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第211回:楽器の国内最大イベント「楽器フェア」レポート
~ MIDI機能を強化したProTools7などが登場 ~



2005楽器フェア

 国内最大の楽器関連のイベント「2005楽器フェア」が、11月3日から6日まで横浜のパシフィコ横浜で開催された。2年に一度のイベントということもあり、国内外から多くの企業が出展するとともに、来場者も全国から多くの人が集まった。

 アコースティック楽器からDJ機材にいたるまでいろいろな楽器、機器が展示されていたが、今回もその中からDTM、デジタルレコーディング関連に絞ってレポートする。



■ ProTools7とSONAR5が目玉

 2年前の楽器フェアはA&Vフェスタと併設で開催されていたが、今年はA&Vフェスタはすでに開催され、楽器フェア単独での開催となった。関係各社は、楽器フェア前にがプレス発表をしていたため、ここで驚くような発表があったわけではないが、今回の目玉といえるのは、やはり2つのDAWの新バージョン、DigidesignのProTools7と、CakewalkのSONAR5が登場したことだろう。なお、毎年年末に新バージョンが発表されるということで注目の集まっていたSteinbergのCubaseSX4については、年内発表は見送られるとのことであった。

 ProToolsのソフトウェア部分であるProTools softwareは今回から大きく、以下の3つのラインナップとなった。

  • ProTools HD 7 software
  • ProTools LE 7 software
  • ProTools M-Powered 7 software
 いずれも基本的な編集機能などは同じだが、構成するハードウェアの違いで3つに分かれている。まずProTools HD 7 softwareは、いわゆるホンモノのProTools。つまりProTools HDなどDSPを搭載したコアシステムとともにともに用いて動作するシステムでTDMプラグインが利用できるシステムだ。それに対しProTools LE 7 softwareはDigi002そしてM-box2などとともに利用するホームスタジオ用のシステムで、DSPを必要とせず、RTASプラグインをサポートしたもの。

ProTools HD 7 software M-box2

 一方のProTools M-Powered 7 softwareは、M-AudioブランドのProTools。M-Audioは昨年Avidに買収され、Digidesignの一部門となったわけだが、その具体的な進展がM-Poweredとして現れてきたわけだ。そのことは今回の楽器フェアにおいてDigidesignとM-Audioが表裏一体のブースとなっていることからも感じられた。

 そのProTools M-Powered 7 softwareは基本的にはProTools LE 7 softwareとほぼ同じもの。細かくいうと、ProTools LEにはPro Tools Ignition Packが同梱されていたり、Control|24コントロール・サーフィス、DV Toolkitオプション、DigiTranslatorなどがサポートされているかどうかの違いがあるが、本体ソフトとしては同等となっている。ただし、M-PoweredはM-Audioのオーディオインターフェイスが接続されていることを前提に動作するものとなっている。FireWire 1814、FireWire 410、FireWire Audiophile、FireWire Solo、Ozonic、Delta 1010、Delta 1010LT、Delta 66、Delta 44、Audiophile 192、Audiophile 2496の11機種が対象で、これらがドングルの役割を果たす。

 その新機能はというと、大きいのがMIDI機能の強化。新しく登場したインストゥルメント・トラックにより、バーチャル・インストゥルメントやMIDIサウンド・モジュールのシンプルなルーティングが可能になったり、複数トラックに渡るグルーヴ・テンプレート・クオンタイズの実行、グルーヴのフィールをさらにヒューマナイズするランダマイズ機能、入力されるMIDI信号に対するグルーヴ・テンプレート・クオンタイズの適用など、グルーヴ・クオンタイズ機能が強化されるなどしている。

 また、オーディオおよびMIDIの自由なコンビネーションを作成できる新たなリージョン・グループ機能が搭載されたり、REXおよびACIDファイルがサポートされてループシーケンサとしての機能も搭載されるなど、CubaseやSONAR、LogicなどのDAWが持っていた機能を取り込んできた。また、細かくは確認できていないが、Windows版の仕上がりが前のバージョン6よりもよくなっている模様。これまでMacのソフトを移植したというニュアンスを強く感じたWindows版が、しっかりしたWindowsのソフトへと進化してきたようだ。

 この辺については、次回、M-box2+ProTools LE 7 softwareのレポートを予定している。



■ M-Audio

ProjectMix I/O

 M-Audioのブースにおいては、このProTools M-Powered 7 softwareのほかにもいくつかの新ハードウェアが登場していた。一番目立っていたのはProjectMix I/Oという24bit/96kHz対応でFireWire接続の18IN/14OUTオーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラ。9本のムービングフェーダーが搭載されているほか、ADAT、BNCにも対応したという製品だ。今月まもなく発売される予定で、メーカー直販価格が119,070円となっている。

