■ 2005年の隠れたヒット? 動物ドキュメンタリー
映画「皇帝ペンギン」は、マイナス40度という南極で繰り広げられる生き物達のドラマを、皇帝ペンギンを中心に追ったドキュメンタリー。2005年1月にフランスで公開され、「WATARIDORI」や「ディープ・ブルー」を越えるヒットを記録したという。 日本国内でも、7月の公開時にかなりの注目を集めていたのは記憶に新しい。特に真夏の上映とあって、プロモーション素材の涼しげなペンギンの佇まいなどはずいぶんとうらやましく感じたものだ。 DVDは、特典ディスクをセットにした「プレミアム・エディション」のみが発売され、価格は4,935円とやや高額。しかし、思い返してみると5月に発売された海洋ドキュメンタリーの「ディープ・ブルー」も同じ値段。自然を描いたドキュメンタリーとしては平均的な価格といえるのかもしれない。 期間限定のスペシャルパッケージとして、デジパックのトールケースと専用BOXに2枚のディスクを封入。さらにオールカラー24ページのブックレットも付属する。本編ディスクのみの廉価版などは用意されていない。
■ “カワイイ”だけじゃないペンギンの過酷な生態
舞台は南極。過酷な環境下での皇帝ペンギンの子育てと、その成長の過程を描きながら、南極の厳しく壮大な自然と、ユニークな皇帝ペンギンの生態に迫る。監督は動物行動学の研究者でもあるリュック・ジャケ。わずか3人の仲間と共に、南極で8,880時間をかけて撮影が行なわれたという。 冬の訪れを感じた皇帝ペンギンたちは、海中から棚氷の上に現れる。群れをなして、まるで軍隊のようなしっかりとした隊列を築いたペンギンたちは、冬を越し、子供を産み育てるために、南極のある地点を目指す。その目的地はある氷山の一角「オアモック」。周囲を氷山で囲まれたその場所は、南極で数少ない、皇帝ペンギンが安心して子供を生み、育てられる営巣地となっている。 ペンギン達がトコトコと二足歩行する様は、それだけ見ていても十分魅力的。さらに、“トボガン”と呼ばれる腹這いの移動、雄雌の挨拶などペンギンたちのユニークな生態な仕草が楽しめる。 賛否両論あるだろうが、父、母、子供というそれぞれのペンギンにナレータを付け、ペンギンの感情的な部分を解説しながら、ストーリー展開するのもドキュメンタリーとしてはユニークな手法だ。 もちろん単にユーモラスで楽しいだけでなく、残酷な程厳しく寒い、南極の極限の自然と、打ちのめされるペンギンたちの姿も描かれる。この“オアモック”はブリザードよけに最適な地、として紹介されるのだが、そんな中にいても、強烈な吹雪が襲ってくる。激しい風雪に身を寄せ合い、群れ全体で対処するペンギンたちの知恵と協力し合う姿は、本作のハイライトとも言えるだろう。 前も見えない程の雪にさらされ、身を寄せ合う。まるで群れ自体が一つの生命体のように暖めあい寒さを凌ぐ。やがて疲れ果てて力を失ってしまい、雪原に描かれたグレーと黒の斑点のようなペンギンの群れ。あたかも死体の集合にも見えたその黒い影から、もぞもぞと個々のペンギンたちが動き出す始めた姿にはグッと心を奪われる。 さらに、ペンギンたちの共同生活とともに、その反目すらも描かれる。特に、人間以上に大変だと言われるペンギンの子育て。子を失ったペンギンはある時は、他のペンギンの子供すら奪おうと攻撃を仕掛ける。“自然”の厳しさが、さまざまな視点で描かれることが、本作の魅力をグッと高めてくれる。 営巣地を訪れる時とは逆に、産卵を終えてエサを採りに行くため。100kmも離れた海まで、バラバラに旅立っていく雌達の姿も感動的。ストーリー的にはあくまで淡々とペンギンたちの1年を描くのだが、なんとも不思議な生態なので、そのままのペンギンの姿がミステリアスに見える。種の存続のためとはいえ、この苦しみを味わい続け、約40年も生きるという皇帝ペンギンに尊敬の念すら覚える。
■ フィルムの粒状感が目立つ。もう一つの本編とも言えるメイキング
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.14Mbpsと非常に高い。確かにMPEGエンコードに起因するようなノイズはほとんど見あたらないのだが、オープニングのロングショットからして、フィルムグレインがぎっちりのっており、その粒状ノイズは、どこからどう見てもフィルム撮影と言わんばかり。特に抜けるような青空や真っ白な雪山が背景となることが多いのでかなり気になってしまう。 明るい日中のペンギンの群れや、比較的近距離での撮影時にはグレインが気になることは無く、まったりとした映像。挨拶や触れあう雄雌のコミュニケーション、雛との接触などでは、体毛を一本一本解像するような鮮鋭感はないが、ナチュラルで暖かみがあり、本作の雰囲気にはマッチしているようにも感じる。 音声はフランス語がドルビーデジタル5.1ch(448kbps)とDTS(768kbps)、日本語吹き替えはドルビーデジタル5.1ch(448kbps)を用意。さらに、音楽だけの再生モードも用意し、ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)で収録している。LFE信号は少なめで、リアチャンネルもさほど派手ではないが、吹雪のシーンの寒々しい風切り音などは、思わず身を震わせずにはいられない。 印象的なのはペンギンたちの鳴き声。特に7,000羽にも及ぶ群れがそれぞれ呼応して、開けた空と氷山で囲まれた窪地で鳴き出す、自然な奥行きやサラウンド感が心地いい。音楽モードは、ナレーションが消えて音楽になるが、鳴き声などはそのまま入っているので、音楽モードを環境ビデオ的に利用するのも面白いだろう。寒々しい電子音や水の音などを組み合わせた現代音楽風の楽曲も、少し鼻につくようにも感じるが、テーマにはあっている。なお、日本語吹き替えは、大沢たかお、石田ひかり、袖木隆乃介が担当している。
