■ Zooma! 初のシャープ製レコーダ レコーダというのは、各メーカーごとに作法みたいなものがある。言うなればそこがメーカーの思想を反映している部分なのだが、その作法が誰にとっても違和感がないか、覚えにくくないかというところは、今後のレコーダ選びでは重要になってくる。たとえ機能てんこ盛りでも使わなければ、無いのも同然なのである。これまで当Electric Zooma!では、過去5年間に数多くのDVDレコーダを取り上げてきたわけだが、大手国内メーカーでは唯一、シャープの製品だけは取り上げてこなかった。理由は以前も書いたことがあるが、シャープから借りることが、至難の業なのである。今回取り上げるAQUOSハイビジョンレコーダ「DV-AR12」(以下AR12)は、編集部がHDMI出力の検証用として購入したものだ。シャープとしては2005年度のシェア目標はハイビジョンレコーダ市場の約35%ということらしいが、そのうちの何%かはAV系編集部の自腹購入によって確保されているという気がしないでもない。 そんな戯れ言はともかくだ、シャープはハイビジョンハイブリッドレコーダを製品化したのは一番早かったのだが、これまで筆者はシャープ製品をじっくり触ったことがない。いったいどんな作法を持っているのだろうか、早速試してみよう。
■ 日本語表示にこだわったディスプレイ まず今回のAR12のポジションを確認しておこう。AR12と下位モデルの「DV-AR11」は、11月4日に発売されたばかりのデジタル放送対応レコーダである。シャープではさらに上位モデルとして、地デジダブルチューナを装備した「DV-ARW15」と「DV-ARW12」の発売を予定しているが、これは12月1日発売予定と、まだ先の話だ。
では改めてAR12のデザインから見ていこう。フロントパネルは上部がブラック、下部がシルバーの2段が重なったような、角張ったイメージとなっている。中途半端に面取りされているよりも、すっきりした潔さがある。高さは68cmと、最薄ではないが十分薄型で通る厚みとなっている。 電源ボタン、DVDイジェクトボタンがシンメトリックに配置されている。以前からシャープのレコーダの特徴であった丸い窓、HDDとDVDのステータスを色で表示する「メディアサークル」というらしいが、これもシンメトリックに配置されている。 中央部のディスプレイ部は、録画残時間や録画中の番組タイトルなどを日本語で表示できる。他社のレコーダではこれらのステータスをテレビ画面上に出力するものがほとんどで、本体のディスプレイを使ってこういったことをやっているのはユニークだ。ただこれがどれぐらい実用的かは、レコーダを設置する場所や、操作する距離にもよるだろう。 本体HDDは250GBで、デジタル放送の録画にはちょっともの足りない。ただデジタル放送と地上アナログ放送は同時に録画できないので、その分録画量は少なくなる。DVDドライブはセンターではなく、右側に付けられている。録画対応メディアはDVD-R/RWで、当然CPRMにも対応するが、DLメディアには対応していない。なお再生に関しては、DVDの5メディア全種類に対応する。
フロントパネル下部を開くと、左手にB-CASカードスロットがある。ディスプレイ部を挟んで右側には、放送波切り替えボタンとチャンネルのアップダウン、あとは録画再生系の最低限のボタンがあるのみだ。前面にAV入力端子を備えないレコーダも、珍しいかも知れない。
背面に回ってみよう。RF入力は地上アナログと地上デジタル、BS/110度CSの3系統。アナログAV入力は2系統で、同タイプの出力は1系統。そのほかD4端子とHDMI端子があり、D端子と組み合わせるアナログのオーディオ出力がある。デジタル音声は光のみだ。i.LINK端子が1つあるが、これはTS専用でD-VHSなどを接続する。DVカメラには対応していない。 低価格でHDMI装備が目玉と言えるが、入出力系統は必要最小限で、一度設置したら差し替えないという「ハメゴロシ」的な設計と言えそうだ。 リモコンも見てみよう。本体デザインに合わせたのか、HDDとDVDのボタンが離れていて間延びした印象を与える。それ以外にはあまり特徴的な部分はなく、十字キーを中心に四方にボタンを配するという、オーソドックスなスタイル。中央にある「スタートメニュー」ボタンは若干大きくなっており、ここからいろいろやってください、という作りになっている。再生操作系では、10秒戻し、30秒送りボタンがポイントだろうか。
