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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第253回:ホントにスピーカー全部入り、オールエイ「AL-DP100」
~ バーチャルじゃないサラウンドヘッドホンの実力を試す ~


■「ヘッドホンでサラウンド」の世界

 一昨年あたりから、前面のスピーカーだけでバーチャルサラウンドをやるという技術はブレイクスルーがあったようで、各社からなかなか効果の高いシステムがリリースされるようになった。それはそれで興味深いのだが、個人的な感想としては、バーチャルサラウンドはまだちゃんとサラウンドとして聞こえる人と聞こえない人が存在する、発展途上の技術だと思う。

 基本的にバーチャルサラウンドは脳みそを騙すわけであるが、どうも聴覚として騙されやすい人と、騙されにくい人がいるのではないかという気がする。それは、「そのように聞こえるはずだ」というパラメータを詰めていく作業で解決できるようには思えない。それよりも個人差により、いくつかの違ったアプローチの製品が選べるというほうが、解決策として近道であるという考え方もあっていいはずだ。

 一方ヘッドホンでバーチャルサラウンドをやるという製品は、パイオニアやソニーが健闘しており、映画が好きなんだけど深夜しか見る時間がないという人に人気が高いようだ。ただこれも、サラウンド効果を感じる人に個人差がある。

 それじゃあバーチャルじゃなくて、ヘッドホン内にホントにそれぞれのチャンネルごとにスピーカーを用意したらどうか、ということはある意味誰でも思いつく発想ではあるが、それを実行した例はあまり多くない。そしてそれをやってしまったのが、オールエイの コラル・フルスペック5.1デジタルサラウンドヘッドホンこと、「AL-DP100」(以下DP100)である。

 価格はオープンプライスだが、店頭予想価格としては16,800円。また同社が楽天に出店しているオンラインショップでは、15,800円となっている。サラウンド対応ヘッドホンとしては、かなり安い部類に入るだろう。

 オーディオ関連製品としてはあまり馴染みのないメーカーの製品だが、サラウンド好き、ヘッドホン好きの筆者としては、ほっとけない製品である。早速試してみた。



■やっぱりこう来たか

 まずは外観から見ていこう。ハウジング部分のデザインは割とそっけない感じで、サイズ的にも一般的なヘッドホンと変わりがない。高級感はあまりなく、もしドルビーデジタル対応というフレコミがなければ、高いと思われるかもしれない。

 このハウジングの内部には、フロント用40mm、リア/センター/サブウーファ用として各30mmのスピーカーが内蔵されている。片側に4つ、両側で8つだ。また低域の迫力を増すため、バイブレーションモータを左右1基ずつ内蔵している。


ハウジング部を含め、あまり高級感のない外観 これだけのハウジングの中にユニットが5つも


 つまりこれだけのハウジングの中に、なんらかのユニットが5つも詰め込んであるわけである。面積から考えると、とても同一平面上に配置できるスペースはないため、内部はユニットが二層なり三層なりに積層されていると思われる。そのためヘッドホン部分は見た目よりも重く、ケーブルを除いたヘッドホン部分だけの実測で、約360gとなっている。

 構造的には平たくしまうこともできるし、丸めるような形でしまうこともできるなど、昨今のヘッドホンなりの機能を備えている。ただこのヘッドホン最大の弱点は、L/Rの表示がどこにもないことである。試聴感はこのあとの項で詳しく述べるが、聴いた感じで判断すると、ケーブルが出ている方が左側のようである。

ハウジングが回転して平たくなる 丸めてしまうことも可能

 ハウジングの構造でもう一つ謎なのが、ヘッドホンに装着できるマイクが付属していることである。いやこれでSkypeとかすればいいじゃないかと思われるかもしれないが、普通マイクがあったらその出力をどこかへ、例えばパソコンのマイク入力端子に接続しなければならない。

 だがヘッドホンにはマイク端子を接続する場所があるものの、その先がどこにもない。つまりマイク端子をヘッドホンに接続しても、全然意味がないのである。それではあまりにもダメすぎると思ったのか、かなり長いマイク端子用の延長ケーブルが付属している。

 つまりハウジング部にマイク端子を挿すのではなく、この延長ケーブルを使って別途パソコンのマイク端子なりに接続せよ、ということらしい。しかしこのヘッドホンで本当にそんなことまでする必要があるのだろうか。もしかしたら他の製品のハウジング部分を使い回して作られているのかもしれない。


