~ パソコンとの連携も便利な「BR-600」 ~ |
BR-600 |
BOSSのBR-600はコンパクトフラッシュをメディアに利用したレコーダだが、R-09などとは違い、音楽制作用の8トラックのデジタルレコーダとなっている。現状においてこうしたマルチトラックのデジタルレコーダ自体、珍しいものではなく、BOSSのほかにもRoland、YAMAHA、KORG、ZOOM、FOSTEX、TASCAMと数多くのメーカーが発売している。
個人的にも、こうしたレコーダのさきがけとなった8TRのHDDレコーダ「VS-880」をいち早く購入し使っていた。正確には‘96年に発表されたVS-880のファームウェアアップデートにより、いくつかの新機能を追加して登場した「VS-880 V-XPANDED」だが、今でも時々利用している。
その後各社からはより機能向上させ、液晶を大きくして編集しやすくしたり、HDDの容量を大きくしたり、CDライティング機能を追加したモデルなどがリリースされたが、興味を失っていた。というのもPCのDAWを使ったほうがずっと高機能で、編集もしやすく、使い勝手もよかったからだ。持ち運んでスタジオなどで利用するということを考えると、こうしたレコーダに魅力がないわけではないが、ノートPCもコンパクトで高性能なオーディオインターフェイスもある時代だから、あえて使いたいとも思わなくなっていた。
そんな中でグッと心を捉えたのが今回のBR-600。これまでのBOSSのBRシリーズも比較的コンパクトなので多少気になっていたが、このBR-600は厚さ27mmで700g。単3電池×6本で駆動できる。もちろん、ACアダプタでも動作するが、ACアダプタは別売り。
また、レコーダ機能に加え、ドラムマシン機能まで装備しているというのはかなりすごい。しかも実売価格が38,000円程度というのだから、PCのDAWと比較していた従来のマルチトラック・レコーダとは別ジャンルのものと捉えてもいいのではないだろうか。
厚さ27mmとコンパクト | 単3電池6本でも駆動 |
今までも4トラックでコンパクトな製品はいくつかあったが、低機能であったのに対し、BR-600はBRシリーズの系譜を引くだけに結構高機能だ。さらに、PCとの連携機能が結構優れていそうだから、PCのDAWと競合するというよりは、協調して使える製品である。発売直前の最終版を借りることができたので、さっそくどんな製品かレポートしていこう。
パッケージ | キャリングケースも付属 |
側面にCFカードスロットを搭載 |
BR-600は8トラックのレコーダで、各トラックにバーチャルトラックが8つあるので計64トラックを装備している。またオーディオは2トラックの同時録音ができ、再生は8トラックまで同時に行なえる。側面のカバーを外すとコンパクトフラッシュのスロットが現れる。
PCMデータの圧縮率によってHi-Fi、STD、LONGの3つのモードがあり、たとえば標準で搭載されている128MBのコンパクトフラッシュの場合、Hi-Fiなら約65分、STDなら約78分、LONGなら約98分のデータを収録できる。もちろん、この時間はモノラル1トラックの場合なので、8トラック同時に使うのであれば、その1/8という計算になる。
まずはデモ曲を聞いてみようとヘッドフォンをつないだが、端子は標準ジャック。小型の製品なのでステレオミニジャックだと思っていたが、やはり楽器メーカーとしてのこだわりは捨てていないようだ。8トラックでレコーディングされている曲を再生してみると、なかなかいい音。8つあるフェーダーを動かすと、各トラックのレベルを自由に調整できる。ちなみに、1~4トラックは1つずつのフェーダーが割り当てられているが、5/6、7/8で1つずつ、またリズム用のフェーダーとマスターフェーダーで計8つとなっている。
BR-600でユニークなのは、ドラムマシン機能を装備しており、8つのオーディオトラックとは別に独立チャンネルとして動作すること。右側の操作ボタンがドラムパッドを兼ねており、叩けば音が鳴り、ベロシティーにも対応している。ただ、さすがにパッドサイズが小さいので、ベロシティーまでつけて叩くのはちょっと難しかった。
フェーダーは計8つ | 右側の操作ボタンがドラムパッドにもなる |
