■ 検証が大変な「地デジ録画」 DVDレコーダ業界も、そろそろ各メーカーとも「冬の陣」の顔が出そろいつつある。特にこの冬は、12月からの地デジ放送エリア拡大を受けて、デジタルチューナ搭載がトレンドとなりつつあるようだ。それについては面白い話がある。各メーカーともDVDレコーダの開発や研究所などは、だいたい本社がある都心部ではなく、ちょっと郊外の研究所や工場に隣接という形で存在することが多い。そしてそういうところでは、大抵地デジが入らない。従ってちょっと動くようになったら本社に持っていって試してまた持ち帰るみたいな、余計な苦労があるのだという。そういう開発陣のご苦労も、今年12月でかなり解消されるようになるのかもしれない。 さて意外なようだが、今回取り上げるパイオニア「DVR-DT90」は、同社初のデジタルチューナ搭載機となる。あれーそうだっけなーと調べてみたら、確かに前作の「DVR-920H-S」はHDMI端子まで備えてデジタル放送の録画はできたものの、デジタルチューナを搭載しておらず、i.LINKを使って外部デジタルチューナを接続するという構成であったのだ。 デジタルチューナ搭載ということからか、今回は型番も変わって「DT」が付いており、さらに「スグレコ」という愛称も付けられている。 それでは同社初となるデジタルチューナ搭載モデルDVR-DT90(以下 DT90)の実力を、早速チェックしていこう。なお今回お借りしているのはまだ試作機ということで、最終的な仕様とは異なる場合もあることをあらかじめお断わりしておく。
■ ハイエンド機ばりに重厚な外観 まずはいつものように外観からだ。パイオニアのレコーダといえば、以前は薄型が名刺代わりだったようなところがあったのだが、前作「DVR-920H-S」ではデジタル放送対応フラッグシップということもあって、厚みを増した重厚なデザインだった。今回のDT90は、厚みは94mmと、昨今のレコーダとほぼ同等。フロントパネルの左右に電源と録画の大きなボタンを配置したあたりも、やや920Hのイメージを引きずった形となっている。
フロントパネル上部は光沢感の強い黒でまとめ、下部はシルバーのヘアライン仕上げとなっている。一見アルミ削りだしのように見えるが、どうも樹脂製パーツの上に薄いアルミ板を貼っているようだ。 DVDドライブは、左側に寄せられており、ベゼルにパイオニアのロゴが付けられている。記録メディアはDVD-R/RWのほか、DVD-R DLのCPRMメディアにもいち早く対応したあたりは、ドライブメーカーの面目躍如といったところだろう。 HDDは500GBで、920Hの時と同じようにアナログ放送とデジタル放送の使用エリアを分ける必要がある。他社では少なくともこのような方法を取るものはなく、これは親切でやっているのか、それとも制限なのか判断に悩むところだ。 ディスプレイ部は時刻やチャンネルなどを表示する程度で、放送波やメディアのステータスは中央部のLED群で表示するようになっている。
下部のパネルを開けると、ボタン類が出てくる。左端にはB-CASカードスロット、中央部には録画・再生操作系、右側にはメニュー操作ボタンがある。中央部にはアナログAV外部入力端子と、i.LINK端子がある。なおこの端子はDV入力用のもので、デジタルチューナなどからの録画には対応しない。この点からも、やはり920Hなどとは別物だという感じがする。
背面に回ってみよう。端子類は非常に思い切って整理されている印象を受ける。まずRF入力は地上アナログ、地上デジタル、BS・110度CSの3つ。アナログAV入力は背面に2系統で、前面に1系統の合計3系統。出力はS端子、コンポジットが1系統に、D4端子+アナログ音声LR、あとはHDMIとなっている。デジタル音声は光デジタルのみだ。モデム、Ethernet装備は当然である。 同社フラッグシップでは、映像DACの性能にもコダワリを見せていたが、本機では10bit/108MHzと平均的な仕様だ。このあたりからも本機はフラッグシップというわけではなく、出力はもはやHDMIが基本、といった主張も感じられる。
リモコンも見てみよう。パイオニアではデジタルチューナ搭載以前から4色ボタンが付けられていたが、今回はこのリモコンでデジタル放送視聴に対応できるよう、放送波選択やデータボタンなどが付けられている。またチャンネルアップダウンがシーソースイッチになるなど、若干の改良点が見られる。 920H付属のものとの大きな違いでは、ジョグダイヤルがなくなったことは大きい。やはりああいう仕掛けは、ハイエンドモデルならではの部分なのだろう。
■ 「画面まるごと番組表」表示が魅力 では実際に使ってみよう。まず表玄関とも言える「ホームメニュー」は9つのセクションに別れており、すべての機能にアクセスできるようになっている。日常的に使用する番組表やディスクナビなどは、リモコンにダイレクトボタンが設けてあり、ホームメニューを経由せずに使うことが可能。設定の中で特徴的なのは、HDMI出力でカラーレンジが選択できるところだ。放送自体が色差ベースなので、おそらく多くのレコーダは色差で出力していると思うが、本機では「RGB」と「RGBフルレンジ」の選択が可能になっている。もちろんテレビ側もこの出力に対応していなければならないが、今後の画質論議の話題となりそうである。
