■ 取り外せないメリット 先日DVカメラを持って子供と遊びに出かけたのだが、撮ろうと思ったらテープが入っていないんである。ていうか本人、入れた覚えないもの。幸いにもメモリーカードは入れっぱなしであったため、この瞬間からビデオカメラはデカいだけのデジカメと化してしまった。この点において、HDDに映像を撮るというビデオカメラは、言うなればメディアとカメラが一体になっているわけで、とりあえず充電だけできてれば撮るときになんの準備もいらないというメリットはあるなぁと、改めて発見した。 そんなHDDビデオカメラの草分け的存在が、ビクターのEverioシリーズである。小型ながら長時間撮影、さらには3CCDモデル投入と、いろんな試みを行なってきたシリーズであるが、この春モデルではワイド液晶を装備して、HDD 30GBの「GZ-MG77」、20GBの「GZ-MG67」という2ラインナップで攻める。 両ラインナップの違いはHDD容量とボディーカラーのみ。今回は3色のポップなカラーバリエーションを展開する、「GZ-MG67」(以下MG-67)のほうをお借りしている。価格は店頭予想価格では13万円前後となっているが、今のところ実売は12万円弱程度になっているようだ。 また今回のモデルでは、同時発売されたDVDライター「CU-VD10」を使って、PCレスでDVD作成が可能になっているのも大きなポイントだ。さらに日本ビクターのご協力で、商品企画の都築 邦雄氏、エンジニアの神宮司 秀樹氏からもヒアリングを行なうことができたので、その情報も記事中で紹介していこう。
■ DVビデオカメラをリプレース Everioの製品の流れには、大きく2つある。一つは初代からMC500に至る「MCシリーズ」と、昨年夏から展開が始まった「MGシリーズ」だ。「MCシリーズは、今までのビデオカメラでは面倒だとか持ち歩きに不便だとか言われてきた部分を、自由な発想で払拭していこうという商品で、デザインの検討段階から自由にやっています。一方MGシリーズは、従来のビデオカメラの進化型はどうなのかという流れで、DVカメラからのリプレースというのがコンセプトになっています。そういう意味では、スタート地点が違うわけです」(都築氏) たしかにMGシリーズのほうは、液晶モニタの配置などを含め、従来型ビデオカメラのデザインを踏襲した、オーソドックスなスタイルとなっている。まずは光学系から見ていこう。
レンズはF1.2を誇る、光学10倍ズームレンズ。前回は最高機種のMG70以外ではF1.2を実現していたが、今回発売の2モデルはどちらもF1.2である。 画角は動画で45.7mm~457mm、静止画で35.8mm~358mm(いずれも35mm換算)。なお本機は電子式手ブレ補正を備えているが、ON/OFFで画角は変わらない。
CCDは1/3.9型218万画素で、最大2Mピクセルの静止画撮影が可能。液晶モニタは今回から2.7型ワイドのものを搭載しており、画素数は11.2万画素。昨今のワイド液晶は12万画素クラスのものが使用されており、そのレベルからすると画素数は若干粗い。
液晶の横には、メニュー操作用のジョイスティックがある。画面に対して常に同方向で操作できるコントローラは、なかなかいいアイデアだ。ジョイスティック下のボタンは、電源OFF時でもバッテリの残量が確認できる。また電源ON時ではHDDの残容量も表示する。 液晶格納部には、動画/静止画モード切替スイッチ、AUTO、メニューといったボタン類が並ぶ。S端子もここだ。電源スイッチは上部で、スライドスイッチになっている。
背面は非常にシンプルで、パッと見るとバッテリと録画ボタンがあるのみ。アナログAVとUSB端子は、樹脂製カバーで隠れている。DC端子は側面だ。ズームレバーは厚みがないがやや高さがあるタイプで、操作感は悪くない。 SDカードスロットは底部にあるが、もともと動画も静止画もHDDに撮れるので、無理に使う必要はない。動画の圧縮率は4段階で、最高画質で約4時間50分、最低なら約25時間の撮影が可能。
別売の専用DVDライター「CU-VD10」も見てみよう。外付けDVDドライブとしては平均的なサイズだが、本体だけで1.4kgと、見た目より重い。
というのも、搭載ドライブはいわゆるPC用のものではなく、同社DVDレコーダで採用している、静音性に優れたタイプを使っているという。おそらく共振を押さえるためのフレームやシャーシが重いのではないかと推測する。
書き込み可能メディアはDVD-R/RWのみ。天板には樹脂製の台座が付けられており、Everioを乗せておいても滑り落ちないようになっている。Everioとの接続は、ドライブ付属のUSBケーブルを使用する。