フタを開けると12キーほか、デジタル放送のデータボタンもここにある。普通デジタル放送対応機器のリモコンでは、4色キーとともにデータボタンも表にあるものだが、レコーダでは使用頻度が低いと見たのだろう。
■ 意外に細かい録画設定 では早速使ってみよう。各放送波の切り替えだが、多くのレコーダではリモコンに4つの放送波をダイレクトに切り替えるボタンを装備している。だが本機では放送波切り替えボタンを押したのち、十字キーの上下で選ぶというスタイルになっている。リモコンのボタンは少ない方がいいのか、ダイレクトに操作できた方がいいのか、意見がわかれるところだ。
スタートメニューには各機能がジャンル分けされている。リモコンのボタンでダイレクトに機能にアクセスできるのだが、わかりにくい場合はここから入っていく、という作りになっている。 番組予約から見ていこう。番組表は、地上アナログではGガイドだ。縦軸がチャンネル、横軸が時間表示で、配信元のTBSが先頭に来るなど表示形態は他社製品と変わりない。「赤」ボタンで検索メニューに移動する。ジャンル検索は、Gガイドが提供するジャンルやサブジャンル別に検索する機能で、すでにお馴染みだろう。キーワード検索は、自分でキーワードの入力が可能だ。 文字入力はユニークで、まず50音の行を選んだのち、かなを選択していくという方法。まあわかりやすいといえなくもないのだが、かなが表示されていると他の行の表示を隠してしまうので、1文字入力後、別の行に移動するときに不便。レイアウト的に上下にはまだ余裕があるんだし、かなは縦に表示するとか考えなかったんだろうか。
録画画質は、プリセットとしてXP、SP、LP、EPの4段階しかないが、マニュアルでは65段階のビットレートが選択できる。またリモコンの「録画画質」では、4つのプリセットのほかに「MN」という形で1つだけレートが選べるようになっており、予約ではなくその場で録画する場合に、プリセットのレートの隙間を埋めることができる。
番組の予約では、予約延長機能が使える。切、15分、30分、90分から選択するというスタイルだ。またEPGの情報を元に、野球延長や最終回番組枠拡大に対して自動録画延長する機能も備えている。予約の詳細設定では、予約名の変更やグループフォルダへの振り分け、重ね録りといった設定ができるなど、細かいところにも配慮されている。
一方デジタル放送の番組表は、縦に9チャンネル表示できるため、最大で同時に4局ぶんが表示できるのは、他社にはない工夫だ。また予約スタイルも画質モードにダイレクトにTS録画する「HD/SD」モードが増えるだけで、ほぼ同じ操作性を実現している。
■ メニューの構造にはやや難あり 続いて再生・編集機能を見ていこう。録画リストでは、同時に6番組のサムネイルが表示される。選択したサムネイルは、その場で再生され、内容がわかるという仕掛けになっている。またサムネイルの状態でも早送りができるのは面白い機能だ。ただし通常の早送りは3段階あるが、サムネイル状態では1段階のみである。
録画リストはサムネイルだけでなく、リスト表示にも切り替えることができる。ソート順のバリエーションも多く、かなりの不満は解消できるだろう。なおここで選んだソート順は、サムネイル表示にも反映される。 リモコンのグループボタンを押すと、フォルダが表示される。予約時に振り分けたアレだ。ここではグループ2、3といった味気ないタイトルになっているが、フォルダ名は自由に付けることができる。ただこの表示は、録画リスト表示とは繋がりがなく、いったんメニューを抜けてから改めてボタンを押す必要がある。全体が表示できる録画リストとフォルダ表示を簡単に切り替えられると良かっただろう。 ユニークな機能としては、「おすすめ消去リスト」がある。番組の予約リスト表示や予約完了時にアクセスできるのだが、HDDの容量が足りないときに、予約作業の流れで見終わった番組が削除できる。複数番組を同時に削除できるため非常に便利な機能なのだが、予約のところからしか行けないというのは、若干混乱するかもしれない。録画リストからも行けるようになっていると、さらに良かっただろう。
録画リストからアクセスできる編集機能としては、シーン消去、インデックス画面変更、チャプター分割、チャプター結合の4つがある。 シーン消去は、削除したい部分の範囲を指定して、番組ファイルを直接部分消去する機能だ。アナログ放送など、自機でMPEGエンコードした番組では、コマ送りなどのレスポンスはなかなかいいが、フレーム数値の表示が出ないのが難点。一方でデジタル放送をTS録画した番組では、フレームの表示まで出るもの、コマ送りなどのレスポンスは悪い。ちなみにチャプタを打つ場合は、MPEGエンコード番組でもフレーム数値が表示されるので、編集時もできそうなものだが。