EPGはフルHD解像度を使った「画面まるごと番組表」を搭載。アナログ放送の番組表は、Gガイドだ。縦軸が時間、横軸がチャンネルという一般的な番組表スタイルだが、ワイドテレビの場合は16:9画角全体を使って表示できるため、チャンネル数を設定で3チャンネル、5チャンネル表示に切り替えることができる。
さすがに5チャンネル表示は強力で、都市部では民放キー局が1画面で表示できる。こうなってくると、GガイドではTBSが一番先頭に表示されるという仕様が、逆にデメリットになってくる。NHK離れが進む昨今、本当にNHKよりも前に表示されることにメリットがあるのか、TBSさんはもう一度考え直したほうがいいんじゃないのかなぁ。 番組予約は、日時など一般的な設定と、詳細設定に別れている。毎週録画に設定した場合は、詳細設定で「連ドラ延長」が設定できる。ドラマの最終話などで拡大版になったときの後半録り逃し対策である。なお、EPGのデータを使って番組の開始時間も追従する「番組追従」もあるが、これはデジタル放送のみでサポートする。 一方デジタル放送の番組表は、Gガイドの広告部分がないため、4チャンネルと7チャンネルに表示切り替えが可能だ。もっともデジタル放送では3チャンネル分で1局となるため、せっかくのワイド表示が若干表示が無駄になる感じもする。
このハイビジョン対応ワイド画面を前提としたフルHD GUIは、12月発売の東芝「RD-X6」でも搭載するように、おそらくこれも今後レコーダのトレンドとなるだろう。ただ発売順からすると、パイオニアが「業界初」となるようだ。 ドラマを予約しようとすると、自動的に毎週予約にするかの問い合わせ画面が出てくる。ドラマ以外では出てこないため、おそらく番組ジャンルで反応するのだろう。毎週予約に設定すると、さらに「連ドラ延長」の有無も問い合わせてくるなど、ドラマ録りに関しては相変わらずの執念を感じさせる作りになっている。
若干戸惑うのが、デジタル放送を録画の場合の画質設定だ。あらかじめ本体設定で、HDDの予約録画はDRにするか、MPEG圧縮にするか、どちらかに決めておかなければならない。つまり、ものによってDRで録ったり圧縮で録ったりという、フレキシブルな選択ができないのである。 おそらくこれは、MPEGエンコーダが1つしかないため、デジタル放送のほうはDR録画に固定してほしいというアピールなのだろう。デジタル放送をMPEGエンコード録画してしまったら、アナログ放送の同時録画ができなくなってしまうという事情があるのだ。
■ 最低限に抑えられた編集機能 本機エンコードによる録画品質は、XP+モードを含め7段階。そのほかマニュアルとして32段階の設定が可能。今回はアナログチューナにNRが省略されており、その分だけ圧縮効率は落ちると考えていいだろう。
また、試作機のためか、全体的にメニューなどの動作は、緩慢だ。予約完了を示すダイアログも閉じるボタンがないので、自動的に表示が消えるまで数秒間じっと待たなければならない。忙しい朝に1秒起動などと謳う先週のシャープのレコーダとは、方向性がかなり違うようである。 番組検索機能としては、以前から搭載している録画辞典もそのまま搭載されており、単純なキーワードから関連番組を自動的に録画できる。なおこの設定はアナログ放送もデジタル放送も共通しており、録画の優先順位は本体設定で指定しておく。ソニー「スゴ録」の自動録画では、アナログとデジタル放送で別々に設定しなければならなかったのだが、本機のほうがより労力が少ない。
ただ検索結果が日にち別に区切られている点は、まどろっこしい。例えば新番組検索の結果などは、番組改編シーズンを過ぎれば、そうそうあるものではない。こういう場合の検索結果は、1画面でまとめて表示して欲しいところだ。 続いて再生・編集系の機能を見てみよう。録画番組の閲覧は、「ディスクナビ」を使用する。左側には表示オプションがあり、右側には再生や編集などのメニューが表示される。サムネイルありの4タイトル表示と、リスト状の8タイトル表示に切り替えできるなど、機能面では東京大学先端科学技術研究センターと共同開発したGUIが、今年春モデルに引き続いて搭載されている。
再生中は、早送りボタンを1回押すと1.5倍の速見再生となる。ただしデジタル放送をDR録画したものは音声が出力されず、速見再生とはならないといった制限がある。 編集機能にも、DR録画とそれ以外で違いがある。エンコード録画の場合は、番組内にチャプタを設定することができるが、DR録画だとできない。まあ不要部分の削除は、どっちみち部分削除でやるしかないのだが。どうもDR録画したファイルの扱いに関しては、各社の技術に差があるようだ。
編集のレスポンスに関しては、MPEG録画番組の場合はなかなか快適だ。一方DR録画番組に関しては、現状のファームウェアでは動作が不安定のため、評価は控えたい。