■ 緑が気になるAUTO撮影 では動画撮影から見ていこう。本機にはAUTOとMANUALの2モードがある。前モデルのMG70では、この切り替えが十字キーの右側にセットされており、変更するのが面倒だったが、今回は独立したボタンが付けられている。ただしボタン1プッシュですぐ変わるわけではなく、1プッシュ目では現在のモードを表示、その表示が出ている間にもう一度押すと切り替わるという、若干変則的な方法となっている。 知らない間に切り替わっているという状態を避けるために、このような操作感になっていると言うが、他社製カメラでは画面表示を工夫するなどしてわかりやすくすることで、ボタン1プッシュで変わるようになっている。
今回は、AUTOモードとMANUALモードで調整した結果を比較してみた。なお、サンプルとして、動画から切り出した静止画を掲載している。サンプルをご覧になってお分かりかと思うが、AUTOモードでは緑が強く、また若干明るめにバランスを取るため、色味が浅い。
今回の撮影は15時半~16時半ごろがメインなので、色のトーンとしては暖色であるMANUALの色味が現場に近い。ホワイトバランスは「はれ」に固定し、AEシフトは-3程度に絞ったぐらいが丁度いいようだ。だがいくらMANUALで調整すればなんとかなるとはいえ、AUTOの絵に魅力がないという点はイタイ。
またMANUALモードも、せっかく解放F値が1.2というレンズを搭載しながら、アイリスの調整ができない。つまり絞り優先モードがないのである。なるべく解放で使いたいと思ったら、よくわかんないなりにシャッタースピードを速くして、シャッターを開かせて撮るしかないというのでは、勿体ない。 ただスミアに関しては、これだけ明るいレンズを搭載しながらよく押さえられている。撮影日は晴天で、光の反射もかなり強いのだが、CCDでありながらここまで押さえているのはすごい。 以前からもその傾向があったのだが、フォーカスに関してはやや難がある。今回液晶モニタが16:9になったことで、ワイドでのビデオ撮影が多くなると思われるわけだが、ワイドの画角を生かして構図を作ると、若干センターから外した位置にメインの被写体を持ってくることになる。
ところがそうなると、大抵はフォーカスが中抜けしてしまうのである。動画の場合、静止画の置きピンのようなことができないので、いったんセンターに構えてAFで合わせたのち、AFをマニュアルに切り替えて動かないようにしておき、改めて構図を作り直す、という段取りになる。このあたりも、せめて左右どちらかのスポット測距が使えるといいだろう。 またテレ端でAFが取り切れないときは、自動でフォーカスが合うところまでズームバックするのは、ユニークな試みだ。だがいろんなものがオート化される中、唯一撮影者に許された自由度が、ズームによる画角調整である。 それさえも奪われてしまうというのは、果たして親切と言えるのだろうか。使っていて、「ダメだろそんなに寄っちゃオラオラもっと引くんだよしょうがねえなぁ」とカメラに言われているようで、自分の感性を冒涜されたような気分になる。
同じ親切ならば、自動でテレマクロモードに切り替わるとかしてくれればいいのに、と思う。このテレマクロの切り替えはメニューのトップではなく、「カメラ設定」の奥という、一段奥まったところになるので、設定の変更が面倒なのだ。
■ もう少しシャッキリ感が欲しい静止画 次に静止画撮影を試してみよう。動画では4:3と16:9の画角が使い分けできるのだが、静止画では4:3のみ対応している。動画との切り替えは1秒強で、それほどストレスはない仕上がりになっている。動画と静止画は、別アルゴリズムで処理するという高画質化エンジンの「メガブリッド」は前回に引き続きの採用。動画よりもAUTOの緑臭さは軽減されているものの、若干飛び気味になるクセがある。やはりマニュアルでの撮影は必須だ。
それにしても動画との画角差がものすごく大きいので、せっかく動画でアングルを決めても、静止画ではもう一度決め直しになってしまう。スナップ撮影程度であれば、それほど問題ないのかもしれないが、きちんと構図を作って撮るような使い方では、ちょっと面倒だ。 背景のボケ味も悪くないのだが、いかんせん静止画モードでも絞りのコントロールができないので、シャッタースピードを使って成り行きで開けることになるのは辛いところだ。
またコントラストが平坦な部分は若干ノイジーで、「デジカメは持って行かなくてもいいネ」というところまでは安心できない。正直なアルゴリズムなのかもしれないが、もう少しNRをかけてもいいだろう。今回はすべてファイン(最高画質)で撮影しているが、HDD搭載ということを考えれば、もう少しJPEGの圧縮率を低くチューニングしてもいいのではないかと思う。