ちなみに、ドラムキットはスタンダード、ジャズ、ヒップホップ、そしてTR-808まで計9つの音色セットが用意されている。またオリジナルでドラムキットを記憶させられるSongKitというものも5セット用意されているが、このSongKitについてはまた後で紹介しよう。
ドラムマシンとして、予め数多くのパターンが用意されているので、それを利用することもでき、このパッドを叩いて自分でパターンを作成することも可能。またステップ入力で正確に入力するといったこともできる。
入力端子は、フロントにはハイインピーダンス対応のギター/ベース入力端子、リアには標準ジャックでのマイクインが2つ、そしてステレオミニジャックでのラインインがそれぞれある。XLRのキャノン入力はないものの付属の変換ケーブルを使えば接続は可能。ただしファンタム電源には対応していない。
さらに、フロントには内蔵のコンデンサマイクが左右ステレオで用意されているので、何も接続しなくても、このままで録音可能となっている。同時に録音できるのは2chまでなので、切り替えて使うことになるが、それぞれ入力音量の調整ができ、入力レベルも液晶パネルに表示されるレベルメーターで確認可能だ。
背面には標準ジャックでのマイクインが2つと、ステレオミニのラインイン | 前面にコンデンサマイクを内蔵する |
試しにラインインからオーディオ信号を入れた音をモニタすると、なんとなく音質と音量の雰囲気がおかしい、と思ったら、エフェクトがかかっていた。というのも、BR-600では、入力がギターかマイクか、ラインかによって、それぞれにマッチしたエフェクトがかけられるようになっている。デフォルトの状態ではEQとコンプレッサがかかっていたため、ちょっと変わった雰囲気に聞こえたのだ。
もちろん、内蔵されているのはマルチエフェクトなので、好みのエフェクトに自由に変えることもでき、エフェクトをオフにすることも可能。またエフェクトの接続法を切り替えることにより、モニタ上はエフェクトがかかっているけれど、トラックにはエフェクトがかかっていない音を録音することや、掛け録りすることも可能だ。Rolandグループ自慢のCOSMテクノロジーに対応したエフェクトなので、アンプシミュレータほか、さまざまなエフェクトが用意されている。エレキギターを接続して、エフェクトをかけながら演奏してみたが、エフェクトの種類が非常に豊富なので、もうそれだけでかなり遊べてしまう。さすがBOSSの製品といったところだろう。
ここまではBR-600本体のみの話だったが、BR-600にはUSB端子が用意されており、PCもしくはMacと接続することで、その用途はさらに大きく広がる。PCでもMacでも同様のことができるが、ここではWindows XPがインストールされたPCを使ってその接続性を見てみた。
USBメニューにはBACKUP、IMPORT、EXPORTと3つのモードがある |
まず、PCとUSBで接続したが、接続しただけでは何の変化もない。BR-600側のUTILITYボタンを押し、USBメニューを選択する。ここにはBACKUP、IMPORT、EXPORTと3つのモードがあり、それぞれで別の動きをするようになっている。
BACKUPを選ぶと、PC側からはUSBマスストレージデバイスが接続されたことになり、ひとつのドライブが現れる。このドライブの中を見ると、ROLANDというフォルダがあり、その中に、BR0、TONELOAD、SMF、USBと4つのフォルダがある。バックアップ作業を行なう際はRolandフォルダを丸ごとPCへコピーすれば、すべてのソング情報がバックアップできる。反対にリカバーする際は、PCからBR-600側へ上書きしてやればいいだけだ。
この4つのサブフォルダのうち、ソング情報は基本的にはBR0のみに収納されており、ほかのフォルダは、PCと接続する際の作業領域としてうまく活用できるしくみになっている。なお、そのBR0フォルダの中身はBR-600専用データであり、一般のオーディオファイルにはなっていないため、単なるバックアップにしか使えない。そのため、このバックアップ作業ではPCとの連携はできないが、もちろん、オーディオデータをやりとりする方法が用意されている。それがEXPORTとIMPORTだ。
ROLANDフォルダの中に、BR0、TONELOAD、SMF、USBと4つのフォルダがある | BR0フォルダの中身はBR-600専用データのため、バックアップにしか使えない |
