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第212回:ProTools LE 7.0がバンドルされた「MBOX2」
~ Windowsでの使い勝手も向上 ~



 Digidesignから先日発売になったパーソナルユースのレコーディングシステム「MBOX2」。プロのレコーディングシステムであるProToolsと同様の環境を、自宅のPCで実現可能ということで話題を呼んでいるが、バンドルのDAWソフトウェア「ProTools LE6.8.1」も、「ProTools LE 7.0」へとアップグレードされた。Windows版でもMacintosh版と同様の機能、性能が発揮できるとのことなので、さっそく試してみた。

ProTools LE 7.0にバージョンアップ



■ レコーディング業界の標準、ProToolsとは

 DigidesignのMBOX2の新バージョンを紹する前に、ProToolsについて概要を紹介しておこう。ProToolsはDigidesignが生み出したプロ用のオーディオレコーディングシステム。以前はアナログのマルチトラックテープが使われていたレコーディングスタジオのシステムは、この10年でどんどんとProToolsへと置き換えられていき、現在はプロ用のレコーディングでは完全にデファクトスタンダードとなっている。

 ProToolsはブランド名であり、その全体構成は決まったものではないが、基本的には中心にMacintoshがあり、そこにDSPを搭載したコア・システムと、オーディオの入出力をするためのインターフェイス、そしてProTools SoftwareというDAWソフトで構成される。

 そのコア・システムやインターフェイスにはいろいろな種類があり、システム用件によって組み合わせを変えることができ、これにフィジカルコントローラなどや、サードベンダーからも出ているプラグインエフェクトなどを追加して、全体のシステムとして完成する。

 そのため、価格もどのような組み合わせにするかによって変わってくるが、現在のProTools HDの標準的なもので200~400万円程度になり、個人が導入するシステムではない。また、Macintoshが中心におかれているものの、10年以上前から業務用として利用できていた背景にはコア・システムの存在がある。オーディオのエンジン部分やエフェクトなどは、このコア・システム上にあるDSPが処理するため、Macintosh自体にそれほど負荷がかからないのだ。またDSPを増設することにより、よりパワフルにできるというのもProToolsの大きな特徴といえるだろう。

 プラグインという概念もProToolsがいち早く作り出したものだが、このDSPを動かすプログラムの規格をTDMと呼んでおり、TDMプラグインはDigidesign以外にも多くのメーカーからプロ用のソフトがリリースされている。

 なお、どこのスタジオにいってもMacintoshを中心としたProToolsを装備しているが、Windows版のProToolsというのもかなり以前から存在している。海外ではある程度普及しているらしいが、国内ではまず見かけることはない。やはり業界標準はMacintoshになっているようである。



■ CPUベースで動作するProTools LEの位置づけ

 そのProToolsを、もっと手軽にということで生まれたのがProTools LEだ。DSPを使わずにCPUベースで処理をするシステムとなっており、別途利用するハードウェアはオーディオインターフェイスだけ。

 このProTools LEとともにDigi001、Digi002といった機材が登場し、スタジオとほぼ同じ環境を20万円程度で実現できるようになった。このProTools LEはAudioSuite、RTASというCPUベースのプラグインに対応するため、厳密にはスタジオと同じ音を再現できるわけではないが、自宅でスタジオと同じProToolsの画面で曲のレコーディング、編集ができるということから、プロのミュージシャンなどを中心に広がっていった。

MBOX2のパッケージ

 また、AudioSuiteやRTASはもちろん業務用のProToolsのほうでもサポートされるようになっていたので、家で作った音はそのままスタジオへ持っていけた。

 その後さらにMBOXというUSB接続でProTools LEが使える安いキットが登場し、より底辺を広げていった。その新バージョンとして、10月にリリースされたのがMBOX2だ。実売価格は54,000円前後。



■ アナログ2ch、デジタル2chを装備したハードウェア

 前置きが長くなってしまったが、今回登場したMBOX2、ハードウェア的にみて、業務用からやってきた製品と感じさせる、しっかりしたもの。USB1.1での接続とあって、24bit/48kHzまでしかサポートされていないが、実際にその音を聞くと、納得がいく。

 プラスティックのボディーながら比較的重めで、横置き、縦置きが可能なちょっとユニークなデザインである。取っ手のようなものがポイントとなっているが、実は差し替え部品が添付されており、これに取り替えると、水平置きも可能となる。もっともラックマウントサイズになっているわけではない。

横置き 縦置き 水平置きも可能

背面

 入力はアナログ2chとS/PDIFコアキシャル2chが用意されている。アナログのほうはファンタム電源対応のXLRマイク入力、-10dBのライン入力とHi-Z対応のDI入力が2chそれぞれに用意されており、切り替えて使う。ライン入力とDI入力はともにフォンジャックとなっている。出力はモニタ用にフォンジャックが2つ用意されているほか、フロントにはヘッドフォンジャックも装備。さらにMIDIの入出力も搭載されている。

 とりあえず曲を再生させて、ヘッドフォンのモニタで聞いたところ、すごくいい。音の抜けがよく、低音もしっかりとしている。アナログのモニタ出力をアンプに繋いで出しても、かなりいい音だったので、さっそくいつもの音質テストをしてみようと思ったが、うまくいかなかった。というのも、このMBOX2、ASIOドライバとしては利用できるのだが、MMEドライバとして動作しないためテストできなかったため、今回はテストを見送った。



