■ 低価格/高機能なクリエイティブの新プレーヤー iPod nanoが衝撃的な低価格で発売されたのは、2005年9月8日。図らずも「ウォークマンA」と同日に発表されたこともあり、ウォークマンAと比較されがちだが、従来HDDモデルが中心だったiPodがフラッシュメモリ製品に本格展開したというインパクトは大きかった。 液晶ディスプレイを備えた本格的なフラッシュプレーヤーというだけでなく、なにより、iPod nanoが注目を集めたのはその価格。4GB 27,800円、2GB 21,800円という水準は当時のフラッシュプレーヤーの相場を大幅に下回る価格設定で、他社は全く追従できずにいた。 その衝撃から、約9カ月経過した現在、フラッシュメモリの価格低下もあり、ようやく他社の1GB、2GB製品でも、iPod nanoと同等、場合によってはiPod nanoより安価な製品も登場しつつある。
そうした中、クリエイティブが投入してきたのが「ZEN V」だ。動画再生対応のZEN V PLUSは近日発売となったが、動画再生機能を省いたZEN Vは1GBモデルで直販価格12,800円、2GBモデルで15,800円と、iPod nano(1GB 17,800円、2GB 21,800円)より5,000~6,000円安価。しかも、音楽再生機能はもとより、有機ELディスプレイ搭載、フォトビューワ、ライン入力録音対応など、機能的にも充実している。 また、後日発売の動画再生対応のZEN V PLUSでは、FMチューナ、動画再生機能などが搭載される(こちらは価格も未定だが)。価格面でも機能面でもiPod nanoの強力なライバルとなりそうだ。 デザイン的にも従来のクリエイティブ製品とはかなり異なっており、同社の戦略商品となるZEN V。現在のところ直販限定モデルとなるが、先週のアクセスランキングでも2位と注目度も高い。今回は2GBモデルを試用してみた。
■ かわいらしい外観。チープさが存在感 同梱品は、CD-ROMやイヤフォン、ライン入力ケーブル、ネックストラップ、キャリングポーチなど。
本体の外形寸法は約43.5×15.9×67.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約43.5gと、写真でみるよりかなり小さい印象。HDD搭載モデルではまず実現できそうもない小ささで、従来のZENシリーズとはちょっと方向性の違うイメージのデザインもかわいらしい。 外装はプラスチックを基調にしたもので、高級感はまったくないが、作りはしっかりしている。おもちゃのようなチープな質感がデザインにマッチしていて、小型ながらしっかりした存在感がある。本体前面には、1.5型128×128ドットの有機ELディスプレイを装備するほか、ディスプレイ下部に5方向のナビゲーションスティック、その右上に再生/停止ボタン、右下に戻るボタンを備えている。一見するとZen Microなどの従来のクリエイティブ製品から大幅な変更に見えるが、5方向のキーに検索系を統合しながら、再生ボタンを右上に独立させ、戻る/オプションボタンの位置は変えていない。Zenシリーズのユーザーにはある程度継続性を持ったインターフェイスとなっている。 向かって右側面にはボリュームボタンと録音ボタン、左側面にはスライド式の電源/ロックスイッチを備えている。上面にはマイクとライン入力、ヘッドフォン出力、USB端子をそれぞれ装備する。下面にはストラップホールを装備しており、ネックストラップをつけて首からつり下げられる。
■ 転送はWMP10などを利用。操作性はシンプル
転送ソフトとしてはWindows Media Player 10、もしくはOutlook連係機能などを備えた「ZEN V メディアエクスプローラ」を利用する。また、MTPデバイスとしてWindowsから転送ソフト無しで認識され、データ転送も可能だが、USBストレージクラスでの転送には非対応。ZEN Vではリムーバブルディスク領域を指定して、その領域のみをUSBストレージクラスのメモリとして活用できるが、そのストレージ領域に楽曲データなどを転送はできない。 対応音楽フォーマットはMP3/WMA/WAVで、WM DRM 10もサポート。今秋頃からのサービス開始が予定されるDRM 10を利用した定額制音楽配信にも対応する。DRM対応も含め、音楽機能を中心的に利用する場合の転送ソフトはWMP10がいいだろう。OutlookのカレンダーやToDo、アドレス帳のデータや、データストレージ機能を活用したい場合は、メディアエクスプローラを使用することになる。WMP10で165MBのMP3楽曲を転送した際には、約2分10秒で転送完了した。
