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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第255回:NAB2006レポート その2
~ HD次世代へ転身するための改革 ~



■ 奥までぎっちりのNAB2006

 今年のNABショーは、どうも発表されている以上に出展者数が多いのか、それとも1つ1つのブースが大きいのか、いつもはあまり使われることのないサウスホールの奥の奥までギッシリブースが設えられている。

 出展が増えるといういことは、それだけベンチャーが増えると言うことでもある。今年の傾向を見る限り、どうもIPTV、つまりインターネットによる動画配信ビジネスのベンチャーが大量にあるという印象を受けた。もっともこれらのベンチャーがすべてモノになるというわけでもなく、多くは大手企業に売却されたりお互い合併したりして、大手数社にまとまっていくことだろう。

 先週に引き続き、今回のElectric Zooma!はNABレポートの2回目をお送りする。



■ P2のセカンドステージへ向かうパナソニック


セントラルホールの定位置に陣取るパナソニックブース

 ソニーと並んで日本が誇る巨大放送機器メーカーに成長したパナソニック。昨年NABでは遂にP2のHDカメラ「HVX200」を発表し、HDの撮影コストを大幅に下げたことが記憶に新しい。

 そんなP2が、いよいよ次のフェーズへ突入する。参考出品された「AJ-HPC2000」は、HD撮影可能なP2カメラの大型モデル。2/3インチプログレッシブCCD採用し、P2カードが5枚装着できるなど、放送用として本格的なスペックを備える。以前からコンセプトモデルは展示されていたが、今回、型番なども決まり、正式に発表された格好だ。発売時期は2007年1月で、予価27,000ドル。

 これまでP2ラインナップでは、HDのコーデックとしてDVCPRO HDを採用してきた。だがテープを使わずファイルに記録するP2においては、元来テープ用のコーデックであるDVCPRO HDを使い続けるメリットはあまりない。

 もちろんパナソニックでもそのあたりは認識しており、来年発売されるP2シリーズ最大の特徴は、オプションコーデックとしてH.264を採用する。MPEG系コーデックはフレーム間圧縮を行なうため、編集には不利とされてきたが、パナソニックが採用するのはIフレームオンリーのAVC-Iである。もちろんそのためのハードウェアエンコーダチップも、独自開発するという。

 「AJ-HPM100」は、PCレスで現場編集を可能にする、P2用ポータブルレコーダ。大型液晶モニタとジョグシャトルダイヤルを備え、P2カードは6枚装着できる。

 P2はメモリにファイルとして映像を記録するため、ノンリニアシステムと親和性が高いことで新しいワークフローを構築するシステムなわけだが、過酷な条件の撮影現場でコンシューマ用途のパソコンを使用するのは、プロとしてはなかなか抵抗がある。

 また、ワールドワイドの視点で見れば、放送関係者が必ずしもPCのリテラシーが高いわけではないという事情は当然あるだろう。そのためにこのような専用機もまた、必要とされるわけである。発売時期は今年11月で、価格は予価12,000ドル。もちろんこのマシンもオプションでAVC-I/H.264に対応する。

P2の本格的HDカメラ「AJ-HPC2000」 P2のフィールドレコーダ「AJ-HPM100」

新たにMacにも対応したP2カードドライブ「AJ-PCD20」

 「AJ-PCD20」は、USB 2.0に加えて新たにIEEE 1394b接続にも対応した、P2カードドライブ。また今回Macとの接続も可能となった。P2の編集ソリューションとしては、2004年にAppleのFinal Cut ProがDVCPRO HDコーデックにいち早くネイティブ対応していたわけだが、今後P2カードドライブが直接繋がるようになる意義は大きい。今年7月発売で、予価1,980ドル。

 ちなみに今回Appleは、Final Cut Pro 5.1でソニーXDCAMへも対応することを発表した。プロ業界ではMacのシェアが年々拡大しているが、Intelプロセッサを搭載した強力なハイエンドノートの市場投入もあり、今後はさらにそれが加速するかもしれない。


■ Matrox、Mac用ビデオ出力デバイスを発表

いわゆる業務用クラスの製品で人気が高いMatroxブース

 Premiereを使った編集システムで知られるMatroxは、Mac専用のビデオ出力デバイス「MXO」を発表した。

 MacのDVI端子に接続して、HD/SD SDI、HD/SDアナログコンポーネント出力を可能にするボックスだが、Macとビデオのガンマや色空間の違いを補正し、放送品質のビデオ信号として適正な出力が可能になる。またHD/SD SDI出力では、最大8chまでのエンベッデッドオーディオにも対応する。