■ ついにハイビジョン番組をDLメディアに これまでのデジタル放送対応DVDレコーダでは、HDの番組を再エンコードしながら単層CPRMメディアにムーブできる機能を備えていた。そして本機ではそれに加えて、DVD-R 2層のCPRMメディアにムーブできる機能を備えた。CPRM対応DVD-R DLのメディアは、今のところ三菱化学のものしかないようで、量販店でもまだ1枚1,000円ぐらいする。値段もさることながら、これに対応した機器もまだ少ないため、都市部以外ではまだ入手も困難だろう。 パイオニア機では以前から、「ワンタッチダビング」という簡単なダビング機能を備えていた。だがこれは高速ダビングを前提としているため、HD番組をTS録画した場合には使えない。 したがってこの場合は、ホームメニューの「ダビング」から作業を行なうことになる。だがその前に、まずDVD-RメディアをVR用にフォーマットする必要がある。他社ではメディアをロードすると自動的にフォーマットする機能を備えたりしているが、本機では手動である。これを忘れていると、ダビング作業を進めていっても途中でディスクの形式が違うと怒られる。
ダビング(ムーブ)するには、まずダビングリストの作成を行なう。その後、作成するディスクの記録方式を選ぶ。デジタル放送ではVRになるわけだが、ここでメディアのフォーマットもやってくれると良かっただろう。
ここまで来てようやく、ダビングリストの作成に入る。リストの作成中には、メディア容量とそれに対してのコンテンツの容量が確認できる。当然再圧縮するわけだが、複数のコンテンツがあった場合は、個別に画質モードが設定できる。またすべてのコンテンツの画質モードを一括で設定することも可能。この場合は、ジャストモードも使用できる。あとはダビングを実行するだけだ。 本機には2passエンコードといった機能はないが、2時間程度の映画を2層メディアに記録すると、XPモードを若干下回る程度のビットレートで記録できることになる。これぐらい余裕があると、2passでなくても十分な画質が楽しめる。 また本機には、DVDに記録されたSDコンテンツをHDサイズにアップコンバートして表示する機能もある。もちろん画質的にHDレベルに戻るわけではないが、自己録再ではかなり解像感の高い再生が楽しめる。 そのほか特徴的な機能としては、メールを使った予約が可能になったことが上げられる。ただしメール本文には、以下のような呪文の羅列を自力で記入しなければならない。
DT90 N1 CR8 DD20051120 S2100 ET2154 要するにメールで直接コマンドを投げるわけだ。こういう予約方法は、PCのチューナーカードなどではよくあるスタイルなのだが、AV機器がターゲットとするユーザー層にはキツいだろう。携帯の番組情報サイトと連動するようなやり方のほうが、実用的だろうと思われる。
■ 総論 DVR-DT90は、ガタイの大きさからハイエンドモデルのような印象を受けるが、内容的にはこれまでのハイエンドとは若干方向性が違っている。デジタルで結線していけば使わないハイエンドアナログ部分をカットして、デジタル中心で考えた結果こうなった、という印象を受ける。最大の目玉はやはり、CPRM対応DVD-R DLへデジタル放送のHD番組がムーブできることだろう。メディア自体は今年の6月ごろから市場に出始めているが、ようやくその価値が発揮できるマシンが登場したというわけである。 ただ各メーカーとも今後DVD-R DLへの対応が進むかというと、そこはタイミング的に判断が分かれるところだ。いくら2層とは言っても、HD解像度をSD解像度に落として記録するのは、あくまでも次世代DVDまでの代替措置でしかない。そこで頑張るよりも、早く次世代DVDを搭載してHDのまま録れるようにするほうが本筋と考えるメーカーもあることだろう。 そう言う意味でDT90は、今この時期において実現できることを、目一杯実現したモデルと言える。以前からパイオニアのレコーダはダビングに強いことで定評があったわけだが、DVDドライブの扱いと記録系は確かにこなれている。 しかし今後は編集する相手が、HD解像度のMPEG-2 TSファイルとなってくる。DR記録したHD映像に対する扱いでは、チャプタが付けられないといった制限もあり、こまめにチャプタを付けることに喜びを感じる人には、残念に思えるかもしれない。本来ならばHD番組の編集などについてももう少し検証したかったのだが、まだファームウェアが完成しておらず、あまり詳しく言及できないのは残念だ。 このあたりのノウハウの蓄積には、各メーカーともまだそれなりに時間がかかるようで、当面の差別化はいかに快適にHD解像度の編集がこなせるか、というところになりそうだ。 パイオニアとしても、まずはDT90で小手調べといったところで、本格的なハイエンドモデルはまた今後出現するのではないかという気がする。
□パイオニアのホームページ (2005年11月16日)
[Reported by 小寺信良]
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