■再スタートを切るパイオニア 毎年年度末にはメーカー各社の決算説明会が開催されるわけだが、DVDレコーダという新ジャンルを開拓したともいえるパイオニアをもってしても、レコーダ事業がなかなか黒字転換できないという事実は、我々消費者にとっても衝撃的な事実であった。つまりはそれほどまでにレコーダ事業というのは、メーカーにとっては難しい戦いであったというわけだ。昨年12月には人員削減やカンパニー制廃止といった構造改革を打ち出し、事業の大幅見直しが進むパイオニアだが、今回は構造改革宣言後に初めてリリースされるハイブリッドレコーダ「DVR-640H」(以下640H)をテストする。 地上波アナログ、BSアナログにのみ対応という、昨今としては珍しいデジタル放送非対応モデル、HDD容量も250GBとふるわないが、HDDが増設できるというのが最大のポイントだ。店頭予想価格は6万5,000円前後と、最初からかなり買いやすい価格設定になっている。 過去にはHDDの入れ替えや増設ができると謳った台湾製レコーダも存在したが、最終的には全品回収となったり開発断念といった結果となっている。大手メーカー製レコーダとして、そしてちゃんと動く製品として初のレコーダと言えるかもしれない。 新生パイオニア初号機とも言える、DVR-640Hをさっそく試してみよう。なお、お借りしたのはβ機なので実際の製品とは仕様が異なる可能性もあることをお断りしておく。
■外観にはあまり面白みがないが… まずはいつものように外観から見ていこう。過去パイオニアのレコーダといえば、薄型が一つのウリになっていたが、今回の640Hは高さ69mmと、それほど薄さを意識した感じではなくなっている。そもそも薄型というコンセプトは、まだDVDレコーダを初めて買うというような時代に、これまでのAVラックの隙間に入れられるというところから始まっている。すでにここまでDVDレコーダの認知度が高まった今では、それほどの差別化にならないということかもしれない。 フロントパネルのデザインは、ハイエンドモデル「DVR-DT90」あたりから始まった、左右にポイントとなるボタンを大きくフィーチャーしたデザインで、センターには「気がきくナビ」ボタンが付けられている。 パネルを開けると、2系統のUSB端子が目を引く。AタイプとBタイプ、つまりデジカメと接続しての画像吸い出しと、ピクトブリッジ対応プリンタを接続して写真印刷という2つの機能を持っている。 そもそもレコーダにプリンタを繋ぐのはアリかという議論はあるだろうが、なかなかユニークなところに目を付けたことには違いない。他にもDV端子、アナログ外部入力端子と並び、操作系ボタンがいくつかある。
背面に回ってみよう。RF入力は、地上波アナログとBSアナログのみで、デジタル放送には対応しない。入力3系統、出力はアナログ2系統の他、D2端子と光デジタル音声出力がある。上部には拡張HDD用の専用端子がある。 拡張HDDはExternal Serial ATA、いわゆるeSATAによる接続で拡張するわけだが、パイオニアとしてはeSATA規格には完全に準拠していないため、専用コネクタという言い方をしているようだ。そのため、接続が保証されているのは6月下旬にパイオニアからリリースされる、250GBの専用HDD「HDD-S250」(予想価格2万7,000円前後)のみだ。
■細かい気配りが感じられるGUI パイオニアの新モデルとは言っても、アナログ放送のみのレコーダであるため、できることは限られている。ここでは目立った新機能をピックアップしてみよう。まず番組表関連だが、チャンネル表示が3ch、5ch、7chと切り替えできるようになった。だがただでさえ表示領域が狭いGガイドでは、7ch表示はあまり実用的ではない。番組名を表示内から探すというのなら、5ch表示ぐらいが適当だろう。
またパイオニア得意の、録画辞典による検索機能も継承。検索範囲を大辞典、中辞典、小辞典と分けて指定することも可能だ。 ユーザーに必要な情報を教えてくれるという「気がきくナビ」は、何かメニュー画面で操作中に押すと、その場で必要なヘルプを表示する。なにもメニューなど表示しない状態で押すと、最新の録画番組を教えてくれる。 本体にも気がきくナビのボタンが付けられているが、本体には十字キーや決定ボタンなど操作できるキーがないので、番組を再生しますか? ときかれても返答する手段がないのは困る。どういうときに本体ボタンを使えばいいのか、悩むところだ。
野球中継では、ホームランシーンが再生された。ただし番組中に何度か放送されるリピート画像も、そこが盛り上がっていると判定されるのか、何度も再生される。確かにダイジェストには違いないのだが。 アニメ番組では、ちゃんとCM開けの各話タイトルが表示されるため、再放送や複数局で時間差で放送している番組などでは、重宝するだろう。 番組解析の応用技術としては、なかなか期待が持てる分野だ。ここまでできるのであれば、サムネイルだけというのは勿体ない。できればフル画面でも3分、5分、10分程度のダイジェストが楽しめるような機能も欲しいところだ。そうなれば、番組の視聴そのものをダイジェストだけで済ます、という可能性も産まれてくるかもしれない。
■意外に繋がる? 増設HDD