ネックストラップも付属し、首掛け利用も可能となっている。首からかけると最初は若干重さを感じるが、すぐに気にならなくなった。首掛け時には画面が下向きになり、持ち上げて操作する際に正しい向きで利用できるというのはiPod nanoと共通だ。 なお、この表示方向に関しては、ファームウェアのアップデートで画面表示を切り替える機能も追加する予定という。 起動するとメインメニューが現れ、ミュージック/再生リスト/フォト/エクストラ/システムの各項目が選択可能。ミュージックは通常の楽曲検索、再生リストは次に再生予定の楽曲リスト表示するもので、フォトはPCの任意のフォルダ内の写真データを転送し、ZEN V上で表示する機能となっている。
エクストラは、時計機能やボイスレコーダ、ライン録音、予定表/アドレス帳機能、USBストレージ領域の設定などが行なえる。システムは音質や再生モード、写真のスライドショー設定などが可能となる。 まずは、[ミュージック]から楽曲を選択してみる。基本操作はシンプルで、ミュージックモードに入るとプレイリスト/アルバム/アーティスト/アルバム/ジャンル/すべてのトラック/レコーディング/ブックマーク/DJの各検索モードが現れる。ここで5方向キーを使って、検索モードを選択する。 [アルバム]を選択すると、アルバム順に楽曲検索が可能となる。ほかのモードでも基本的にはアルファベット順に並び、日本語ファイルがその後に並ぶという構成だ。あとはアルバムなりアーティストを選択し、そこで再生ボタン、もしくは5方向キーの中央を押し込んで決定すると、[直ちに再生]、[再生リストに登録]という選択項目が現れるので、ここで直ちに再生を選択すれば、選択したアルバムや楽曲の再生が開始される。
新採用の5方向キーは、操作部がかなり小さく、やや慣れが必要かもしれない。ただし、上下でメニュー内の上下移動、左右で階層移動と、操作としては非常にシンプルなので、特にとまどうようなことはないだろう。手の大きい人は操作が難しいかもしれないが、中指と人差し指にZEN Vをのせて、親指で押さえながら操作すると、特に問題なく操作できた。
なお、5方向キー周囲の円形のプラスチック部は、iPodのクリックホイール的に使えそうだが、特に機能するわけではない。検索画面中で戻るボタンを長押しすると、前方一致検索やキーワード検索が可能。右脇に出るアルファベットをキーに検索が行なえる。 再生画面で5方向キーの左右を長押しすると早戻し/送りとなる。また、再生画面中に戻るボタン長押しで、ブックマークやプレイリストに登録する機能を呼び出せる。基本操作はあくまでシンプルだが、複雑な検索にも対応する柔軟性も備えている。特に従来のクリエイティブ製品ユーザーにはなじみ深い検索系だろう。強いて不満を言えば、ワンボタンで再生画面に戻る手段が用意されていないぐらいだろうか。 一方、ZEN Vで魅力的な機能はアルバムアート(ジャケット)の表示機能。WMP10でジャケット登録をしていると、自動的にZEN Vにジャケット写真を転送、再生時にジャケット表示が可能となる。再生中に5方向キーの中央を押し込むとジャケットの拡大も可能だ。 邦楽の場合あまりデータベースが充実していないようだが、WMP10でのジャケット写真取得は比較容易。また、ZEN Vメィアエクスプローラではジャケット写真の設定/転送のほか、変更も可能となっている。ジャケット表示は、ZEN Vの有機ELディスプレイの魅力を引き立てる機能といえそうだ。実際に表示してみると、発色の鮮やかなディスプレイと相まってなかなか好印象。少し、白が濁っている印象もあるが、ディスプレイの鮮やかさならば、iPod nanoを上回っている。
ZEN V本体で作成したリストの再生機能なども搭載。検索中にオプション/戻るボタンを押して、リストに登録するなどで、本体だけでプレイリストを作ることができる。再生モードの[DJ]は、[本日のお勧めアルバム]や、[良く再生するトラック]などのプレイリストを本体で自動作成して再生する機能で、再生機能はかなり充実している。
■ 音質は良好。新カナル型イヤフォンも発売
付属のイヤフォンは柄の部分が長いデザインで、最近のクリエイティブ製品でよく見られる形。バランスはやや低域よりで、厚みのある低音が特徴的。ややブーミーなきらいもあるが、高域までしっかり聞かせ、付属のイヤフォンとしてはまずまずの音質だ。装着感はプレーヤー付属イヤフォンとしては非常によい。 同社の直販限定のカナル型イヤフォン「ZEN Aurva In-Ear Earphones(9,800円)」も使用してみたが、付属のイヤフォンよりぐっとナチュラル。カナル型ということで、低音強調型かと思うと、ニュートラルな音質で、逆に低域が弱く感じるほど。しかし、ケンウッド「KH-C701」と比較すると、中低域に厚みがあり、再生帯域的にはかなり下まで出ていそうだ。遮音性能も高く、装着感もなかなか良い。付属イヤフォンと比べて、ソースを選ばず利用できそうだ。 ただ、9,800円という価格はなんとも微妙だ。良くも悪くもあまり特徴が無いので、決定打にかけるというか、どうしてもZEN Auravaを選ぶ理由というのも無いように思えてしまう。ZENシリーズでの利用を前提に開発しているという強みはあるだろうが、現在のところ直販のみ。店頭での試聴などができずに、1万円近い金額を払うのは躊躇してしまうところ。あと、3,000円足すとZEN V 1GBが買えてしまうので、イヤフォン代を押さえ、用途ごとにプレーヤーを使い分けなど、余計な考えが浮かんでしまう。
