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第222回:MIDI感覚のオーディオ編集ソフト
~ プラグインとしても利用可能な「Melodyne 3.0」 ~



 ボーカルやソロなどを、まるでMIDIのような感覚で自由にエディットできる独Celemonyの「Melodyne」が3.0になり、まもなくHookUpから発売される。いわゆるDAWや波形編集ソフトとはまったく異なるアプローチのこのソフト、どれだけの実力を持ち、どんな使い方ができるのか、さっそく試してみた。



■ VariPhraseに近い考えのオーディオ編集ソフト

 Melodyneは2001年に誕生したソフトで、単音のボーカルなど、メロディーをもったオーディオをMIDIのような感覚でエディットするソフトだ。オーディオは基本的には音程を変更したり、タイミングを変更することは難しいが、それを非常に簡単にできるようにしたのが、Melodyneだ。たとえば、ボーカルを録音した中で、ある一音だけ、音程が外れてしまったとき、その音程を正しいものに修正したり、“ドレーミファ”を“ドーレミファ”のように、発音のタイミングを変えることができるのが、このソフトだ。

SONAR 5でV-VocalというVariPhrase機能が採用された

 こうしたオーディオの編集をいち早く実現したのはRolandだった。「VariPhrase」という技術でDSPを用いて実現していた。VariPhraseは2000年に登場したVP-9000でデビュー、その後もVariOS、V-SynthといったDSP搭載のハードウェアを使うことで、VariPhraseを実現していた。しかし、昨年末に登場したCakewalkのSONAR 5にV-VocalというVariPhrase機能が搭載され、ついにCPUだけで実現できるようになった。

 それに対し、CelemonyはこのVariPhraseと非常に近いことを2001年に登場した初期バージョンからCPUパワーのみで実現していた。展示会などでこのMelodyneは何度も見てきたので、その存在はよく知っていたが、実際に自分のPCにインストールして使ってみるのは今回がはじめて。VariPhraseと、どう違うのかなどを検証した。



■ まるでMIDIを編集している感覚で使える

 Melodyneは今回のバージョンが3.0となるが、ラインナップとしては「Melodyne 3.0 Studio」(105,000円)、「Melodyne 3.0 Cre8」(52,500円)という2種類があるほか、1つ前の世代になるが「Melodyne Uno」(31,500円)の計3つがある。Studioがトラック数無制限であるのに対し、Cre8は8トラック。またUnoは1トラックとなっている。

 今回試用したのは、最上位版のMelodyne 3.0 Studioだが、105,000円とは結構な価格ではある。各ラインナップともにWindows版とMac版の両方が入ったハイブリッドであり、Mac版はMac OS XとMac OS 9のそれぞれに対応している。今回はWindowsにインストールして使った。

 さっそく起動し、ボーカルのオーディオファイルを読み込んだ。対応しているのはWAV、AIFF、AU/SNDなどで、MP3等は直接開けない。読み込むと、すぐに解析作業がされ、音程、音長がピアノロール風に表示された画面が現れる。解析時間は1分のファイルを読み込んで10秒弱とストレスは感じない。また、一度解析すると、解析ファイルが生成されるため、二度目以降の読み込みでは、解析作業がなく、すぐに開くようになっている。

最上位となるMelodyne 3.0 Studio ファイルを読み込むと解析作業がされ、音程、音長がピアノロール風に表示

 この画面を見て、すぐに感じるのはVariPhraseでの画面よりも、音程の解析がシンプルで見やすいということ。これは実際に使ってみないと違いがわかりにくいが、VariPhraseの場合、音程がかなり安定していて、ビブラートなどがかかっていない状態でないとうまく働かず、1つの音符のはずのものが、分散してしまう。しかし、Melodyneはしっかり1つの音符として表現されるので、わかりやすい。

 また、各音をマウスで上下へドラッグすると、簡単に音程が変えられる。SONARのV-Vocalでも同様のことができるが、V-Vocalでは、CTRLキーなどと併用することで、半音ずつ上下できるのに対し、Melodyneはデフォルトのドラッグで半音ずつとなっていて、ALTキーを併用すると1セントずつ動かせる。個人的にはMelodyneのほうが使いやすく感じられた。

 もちろんエディットできるのは、音程だけではない。マウスツールを持ち替えることで、各音の音量を変化させたり、音と音のつながりを変化させることもできる。

各音の音量も変更できる 音と音のつながりも変えられる

 また、音の長さを変化させることやフォルマントをいじることも可能だ。さらに、ピッチを自動補正するための機能や、MIDIでいうところのクォンタイズを実現するタイム自動補正の機能も用意されている。

音の長さなども変更可能 ピッチを自動補正する機能も搭載 タイム自動補正機能

 Melodyneの操作は感覚的には本当にMIDIのピアノロールエディタを使っているような感じで、とてもわかりやすい。また、スクラブ再生もでき、高速に前後させたりできるだけでなく、ある場所でとめてしまうと、その音をうまくサスティンさせて音を出すのだが、これがなかなかすごい。ある一点で止めているのに、とても自然な感じで音が出せるのだ。

 なお、MelodyneはMIDIも上手にサポートしている。MIDIキーボードを接続しておくと、MIDIキーボードからの入力があるたびに、1音ずつ再生していくとともに、入力したキーで音を出すといったことができる。またMIDIを「MIDI入力ノート編集」に設定しておき、キーボードを弾くと、そのとおりの音階で記録される。ReCycle! のMIDI機能にも近い感じだが、それともちょっと異なる独自の機能である。



