まっており、解像度劣化には影響なし

 画素間の隙間はそれなりにあり、480pパネルという解像度の低さもあって、100インチ以上の投影を行なうと、この隙間が視覚できてしまうほど。個人的な意見だが、粒状感が目立たない形で投射できるのは、60~70インチ前後までという感じだろうか。

 公称最大輝度は1,200ANSIルーメン。ホームシアター機としては非常に明るい部類に属し、実際、蛍光灯照明下でも映像がそこそこに見られてしまうほど。遮光カーテンをちょっと引いた薄明かり状態でもバラエティ番組やスポーツ中継などは普通に楽しめてしまうほど。食事をしながらのテレビ的な活用も十分いけそうだ。

 公称コントラスト比は1,000:1。ランプパワー“低”で、ND系のフィルタだと思われるエプソンシネマフィルタを適用した状態の値のようだが、ランプパワー“高”にしても、そのハイコントラスト性能は維持されているようだ。

 輝度性能が高いこともあり映像の明るい部分に力強さがあり、強い遠近感と立体感のある表現になっている。動的なランプ駆動無しのネイティヴでここまでのハイコントラストが表現できていれば透過型液晶プロジェクタとしては立派だと思う。

 発色は概ね良好。明るさにはパワーがあるので明暗のダイナミックレンジは高いのだが、グラデーションを見ると明色系の階調がやや飽和気味な印象がある。色深度にはもう少しきめ細やかさが欲しい気はするが、価格を考えればよくまとまっているとは思う。

 純色系については緑と青に力強さを感じるものの、赤はやはり超高圧水銀系特有の朱色が若干残っている感触だ。

 透過型液晶特有の黒浮きについては、やはり、それなりにはある。しかし、明部に力があるので相対的に沈み込んで見え、それほど嫌みは感じない。階調表現についても、暗部は漆黒にはなっていないものの、暗部から明部へのリニアリティは保たれており、自身のポテンシャルの範囲内で上手くチューニングされている感じだ。

 肌色表現もエプソンシネマフィルタを適用した画調モードであればかなり上手く調整された肌色を味わえる。逆に、エプソンシネマフィルタを外した画調モードでは超高圧水銀系ランプ特有の、肌色に黄味が乗った感じになり不自然になる。

 なお、EMP-TW20は、「肌の色調整」なる専用調整機能を実装しており、これを設定することでよりユーザー好みの肌色に追い込めるようになっている。設定範囲は0~6で、基準値は3。値を上げると黄味が増し、下げると赤みが増す。デジタル処理特有の色範囲選択式のフィルタではなく、画面全体の色バランスに影響を及ぼす方式で、実際には、あまり大胆な設定変更は行なえない。エプソンシネマフィルタ適用時は標準値の「3」が最も自然な感じで調整の必要性を感じない。赤みが物足りないと感じたときのみ、「2」として、心持ち血の気の温かさを増すとよいかもしれない。


プリセット画調モード
 ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC。
 撮影後、投影画像の部分を800×450ドットにリサイズしてから画像の一部分(160×90ドット)を切り出した。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS
 
●ダイナミック
 ランプ駆動モード「高」、エプソンシネマフィルタなし設定となる、明るさを最重要視したモード。このモードの時、最大輝度スペックである1,200ANSIルーメンとなる。

 光源ランプからの全光をそのまま投射することになるので、白が黄味を帯びるほどランプの色特性がむき出しの色調になる。

 青はシアンに寄り、緑は黄色により、赤はより朱色感が強まる感じで、色再現性は全モードの中で一番悪い。

 明るい部屋で映像を確認したいときにのみ活用するモードという感じだ。

 
●リビング
 ランプ駆動モード「高」、エプソンシネマフィルタなし設定。ダイナミックと共通で非常に明るい。しかし、白まで黄色く見えるランプ特性むき出しのダイナミックと比較すると、大部、色バランスを理性的に落ち着つかせている。

 青は青らしくなり、緑からも黄味が低減される。赤も輝度パワーはなくなるが朱色っぽさは低減される。白はダイナミックよりは純白に近くはなるが、その代わり若干青みを帯びる。そう、丁度、全体的にPC向け液晶ディスプレイのような画調になる。

