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第209回:64bitに対応した「SONAR 5」
~ 音質向上に加え、処理速度や編集機能も向上 ~



SONAR 5 日本語版

 WindowsベースのDAW(Digital Audio Workstation)の二大ソフトといえば、Cakewalkの「SONAR」と、Steinbergの「Cubase」であるといって間違いないだろう。もともとCakewalkは米国の会社で、Steinbergはドイツの会社であるが気がついてみると、現在CakewalkにはRolandの資本が入り、SteinbergはYAMAHAの100%子会社となっている。日本の二大楽器メーカー、Roland 対 YAMAHAという構図だ。

 このSONARとCubaseはここ数年間、毎年秋に新バージョンを発表しているが、今年の先陣を切ったのはSONAR。すでに海外では英語版がリリースされ、日本語版も11月中には発売される模様。今回は、その日本語版の最終マスターを入手できたので、どんなソフトに仕上がっているのか検証した。



■ 64bit浮動小数点演算を実現するオーディオエンジン搭載

 SONAR 5はSONAR 4と同様、上位版の「Producer Edition」と、下位版の「Studio Edition」の2つのラインナップとなっている。この差はプラグインの数と、後に紹介するV-Vocalという機能の有無、Pow-rディザリングエンジンの有無などであり、ベースとなるオーディオエンジンの性能やレコーディング機能などは共通となっている。

 今回、SONAR 4との違い、他のDAWとの最大の違いとして打ち出したのが、64bit浮動小数点演算を実現するオーディオエンジンの搭載だ。正確にいえば、内部演算処理を最高で64bit浮動小数点演算で行なうことができるというもので、これによってより高音質でのオーディオ処理を可能にしている。

 もちろん、すべてを64bit浮動小数点演算すると処理が重くなり、CPUに大きな負荷がかかってしまうため、CPUの処理速度に応じて設定するといいだろう。

 また、今回のSONARでは異なるサンプリングビットのオーディオデータが混在できるようになっている。もちろん、サンプリングレートが異なるとダメだが、オーディオデータをインポートした際に強制的にビット数を揃えてしまうか、元のまま置いておくかを設定することができる。

内部演算処理を最高で64bit浮動小数点演算で行なえる オーディオデータをインポートした際にビット数を揃えるか、元のままにするか設定できる



■ Windows XP x64にネイティブ対応し、高速処理が可能に

 64bit浮動小数点演算をすることにより、確かに音質はよくなるのだが、ある程度のプロジェクトとなるとPentium 4 3.0GHzでも動作が厳しい状況に陥る。それを回避し、処理速度を大きく向上させる手段が2つ用意された。

 その一つがアプリケーションの64bit化だ。つまり、64bit OSであるWindows XP x64にネイティブ対応することにより、演算処理を高速にするとともに、広いメモリ空間を有効に使って処理することを実現しているのだ。ご存知の方もいると思うが、今年の春、SONAR 4の64bit版であるCakewalk SONAR x64 Technology Previewというものが発表され、無償ダウンロードができるようになっていた。それがSONAR 5で正式に登場したというわけだ。

 もちろん、通常の32bit版とはバイナリコードが異なるため、インストールDVDには2つのバージョンが収録されている。もっとも、インストーラが通常のWindows XPか、Windows XP x64かを自動判別してインストールするため、ユーザーは特に意識をする必要はない。

 一方、通常のWindows XPでもCPUがハイパー・スレッティングやデュアルコアに対応したものであれば、高速化するためのオプションが用意されている。「マルチプロセッサの処理を有効にする」というチェックボックスにチェックを入れればいいのだ。もっともハイパー・スレッティングやデュアルコアに対応していないCPUを使っている場合はグレーアウトされてチェックを入れることはできない。なお、64bitOS環境下でも既存の32bitのVSTプラグインが利用できるようにするit Bridgeという機能も搭載されている。

マルチプロセッサの処理を有効にする」をチェックすれば、ハイパー・スレッティングやデュアルコアに対応した高速化が行なわれる ハイパー・スレッティングやデュアルコア非対応CPUの場合はチェックを入れられない



■ Rolandが生んだVariPhraseの技術をソフトウェアで実現

V-Vocal

 ここまでの話はエンジン部分についてであるが、アプリケーションとしてみたときの最大の目玉機能といえるのがV-Vocalというものだ。これはRolandが開発したVariPhrase(バリフレーズ:DAL91参照)という技術をソフトウェアで実現してSONARに搭載したというもので、ボーカルのピッチやタイミング、声質などを自在に変更する機能。

 かなりの処理パワーが必要なため、当初DSPがないと実現が難しいといわれており、そのVariPhraseのための専用DSPを搭載したVP-9000、その後VariOSやV-Synthというハードウェアを発売してきたが、ついにこれがCPUパワーだけで実現可能になったのだ。


ボーカルの入ったクリップをV-Vocalクリップへ変換すると、ボーカルがMIDIのピアノロールのようにグラフ表示

 まあ、このようなボーカル処理技術は何もVariPhraseだけでなく、他社からもいくつか出ているが、このV-Vocalはプラグインとしてではなく、SONAR本体に組み込まれているため、非常に使いやすいものになっている。

