■ 電車じゃなくて「バス」
今回取り上げるDVDは「バス男」。タイトルだけで、あの「電車男」を連想してしまうのは私だけでは無いだろう。 昨夏の劇場公開以来、映画にドラマにと一大ブームを起こした「電車男」。その前に発売された書籍がネット発の大ヒットとなったのも記憶に新しいが、その後さらに映画化、ドラマ化を相次いで実現。つくばエクスプレスの開通や秋葉原の再開発と相まって、「アキバ」ブームを巻き起こした。 そうした中で、数多くの便乗商品も登場した。今回取り上げる「バス男」もそうした商品に数えられるだろう。なにしろ、このDVDの原題は「Napoleon Dynamite」。バスのバの字も出てこないのに、邦題は「バス男」で、パッケージ上部には「キタ――――(゚∀゚)――――!!!!!」の文字を配している。電車男ブームに便乗しようという意図がひしひしと感じられる。 ストーリー解説を見ていると、毎日バスにのって通学するオタク風高校生ナポレオン君の物語らしい。まあ、電車男風の話ではありそうですが……。ただ、米国市場ではかなりのヒット作のようで、2004年6月に6館で公開開始し、9月には1,027館まで拡大。さらにセルDVDも16週連続トップ10入りと、地味ながらなかなかの人気を集めた模様。米国でヒットしても日本では公開すらされない人気タイトルも多いので、正直“ネタ”にしかならないかなと思いながらも、かすかな期待と込めて購入してみた。 なんといってもこの「バス男」で嬉しいのは価格。日本初DVD化にもかかわらずFOXの2枚で1,990円キャンペーン対象作品に入っているのだ。大抵のショップでは1枚単位で購入できるので、実質1,000円以下。たとえタイトルだけの“出オチ”商品だったとしてもこれなら懐はさほど痛まないし、仲間内のネタとしても充分元は取れそうだ。
■ オタクと言うより“不思議くん”
ナポレオン・ダイナマイト(ジョン・へダー)は毎日バスで通学している田舎の高校生。家族はやたら元気なおばあさんと、30歳を過ぎて無職でネット中毒のキップ(アーロン・ルーエル)、さらにフットボール選手として活躍していた時代が忘れられない中年のリコおじさん(ジョン・グリース)。 “オタク”という触れ込みのナポレオン君だが、モノやデータに対して執着を示すようなタイプのオタクではなく、特技は絵を描くこと。暇があるとライオンと虎の中間という空想上の生物「ライガー」のスケッチを始めたりする“不思議くん”タイプだ。 しかも、口は常に半開きで、体型もひょろ長。加入クラブは“ハッピー手話クラブ”。おまけにファッションは、謎の日の丸とヘリコプターがプリントされたTシャツをよれよれのジーンズに入れ、靴はいつでも黒いハーフブーツと、どこからみてもイケていないルックス。彼女などいるはずもないのに、「オクラホマに元彼女がいるけれど、モデル業が忙しくて……」と大嘘をついてしまうなど、プライドの高さも持ち合わせている、やっかいな青年だ。 どう考えてもモテないナポレオンと、彼を取り巻くダメ人間達のドタバタをコミカルに描くのが本作の最大の魅力。兄のキップとともに、謎の護身術「レックスゴンドー」のマヌケな体験講座に出席したり、怪しげな模型販売に乗り出してみたり、ネット通販でタイムマシンを購入したり、と、ストーリーに一貫性は無いが、とにかくばかばかしい出来事の連続で、ナポレオンの独自の世界を楽しみながら鑑賞できた。 そんなナポレオンにも気になる女の子が現れる。近所に住むデビー(ティナ・マジョリーノ)は、写真が得意な女の子で、突然ナポレオン邸を訪れては写真を売りつけたりと、こちらもちょっと変わった女の子。しかし、デビーはナポレオンの唯一の親友ペドロといつしか親しくなり、ナポレオンは嫉妬にくれる。そんな時、学校での人気は最下層と思われるペドロが生徒会長への立候補を表明し、ナポレオンの周りも徐々にあわただしくなっていく……。 シンプルなドタバタ学園ドラマなのだが、ほのぼのとしながらもなんとも言えない閉塞感を伴う、田舎のハイスクールの雰囲気がうまく描かれている。荒唐無稽な話の中に、同時にリアリティも感じさせる絶妙な空気感があり、このあたりが米国で支持された一因かと感じた。 一つ一つのギャグのテンションが高いわけでなく、少し地味ながら苦笑と少しの恥ずかしさを伴うような微妙な味わいが魅力。95分という本編時間もちょっとコメディを楽しみたいという向きにはちょうどいいスケールだ。 電車男の便乗商品というよりは、普通に楽しめる隠れた良作コメディという印象。DVD価格の低下により、これが1,000円以下で買えるというのは素直に嬉しい。しかし、思い返すと、バスに乗っているのは本編のごく初期だけだった気も……。
■ 画質/音質も至って普通。ベースの短編も収録
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.45Mbps。別段高画質でもないが、目立った破綻は感じられない。最近のDVDとしては標準的な画質といえるだろう。 音声も英語はドルビーデジタル 5.1ch収録ながら、マルチチャンネルが目立って活用されるシーンは無い。時折音楽シーンなどでマルチチャンネルだったことを思い出す程度で、リアチャンネルもあくまで包囲音として出ているだけ。正直、画質や音声で驚かされることは無いが、BGMはなかなか良く、時折流れる'80年代ポップスが、適度な懐かしさを感じさせてくれる。
特典は4種類の未公開シーンと、本作のベースとなったショートフィルム「Peluca」、「世紀のウェディング」の3つを収録。 未公開シーンは、監督/脚本のジャレッド・ヘスや、ジョン・ヘダーらによる音声解説付きで、カットの理由が説明される。本編を見終わった後に鑑賞して、カットの理由を聞かされると作品への理解は深まる。演出意図なども語られ、単なるドタバタだけでなく、学園生活の機微を細かに描こうとしていたことが確認できる。 ショート・フィルムのPelucaは、16mmフィルムによる作品で、収録時間は約9分。500ドル、2日間で撮影したという。「露出を間違えた」というかなり増感気味のバスの乗車シーンからスタートするが、本作の下敷きとなっているカットが散見されるが、シリアスな自主制作映画らしいショートムービーで、本作からコメディの要素を一切抜いた、ドライな田舎の風景が描かれる。そんなに驚くような作品ではないが、コメディでありながらも生活感を欠かさない本作の背景が分かるような作品だ。
■ 低価格DVDで選ぶ楽しさを再確認
バス男というタイトルには賛否両論あるだろうが、田舎の和やかな雰囲気と、ドタバタ喜劇の組み合わせがマッチした良作という印象。老若男女問わずに楽しめるコメディなので、家族で見ても充分楽しめそうだし、「バス男」というタイトルの選択も多くの人に興味を持ってもらうという点では悪くないように思う。 なにより、こうした地味ながら良くできた作品が1,000円以下で購入できるという現状は嬉しい限りだ。Blu-ray DiscとHD DVDの次世代光ディスク争いは佳境を越え、いよいよ製品の市場投入を目前としている。そんな時期だけに3,000円越えの新作DVDよりも、キャンペーンの中の初DVD化作品に目がいってしまう。 膨大かつ玉石混淆な毎月のリリースの中から、お気に入りのタイトルを選ぶというのも、DVD選びの楽しみの一つ。そうした意味ではこうした低価格な新作の登場は非常に歓迎できるし、DVDを選ぶ喜びを改めて教えてくれるようにも感じる。
□20世紀FOXのホームページ (2006年1月17日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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