 多くのノンリニア編集ソフトが抱える共通の問題として、編集・合成のリアルタイムプレビューは可能だが、実際に完成作品をファイルとして作成するためには、時間をかけてレンダリングする必要がある。つまりディスプレイ表示だけなら、CPUやGPUの力を借りてメモリ上に展開するためリアルタイムで可能なのだが、ファイルを作るとなると別問題なのである。この時間的ロスが、プロのノンリニア編集のネックとなっていた。

 「MXO」は、MacのセカンダリDVI端子から出力されるプレビューのリアルタイム表示を捕まえて放送品質に耐えうる信号を作ってくれるため、これを何らかのレコーダやビデオサーバのI/Oを使って、リアルタイムで録画してしまえばいいということになる。

 またプレビュー用のDVI出力に対しても、ガンマや色空間の変換を行なってくれるため、わざわざ放送用のビデオモニタを用意しなくても、安価なPC用モニタをこれの代用として使うことも可能になっている。今年6月発売予定で、予価995ドル。

 「RT.X2」は、Windows PC用カードとI/Oブレイクアウトボックスから構成される製品で、Adobe Premiere Pro 2.0を使ったHDV/DVのリアルタイム編集環境を提供する。専用カードにアクセラレーション機能はないが、CPUとGPUの処理を最適化することで、ソフトウェアのみでは難しいHD解像度のリアルタイムプレビューや、SDダウンコンバート出力が可能になる。

 今年5月末の発売で、予価1,995ドル。両製品とも、日本ではMatroxの正規代理店である、日立ハイテクソリューションズの扱いとなる。

MacのDVI出力をビデオ出力に変換する「MXO」 Premiere Pro 2.0ベースのリアルタイム編集システム「RT.X2」



■ 形が見えてきたH.264リアルタイムエンコーダ

 次世代DVDやIPTVで何かと話題のH.264だが、エンコード速度が遅いことがコンテンツ制作の足枷になることから、リアルタイムエンコーダの登場が望まれている。今回のNABでは、いくつかリアルタイムエンコーダを見つけることができた。

1Uサイズのリアルタイムエンコーダ「ViBE MPEG-4 HD Encorder」

 THOMSON/GrassValleyの「ViBE MPEG-4 HD Encorder」は、1UサイズのH.264リアルタイムエンコーダ。現在はDSPベースで動作しているが、GrassValleyでは対応コーデックを大幅に増やした、包括的な機能を持つリアルタイムエンコーダチップをこの年末に向けて開発中であるという。

 このチップが完成した暁には、現在の「ViBE MPEG-4 HD Encorder」ユーザーにはこのチップへの無償アップグレードが予定されている。またこのチップは将来的にビデオカメラやビデオサーバーなどを含め、THOMSON/GrassValley製品に搭載されていくという。「ViBE MPEG-4 HD Encorder」はすでに発売されており、価格は日本円で約1,000万円程度。

INLETの「Fathom」設定画面

 INLETの「Fathom (ファソン)」は、PCIのカード型のVC-1対応リアルタイムエンコーダ。1枚のカードに8つのDSPチップが搭載されており、これを2枚挿すことで1080iのリアルタイムエンコードを可能にしている。ソフトウェアで制御するため、柔軟な運用が可能であるという。

 カード自体は全長の64bit Busカードなので、使用PCは必然的にサーバー筐体クラスになるだろう。機能によって3段階の製品があり、ミドルレンジの製品では、ファイル入力に加えてHD/SD SDIからの入力が可能。エンベッデッドオーディオは8chまで対応する。

 VTRの制御も可能で、タイムコードを指定して自動バッチキャプチャを行なってエンコードすることもできる。今回は新たにWatch Folder機能を追加して、ファイルができあがったら自動的にエンコードする。まだエンコードプロファイルは1つしか指定できないが、将来的にはファイル名内の指定文字列を検知して複数のプロファイルを使い分けるといった機能も搭載するという。

 現在はVC-1のみの対応だが、H.264への対応も検討している。価格は税抜きで約270万円から。SD限定バージョンもリリース予定で、こちらは約180万円から。日本では株式会社EVCが取り扱う。

 もう一つEVCが扱うエンコーダに、Optibase製の製品がある。Optibeseは過去にノンリニア編集システム「Media100」を買収したイスラエルの会社だが、現在Media100は映像用プラグインメーカーのBorisに売却されている。

 「MGW-5100」は、SDサイズの映像を最大24ch同時エンコード可能な、H.264対応エンコーダ。今年秋ぐらいを目処に、HD入力に対応したリアルタイムエンコーダを開発予定。

 最高圧縮で4Mbps程度からとなる予定だが、ターゲットゾーンとしては、6~10Mbpsあたりがメインとしている。ブースでは、すでに試作機による9Mbpsのリアルタイムエンコードのデモを行なっていた。