 使い方そのものは簡単で、まずボーカルの入ったオーディオクリップを右クリックして、V-Vocalクリップへ変換する。するとV-Vocalの画面が表示される。ここではボーカルが、MIDIのピアノロールのようにグラフ表示される。このグラフの高さを変更すると、簡単にボーカルの音程をMIDIのよう感じで変更することができるのだ。また、ボーカルの微妙なピッチの補正なども自動的にできるようになっている。


ボーカルの声質は、フォルマントを調整するとより自然なものにできる

 このようなピッチの変更をすると、ボーカルの声質がやや不自然になることがあるが、それはフォルマントを調整することにより、より自然にすることができる。もちろん、ピッチを変更せずにフォルマントによって、男性の声を女性のようにしたり、ロボットボイスのようにすることも可能。さらに、時間軸も調整可能で、全体の長さは保ちながら、拍の頭を揃えたり、タメを作ったり、ツッコミを作ったりすることもできる。

 また、その応用として一つのボーカルを元に3度、5度離れた音で、コラースパートを作成するといったことも可能。この機能だけでもSONAR 5を購入する価値がありそうだ。



■ コンボリューション・リバーブ「Perfect Space」搭載

24-bit Crystalizerを有効にし、度合いを0~100%の間で設定

 もうひとつの目玉は、プラグインとしてPerfect Spaceという名前のコンボリューション・リバーブが搭載された。コンボリューション・リバーブとは、まさに、いま流行りのリバーブで、実際の空間における反響音=インパルス・レスポンスを利用して、その空間をシミュレーションするというものだ。インパルス・レスポンスは手を叩くような瞬間的な音に対して空間から返ってくる反響音を捕らえたもので、Perfect Spaceには300を超えるインパルス・レスポンスがWAVファイルとして収録されている。

 いろいろなホールや部屋でのインパルス・レスポンスのほか、ギターアンプやアコースティックギター、スネア、キックといったものまで用意されている。つまり、スネアが作り出す反響音の世界をシミュレーションするといったことも可能になる。これにより、従来のリバーブに比較してかなりリアルな空間サウンドを作りあげることができる。


Perfect SpaceにはEQも搭載

 これだけ多くのインパルス・レスポンスが用意されていれば十分すぎるほどだが、世の中には結構いろいろなインパルス・レスポンスが公開されている。これらを入手したり、自分で作成したものをPerfect Spaceに読み込ませれば、オリジナルのリバーブを作ることができるのもPerfect Spaceの面白いところだ。

 また、Perfect SpaceにはEQも搭載されているので、反響音の周波数成分をいじることもできる。ちょっと乾いた音のリバーブにしたいといったときに、簡単に設定できるのも面白いところだ。

 なお、このPerfect SpaceはDirectXではなくVSTのプラグインとして搭載されている。そして、今回ついにSONARがネイティブでVSTに対応するようになった。従来、VSTアダプタというものを使って対応していたが、ネイティブ対応することになって、より互換性があがったようである。



■ クリッピングをマークするなど、編集機能がさらに充実

 これまで見てきたような派手な機能追加がある一方、使い勝手という面でも数多くの改良がされていて、非常に便利になっている。

 たとえば、とっても便利なのが音量がオーバーしてクリップを起こした際、それをマーキングしてくれるという機能。レコーディング中であれば、即、録り直すことができ、編集結果でクリップするとそこにマーカーがつくので、音量を落とすなどの処理をすればいい。

 また、とてもよくできていると感心するのが、マスターチャンネルの「波形プレビュー」機能。これは、ミックスダウンした結果の最終的なマスターチャンネルの音を再生しながらリアルタイムに波形表示してくれるというもの。従来も、ミックスダウンしてファイルに落とせば波形表示することはできたが、SONAR 5では単に再生するだけで、波形を表示される。また、ここでクリップを起こせば、ここにもマーカーが入るので、すぐにミックスのしなおしができる。

音量オーバーでクリップを起こした際にマーキングされる クリップを起こすと波形表示にもマーカーが入る

ピアノの音を鳴らすには、プラグインのソフトシンセ、TTSのPianoを選択

 そのほか非常に便利に思えたのが、「トラックテンプレートの挿入」という機能。これは新規にトラックを作る際、あらかじめセッティングを行なっておくというもので、MIDIトラック、オーディオトラックともに便利に使える。たとえばMIDIでピアノの音を鳴らしたいという場合、プラグインのソフトシンセであるTTSのPianoを選択すれば、それだけでソフトシンセが同時に設定され、ピアノが鳴る。

 また、オーディオでAcoustic Guitar Tweakを選択すれば、アコースティックギター用にイコライザとリバーブ、コンプレッサが自動的にインサーションされるといった具合いだ。また自分で作った設定をテンプレートとして保存することも可能。なかなか使える機能だ。

 そのほかにも、レイヤー機能がより使いやすくなったり、クリップ単位でのエフェクト処理が可能になるなど、とても使いやすくなっており、非常に完成度の高いDAWに仕上がっている。

□cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/SONAR5/
□関連記事
【2004年12月27日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証 その3
~ YAMAHA傘下になった「CubaseSX3」の新機能 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041227/dal174.htm
【2004年11月12日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証 その2
~ マルチチャンネル編集に対応した「SONAR 4」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041122/dal169.htm
【2004年11月8日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041108/dal167.htm
【2003年3月10日】【DAL】新コンセプト・サンプラー「VariOS」の実力
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030310/dal91.htm

(2005年10月24日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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