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第228回:Windows Media系配信サイトでバックアップ機能を検証
~ 複数サービス併用時などの問題改善を望む ~



Windows Media

 Windows Mediaを利用した音楽配信サービスにおけるバックアップ、リストアの使い方が非常に分かりにくいということで、先日Microsoftへインタビューをした。その結果、あまり知られていない事実があることのほか、使い方には制限があり、それを知らずに操作するとリストアができなくなる可能性についても分かった。

 そこで、インタビューの内容を検証するために、実際に各音楽配信サイトからデータを購入して、バックアップ、リストアの作業を行なってみた。


■ 各サイトにバックアップ/リストア制限の記載はなし

 単純に欲しい曲を探して、ダウンロードし、再生させるということだけであれば、現在存在しているどこの音楽配信サービスでも、基本的な使い方はそれほど大きく差はない。また価格などもほとんどの曲で統一されている。CDへのライティング回数やポータブルプレイヤーへの転送回数などでは、差が出てくるケースもあるが、個人的に一番気になっていたのはデータのバックアップとリストア機能。

 自宅と仕事場にそれぞれ複数のPCがあり、事務用PC以外は頻繁にシステムをフォーマットし、OSを入れなおしているからだ。1週間に1度、多い時は1日に数回もOSを再インストールすることもある。ライターという仕事柄、ハードウェアのドライバをインストールしたりソフトウェアのレビューのために複数のアプリケーションをインストールする必要があり、トラブルを防ぐためにまっさらなOSの状態で作業をするためだ。

 最近はバックアップソフトが非常に優秀なので、このクリーン状態にリストアするのに数分で作業できるから、戸惑いもなく何度もOSの入れなおしができる。

 となったときに、やはり気になるのが音楽配信で購入したデータのバックアップやリストアだ。これまでの経験上、iTunes Music Storeは非常に簡単にバックアップ/リストアができ、自宅と職場のマシンなど、最大5台までで一緒に使うことができる。

 また、Moraにおいても、iTMSほどスマートではないが、しっかりバックアップ、リストアはでき、自宅と職場のマシンで使うこともできなくはない。しかし、これらを除く国内のほとんどの音楽配信サイトはWindows Media対応であり(MOOCSはMQbicというDRMで、そもそもバックアップ機能を装備していない)、いままで試した際、iTMSやMoraのようにうまくバックアップ、リストアすることはできなかった。その疑問を解くために先日Microsoftへのインタビューを行なったわけだ。要点をまとめると、以下のようなものであった。

  • バックアップ、リストアは可能である
  • 楽曲データとライセンスは別管理となっていて、WindowsMediaPlayerでバックアップできるのはライセンスのみである
  • WMPでのバックアップ作業により、バックアップ可能なすべての楽曲のライセンスがバックアップされる
  • バックアップは何回でも可能である
  • リストアは3回までしかできない
  • 現在生きているデータの上にリストアをかけても1回とカウントされる
  • 1度リストアをすると、24時間は次のリストアができないようになっている
  • ライセンスの再発行をした場合、元のライセンスとは別管理であるため、それぞれ3回のリストアが可能となる
 現在国内でWindowsMediaを使った音楽配信を行なっているサイトはインディーズまで含めればかなりの数になるが、大手による主なサービスは、「excite music store」、「Listen Music Store」、「OCN Music Store」、「OnGen」、「Oricon Style」、「msn music」、「Music Drop」がある。

 そこで、改めてこれらのサイトのヘルプを見てみたが、Microsoftのインタビューから出てきたような情報はほとんど書かれていない。一応、バックアップ方法とリストア方法について書かれているサイトはあるが、上のような制限事項について書いてあるところはひとつもない。

 Microsoftがいう情報が正しいとすると、各サイトの対応は非常に不親切であることになる。もちろん、Microsoftが一般ユーザー向けに分かりやすい情報を発信し、各サイトからそこにリンクするだけでもいいが、そうしたことも行なわれていないのが実情だ。

 というわけで、検証のためこれら7つの音楽配信サイトで曲を購入するとともに、バックアップ、リストア作業を行なってみた。


■ リストアは行なえたが、それぞれに制限も

 実際に購入してみると、各サイトでライセンス管理にいろいろ違いがあることも見えてきた。まずあげられるのがライセンスの再発行の扱いについて。Microsoftのインタビュー結果からすると、ユーザーはなるべく多くライセンスの再発行をしておいたほうが、バックアップの際の自衛手段になる。

 もちろん、同じマシンで再発行をかけても、上書きされてしまうので無意味だが、複数マシンで利用したい場合などは、この作業をしておいたほうがいい。しかし、その再発行が1回もできないところもあれば、複数回できるところがある。また再発行が可能な期間にも違いがあるのだ。各サイトの状況をまとめてみたのが以下の表だ。

【3月25日追記】
 なお、各配信サービスでの再ライセンスなどの条件はレーベルによっても異なる場合があるが、下表ではその代表例を挙げている。また、OCN Music Storeについては、OCNコンテンツコースで試している。

サービス名 ライセンス再発行
excite music store できない
Listen Music Store 1週間以内に1回
OCN Music Store 30分以内なら無制限
OnGen できない
Oricon Style 24時間以内に1回
msn music 3回まで
Music Drop できない

 OCN Music Storeの無制限は魅力だが、購入後30分以内にしかできないので、自宅と会社で使いたいといった場合には役に立たない。msn musicはもちろん、Listen、Oricon Styleなら使えそうだ。

 まずは、自宅の事務用マシンでexcite music storeから1曲ダウンロード。さっそくライセンスのバックアップをとり、クリーン状態にしてあるもう1台へライセンスをリストアしてみた。しかし、いきなりトラブル発生。「1日に復元できる制限数を超えたため、ライセンスを復元できません。明日やり直してください。」と表示された。