どちらの場合も、一カ所編集したら、続けて編集するかを問い合わせてくるのは若干鬱陶しい。スゴ録のように番組選択画面まで戻されるよりはマシだが、いちいち問い合わせないようにできないものだろうか。 部分消去としてはこのほかに、チャプタを打っておいて、あとでまとめて削除するという方法も提供されている。ただしこの機能は使うには、スタートメニューの「消去」から辿っていく必要がある。手順によって到達できる機能が変わるというのは、覚えにくい。
■ 気配り細かいダビング機能 続いてダビング機能を試してみよう。スタートメニューの「ダビング」からはウィザード形式になっており、ダビング元とダビング先を指定する。HDDとDVDしかなければ、たすきがけ選択になるわけだからダビング先を選択する必要もないのだが、本機ではi.LINKへのダビングも可能になっている。i.LINK接続機器へのダビングは、動作検証するのがめんどくさいのか、今や多くのメーカーが敬遠する機能になってしまったが、シャープは以前からこの点は頑張っている。高速ダビング機能は、すでにレコーダでは当たり前の機能になっているが、本機の場合はそれも2モード選べるようになっている。1つは時間優先で全力でブン回す方法と、もう1つは動作音が静かになるようにダビングするというモードだ。
こういった使用環境に配慮したダビングモードを備えるという発想は、他社には見られない傾向だ。余談だが環境に配慮するという点では、梱包に使った段ボールも小さく折りたためるように作られているなど、なかなか配慮が細かい。昨今では地球の環境を考えた生活をするLOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)というライフスタイルが提唱されているが、そういう層にもアピールしそうである。 再エンコードによるDVD保存には、2passエンコードのような機能はない。だがダビングの設定をしてすぐに開始するのではなく、いつダビングを行なうのかをスケジュールとして設定することができる。今からダビングしたら予約録画に被ってしまうというときや、そんな作業は夜中のうちにやらせたいというときには便利だ。 なおダビングのスケジュールが録画予約と時間が被っているときは、設定時に教えてくれる。なかなか親切だ。 親切といえば、本体にヘルプボタンがあり、用語解説やFAQなどが仕込まれている。ただ内容は割とおおざっぱで、本当にヘルプが必要な人が読んでわかるような記述ではないところは残念だ。
■ 総論 現在地デジ対応レコーダの低価格分野では、シャープと日立の一騎打ち的な市場になっているようだ。DV-AR12は、メニューの構成やリモコンの作り、また価格設定などから、ローエンド向けにチューニングされているという印象を、最初は持っていた。本体液晶の日本語表示もとにかくわかりやすく、みたいな思想を感じる。正直言うとそれほど期待していなかったのだが、使っていくうちに機能の制限をうまく運用で逃がしてやるような創意工夫が感じられて、なかなかやるな、というイメージに変わっていった。特にダビングのスケジューリング機能や高速ダビング時の静音モードなど、他社ではなかなか意識が行かない部分を押さえている。 また電源を入れて1秒で起動する「クイック起動」や、電源OFF時の液晶のバックライト設定など、単にできますというだけではなく、機能とエコロジーのバランスで中庸的な設定が存在するあたり、メーカーとしての思想みたいなものが反映されていて面白い。 そう言う意味では、初めてDVDレコーダを買うという人にとっては、「ふーんこんなものか」とあんまり感動がないかもしれないが、他社製品をいろいろ使っている人にとっては、刮目すべきポイントが多い。ただレコーダ購入2台目3台目の人になると、ローエンドモデルにはあまり目が行かないため、なかなかアーリーアダプタからは評価されないという状況になっているのは気の毒だ。 メニューの洗練度から見れば、まだまだ改善の余地は多くあるようだが、レコーダはどのみち次世代DVDを搭載する。今のような過渡期に使うには、ちょっと気の利いたローエンドモデルが丁度いいという考え方もアリだろう。
□シャープのホームページ (2005年11月9日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|