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第221回:“Intel Mac”は音楽制作に使えるか?
~ PowerPC用DTMソフトで動作検証 ~



Intel Core Duo搭載のiMac

 前回、Macintosh用のiLife '06に含まれるGarageBand 3のレビューを行なったが、今回も引き続きMacintoshネタ。今回は、先日発売されたIntel Core Duoを搭載したiMacが現時点において、どのくらい音楽制作に利用できるか検証した。

 Appleから20インチのiMacを借りることができたので、これにオーディオインターフェイスやMIDIキーボードを接続し、PowerPC用のDTMアプリケーションなどをインストールした上で、実際に動作するのか、またそのパフォーマンスを試した。



■ PowerPC用プログラムをIntel CPUで動かすRosetta

 CPUがPowerPCからIntelのx86へと、ハードウェアのアーキテクチャ的には、まったく違うものへと変身したMac。ハードのデザイン的な見た目、またマシンを起動し、OSの画面を見る限り、従来のPowerPCのMacとの違いはまったく感じないが、中身はまったく異なる新しい設計のマシンになっている。

OSを起動しても画面では違いは感じない 中身は新設計のマシンになっている

 WindowsマシンであるPCはこれまでいろいろな変遷はあったものの、'81年にIBM PCとして誕生して以来、現在に至るまで、基本的には同じアーキテクチャの延長線上で成長してきたので、Macのこの変身の思い切りのよさには驚いてしまう。

 もっとも、AppleがCPUをまったく違うものへと変更したのはこれがはじめてではない。以前もMotorolaの68040からPowerPCへと大きく変身させたことがあるので、今回は2度目の変更ということになる。PCでも、サーバー系ではDECのalphaチップを採用したり、PowerPCを採用してWindows NTが動くシステムが登場したこともあったが、結局Intelのx86へ帰着してしまった。

 常識的に考えればCPUが変更されば、互換性がなくなり、ソフトウェアはまったく作り直しとなる。もちろん、しっかりとしたアーキテクチャでできていれば、作ったプログラムを再コンパイルすることで、別のCPUでもそのまま動くことはあるだろう。でも、そうであったとしてもエンドユーザーは、ソースプログラムを持っているわけではないし、コンパイラなども持っているわけではないので、そのCPU用のバイナリプログラムを別途入手する必要があるというのが普通の考え方である。

 しかし、今回AppleがIntel Macで「Rosetta」と呼ばれる仕組みを搭載した。これは、PowerPC用のプログラムをIntel Macでそのまま動かすためもので、ハードウェア、またはソフトウェアによるCPUのエミュレーションではなく、コードそのものを変換するトランスレーションであり、非常に高速に動作するという。そのRosettaはソフトウェア的に、Intel MacのMac OS X 10.4.4 Tigerに含まれている。にわかには信じられないが、そう発表しているのだから、嘘というわけではないだろう。

 ただし、Appleによればいくつかの制限があるという。Rosettaでは、以下のものは動作させることはできない。なお、当初は「AltiVecを用いるように特化されたコード」や、「G4を必要とするアプリケーション」も動作しないといあり、実質G3用アプリケーションのみのサポートと思われていたが、実際リリースする時点では、この項目は消され、G4もきちんとサポートするようになっていた。

  • Mac OS 8もしくはMac OS 9向けのアプリケーション
  • System Preferences panelにpreferences項目を追加するコード
  • G5を必要とするアプリケーション
  • 1つ以上のカーネルエクステンションに依存するアプリケーション
  • カーネルエクステンション
  • バンドルされたJavaアプリケーション
 気になるのは、どのくらいのアプリケーションが動作し、実際DTM関係ではどうなのか、ということだ。仮にRosettaで動作しても、スピード的に非常に遅くては使いものにならない。さらにはオーディオインターフェイスやMIDIキーボードなどのドライバが動き、ハードウェア的に使える環境が整わないと、ソフトだけではどうにもならない。

 もちろん、今後はIntelのCPUでネイティブに動作するソフトが中心になるのは間違いない。それにより、高速化し、安定して使えるようになるはずだ。またAppleはUniversalアプリケーションというものも打ち出している。これは「Universal」マークの付いたアプリケーションならPowerPCベースのMacでもIntelベースMacでも、同じように動作する実行可能ファイルで、どちらのマシンでもネイティブに動作するというものだ。

