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UFO? イカの頭? 未知のスピーカー襲来
振動型スピーカーのニューフェイス
フォステクス「エア(eA)」
6月23日発売
標準価格:オープンプライス
店頭予想価格:16,000円前後



■ 謎のスピーカー登場

iPodとの連携も想定しており、カラーリングはクール・ホワイトとウォーム・シルバーの2色を用意している

 一風変わったジャンルのスピーカーとして、時折新製品が登場するのが「振動型スピーカー」。簡単に言うとスピーカーユニットのドライブ用磁気回路だけを抜き出したような物で、くっつけた物を振動させ、机や床や壁など、なんでもスピーカーにしてしまおうという製品だ。

 そんなジャンルに、スピーカーユニットメーカーとして知られるフォステクスが、「エア(GY-1)」という新モデルを投入した。独特の丸みを帯びたフォルムと、青白く光る下部が印象的。一見するとUFOか、イカの頭に見える。非常にオシャレなスピーカーだ。

 フォステクスというブランドは、ユニットやモニタースピーカーなどの印象が強く、自作スピーカーマニアには馴染み深いが、コンシューマ向け完成品スピーカーのイメージは薄いだろう。今回のエアは、よりカジュアルなユーザーを狙った同社のチャレンジ製品だ。

 iPodなどのポータブルオーディオプレーヤーを活用している、比較的ライトなユーザーにも「音を気軽にインテリアに融け込む形で楽しんで欲しい」という提案だという。

エアの再生イメージ

 独特の形状もさることながら、注目されるのは、接地面のテーブルなどをスピーカーにしてしまう原理。エアでは、「超磁歪素子」と呼ばれる素材を採用しており、ボイスコイルが動き振動板を振幅させる従来のスピーカーとは異なり、エアではこの超磁歪素子自体が収縮する。この動きを下部の接地面からテーブルなどに伝え、音声信号の帯域だけを活かして、接地面をスピーカーにするという。

 とはいえ、どのような音がするのかはあまりイメージできない。また、テーブルなど設置場所の素材やサイズの違いにより、音質も変化するという。同社によれば「スピーカーなどと同じ木材のほうがいい音が鳴る、特にピアノやギターなどの楽器の上が良い」とのこと。どんな音がするのか気になる。


■ 外観からは想像できない重さ

 ケースから取り出して、何よりも驚くのが重さだ。外形寸法は99×90mm(直径×高さ)と、手のひらに乗る程度だが、重量は約2kgとかなり重い。外観が丸っこいので軽いイメージを受けるが、姿から連想するよりも遥かに重い。何も知らない人に「はい」と手渡したら、かなりの確率で支えきれずに落としてしまうことだろう。

 オーディオ機器では昔から、重量信仰というか、「重い事は良い事だ」という考えがある。アンプでもスピーカーでも、重いほうが余計な振動が音に悪影響を及ぼさず、高品位な再生ができるためだ。そのままの理論がエアに通じるかはわからないが、重量と筐体の作りの良さから、なんとも言えない高級感がある。16,000円という価格相応の高い質感だ。

 底面を見ると、振動させるための丸い金属プレートが見える。ちょうど中央に配置しており、内部の「超磁歪素子」の動きを机などの設置面に伝える役目をしている。そして、振動した床から音が発せられるという仕組みだ。そのため、持ち上げた状態では、音はまったく出ない。

利き手(右手)で持っていても、重さでプルプルと震えてくる 底面に振動体を装備。設置面には透明な保護シールが付いており、設置したものに傷をつけない配慮がなされている

 入力端子は側面下部にあり、独自の端子を採用している。同端子に接続する専用ユニットを同梱しており、そのユニットにACアダプタや音声入力を接続する。ユニットには電源ボタンやボリューム調整も備わっており、接続兼コントロールユニットとなっている。

入力端子と電源入力、音量調整機能を備えたコントロールユニット。入力端子はステレオミニの1系統のみ

コントロールユニットと本体は専用ケーブルで接続する コントロールユニットとACアダプタが同梱


■ 確かな低音再生能力と不思議な音場

 さっそく音楽を聴いてみよう。エアをポータブルプレーヤーに接続。とりあえず手近なパソコン用の木製机(厚さ10cm程度)に置いてみると、すぐさま音が出た。24.1インチのディスプレイやキーボード、マウスなどが置かれており、手狭なスペースだが、ボリュームを上げると必要十分な音量が得られる。音量はプレーヤー側の音量を控えめに、エア側のアンプをメインに調整すると、音割れが少ない。