 薄明かりの中で、ある程度マジメに映像を楽しみたいという向きに適したモード。

 
●ナチュラル
 ランプ駆動モード「高」、エプソンシネマフィルタあり設定のモードで、明るさとカラーバランスの釣り合いがもっとも取れたモード。

 赤、青、緑の純色は、ランプ特性が若干残りつつも、力のバランスはよく、階調表現もリニアでなだらか。

 実質的な標準モードという印象で、とりあえず迷ったらこの画調モードで見ておけ、という感じ。

 
●シアター

 ランプ駆動モード「高」、エプソンシネマフィルタあり設定のモードで、基本的な画調はナチュラルとよく似ている。いわばナチュラルの別バージョンという感触。

 白はナチュラルよりも黄味が低減し、純白値に近くなっている。

 中明部の階調がナチュラルよりも幾分きめ細やかになり、色ディテールもEMP-TW20のポテンシャルの中ではもっともよく表現される。

 最大輝度はナチュラルよりも控え気味になっており、鮮烈さの面でシアターの方が穏やかな見え方になるが、長時間見るのにはこちらの方が適している。こちらも汎用性の高いモードだ。

 
●シアターブラック1

 ランプ駆動モード「低」、エプソンシネマフィルタあり設定のモードで、後述のシアターブラック2共々、350ANSIルーメンの低輝度モードとなる。明るさが抑えられた分、黒浮きが低減され、黒が締まり、暗部階調表現もよりきめ細かくなる。

 全体的な画調はシアターを基本としているが、絶対的な輝度が落ちている分、ダイナミックレンジは狭まっている。そのため、ナチュラルやシアターと比較して、晴天の青空などを含むシーンではまばゆさが感じられなくなる。ただし、コントラストは良好に保たれており、色調にも特に嫌みもなく、汎用性は高い。

 
●シアターブラック2

 ランプ駆動モード「低」、エプソンシネマフィルタあり設定のモードでシアターブラック1の別バージョン。1との違いは色温度で、1が色温度「中」となっているのに対し、2では「低」に設定されている。

 黒浮きが低減されている点、暗部階調表現が良好な点、まばゆさが失われている点などはシアターブラック1と同じだが、色温度が若干下げられている分、人肌には暖かみが増す。

 

【映像タイプ別のインプレッション】
ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC
 撮影後、投影画像の部分を800×450ドットにリサイズしてから画像の一部分(160×90ドット)を切り出した。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS


●DVDビデオ(DENON DVD-2910、コンポーネントビデオ接続)
 解像度変換が最小限というだけあって目立ったピンぼけ感もなく、DVDビデオに記録された映像情報が過不足なく出力されている手応えがある。

 画調モードをナチュラル、あるいはシアターに設定すれば暗部階調表現も安心感を持ってみられる。ナチュラル、シアターはランプ駆動モードが「高」なので黒浮きを感じるが、それでも明るい方向に高いダイナミックレンジがあるため、映像に力が感じられる。個人的には、シアターブラック系モードよりもお勧めだ。

縦方向に黒ずんで見えるシミは単色領域が多いと目立つ。一般的な映像でも左右にパンしたりすると目に付きやすい

 いくつか気づいた点もある。

 1点目は暗いシーンでは画面全域に等間隔のすだれ状の縦線が見える点。筆者は、サスペンスホラー映画「SAW」のDVDでは、チャプター14を見ていて気が付いた。暗めの映像鑑賞には、本機は向かないと言えるかもしれない。

 2点目は、本連載でたびたび触れている縦縞状のシミについて。やはりEMP-TW20でも、単色領域の多い映像を出すと薄墨を上から流したような縦縞状のシミが見える。これは現行の透過型液晶パネルの特性ということのようだが、映像機器としてみた場合、本来見えるべきものではないので、気になる人にとってはそういわれても納得が行かないかも知れない。

DVDプレーヤーの出力をインターレース出力にして、画調モードをナチュラルとして投射した映像。プログレッシブ化処理の品質が低いために、映像がぼやけた感じになってしまっている

 3点目はプログレッシブ化ロジックのクオリティが低いという点。DVDプレーヤーからの出力をインターレースとすると、EMP-TW20のプログレッシブ化機能を有効にしても、正しい3-2プルダウンが行なわれずラインダブラー的な縦解像度の不足した感じの画になってしまい、時々偶数と奇数のラスター間で干渉縞のようなものも見える。なお、DVDプレーヤー側でプログレッシブ出力するとこの現象は見られなかった。EMP-TW20とは、高品位なプログレッシブ出力機能を持っているDVDプレーヤーと組み合わせたい。

 
●HDDレコーダ(NEC AX20/Sビデオ接続)
 Sビデオからの映像は必然的にインターレースになるわけだが、案の定、EMP-TW20によってプログレッシブ化された映像は、解像感が不足しており、ぼやけた眠い感じになってしまっていた。