 このこと自体も、かなり不思議な気はするが、すでに前回紹介したiLifeなどUniversalアプリケーションが登場しているほか、Apple以外にもいろいろなソフトメーカーがUniversalアプリケーションをリリースすることを発表しはじめている。



■ RolandやM-AudioなどがIntel Mac対応ドライバをリリース

 そうした中、DTM関連のソフトおよびハードメーカーもIntelベースのMacへの対応を続々と表明しはじめている。いち早く打ち出したのはRoland。EDIROLブランドのUSB接続のオーディオインターフェイスやMIDIインターフェイス、MIDIキーボードなどの対応ドライバをすぐにβ版としてリリースし、Webからダウンロードできるようにした。

 さすがにハードと直結させるためのドライバはRosettaではサポートできそうにない。そのネックとなるところをiMac出荷とほぼ同時にリリースしてくれたのは心強い。さらに、数日後にはβ版から正式版に格上げしている。また、FireWire接続のオーディオインターフェイスFA-101およびFA-66に至っては、Mac OS Xがサポートしているため、ドライバ不要で即使える。

 さっそく、ここから試してみたところ、確かにFA-101においては、何のトラブルもなく簡単に認識され、使うことができた。またUA-4FXのドライバをインストールして、再起動後確認すると、こちらも問題なく使えた。試しにGarageBand 3で確認したところ、問題なくFA-101とUA-4FXを切り替えて使うことが可能となっていた。同様にMIDIキーボードであるPCR-30も簡単にインストールでき、GarageBand 3で使うことができる。少なくとも、EDIROLのハードウェアとGarageBand 3の組み合わせなら、現時点でもIntelベースのMacで問題なく使うことができる。

FA-101も正しく認識され、使用できた UA-4FXのドライバをインストール FA-101/UA-4FXを切り替えて利用できた

 ちょうど、現在手元にM-Audioのオーディオインターフェイスがひとつもなかったので試せていないが、M-AudioもFireWireシリーズのドライバのβ版をリリースており、利用可能になっている。また、E-MUのUSB-MIDIキーボード、X-Board25および49は、PowerPCのマシンと接続する際、ドライバなしで認識したが、これを試してみたところやはり、ドライバ不要でなんら問題なく動作してくれた。

 では、アプリケーションのほうはどうなのだろうか? オーディオをいじるアプリケーションは、なかなか動かないのではと思いつつ、試しにSteinbergから出たばかりのStudioCase II(CubaseSE 3.0とVST Instrumentsのバンドル品)があったので、これをインストールしてみた。とりあえず、インストール自体はまったく問題なくできた。そこで、恐る恐るCubaseSEを起動させたところ、あっさり動いてしまった。

StudioCase IIもインストールできた CubaseSEも普通に起動した

 あまりにもあっけなく、かなり拍子抜けしてしまった。デバイスの接続状況を見てもMIDI、オーディオともに、問題なさそう。実質的にはCoreAudioだけれどSteinbergでいうところのASIOドライバとして動いている。ソフトシンセを立ち上げ、MIDIキーボードを弾いてFA-101から鳴らしてみてもまったく問題ない。CPUのパフォーマンスメーターを表示させても10%程度なので、かなり余裕がある。

デバイスの接続状況は、MIDI(左)、オーディオ(右)ともに異常なし

MIDIキーボードでFA-101から鳴らしても問題なく動く CPUのパフォーマンスメーターでも10%程度

デモ曲を読み込むと負荷が50%に上昇

 ここでデモ曲を読み込み鳴らしてみたら、急に負荷が50%程度へと上がってしまった。PowerPCネイティブではここまではあがらないが、リバーブやコラース、ディレイなど、このデモ曲で使われているVSTエフェクトが負荷の原因になっているようだった。実際に演奏をさせてみると、さらに負荷は上がり、ときどきCPU負荷が100%に達したり、DISK負荷が急上昇し、音が途切れることがある。

 試しに、オーディオドライバのレイテンシーを下げると多少問題は緩和されたが、やはり厳しい面はある。ただ、今回、標準構成のメモリ512MBで動かしているので、メモリを増やせば多少はよくなるかもしれない。

CubaseSX 3も同様に使えた

 CubaseSEが動いたのだから、CubaseSX 3も動くかと思い、インストールしてみた。これは初期バージョンの3をインストール後、アップデータを使って最新版にしてみたが、これも普通のインストールできた。起動もうまくいき、結果はCubaseSEのときとほとんど同様であった。