最大出力は5W

 アコースティックベースが豊富なJAZZを再生。一聴してわかるのは、低音が良く出ていることだ。何でもスピーカーにしてしまう製品としては、三栄ハウスのセラミックス スピーカー「CEMI」を思い出すが、CEMIよりも明らかに低音が下まで伸びている。恐らく、設置面(机)に貼り付けるタイプのCEMIと異なり、エアは重量で“押し付け”ているため、低い周波数の振動も確実に伝わっているのだろう。反面、高い音は比較的伝播しやすいため、エアほどの重量がなくても再生できそうだ。

 ボーカルもそれなりに聞けるが、音像はぼやける。現代的なJAZZやフュージョンをBGM的に再生する方が似合っているだろう。木の机でテストした限りでは、声の低い男性ボーカルやアコースティックギター/ベースの再生音が生々しくて良い。テストはしていないが、アコースティックギターそのものにエアを押し付けたら、良いギターサウンドが楽しめるかもしれない。

 また、エアは1台であり、振動が発生しているポイントは1つしかないにも関わらず、サラウンド感があるのが面白い。机全体が振動しているので左右のチャンネルセパレーションも何もなく、クロストークは盛大、ステレオフォニック的な立体感はない。しかし、音が点で出ておらず、面として発生しているため、音場の広がりが感じられる。

電源を入れると下部が青く光る。電気を消すと、ムーディーなインテリアとしても使えそうだ

 お店などで、無指向性のスピーカーや天井埋め込み型スピーカーでBGMを再生して「どこから音が鳴っているのかわからない」という場所があるが、エアの場合はある程度特定できる。通常のスピーカーと無指向性スピーカーのちょうど中間的な音の広がりというイメージだ。

 低音が出るため、オモチャ的なイメージは少なく、実用に値する音質。振動型スピーカーとしては間違いなくトップクラスの音質だろう。しかし、オーディオ的に聴いてみるとバランスが良いとは言えない。通常のスピーカーでは、エンクロージャによる響きが倍音成分として音に厚みを持たせてくれるが、エアの机スピーカーでは響きの量が乏しく、中音が弱いのだ。

 そのため、高音と低域の一部だけが元気良く鳴るだけで、音が上と下で分離して聞こえる。超小型スピーカーにサブウーファを追加して、無理やりバランスをとろうとしたような音だ。

 もちろん、この印象は“エアを何の上に設置するか?”によってガラリと変わる。プラスチック製の机ではさらに中音が減退した貧相な音になるが、木のフローリングの床のように面積が大きい場所に設置すれば、低域がグッと厚みを増し、違和感が消えるという具合だ。

 「あそこに置いたらどんな音がするんだろう」とチャレンジしてみることが、この製品の最大の魅力とも言える。さっそく、色々なものに乗せてみた。


■ 色々なものに乗せてみる

編集部:山崎

 注意事項を頭に入れながら、様々なものに乗せてみたが、石やコンクリート、金属面などは振動が伝わらず適さない。最終的にリビングの広めのテーブルに置いたところ、BGMとして理想的な音が得られた。ポータブルプレーヤーと組み合わせれば、小さいけれど音場の広いサウンドシステムが構築できそうだ。客人を招いてさりげなく再生し、「え?、どこから音が鳴ってるの!?」と驚かせるのも面白いだろう。

 ただ、美観を考えると、電源はバッテリー/電池式にして欲しかった。筐体デザインを活かしてオシャレに使いこなそうとすると、ACアダプタやコントロールボックスはやはり邪魔である。

オシャレなリビングをイメージして設置。テーブルの上は広く、何も無いほうが音が良く響く

 一風変わった使い方として、ベッドの頭の上のボード(ヘッドボード)に設置してみた。以前、寝ながら音楽を聴こうと考え、枕の横(シーツの上)に小型スピーカーを設置したことがあるのだが、ふわふわのベッド上ではまともな音が鳴らなかった。そこで、ヘッドボードをエアで振動させ、スピーカーにしてしまおうと考えたのだ。

 結果は大成功。低音もしっかりと再生でき、寝転べば頭上から音が降り注ぐ、理想的なベッドサイド・リスニングが満喫できた。しかし、エアは幅の狭いヘッドボードの上にバランスをとって、かろうじて乗っている状態。もし2kgのエアが落下してきたら……と考えると恐ろしくて眠られなかった。設置の自由度という面では、エアの重量は欠点ともなる。壁や天井、窓などにも貼りつけられるCEMIの方が応用範囲は広いだろう。

ヘッドボードに乗せると、バランスの良い音が楽しめる。ただ、頭に落ちてくる可能性を考えると怖くて常用はできない

 ちなみに、シーツの上に置いても音はまったく出ない。間に何かを挟めば音は出る。DVDのトールケースは音がビビってしまい、イマイチだ。漫画を敷いてみると、思いのほか良く鳴るので驚いた。「手近なものに乗せれば、とりあえずスピーカーになる」という感覚が楽しい。