特典は本編ディスクに予告編やスタッフプロフィールなどを収録。特典ディスクには、メイキングの「撮影日誌(53分)」、リュック・ジャケ監督によるテレビ用ドキュメンタリー「南極の春(約53分)」、声のキャストインタビュー(14分)、監督や、音楽担当のエミリー・シモンらのインタビュー(40分)、日本語吹き替えのメイキングやアフレコ風景、日本版イメージソングを担当したCHARAのインタビューなどを収録。合計183分とボリュームたっぷりだ。 メイキングは2月27日の出航から9カ月に及ぶ、撮影の模様を収めている。比較的外敵が少なく、気候が安定し、風よけの効果を持った営巣地に適した場所は南極には約40箇所しかないという。その営巣地スタッフが到着するも、その後3週間。皇帝ペンギンは現れず、スタッフの焦りが伝わってくる。 営巣地に向かう皇帝ペンギンを確認できたのは4月2日。カメラの直前を通りすぎるペンギン。よくよく見ると、よちよちと集団で2足歩行するペンギンの群れが向かってくるのは怖い。もちろん、人を恐れずに近づいてきて、カメラをのぞき込むペンギン達など、ある意味本編よりかわいらしいペンギンの姿も見ることができる。本編よりも詳しい求愛行動とダンスの説明と映像。そしてマイナス30度を超える嵐の中の撮影。途中に自然に形成された南極の氷の美しいありのままの姿が紹介されるのもいい。 さらに嵐に会い、凍傷を負ったスタッフの様まで収録。メイキングだけでも、ペンギンを観察する「人」のドキュメントとして、きちんと作品になっている。本編を見てから、サイドストーリーとして鑑賞すると、より本編も楽しめるだろう。 「南極の春」はアザラシやペンギンの生態をナレーションを交えて紹介するリュック・ジャケ監督によるテレビ用ドキュメンタリー作品。本編と比較すると、ナレーションの使い方など、語り口の違いこそ感じるものの、じっくりと動物たちの生態に迫るアプローチは共通している。 スタッフインタビューでは監督らが作品について解説。監督は「12カ月の内9カ月も歩き陸上で暮らす彼らの姿、巡礼のような隊列など、さまざまなペンギンの生態に興味を持ったことが制作のきっかけ」と語る。ただし、「科学調査だけでなく、感情的な側面も入れたかった。記録映画としてではなく、主観的な部分を表現したかった」と述べ、ストーリー展開とナレーションへのこだわりを説明する。 また、撮影のやローラン・シャーレは、撮影条件の厳しさと同時に「まずペンギンを知ることが重要」と語る。さらに、スケジュールは天候と、フィルムの残量で決まった。持って行けるフィルムは4本。その場での交換は難しいので、それ以上は撮影できなかった」という。
■ 日本の冬を耐え抜くために
とにかく美しい映像を見たいという人はもとより、動物ドキュメンタリー好きやペンギン好きにももちろん薦められる内容だ。種の存続という基本的なテーマと、“生きるため”の苦行のような越冬生活は、無気力に生きている人間にとってもグッと胸に迫るモノはある。現代の日本人ではまず味わえないし、特に味わいたいとも思えない極限体験を見ると、「朝、寒くて布団から出られない」などといってはペンギンに怒られそうな気すらしてくる。 ここで描かれる極寒の南極の姿は、ペンギンたちのユーモラスで微笑ましい佇まいのコントラストとして、本作には無くてはならないもの。ただし、今年最高の冷え込みを見せた夜に一人で見ると、凍てついた心がより寒々しくなるような、妙なリアリティを伴ってきてつらくなった。暑さでくらくらと来るような真夏に、エアコンのギンギンに効いた映画館で一時の極寒と、愛らしいペンギンたちを眺めるほうが、風流な気もする。
http://www.geneon-ent.co.jp/ □製品情報 http://www.geneon-ent.co.jp/movie/topics/kotei.html □映画の公式サイト http://www.gaga.ne.jp/emperor-penguin/index2.html □関連記事 【10月31日】ジェネオン、DVD「皇帝ペンギン」を12月16日発売 -動物学者が監督した南極のドキュメンタリー http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051031/geneon.htm (2005年12月20日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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