■ MIDI機能が強化され、ループ機能も搭載されたProTools LE 7.0

 今回、完成したばかりというProTools LE 7.0を使って、MBOX2を動かしてみた。なお、インストール時にMBOX2が接続されている必要があるほか、MBOX2が接続していないと起動できないため、ソフトだけをコピーしても動作しないようになっていた。ちなみにProTools M-PoweredのほうはM-Audio製品が接続している必要があるということは、前回も紹介したとおりである。

 前のProTools LE 6でもWindows版が安定し、日本語メニューにも対応したことから、日本のユーザー環境でも問題なく使えるようにはなっていた。しかし、どうもWindowsのGUIから離れていて、Windowsユーザーには違和感があったのも確かだ。しかし、それが7.0になり、だいぶWindowsに馴染んできた。

MBOX2が接続していないと起動できない Windowsとも違和感がなくなった感じ

 ユーザーインターフェイスの基本が、以前のバージョンから変わったわけではないのだが、Windowsの作法に則るようになってきており、安心して使えるようになった。例えば、エクスプローラ上にあるオーディオファイルをProToolsへドラッグ&ドロップして持っていくことができるようになったり、画面表示も「Macから移植した」という雰囲気が減っている。もっとも右クリックがサポートされていないなどの点はあるが、Mac版のProTools LE/ProTools HDとの操作の共通性を考えれば仕方ないのかもしれない。

ギターをつないで簡単にレコーディングできた

 ためしにギターをつないでレコーディングしてみると、あっけないほど簡単にレコーディングできる。この辺のわかりやすさは、さすがProTools。さて、機能面での強化でいうと、MIDIシーケンス機能の充実やACIDファイルやReCycle!のREXファイルなどのループファイルへの対応が大きなポイント。

 やはりProToolsというとオーディオレコーディングソフトでありMIDI機能はあまりないという印象が強かったが、今回の7.0になり、MIDIシーケンサとしての一通りの機能は装備する形になった。もちろん、MBOX2本体のMIDIインターフェイスが利用できるだけでなく、USB接続したMIDIキーボードやその他のMIDIデバイスも入出力ともに使える。

インストゥルメントトラックが追加された

 例えば新たに追加されたインストゥルメントトラック。これはMIDIとオーディオの能力を単一のチャンネル・ストリップへ結合したトラックで、ソフトシンセや外部MIDI音源へのルーティングがシンプルに行えるようになっている。

 また複数トラックに渡るグルーヴ・テンプレート・クオンタイズの実行やグルーヴのフィールをヒューマナイズするランダマイズ機能、入力されるMIDI信号に対するグルーヴ・テンプレート・クオンタイズの適用など、グルーヴ・クオンタイズ機能も強化されている。もちろん、従来どおり、ReWire2にも対応しているからReasonやLiveなどと同期させることもできるし、Reasonの各音源をRTASのソフトシンセのような感覚で操作することもできる。

 一方、ACIDファイルやREXファイルが読み込めるようになり、曲のテンプレート作りも楽になった。エクスプローラからファイルをドラッグ&ドロップで持ってくれば、すぐにテンポ情報なども反映されるので、簡単。ループを引き伸ばすのもコマンドひとつで行なえ、指定回数ループさせることもできれば、曲の最後までループで満たすといった指示も可能となっている。


ACIDファイルやREXファイルが読み込めるように ループを引き伸ばすのもコマンドひとつで行なえる

 こうした機能を見ても、ProToolsがかなり曲作りのプリプロ寄りに近づいてきたことがわかるだろう。M-Audioの買収といったことからもわかるようにプロ用のシステムを作るDigidesignから、よりコンシューマに近いマーケットにも対応できるDigidesignへと変わろうとしているのが見て取れる。

 ただし、こうした製品が出てきたから諸手をあげて、MBOX2をDTM初心者に薦められるかというと、やはりノーだ。確かにオーディオをレコーディングし、ミキシングするという機能だけを見れば、長年の歴史を持ったProToolsだけに初心者でもほとんど迷うことなく使えるだろう。とくにハードとソフトがセットになっているので、接続してインストールすれば即使えるというメリットは大きい。

 ただし、MIDI、ソフトシンセを利用した曲作りとなると、確かに機能は装備したものの、LogicやCubaseSX、SONAR、DigitalPerformerなどMIDIシーケンサから発展してきたDAWと比較すると、使い勝手がいいとはいえない。またプラグインがRTAS、AudioSuiteというものであり、デフォルトで用意されているものが少なく、数多く流通しているVSTなどが利用できないのも難点だ。

 こうしたことを考えると、やはり基本はスタジオでProTools HDを利用している人が自宅で使うためのシステム、あるいはすでに各種DAWを使ってきた人がProToolsの世界へ入るためのエントリーソフトとして捉えるのがいいのではないだろうか。

 音質もよく、非常に安定して使え、かつWindows版でもMac版と完全なデータの互換性を持っているというのは大きなアドバンテージだ。編集機能などはProTools HDと同じなので、ProToolsを使ってみたいという人ならば購入して後悔することのない、よくできた製品だ。


□Digidesignのホームページ
http://www.digidesign.com/
□製品情報
http://www.digidesign.com/products/le/
□関連記事
【11月7日】【DAL】楽器の国内最大イベント「楽器フェア」レポート
~ MIDI機能を強化したProTools7などが登場 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051107/dal211.htm

(2005年11月14日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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