 Digital Rapidsの「StreamZ HD」はソフトウェアベースのHD対応エンコーダ。ターゲットは放送ではなく、IPベースのストリーミング産業を目指して開発しているのがユニークだ。

 製品形態としては、キャプチャカードとソフトウェアエンコーダのセットとなる。AMD Opteron252のDual CPUマシンを使えば、HDの入力映像を720p/30fpsのVC-1にリアルタイムエンコードできるという。またサードパーティ製のメディアアクセラレータ、例えばAspexの「Accelera HD」やTarariの「Tarari Encoder Accelerator」などを使ってCPUの負荷を下げることができるなど、ソフトウェアならではの柔軟な運用が可能だ。

 対応コーデックの種類も多く、H.264やDivXにも対応している。また今後はJPEG2000や3GPPへの対応も予定している。日本での扱いは、日本デジタル・プロセシング・システムズ(DPSJ)。

Optibaseのマルチチャンネルエンコーダ「MGW-5100」 ソフトウェアベースのエンコーダ「StreamZ HD」



■ SRS、マルチチャンネル収録用エンコーダBOXを出展

ノースホールの奥にあるSRSのブース

 現在5.1ch収録に対応できるだけのトラックを持ったHD対応カムコーダがなく、ハイビジョンのサラウンド放送が増えない要因の1つとなっている。

 SRS CircleSurroundは、アナログ2chオーディオにマルチチャンネルをエンコードできる技術として、すでに日本でもFM東京が放送を行なうなど、放送業界でも次第に使われはじめている技術。CircleSurround最大の特徴は、2chのままで聞いてもちゃんとステレオ素材として使え、デコーダを通せばマルチチャンネルにデコードできるという運用の柔軟性だ。

 「SCS-06E」は、SRS CircleSurroundエンコーダ内蔵の、コンパクトなマイクアンプユニット。外部12V電源で駆動するため、カメラ用バッテリなどで使用できる。

 マイクは専用マルチコネクタで入力し、エンコードしたあとは2chのアナログ出力となる。この出力をカムコーダで記録しておけば、サラウンド収録が可能になる。現場でのモニタリングは、各チャンネルを切り替えで聴けるほか、SRS Headphone PROという新技術を搭載。バーチャルサラウンドながらも、かなり正確なサラウンドモニタリングが可能になっている。

 CircleSurroundエンコード音声は、2chのままで編集することができる。MA時にデコーダに通せば、サラウンドソースに復元できるわけだ。

 SCS-06Eを実際に開発したのは、埼玉県入間市にある株式会社フォービットという会社だ。日本では今年5月末日から発売開始で、価格は税込み28万3,000円。

 すでに複数の放送局などに導入が決まっており、今後サラウンド放送の陰の立役者として活躍しそうだ。

SRS CircleSurroundエンコーダ内蔵のマイクアンプ「SCS-06E」 ヘッドホンで多彩なモニタリングが可能



■ 【おまけ】Apmex、往年の2インチVTRを展示

往年の名機「VR-2000B」が復活

 テープストレージの会社として再スタートしたAmpexだが、元々はVTRを初めて実用化した米国のメーカー。アナログ時代には2インチVTR、1インチVTRを始め、スイッチャー、ADO(ビデオエフェクタ)で時代を席巻したが、デジタル化の波に乗りきれず一時業界から撤退していた。

 NAB2006のAmpexブースでは最新データストレージの他に、およそ30年前の2インチVTR「VR-2000B」の実働モデルを展示、ベテランTVマンの人気を集めていた。さすがに、ここまで古い実機の実働モデルを見るのは初めてだ。

 Ampexの2インチVTRは、エアでテープをガイドに吸い付けて固定走行させ、そこをビデオヘッドがすれすれに回転するという、ヘッドドラム非接触型の構造を持っている。そのため映像を再生するためには、エアコンプレッサが必須となる。会場では天井からバキュームのチューブを這わせ、地味ながら結構な手間がかかっている展示である。

集まってくるベテランもなんだかうれしそうだ 天井からはエアバキュームのチューブが延々伸びている


□NAB 2006のホームページ
http://www.nabshow.com/
□関連記事
【4月26日】【EZ】NAB2006レポート
~ HD当たり前の時代へ向けての猛ダッシュ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060426/zooma254.htm
【2005年4月27日】【EZ】NAB2005レポート 後編
~ HDが作る新たな潮流 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050427/zooma203.htm
【2005年4月20日】【EZ】NAB2005レポート
~ ようやく走り出したHDソリューション ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050420/zooma202.htm

(2006年5月1日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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