■ DVD書き込みはバックアップ? さて、ここまでは撮影機能を見てきたわけだが、MG67の場合は、PCレスでDVDが作成できるというところもポイントだ。DVDドライブ側にはほとんど機能らしい機能はなく、いわゆる素のドライブと同等である。そしてカメラ側にUSBホストコントローラからオーサリング機能まで、普通ならPCを使わなければできない機能を丸ごと搭載しているというのは、実は大変なことなのである。まず動画のブラウジングだが、これまでどおりサムネイルと日付別で見られる機能に加えて、「イベント検索」という機能が使えるようになった。これは、撮影前にあらかじめイベントの種類をアイコンで選んでおくと、そのイベントごとに撮影クリップをまとめることができるという機能である。
例えば子供が2人いる筆者の場合は、上の子供の行事には「子供1」、下の子供の行事には「子供2」と割り付けておけば、DVDにバックアップするときに、これらのクリップを分けて保存することができる。もちろんこのイベントは撮影後も付け替えできるので、撮ったあとで分けることもできる。
ではDVDライターを使って、保存を試してみよう。USBケーブルでMG67とDVDライターを接続すると、カメラ側では自動的にDVD作成メニューが出てくる。保存パターンとしては、クリップ全部、イベント別、日付別、プレイリスト別、作成履歴別、となっている。用途に応じていろいろできるようだ。
ただし本体では、プレイリストを作成しても、カット個別の使いどころを指定するような、「編集」ができるわけではない。撮ったクリップをまるごと使うか使わないかと、順番が入れ替えられる程度である。 そういう意味では、DVDという形で完成品が作れるということではなく、あくまでもDVDを使ったバックアップという意味合いが強い機能であろう。もっとも最近はDRMなしのDVDコンテンツを編集できるソフトは廉価で沢山あるので、DVD-Video形式のバックアップであると考えても、問題はないとも言える。 作成後は、そのままの状態で再生確認もできる。ということは、カメラ本体にDVDプレーヤーまで入れてしまっていることなので、いやこれは大変な話だ。
できあがったDVD-Videoは、挿入するとすぐに最初のクリップから再生が始まるようオーサリングされている。メニューも簡易ながら作られているが、クリップごとのサブメニューはない。 右の例ではメニューにサムネイルが3つあるが、これは途中で1カットだけエコノミーモードで撮影したため、これだけ画像サイズが違っているからである。もしこれがなければ、サムネイルは1つだっただろう。
■ 総論 これまでのHDD型ビデオカメラの足枷は、必ずPCに接続して内容を吸い出さなければならないということだった。だがビクターは、カメラとDVDドライブを直結させることで、その問題をクリアした。ビクターの調査によれば、都心部でウケた前モデルとは対照的に、今回のラインナップでは、DVDライターとセットで購入される割合が地方部で高いという。都心部と地方のユーザーのPCリテラシーにそれほど大きな差があるとは思えないが、やはりパソコンで何かわからないときに、周りに詳しい人がいてすぐ聞けるという環境の有無には、差があるだろう。 誰でも直結でDVDが作れるという安心感が、これまでHDDビデオカメラの利便性は認めながらも躊躇していた層を後押しした恰好となっている。今回のMGシリーズの価値は、やはりここまで含めたトータルソリューションで評価しなければならないだろう。 またこれとは逆に、PCに詳しいユーザーがツールとして使うMPEGムービーカメラ、という線も有り得る話だ。だがそういった使い方をするときに、MPEGファイル名が16進数の連番というのは使いづらい。また16:9で撮影しても、MPEGヘッダ情報が4:3のままというのは、プレーンなMPEGファイルをPC上でバリバリ扱っていくユーザーにとっては、不便である。 ビデオカメラとしての機能は、多くの課題を残している。特にAUTOモードは、そのメーカーが目指す標準の絵作りとして評価される部分であり、ここの絵の魅力のなさが気になるところだ。 ビデオカメラは、記録媒体の新しいフェーズを迎えて、革新性を求められる時代になった。だがそれと同時に新しいジャンルで「マス」を取らなければならないという命題も抱えており、各メーカーはそのバランスの狭間で悩み多きことだろう。 今のところビクターは、その「マス」を取りに行っているような印象を受ける。もちろんメーカーとして売れるのは重要なことだが、カメラそのものの革新性で世間をあっと言わせるような製品も期待したいところだ。
□ビクターのホームページ (2006年3月29日)
[Reported by 小寺信良]
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