ケーブルを繋ぐと、自動的にHDDを初期化するか否かのメッセージが表示される。初期化すると、外付けHDDとして見事に認識できた。なお、本体と増設HDDに内蔵する固有のIDで認証を行なっているとのことで、他の640Hで使っているHDDを接続しても初期化しないと使えないようだ。サポートを期待するならパイオニア純正のストレージを買うべきだろう。 AV機器用の外付けHDDとして利用する場合は、狭くて通気の悪いAVラックの奥にに押し込んだり、番組を長時間録画し続けるなど、放熱や連続書き込みの面でパソコンとは異なる利用をすることにもなる。あくまで自己責任で利用して欲しい。また、前述の通りレビューで使用しているのはβ機なので、同じ外付けHDDを接続しても製品版では動かない可能性もある。
またダビング機能では、内部のHDDと増設HDDの間で相互に行なえる。基本的にアナログ放送だけを録画している場合は、コピーワンスなどの制限がないため、実質的には巨大バックアップメディアとして利用できる。
実際のダビング動作中は、番組録画予約は実行できないのものの、バックグラウンドで進行するため、ユーザーが特に意識すべきことはない。電源は本体と連動するため、繋ぐだけでほっておけばいいのは楽だ。 増設HDDのコンテンツを見るときは、ディスクナビ表示中にHDDとDVD切り替えボタンを押せばいい。従来のHDDとDVDの切り替えに、増設HDDが加わるようなイメージだ。
ただ注意すべきは、HDDとレコーダが常に1対1の関係でしか動作しないという点だ。録画した増設HDDを、初期化した640Hではない別のマシンに接続しても、コンテンツを再生できない。本体を買い換えたときが困りそうな仕様だが、コピーワンスのコンテンツもムーブできるメリットを考えたら、妥当なトレードオフだろう。 またDVD関係も、DVD±R、DVD±R DL、DVD±RW、DVD-RAMという、現在の地球上に存在する全メディアでの録再をサポートした点で、これもまた非常にルーズに構えていてもOKな体制になっている。 今どきアナログチューナーオンリーということで、レイトマジョリティ層を狙っていると思われるレコーダではあるのだが、これまでこういった製品に疎い人でも使いこなしに困らないという、なんでもこい的体制ができているというのは、必要条件なのかもしれない。
■意外に使うのか? デジカメ印刷機能 もう一つの特徴的な機能、写真印刷について見てみよう。以前から家庭内におけるデジタルメディアのハブとして何がふさわしいのかという議論が存在するわけだが、一つはPCであるというのが解だろう。そしてもう一つが、テレビやレコーダのようなノンPC家電であるという意見も根強い。まあ有り体に言えば、PC業界と家電業界それぞれで自分たちがハブであると主張する構図があるわけである。 パイオニアでは以前から、レコーダの中に音楽再生機能やデジカメ写真ビューワ機能などを積極的に取り入れ、家庭におけるデジタルコンテンツの中核にレコーダを位置させるという努力を行なってきた。そして今回その延長として、写真をただ集めてテレビで見るだけではなく、プリンタまで直結してしまおうという機能を搭載した。
ただ印刷するだけなら、デジカメとプリンタを直結した方が早いのでは、という意見はあろう。だが写真のライブラリ化といった作業を行なうのであれば、なんらかのストレージに一時的にせよ写真を集める必要がある。そういうところをうまく突いた機能である。 印刷したい場合は、プリントしたい写真をいくつか選んで「決定」ボタンを押すと、そこから印刷することができる。USBで本体とピクトブリッジ対応プリンタを接続しておき、「プリント」を選択すると、プリンタを認識したのち印刷設定ができる。ただ用紙の品質設定ができないなど、実際にできることは、パソコンに載るプリンタドライバと比べれば自由度は低い。
これも一つのノンPCで実現できる成果として評価すべきだろう。
■総論 実を言えば、実機を触ってみるまでは、今どきデジタル放送非対応のレコーダってどうよ的な感想を持っていたのだが、このレコーダを必要とするユーザー層を想定していくと、これはこれでかなり便利なマシンである。例えばDVDメディアフル対応といった機能にしても、過去レコーダをいろいろ見てきた側からしてみれば、なぜこのクラスのマシンでここまでの機能が必要か、と思われる部分なわけだ。 しかしターゲットがレイトマジョリティ層だからこそ、いろんな仕組みや発展の経緯を知らなくても全部受け止められる機能は必要なのだろう。すべての機能はおそらく使わないかもしれない。だがいざとなったらできるようになっている、というゼイタクさこそ、実はこのマシンの真骨頂なのではないか。 HDD増設機能やDL書き込み対応などは、もちろんデジタル放送対応モデルでも必要とされる機能だろう。だがコピーワンス見直し議論が進む中、そして次世代DVDもスタートラインが見え始めている中、各メーカーともなかなか今このタイミングでコピーワンスモデルを大々的にリリースするのは、難しい判断だ。 そういう意味では、レイトマジョリティ層に向けて製品を作っていくというのは、繋ぎとして悪くない戦略である。いくらデジタル放送受信可能世帯が6割を超えても、実際に受信している世帯数はもしかしたら5割を超えてないのでは? という気もするわけで、サイマルが終了する2011年まで、このターゲットは案外カタいところなのかもしれない。
□パイオニアのホームページ (2006年4月5日)
[Reported by 小寺信良]
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