■ ポリフォニック処理にも対応したが、日本語ファイルには不具合も

時間軸における音の切れを判別してスライスし、音を区分けできる

 このようにMelodyneでは単音=モノフォニックサウンドの解析、編集を得意としているのだが、実は複音=ポリフォニックサウンドに対しても、処理ができるようになっている。ポリフォニックかモノフォニックかは、自動的に判別して処理するようになっているのだが、このポリフォニックの処理というのもなかなか面白い。

 さすがに、それぞれの和音がどの音なのかを解析することはできず、あくまでもすべての音をひとつのまとまりとして処理するため、音程情報は得られない。しかし、時間軸における音の切れを判別して、スライスしてくれ、1音1音を区分けできるようになっている。ここで、1つの音の音程を上下にズラすことで、ピッチシフトが可能になり、タイミングをズラすといった処理も可能だ。CDなど既存の音源を取り込んで、ちょっとしたアレンジを行なうといったこともできるわけだ。


ASIOドライバなどの利用で、各トラックのオーディオ入出力を振り分け、複数トラックの同時録音/再生にも対応

 ところで、Studio、Cre8、Unoの大きい違いはトラック数だが、これまで見てきたのはあくまでも1つのトラックでの使い方。その意味では、Unoで同等のことができるわけだが(Unoは前バージョンがベースとなっているため、エンジン部が多少違うのと、ポリフォニック処理などはできない)、アレンジウィンドウやミキサーウィンドウを見ればわかるとおり、マルチトラックを扱うことができる。また、ASIOドライバなどを利用することで、各トラックのオーディオ入出力を振り分け、複数トラックの同時録音、再生も可能となっている。

 ためしに、マイクを接続して、レコーディングしてみたのだが、どうもうまくいかない。オーディオインターフェイスの調子が悪いのかと思って、別のものに変えてみたが状況は同じ。おかしいと思っていろいろとチェックしていて原因がわかった。どうやら、「トラック1」、「トラック2」という表記の日本語名が問題らしく、それを英語表記にしたところ、簡単に録音できた。メニューなどはすべて日本語化されていて、わかりやすいのだが、ファイルの入出力に問題があったのだ。この辺は早めに修正してもらいたいところである。



■ VSTおよびReWireでDAWとの連携も可能

 マルチトラックが扱えるとはいえ、個人的にはシングルトラックで十分なようにも感じる。確かに、マルチトラックになっていればMelodyneをDAWとして使うことは可能であり、複数のボーカルトラックがあれば、それらを1つずつエディットしていくこともできる。ただ、MelodyneをDAWとしてみれば機能的には非常に貧弱で、CubaseSXやSONAR、Liveと比べるに値しない。

 やはり、実際の活用を考えるとDAWはCubaseSXやSONARなどを利用し、ボーカルのエディット用としてMelodyneを利用したいところだ。そのためには、どのようにすればいいのだろうか? 単純な発想としては、DAW側で録音したトラックをWAVやAIFFで出力し、それをMedodyneで読み込んで処理させた後、DAWへ戻すという方法だ。しかし、これでは非常に面倒な作業となってしまう。

Melodyneを使いたいトラックのインサーション・エフェクトとして、Melodyne Bridgeを組み込むとプラグインとして利用可能

 そこで登場するのがVSTもしくはAudioUnitsとしての機能だ。そうMelodyneはスタンドアロンで起動するだけでなく、CubaseSXなどのプラグインとして利用できる。使い方はちょっと特殊で、Melodyneを使いたいトラックのインサーション・エフェクトとしてMelodyne Bridgeというものを組み込む。

 正確にはMelodyne自体はプラグインなのではなく、このMelodyne Bridgeというプラグインを経由してDAWと接続する。Melodyne BridgeをTransfarに設定しておくとDAWのトラックの音がMelodyneへと流れ、Melodyne側で録音することができる。ここから先は、Melodyneの世界で、自由にエディットできる。

 そしてエディットが終了したら、Melodyne Bridgeの設定をPlaybackに変えることで、先ほどとは逆にMelodyneの音をDAW側へ送ることができる。多少面倒ではあるが、これならタイミングがずれることなく、DAWとうまく連携させることができる。

 ただ、前述のSONAR 5搭載のV-Vocalと比較すると、DAWと組み合わせた際の使い勝手はどうしても悪くなってしまう。やはり完全に統合された環境と比較すると見劣りしてしまう。トータルの使い勝手をとるか、ボーカルのエディタとしての使い勝手をとるかで、選ぶべきソフトはかわってきそうだ。

 Melodyneは、ReWireもサポートしているので、ReWire経由で同期させて扱うこともできる。使い勝手としてはVST、AudioUnitsを利用したほうがわかりやすくていいが、状況によってはReWireを使うのもいいだろう。なお、Melodyne UnoにはVST、AudioUnitsのプラグイン機能は装備されていないため、ReWireしか選択肢はない。そう考えると、Melodyne 3.0 Cre8を選ぶというのが、もっとも一般的といえるのではないだろうか?


□Celemonyのホームページ(英文)
http://www.celemony.com/cms/
□HookUpのホームページ
http://www.hookup.co.jp/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/melodyne/index.html
□関連記事
【2005年10月24日】【DAL】64bitに対応した「SONAR 5」
~ 音質向上に加え、処理速度や編集機能も向上 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051024/dal209.htm

(2006年2月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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