 また、この楽器フェアで初お披露目という25鍵のUSB-MIDIキーボード、OXGEN8の新バージョン、OXGEN8-V2。これは、クラスコンプライアント対応ということで、Windows XPおよびMac OS Xではドライバ不要で動作するとともに、Enigmaというライブラリアンソフトを利用することで、パッチの管理やメモリバングの送受信などができるようになっている。年内に発売予定とのことで、価格は1万円程度になりそうだ。年明けには49鍵、60鍵の製品も登場の見込みである。

 さらにOXGEN8の上位機となるのがPremium。OXGEN8よりも重いセミウェイテッドキーを搭載するとともにアフタータッチにも対応。またLCDを採用するとともに同社のパッド型コントロールサーフェイスTriggerFingerと同等のパッドを8つ搭載したモデルも参考出品された。こちらも年内リリースの予定だが、価格は未定。

OXGEN8-V2 Premium



■ YAMAHA

 今回の楽器フェアで一番大きいブースを陣取っていたのはYAMAHA。ここで新たに登場したのは11月25日発売予定のM06、M08という2つのキーボード。同社のフラグシップのキーボードシンセサイザMOTIF ESの廉価版という位置づけで、基本的にはMOTIF ES同じエンジンを搭載しているようだ。M06が61鍵のLC鍵盤を搭載したモデル、M08が88鍵バランスドハンマー鍵盤を搭載したモデルとなっている。MOTIF ESからサンプラー機能を取り除くとともに、プラグインボードのスロットをはずすことで、薄型軽量化を実現。M06で10.4kgと軽く、ソフトケースも添付されるため、持ち運びがしやすくなっている。

YAMAHAブース M06、M08が展示された

 なおYAMAHAではM06、M08以外では目新しい情報はなく、冒頭でも述べたとおり、YAMAHA傘下となったSteinbergのCubaseSXの新バージョンの発表も見送られた。



■ Roland

 YAMAHAに次ぐ大きなブースがRoland。ここではSONAR5が大々的にデモされていたが、SONAR5については、すでにこのコーナーでも紹介したので、ここでは割愛する。そのほかにも、EDIROLブランドとしてはUA-3FXの後継となるUA-4FXが発表された。UA-3FXと同様にUSB 1.1対応のオーディオインターフェイスで、24bit/96kHzをサポートする。

Rolandブース UA-4FX

LOOP STATION RC-50

 最大の特徴はCOSMテクノロジーに対応したことで、真空管アンプ・シミュレータを搭載したことだ。ファンタム電源対応のXLRのマイク入力も装備している。発売は12月中旬の予定で19,000円前後。また、BOSSブランドからはLOOP STATION RC-50というちょっと面白い機器が登場した。一見ギター用マルチエフェクターというこのRC-50はリアルタイムにループサウンドをコントロールするプレーヤー。

 すでに発売されているRC-20XLの上位バージョンにあたるもので、ピッチ/テンポを自由にコントロールできるループプレイヤーを3台搭載しており、そのループのレコーディングも簡単に行なえる。またUSB端子を装備しているので、PCと接続して、WAVファイルを転送することも可能となっている。

Digital Snake S-4000

 もうひとつ目立っていたのがローランドの新ブランドRSSから登場したデジタル・オーディオ伝送システム、Digital Snake S-4000という製品。これはRoland独自開発のEthernet技術、REAC(リアック:Roland Ethernet Audio Communication)により、安全・確実な高音質伝送をローコストで実現するというもの。CAT5ケーブル1本で24bit/96kHz非圧縮のオーディオを最大40ch分デジタル伝送できる。またデジタル伝送片道につきレイテンシーは0.375msecに抑えられている。



■ 経年変化した音まで再現可能なエミュレータなど

 そのほか、各ソフトハウスからはさまざまなソフトが発表されていたので、それぞれ簡単に紹介していこう。まずMIDIAではLogicの新バージョンはなかったもののNativeInstrumentsの製品が2つ登場していた。

 GuitarRigの新バージョン、GuitarRig2は頑丈なフットコントローラ、RIG KONTROLとセットとなったギターリスト、ベーシスト用の強力なエフェクト。8種類のビンテージアンプ、15種類のギター用キャビネット、6種類のベース用キャビネット、4種類のローターリースピーカー、9種類の収録ポジション調整可能なマイクロフォン、デリケートなトーンからハードなリフまでカバーするディストーションペダルを含む計40種類のエフェクトユニット群となっている。WindowsおよびMacの画面上でラックマウント風に自由に組み上げることが可能だ。