 次に、簡単に動きそうな気がするアプリケーションとして、UA-4FXに付属していたインターネットのSound it 3.0をインストール。予想通り、これについては、まったく問題なく使うことができた

 続いて、PropellerheadのReasonを試してみた。こちらも問題なくインストールできた。Propellerheadのサイトを見ると、ReasonはRosettaで動くが、G3マシン程度のパフォーマンスである旨が書かれている。実際に起動させると、デフォルトのデモソングも演奏できた。

UA-4FX付属のSound it 3.0も問題なく使える 起動は可能で、デモソングの演奏も行なえる

 FA-101で鳴らした際、とくに何の設定もせずに使うと、このデモソングを演奏するのにはかなり重く、途中でエラーが出て止まってしまう。そこでオーディオバッファを2,048sampleにしてレイテンシーを大きくしたところ、CPU負荷が40%程度にまで減って普通に使うことができた。G3マシン程度というのは言いすぎだとは思うが、G5マシンに比較すると重いことは確かだ。なお、PCR-30を接続した状態で、自動認識をかけてみたら、これもあっさり認識でき、キーボードとしてもフィジカルコントローラとしても利用することができた。

設定変更せず、デモソングを再生するとかなりの負荷がかかる 2,048sampleにしてレイテンシーを大きくすると、CPU負荷が40%程度にまで減って普通に使えた



■ かなりのソフトが利用可能

 さらに、CubaseSXとReasonが入っているので、ReWireについてもチェック。お約束どおり、まずCubaseSXを起動後、Reasonを立ち上げると、ReWire接続の旨、表示される。どうやらうまくいっていそうだ。CubaseSX側からReWireチャンネルを見ると、しっかりとReasonの設定が表示される。両方のソフトをハードに使うとパフォーマンス的には厳しいが、単にCubaseからReasonをソフトシンセとして呼び出して使う程度であれば、まったく問題なかった。

ReWire接続が表示される CubaseSXからReWireチャンネルを見てもReasonの設定が表示

 もうひとつPropellerheadのアプリケーションとして、ReCycle! 2.1もインストールしてみた。これについてはパフォーマンス的にもまったく問題なく使うことができた。

 次にNative Instrumentsソフトを、まずソフトシンセを使おうと思って、手持ちのソフトを探したが、Pro-52しかなく、これはそもそもMac OS Xに対応していない。そこで、Pro-53のデモ版をインストールしたところ、スタンドアロンであればまったく問題なく使える。CubaseSXからVSTインストゥルメントとしても使うことができた。

ReCycle! 2.1は快適に動作 Pro-53のデモ版も問題なく使えた

 Native Instrumentsは2006年第2四半期~2006年度末までにUniversalアプリケーションをリリースし、安価なアップグレード提供をすることを表明。Rosettaについては、推奨もサポートもしないとのことだが、特に問題なく動いてしまった。また、先日扱ったTRAKTOR DJ STUDIOについてもインストールしてみたが、これも使える。CPU負荷的にもそれほどかからないためか、まったく問題はなかった。

 そして今度はabletonのlive 5にもチャレンジ。これも普通にインストールでき、実行できた。ただし、CPU負荷がかなり高く、オーディオドライバのレイテンシーを最大にしても、あまり使える状況ではなかった。

TRAKTOR DJ STUDIOも利用できた live 5もインストールできたが、CPU負荷がかなり高かった

 もっともabletonは2月にはCore Duoにネイティブ対応したプログラムをリリースすると発表しているほか、今年の第3四半期にはLive 6をリリースすると発表しているので、無理をしてRosettaを使うよりも、少し待つのが賢明のようだ。

Logic Pro 7もインストールでき、動作した

 最後にAppleがRosettaのサポート対象外としているプロアプリケーションであるLogic Pro 7についてもチェックしてみた。これもインストール自体はすんなりでき、動作もしてしまった。Appleの説明では「プロアプリケーションはハードウェアに近いところまで使用しているので、動作しにくい」ということだったが、特に問題は感じられなかった。

□Appleのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□ニュースリリース
http://www.apple.com/jp/news/2006/jan/10imac.html
□製品情報
http://www.apple.com/jp/imac/
□関連記事
【1月11日】アップル、Intel Core Duo搭載の「iMac」(PC)
~従来の筐体のままx86化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0111/apple2.htm

(2006年1月30日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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