マイクも付いているのが謎 ケーブル途中にあるボリュームで、各チャンネルの調整ができる ドルビーデジタルのデコーダが付属


 ヘッドホンのケーブルはかなり長く、4mである。その途中には、各スピーカーごとのボリューム部がある。内訳は、フロント・センター・リア・VIB(サブウーファとバイブレータ)の4つだ。

 本製品のウリは、DVDプレーヤーなどから直接デジタル入力が可能という点である。そのため、別途ドルビーデジタル用のデコーダBOXが付属している。

 サイズとしては120×62×23mmといったところで、デコーダとしてはかなり小型。電源は付属のACアダプタから取るようになっている。

 入力は光と同軸があり、スライドスイッチでどちらかを切り替えられる。2系統繋いで使う方に切り替えるといった使い方もできるだろう。

 ヘッドホンの接続は、S端子を盛大にピン数を増やしたような形状で、2系統装備している。もう一つヘッドホンがあれば2人で使えるようだが、今のところヘッドホンだけの別売はないようだ。

ヘッドホン端子は特殊形状 デジタル入力は2系統。スイッチでどちらかに切り替える ヘッドホン端子も2系統

 また単純なドルビーデコーダとしても使えるようで、ステレオミニジャックの形状をした、個別のアナログ出力端子も備えている。だが今はかなり安価なサラウンドセットも存在するので、今ひとつ使い道がないように思う。

 反対側の側面には、ボタン類が並んでいる。少ないボタンでいろいろできるようにするため、スライドスイッチで機能を切り替えて使用するようになっている。ボタン上の表記では、ボリューム調整とドルビープロロジックのON/OFF、ボタン下の表記では、電源、DRC(ダイナミックレンジ圧縮)、TD(時間遅延調整)となる。

アナログの5.1ch出力も装備 切り替えが煩雑なボタン類

 実際にスピーカーを鳴らすのならともかく、ヘッドホンでDRCはあまり使わないかもしれない。また時間遅延調整は、センターが0~5ms、サラウンドが0~15msの範囲で調整できるが、普通はそうそう変更するものでもないだろう。

 そういう意味では、電源とボリュームを同じスイッチ側にまとめたほうが、使いやすかっただろう。

 その他付属品としては、光と同軸のデジタル接続用ケーブルも付属している点は、なかなか気がきいている。



■ナチュラルな空間定位

 では実際に試聴してみよう。まずヘッドホンで重要なフィット感だが、耳たぶの上からすっぽり被せるタイプではなく、耳たぶごと押さえつけるタイプなので、あまり長時間の使用はキツいだろう。だが締め付けは弱いので、2~3時間ならなんとかいける範囲だ。

 DP100は、入力がデジタル直結で1本で済むので、接続は楽だ。DVDプレーヤーのデジタル出力をデコーダボックスに直結するだけでいい。

 実はこれまでにも複数のスピーカーを搭載し、サラウンドを謳ったヘッドホンがアキバに登場したことがあったが、アナログで6ch分入力しなければならなかったり、USB接続のためPC必須だったりして、なかなか使い勝手がいい製品がなかった。

 DVDプレーヤーのデジタル出力からドルビーデジタル信号が送られてくると、デコーダBOXのドルビーデジタルを示すLEDが点灯する。ただそれ以外の信号が来ると、一瞬盛大なホワイトノイズが発生するので、信号がちゃんと来たのを確認してからヘッドホンを装着したほうがいいだろう。

 まず最初に映画ソースとして、「スコーピオンキング」を試聴してみた。実はずいぶん前に安売り店で購入したものの、ずっと見るのを忘れていた作品である。したがってプライマリな5.1chのシステムでも聴いたことがないソースだ。

 プライマリシステムと比較したことがないせいか、最後まで違和感なく鑑賞することができた。サウンドの広がりという点では、期待以上の効果は得られないが、少なくとも2chで聴くよりはいい感じだ。

 次にサラウンドのチェックとしてよく使っている、「マトリックスリローデッド」を視聴してみた。これは過去、いろんなセットで聴いたことがあるソースである。

 プライマリな5.1chセットで聴いた感じと比較すると、やはり空間的な広がり感は希薄だ。頭外定位という観点からすると、まだ頭内で鳴っている感じの方が強い。むしろ優れたバーチャルサラウンドのヘッドホンの方が、頭外定位という面では優れているだろう。