 また、色境界で虹色のクロスカラーが強く出ることも確認された。480pビデオプロジェクタだからこそ、3次元YC分離機能くらいは欲しかった気がする。Sビデオからの映像はとりあえず映る的な認識の方がよいかもしれない。

 
●BSデジタルハイビジョン(東芝 TT-D2000/コンポーネントビデオ接続)
 1,920×1,080ドットの200万画素相当のハイビジョン映像は、EMP-TW20の854×480ドットの40万画素相当のワイドVGA解像度に圧縮表示されることになる。画素数比で5分の1となってしまうわけだ。

 さすがに解像度の違いは否めないのだが、元映像のクオリティが高いためか、ワイドVGA解像度に圧縮表示されても、Sビデオの映像と比較して、各段にノイズも少なく、クロスカラーも皆無で、非常に見やすい映像となっていた。

 圧縮表示とはいえ、1画素に込められる情報量は増えることになるので、DVDビデオの映像よりも見た目の解像感が1ランク上に感じる。肌の凹凸や髭の生え際、髪の毛や体毛の存在もしっかり見えるほどであった。

 
●PC(NVIDIA GeForce6800Ultra/デジタルRGB/アナログRGB接続
入力解像度 アナログRGB
640×480ドット
848×480ドット
(800×600と誤認)
856×480ドット
(800×600と誤認)
800×600ドット
1,024×768ドット
1,152×864ドット
1,280×720ドット
1,280×768ドット
(1,024×768と誤認)
1,280×960ドット
1,280×1,024ドット
1,600×1,200ドット
1,440×1,080ドット
1,920×1,080ドット
(1,440×1,080と誤認)
 さすがデータプロジェクタメーカーとして名を馳せたEPSON製品だけあって、対応解像度の広さは凄いものがある。「入力した解像度はとにかく映す」という姿勢は大したものだ。

 しかし、一方で、848×480ドットや856×480ドットのようなワイドVGA解像度を、パネル画素と一対一に対応した表示にできないという点は不満だ。なお、パネル画素と1対1に対応した表示になるのは640×480ドット画面をアスペクト、ノーマルにしたときのみ。

 意外にも、EMP-TW20はホームシアターPCとの組み合わせには向かない。

※パネル画素に一対一に対応した表示……、正常表示……、表示はされるが一部に違和感あり……、表示不可能……×

 
●ゲーム(プレイステーション 2/コンポーネントビデオ接続)
 画面の動きの激しいレースゲーム、3Dアクションゲーム、いずれにおいても、目立った残像は感じず。視覚的なストレスを感じることなく大画面でゲームが楽しめることだろう。

 なお、PS2の基本映像出力はインターレース出力なわけだが、やはりEMP-TW20ではプログレッシブ化ロジックの詰めが甘いせいか映像が眠くぼやけた感じになっていた。

 


■ まとめ

 EMP-TW20の実勢販売価格は12万円前後。

 EMP-TW20のキャッチコピーは「日本のDVD鑑賞基準。」となっているが、確かに、DVD鑑賞に用途を限定すれば、明るさ、色再現性、コントラスト性能は価格に見合っており、大きな不満はない。

 ただし、前述したように、EMP-TW20側のプログレッシブ化機能の品質が低いために、美しいフレームを表示するためには、優秀なプログレッシブ出力機能を備えたDVDプレーヤーが必要になるということは覚えておいた方がいい。

 ところで、現在、昨年発売されたTH-AE700、LP-Z3、EMP-TW200Hといった720pプロジェクタが18万程度で、探せば15万以下でも購入できるところまで落ちてきている。EMP-TW20との価格差は2~3万円。DVDはともかくハイビジョン映像を楽しむことまでを視野に入れるならば、EMP-TW20はパネル解像度からして能力不足だ。もう少し予算をプラスして頑張って720pリアル対応機種を狙うべきだろう。


□エプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□製品情報
http://www.i-love-epson.co.jp/products/dreamio/emptw20/index.htm
□関連記事
【6月9日】エプソン、実売13万円台のレンズシフト搭載液晶プロジェクタ
-色再現を高めたDreamioエントリーモデル
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050609/epson.htm
【2004年4月15日】エプソン、168,000円の家庭用プロジェクタをモデルチェンジ
-輝度が1,200ルーメン、コントラスト比が800:1に向上
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040415/epson.htm
【2003年10月2日】【大マ】16万8,000円のホームシアターモデル
~パネルメーカー、エプソンの低価格戦略機「EMP-TW10」~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031002/dg25.htm

(2005年7月28日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。
 本誌ではInternational CES 2005をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。

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