イヤフォンをソニー「MDR-EX90SL」などに変更しても、パワフルな再生性能は確認でき、本体の音質面での不満はほとんどない。8モードのイコライザやユーザーEQ機能なども備えている。
音楽機能のほか、フォト再生やライン録音機能、Outlookの連絡先やアドレス帳との同期も可能などを搭載。写真は選択したフォルダ内の画像を転送可能となっており、ZEN Vのディスプレイに最適化したサイズでの転送も行なえる。 ただし、ディスプレイが128×128ドットと1:1のアスペクトのためか、3:2や4:3などの横長アスペクトの画像を適当に横をカットしたり、縦を引き延ばしたりと、正方形の画像として表示してしまうのが悩ましいところだ。 Podcastについては、付属のアプリケーション「ZENCastオーガナイザー」を利用する。TechnologyやEntertainment、Lifestyleなどの項目ごとに登録画面が用意されており、任意のPodcastを選択して登録できる。Podcast番組はほとんど英語圏のもので、各チャンネルに日本向けのコンテンツは用意されていないが、もちろん任意の番組を登録して、自動更新できる。
転送したPodcast番組は、ZEN Vのミュージックモード以下に収録され、アーティスト/アルバム検索時には、番組名順でソートされる。ジャンル検索では[ZENCast]の項目に収録される。iPodのようにPodcast専用の選択項目が用意されていないので、ミュージックモードに入った後、各検索モードに入るなど、余計な手順を踏むことになる。クリエイティブとしてはPodcastをあまり重視していないのかもしれないが、Podcastを活用するユーザーにとってはiPodの方が親切だ。
なお、メディアエクスプローラ/ZENCastで設定した転送ファイルは、同期時にシンクマネージャーを介して、ZEN Vに転送される。それぞれの機能にあわせてZENCastやエクスプローラ、MediaSourceなどの複数のアプリケーションが用意されており、操作性も異なっているため、その関係性を理解するのに苦労する。 機能的には充実しているものの、プラットフォームとしての使い勝手はiTunesのほうがはるかにうまくまとめられている。このあたりの分かりにくさからも、シンプルにオーディオプレーヤーとして活用する場合は、WMP10を利用した方がいいと感じた。
Outlook連係機能など機能面での死角はほとんどないが、ソフトの連携のわかりにくさが敷居の高さを感じさせてしまう。特に写真とPodcastに関してはWMPや、エクスプローラに統合してほしいところだ。このあたりはむしろWindows Media Player 11に期待した方がいいのかもしれないが……。 バッテリの充電は、USB経由で行なう。充電時間は約6時間。別売のACアダプタを利用すれば約3時間で充電できる。音楽再生時の連続駆動時間は約15時間。
■ 使い勝手と低価格を高いバランスで実現 機能面は充実しており、オーディオプレーヤーとしての使い勝手は良好だ。Podcastなどの機能を利用しようとすると、アプリケーションの作りがいまひとつと感じるが、本体の使い勝手と価格という点ではiPod nanoと真っ向勝負できる製品となっている。HDDプレーヤーのユーザーが、スポーツなどのよりカジュアルなシーンで活用するでサブ機として購入するのもいいだろう。 現在のところWeb販売のみで、店頭で比較できないのは残念だが、12,800~15,800円という価格と、機能の充実ぶりは市場にも大きなインパクトをもたらしそうだ。今秋以降にスタートが見込まれるサブスクリプション型の音楽配信など、iPodが対応できない機能を盛り込んでいるあたりも、将来への期待が高まるところだ。 もはやiPod nanoも発売当初ほど際だった存在では無くなったことを強く感じさせ、iPod nanoに並んで、フラッシュメモリタイプのプレーヤーの新しいベンチマークになりうる製品だろう。 □クリエイティブメディアのホームページ (2006年7月7日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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