 デコーダのサラウンドのTDを大きくすると、若干音像空間が広がるような気がする。だが、本当に「気がする」程度であり、効果のほどははっきりしない。また音によっては、位相がずれたフランジングのような感じになるので、それほど積極的に変更する意味はないかもしれない。

 サブウーファと連動するバイブレータは、ある程度までボリュームを上げないと動作しないようだ。デコーダ側のボリュームとヘッドホンケーブル途中にあるボリュームで、うまく動くようなバランスを探していく必要がある。



■音楽的な素養は…

 日本ではあまり流行っている感じはないが、筆者はサラウンド収録されたDVDオーディオソフトが好きで、米国に行くたびにいろんなものを買いあさっている。

 ロックの過去の名作やコンピレーションなど、いろいろなタイトルがサラウンド化されているが、こういうものはHMVやVirgin Mega Storeのような音楽コンテンツ屋にはあまり置かれておらず、むしろ地方の家電量販店のようなところでDVDビデオと一緒に売られているケースが多い。

 特にこの分野で力を入れているのがDTSで、DVDビデオのマンダトリフォーマットから外れた悔しさ、かどうかは知らないが、DTS Entertainmentと題したシリーズに名作が多く、沢山持っているのだが、残念ながらDP100はDTSのデコードをサポートしていないので、聴くことができなかった。

 それ以外のタイトルでは、DVDビデオコンパチでオーサリングされているものがある。これは映像はただの画像だが、オーディオはドルビーデジタルを使って5.1chで作られている。映画のサラウンドと違ってこれらの音楽ソースは、5.1chの状態がわかりやすいのが特徴だ。つまりあからさまにギターやコーラスが背後から鳴るといった、ある意味あざといミックスがなされているのである。

 これらのソースをDP100で試聴してみた。映画のソースではよくわからなかったが、このヘッドホンに音楽的な特性の良さはない。ボーカルが鼻につき、高域の延びが悪いのである。

 よくヨドバシなどで店頭視聴用として並んでいる、AIWAのHP-X122というモデルがあるのをご存じだろうか。量販店で千数百円で買える爆安ヘッドホンだが、音楽的なセンスという意味では、これにも劣る。逆の意味で、このような壊れても惜しくない価格のヘッドホンでさえこれだけの音がするというのが、日本市場の強みでもあるわけだが。

 ただDP100が面白いのは、ケーブル部にあるボリュームを使って、フロント、リア、センターといった各チャンネルのバランスが手軽に変えられることだ。このシーン、リアはどんな音が鳴ってるんだろう、といったことを手軽に調べることができる。そういう意味では、サラウンドミックスの勉強用としての使い方もあるなぁと思う。



■総論

 ヘッドホンでバーチャルサラウンド技術を極めていくという方向性は、時間もコストも、さらに言うならば開発センスも問われる茨の道である。一方ホントに各チャンネルごとにスピーカーを置いていくという方向性は、ある意味イージーではあるのもの、もしかしたら本道であるかもしれない。

 現時点ではどちらの方向性も、可能性として追求していくべきだろう。ただ現状のDP100は、まだサウンドフィールドの表現として内部ユニットの配置や特性など、改善の余地は大いにある。

 もちろんヘッドホンとしての基本性能である、フィット感についてもだ。この部分は上位メーカーが非常にコストをかけて設計・開発している部分なだけに、なかなか一朝一夕に追いつける部分ではないだろう。

 だが、この価格でとりあえずサラウンド環境がすぐに実現できるというところでは、意義がある。接続もデジタルケーブル一本だし、変な状態でプライマリスピーカーを配置しているぐらいなら、DP100のほうがよっぽど素直なサラウンドが実現できるだろう。

 正直言って、大手国産メーカーのバーチャルサラウンド製品に匹敵するまでには至っていないが、まだまだ伸びしろが期待できる製品ではないかと思う。今後も改良を加えて、より良い製品で我々を驚かせてくれることを期待したい。

□オールエイのホームページ
http://www.alla.co.jp
□製品情報
http://www.alla.co.jp/product01_005.html
□Dolby Laboratoriesのホームページ(英語)
http://www.dolby.com/
□関連記事
【3月29日】オールエイ、8基のユニットを備えた5.1chヘッドフォン
-“5.1chフルデコード”としてドルビーが正式認証
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060329/alla.htm

(2006年4月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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