ライセンスをバックアップし、リストアにトライ 「明日やり直してください」のメッセージが

 まだその日は1度もリストアは行なっていないが、ライセンスを発行した直後だったので、ダメだったということなのだろうか。このダウンロードをしたマシンでは、これまでもexcite music store、Listen Music Storeなどから何曲かダウンロードしたことがあるので、古いデータとの兼ね合いが問題になったのかもしれないが、先行きに不安が出てきた。

リストアに成功

 とりあえず、すぐには何のアクションもとれないので、1日以上経過してから、再度トライしてみたが、結果は同じ。つまり、バックアップをとったデータのリストアは結局、実現できなかったわけだ。そこで翌日、クリーンなマシンに同じくexcite music storeから1曲データを購入し、すぐにバックアップをとって、もう1台のマシンへリストアをかけてみた。その結果、無事リストアができ、曲を再生することができた。

 つまり、excite music storeだからできないというわけではないらしい。ためしに、この直後に再度リストアをかけてみたところ、表示上はリストアが成功した。そして、同じことを3回やっても4回やってもうまくいく。つまり、「現在生きているデータの上にリストアをかけても1回とカウントされる」というのは正しくないのかもしれない。

 続いて、同じ実験をListen Music Storeでも行なってみた。とりあえず、ここでも同様にクリーンなマシンに1曲だけダウンロード購入し、それをバックアップして、別のマシンへリストアするという手順だ。この結果は今のexciteの場合とまったく同じになった。よく分からない点はあるが、バックアップをとったライセンスは別のマシンへリストアすることは可能ではあるらしい。

 さて、このListenは購入後1週間以内に1回だけライセンスの再発行が可能ということなので、また別のマシンで、その再発行を行なってみた。方法は簡単。Listenにアクセスし、購入履歴を見ると、「再発行」というボタンがあるので、これをクリックするだけ。その上で、すでにダウンロードされている楽曲データをコピーしてもってくるか、再ダウンロードすることで再生することができた。ただし、再発行は1回だけという制限があるので、再度同じことをしようしてもできなかった。

購入履歴からライセンスの「再発行」を選択 再発行は1回のみ


■ 各サービスを併用するとトラブル発生

制約のため、一部のライセンスは復元できていないとのメッセージが

 さて、今度はこのListenのデータがあるところに、OnGen、Oricon Style、OCN Music Store、msn music、Music Dropのそれぞれから1曲ずつダウンロード購入してみた。もちろん、この時点ではすべてのデータを再生することができる。そこで、ライセンスのバックアップをとり、マシンをフォーマットし、クリーンな状態に戻した。

 そして、Windows Media Playerを起動して、リストアをかけた。すると今度は、「制限付きで転送が完了し、ライセンスの復元はできたが、制約があって一部のライセンスは復元できていない」、というのだ。

 そこで、実際にそれぞれの曲を再生して試してみたところ、すでに一度リストア作業を行なったListenの曲のほか、Oricon Styleの曲もmsn musicの曲も再生できなかった。


Listen(左)、Oricon Style(中)、msn music(右)いずれの曲も再生に失敗

 ただし、msn musicについてはID、パスワードを入力すると、ライセンスの再発行がされ、再生可能となった。ただ、その後Webでmsn musicにアクセスして購入履歴を見ると、ライセンス発行数は2となっている。つまり、これはリストアできたのではなく、単に再発行したにすぎなかったのだ。


msn musicでは、IDとパスワードを入力するとライセンスが再発行され、再生可能になった リストアではなく、ライセンスが再発行された

 ここでさらに翌日24時間以上経過してから実験を続けた。このリストアした結果の状態で再度ライセンスをバックアップし、別に用意したクリーンなマシンへとリストアしてみた。その結果、やはり「制限付きで転送が完了しました」というメッセージが表示された。

 それぞれの曲を再生してみると、昨日はうまくいかなかったmsn musicの曲はライセンスの再発行をすることなくリストアされたが、ほかはすべてダメ。Music Dropは再生できない旨のメッセージが表示され、OnGen、OCNはそれぞれライセンス再発行のメッセージが表示された。

Music Dropでは再生に失敗 OnGenとOCNではライセンス再発行の表示に

 ただし、この再発行を実行してみると、OnGenはうまくいかず、そしてOCNはID、パスワードを入力した結果、再発行された。

OnGenではライセンス再発行も失敗 OCNではパスワードを入力すると再発行された

 こうした動きを見ていると、ロジックを理解するのは不可能といってもいいほどグチャグチャに思える。同じサービスだけを使っているとトラブルも生じにくいのかもしれないが、やはりバックアップ、リストアという点にフォーカスを当てると、いずれもまともに使えるサービスに到達していないレベルだと感じた。

 Windows Media DRMを使っている以上、各音楽配信サイトの努力だけで改善することはあまり期待できないかもしれない。しかし、どうすればバックアップやリストアがうまくいくのか、トラブルを生じさせないためにはどうすればいいのか、実際トラブルが生じたらどうしたらいいのか、配信会社側でもしっかり検証した上で、確実な情報の公開をしてほしい。


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Mediaのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/default.mspx
□関連記事
【3月6日】【DAL】Windows Mediaのバックアップ機能への疑問を聞く
~ DRM 9でもバックアップ可能。リストアは3回まで ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060306/dal226.htm
【2004年10月25日】【DAL】Windows Media Player 10を検証
~ エンコードエンジンもバージョンアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041025/dal165.htm
【2004年6月14日】【DAL】日本の音楽配信サービスの著作権管理を検証
~ 各DRMの実際の使い勝手とは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040614/dal149.htm

(2006年3月20日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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