RIG KONTROL GuitarRig2は、Windows/Macの画面上でラックマウント風に組み上げられる

 同じくNativeInstrumentsのB4IIはHammond B3のエミュレータ、B4の新バージョン。このB4IIで面白いのはなんといってもHammond B3の経年劣化をもエミュレーション可能であるという点。工場出荷時の新品の状態から老朽化して擦り切れた状態の音まで再現できる。またHammondサウンドの象徴ともいえるローターリースピーカーであるレスリースピーカーModel147も忠実に再現。これはGuitarRigで使われている真空管アンプのエミュレーションが用いられており、パワフルな音が再現されている。

B4II GuitarRigで使われる真空管アンプをエミュレーション

BRASS

 アイデックス音楽総研ではArturiaのMiniMoogVやCS-80Vなどの各製品が展示されていたが、そのArturiaの新製品としてBRASSが発表された。これはこれまでのArturia製品のようにレトロ・シンセサイザの復刻版ではなく、トランペット、トロンボーン、サックスを再現する物理モデリング・シンセサイザだ。IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)との共同開発とのことで、非常にリアルなサウンドを出せるのが特徴。11月末~12月に発売の予定でオープン価格(実売4万円前後)となっている。

 メディア・インテグレーションではIK MultimediaのMIROSLAV Philharmonikをメインで展示。DVD 2枚組で7GB以上のサンプルを使い、1,300種類以上のサウンドを詰め込んだオーケストラサウンドのソフト音源。プラグインのプラットホームとしてはVST、DXi、AudioUnits、RTASに対応している。

 コルグでは9月に発売されたKORG Legacy Collectionの新シリーズDIGITAL EDITION、ANALOG EDITION、Virtual MS-20の3シリーズが展示されていた。DIGITAL EDITIONの中心となるM1のエミュレータ、M1ソフトウェア・シンセサイザなどが多くの人の目をひいていた。

メディア・インテグレーションのIK MultimediaのMIROSLAV Philharmonik コルグでは、M1のエミュレータ、M1ソフトウェア・シンセサイザなどが注目された

VIRUS TIシリーズのDESKTOP

 DJゾーンにブースを構えていたフックアップはドイツACCESSのシンセサイザ、VIRUS TIシリーズのDESKTOPを展示していた。これは、ハードウェアとPCを有機的につないで使うシンセサイザ。内部には2基のDSPを搭載しており、PCとはUSBで接続して使うという構成になっている。

 このVIRUSをコントロールするソフトとしてVIRUSControlがある。ホストアプリケーション上でVSTインストゥルメントないしは、AUインストゥルメントとして認識されるようになっており、ハードウェアのコントロールからパッチの変更などを行なうことが可能となるのが特徴だ。すでに発売は開始されているものの、なかなか出荷が追いついていない状況とのこと。オープン価格で実売が294,000円前後となっている。

 最後に紹介するのは、クリムゾンテクノロジーの業務用ソフト3種類。DDP TOOLSはCDマスタ記述フォーマットとして普及が見込まれるDDP(Disc Description Protocol)用のツールで、マスタリングスタジオとプレス会社の相互連携を図ることを目的にしたもの。DM (Main)内容の再生やRIFF/AIFF Waveファイルの書き出しを行なうためのプレイヤー機能、既存ツールで作成されたDDPファイルを読み込んでチェックするフォーマット解析機能、DDPID、DDPMS、PQ各項目の編集を可能とするフォーマット編集機能を備えている。

 またDLS TOOLSはDLS(Downloadable Sound)のエディタでDLS1およびDLS2の音色エディットを可能としたものだ。MELODY TOOLSは業務用の着メロ作成ツール。MIDIファイルが制作ガイドラインに適合しているかチェックしレポートを出力するMIDIファイルチェックツールと和音数や容量の大きい機種用のMIDIファイルをより小さい機種用に編集するMIDI容量削減ツールがセットとなっている。いずれも広く一般に売るソフトではないとのことで、価格等も未公開となっていた。

DDP TOOLS DLS TOOLS

 以上、楽器フェアで見かけた新製品を中心に紹介した。実際の発売はこれから年末にかけてのものが多いが、次週で取り上げるProTools LE 7 software+Mbox2のほか、これからいくつかの製品をレビューしていく予定だ。


□楽器フェアのホームページ
http://musicfair.webcas.jp/
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(2005年11月7日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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