改めてUSBメニューでEXPORTのモードにし、エクスポートしたいトラックを選択する。8トラック×8バーチャルトラック=64トラックの中から一つのトラックを選択する。この際、WAVファイルで渡すかAIFFで渡すかを選択するので、ここではWAVファイルを選ぶと、まずBR-600内でUSBフォルダにそのトラックのWAVファイルが生成される。その後、USBマスストレージとして認識されるので、PC側でコピーすればいい。
ちょっと面倒なのは、トラックごとに1回ずつこの作業が必要になることだが、まあそこは仕方のないところ。各トラックをモノラルで出力できるほか1/2、3/4、5/6、7/8とステレオで書き出せば8トラック分を4回の作業で出力することも可能だ。なお、USBフォルダはあくまでも一時作業エリアなので、1回操作を終えると、そこにあったファイルは自動的に消去されるようになっている。
SONARでも8トラック分のサウンドを再現できた |
このようにしてコピーした各トラックのWAVファイルはすべて曲の頭から始まっている。そこで、8トラック分すべてをSONARに読み込ませたところ、見事にBR-600で鳴っていたサウンドを再現できた。これなら、外でレコーディングしてきたものの編集作業はすべてPCで行ないたいというニーズにもうまく応えてくれそうだ。なおドラムだけはBR-600のドラムマシン機能で鳴らしていたので、こちらには持って来れなかった。
反対にPCで作った音をBR-600で鳴らしたいという場合は、IMPORTメニューで反対の作業をすればOK。そうしたシチュエーションがあるかどかは分からないが、とにかくデータの入出力は自在だ。
しかし、PCとの連携はこれだけに留まらない。先ほどのBACKUPモードにした際、TONELOADフォルダを利用することで、PC側にあるドラム音色を転送してBR-600のドラムマシンをオリジナルサウンドで構成することが可能。それが先ほどのSongKitというものだ。
計5つあるSongKitにそれぞれオリジナル音色のドラムキットが組み立てられる。1キットあたり計13秒までという制限はあるが、通常はこれだけあれば十分だろう。流れとしては、スネア、キック、タム、シンバル……などそれぞれの音をWAVファイルとしてTONELOADフォルダへコピー。その後BR-600側の作業で、どのファイルをどのパッドに割り当てるかを設定すれば完了だ。
さらに、このドラムマシン関連で、もうひとつ面白い機能が用意されている。それはPCからスタンダードMIDIファイルを転送すると、そのドラムトラック(10chのデータ)のみが転送され、ドラムマシンを鳴らすことができるというものだ。つまり、ドラムトラックだけはPCのDAWで組んでおき、それをBR-600へ転送してから、レコーディングに入るということができるわけだ。
こうした作業はすべてWAVファイル、AIFFファイル、スタンダードMIDIファイルと標準のデータだけでやりとりされ、PCでもMacでも同様に作業できるという面でもよくできている。どんなDAWとも組み合わせることができるので、柔軟に活用できる。VS-880やその延長線上にある機材のように、MTCをはじめとした外部機能との同期機能はないが、ファイル単位でのやり取りが可能な分、より連携はしやすいように感じる。普段PCやMacのDAWで作業しているけれど、外でのレコーディングをもっと手軽に行ないたいという人にとってBR-600は非常に便利に使える機材だろう。
□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/boss/BR-600.html
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~ RolandがNAMM2006出展製品を国内発表 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060306/dal226.htm
(2006年3月27日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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