トールケースを敷くが、エアの自重でたわんでしまい、イマイチ。マンガ本を敷いてみると意外と良く鳴る。机などと比べて振動が少なそうなのに不思議だ

編集部:臼田

 まずは、横120cm、縦70cmの木製(脚は金属製)デスクの上に置いてみた。とりあえず、iPodを接続して何曲か再生。結構低音が出るのだが、中域が弱くボーカルが聞きづらい。奇妙な音場感はあるものの、モノラルだからかもしれないが、ニアフィールドで鳴らすと、単に変わった形のヌケの悪いスピーカーのようになってしまう。

 同じデスクに常備しているロジクール「mm50 Portable Speakers for iPod」と比較すると、やはり音楽的に聞こえるのは、圧倒的にmm50。エアでは帯域バランスの悪さが気になってしまう。バランスの崩れたサウンドの塊のように聞こえてしまい、音楽がうるさく感じてしまう。とにかく近接利用はあまり使い勝手がいいと感じなかった。

小型の折りたたみ机と相性が良い

 今度は、小型の折りたたみ机の上に載せてみると、なかなかいい感じ。低音は控えめながら、中高域がグッと出てきて、ジャズやロックも普通に楽しめる。近い距離で聞くとうるさく感じるが、1m以上離れると、しっくりとBGM的に楽しめるのだ。

 机の上の置き位置によっても、かなり音質は変わる。一番低音が出やすいのがほぼ中心部で、端に行くにつれ、再生周波数的には下が弱くなるが、低域は締まっていくようだ。ただ、振動の影響も受けやすくなるのか、低音がビビって使いづらい。この机の場合は中央がベストと感じる。

 また、床置きしていると、ハウスなどのバスドラの強いサウンドでは、低音が歪んで聞きづらいのだが、机を絨毯の上に乗せると低音のビビりが解消され、ボーカルなどが聞きやすくなる。ただし、中域の音像がボヤけることもあるので、このあたりはソースとのバランスということも重要になる。いずれにしろ制震処理が音を左右するのは間違いないところだ。

 楽器やスピーカーとの相性がよいとのことなので、スピーカー(PMC TB2)の上に置いてみた。まずはセンタースピーカーを床置きしてエア上に置いてみたが、期待していた程良くない。低音がボワボワしており、ボーカルも今一つ。机に置いた時とは異なり、中低域のキレが悪い印象だ。先ほどの机の上にスピーカーを置いて、その上にエアを設置するとかなりまともになったが、それでも低音のビビりが気になるし、低音の締まりがない。

センタースピーカーの上は、期待に反してイマイチだ

 机の印象が良かったのは、上面だけでなく、下面からも音が出ているからかもしれない。これにより、音が自然に広がり、音場感が出る。スピーカーの場合、キャビネット全体を振動させるため、ヌケの悪さに繋がっているように感じた。

 同型のフロントスピーカーの上面にエアを設置して、床置きした方が好印象。低音は再生周波数的には下が出なくなるが、その分、埋もれていた中高域がグッと聞こえてくる。横置き時にはダンゴになっていた、シンバルも前に出てくるなど“音楽的”な印象。十分音楽を楽しめるレベルになった。

 面白かったのは、金属製スタンドに乗せた時だ。振動が減るためか、すっぱり低音が切れてしまい、ボーカルが前にせり出してくる。高域がざらつき、ボーカルものは引っかかるし、ちょっとリヴァーブものってしまうのだが、古い車のカーラジオでFMを聞いているのような不思議な感覚で、なかなか楽しめた。

スピーカースタンドに乗せると低音が綺麗に消える。これはこれで面白い音だ CDラックの段の置き場で音が変わる

 未使用の3段CDラックの上に置いたところ、段の置き場によっても音が変わった。一番上は低音がルーズ。一番下だと音が堅く、ボーカルものだとサ行が気になるほか、指向性が強くなる印象。真ん中の段がベストだが、CDや本をラックに入れると音質は変化するだろう。

 ほぼ無指向性といってよく、どこに置いても聞きやすい。エアを真横約2mぐらいに置いておいても、音楽はリスナーに向かってくる。ただし、完全にスピーカーを意識させないというわけではない。約9畳程度の部屋の場合、大体部屋を9分割したぐらいの感覚でエアの置き場所が特定できるイメージ。それでも、完全無指向性スピーカーとは異なるユニークな聞こえ方だ。


□フォステクスのホームページ
http://www.fostex.jp/
□ニュースリリース
http://www.fostex.jp/INTRO/GY-1/GY-1.html
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【5月22日】フォステクス、“接地面から音を出す”小型スピーカー
-置き場所によって音が変わる「エア」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060522/fostex.htm
【2005年9月21日】A&Vフェスタ2005【シャープ/ヘッドフォン/オーディオ編】
-フルHD液晶TVを6台使った「高臨場空間」など
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050921/avf04.htm

(2006年6月9日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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AV Watch編集部

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